業界動向
Access Accepted第431回:「シヴィライゼーション」シリーズを生み出すFiraxisのカルチャーとは
会社には,創業者や経営者の個性,さらに歩んできた歴史やその土地柄などによって育まれる「カルチャー」が存在する。とくにクリエイティブな分野であるゲーム開発会社には,例えば独特な組織形態を持っていたり,オフィスが個性的な空間であったりなど,ある種のカルチャーが共有されていると感じられるところが多い。今週は,「シヴィライゼーション」シリーズの開発元であるFiraxis Gamesを訪れたときに筆者が感じた,彼らのカルチャーについて考えてみたい。
Firaxisに行ってきた! シド・マイヤー氏に会ってきた!
それもそのはず,ツアーの行き先は,プレイヤーの年齢層が高いとされるストラテジーゲーム分野では知らぬ人のいないであろう「シヴィライゼーション」シリーズを生み出したFiraxis Gamesだったのだ。
この訪問の成果については,7月23日に「Sid Meier's Civilization: Beyond Earth」のプレビューを,また7月24日にインタビュー記事を掲載しているので,ぜひ参照してほしい。
Firaxis GamesはワシントンDCの北,メリーランド州のボルチモアから,さらに30kmほど北に向かったスパークスにある。スパークスは行政区分上の「町」ではなく,アメリカやカナダに見られる「非法人地域」で,独自の自治体を持っていない地域だ。ただし,調味料で有名なマコーミックや,シューズブランドのFILAが同地に本社を置いており,とんでもなく田舎というわけではない。
メリーランド州のゲームメーカーとしては,州南部のBethesda Softworksが群を抜いて有名で,あとは「F.E.A.R. 3」の開発元で,現在はWargaming.netの傘下に入ったDay 1 Studiosがある。かつては「Rise of Nations」「Kingdom of Amalur: Reckoning」などを生み出したBig Huge Gamesや,「Dark Age of Camelot」のMythic Entertainmentがあったが,いずれも現在は存在していない。
Game Developers Conferenceなどに行くと,必ずといっていいほどメリーランド州政府がブースを出してIT産業を誘致しているので,助成金などは用意されているようだが,ゲーム開発者にとっては,同業者とのネットワークが希薄な場所かもしれない。
Firaxis Gamesを率いるシド・マイヤー(Sid Meier)氏は,そんなハントバレーに根を下ろして,すでに30年以上もゲームを作り続けている。マイヤー氏がFiraxis Gamesの前身となるMicroProseをこの地に設立したのは1982年のことで,それ以来,ずっとここで活動しているのだ。
1954年にカナダ生まれたマイヤー氏は,アメリカに渡ってミシガン大学を卒業し,ハントバレーにあるゲームとは関係ない会社に就職した。そこでMicroProseの共同設立者となるビル・スティーリー(Bill Stealey)氏と出会い,当時,産声をあげたばかりのゲーム産業に身を投じることになった。
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MicroProse時代,「F-15 Strike Eagle」(1987年)に代表されるさまざまなミリタリーシミュレーションゲームを開発し,メディアなどに“シミュレーションゲームの父”と呼ばれることもあるマイヤー氏。同じ1987年に「Sid Meier's Pirates!」が大ヒットしたことで一気に知名度を上げ,1990年代になると「Sid Meier's Railroad Tycoon」(1990年)や「Sid Meier's Civilization」(1991年)など,のちにシリーズ化されるタイトルを生み出した。
独立したマイヤー氏は,「多くの人にアピールするテーマだとは思わなかったが,どうしても作りたかった」と語るアメリカ南北戦争を描いた作品「Sid Meier's Gettysburg!」(1997年)と「Sid Meier's Antietam!」(1998年)を続けて発表。さらに,レイノルズ氏の指揮によって,名作「Sid Meier's Alpha Centauri」(1999年)が生み出された。
マイヤー氏らの抜けたMicroProseは2001年に倒産し,その資産はフランスのInfogramesに売却された。「Sid Meier's Civilization III」(2001年)は,そのInfogramesからリリースされたが,やがて同社も経営状態が悪化し,「シヴィライゼーション」シリーズを含むいくつかのIPを手放すことになった。
2004年にそれらを2240万ドルで買い取ったのが2K Gamesで,これを好機と捉えた2K Gamesは,「Sid Meier's Civilization IV」(2005年)が発売される直前に,Firaxis Gamesそのものを2670万ドルで買収。2010年には2K Gamesをパブリッシャとして,「Sid Meier's Civilization V」がリリースされている。シリーズ累積の販売総計は,現在までに約2100万本に達しているという。
この数字は(販売期間やシリーズ作品の本数はかなり異なるものの)「Gears of War」シリーズの販売総数とほぼ同じ規模になり,うるさ型の多いPC向けのストラテジーゲームであることを考えれば,その人気はきわめて高いといえる。熱狂的なファンや,新作が出たら必ず買うという固定客の多いゲームの1つになっているのだ。
今年60歳になるマイヤー氏だが,彼のゲーム開発に関する考え方は昔からほどんど変わっていない。「ゲームとは,興味深い選択の連続だ」「最初の15分でプレイヤーの心をつかむことが重要」といったマイヤー氏の言葉は,メディアにもよく引用され,当然ながら,Firaxis Gamesでも全員に共有されている開発思想だ。それは彼らが作り上げた「Sid Meier's Railroads!」(2006年)や「XCOM: Enemy Unknown」(2013年)にもしっかりと受け継がれていると思う。こうしてみると,やはりFiraxis Gamesの中核となっているのはシド・マイヤー氏その人だろう。
「プログラムができるデザイナー」を求めるFiraxis Games
今回のFiraxis Games訪問では,シド・マイヤー氏と会話できたのはミーティングルームでの会食時だけで,ヨーロッパメディアへの応対に忙しいようだった。マイヤー氏ほどの人物になれば,やはり聞きたいことは山ほどあるので,そこは残念だった。
しかし,今回の訪問では一人の女性との懐かしい再開もあった。マーケティングディレクターを務めるその女性は,筆者がまだゲームジャーナリストとしてなんの実績も持っていなかった15年ほど前,マイヤー氏への取材を申し込んだときに担当してくれた人物だ。
欧米ゲーム業界では,広報やマーケティング部門の人材は,数年で別のメーカーや業種に移っていくことが割と多い(もちろん,例外もあるが)。それだけに,15年も前にFiraxis Gamesで働いていた彼女が,現在も在籍しているのにはちょっと驚いたのだ。立ち話程度だったが,5〜6年前に一度辞めており,Firaxis Gamesが新しいオフィスに移ったあとで戻ってきたという。Firaxis Gamesの家庭的な雰囲気が垣間見えような話だ。
考えてみれば,現在「Sid Meier's Civilization: Beyond Earth」のリードデザイナーを共同で務めるウィル・ミラー(Will Miller)氏とデイヴィッド・マクドナー(David McDonough)氏のコンビも出戻り組。詳しくは上記のインタビュー記事を参照してほしいが,入社して5年も経たないうちに近所の別のゲーム会社に移籍し,そこでのプロジェクトが終了した途端に戻ってきている。そして,その2年後にはFiraxis Gamesの看板シリーズのリードデザイナーを任されてしまうという,文章で書くとなんとも虫が良すぎるような,またFiraxis Games的には人が良すぎるような話に聞こえるかもしれない。
もっとも,それほどゲーム開発者の人材が豊富ではないメリーランド州北部においては,2人のように「プログラムができるゲームデザイナー」の数は少ない。マイヤー氏は常々「ゲームデザイナーが自分でプロトタイプを作成し,他のメンバーと共有できるべきだ」という信念を持っており,プログラマーだったミラー氏とマクダナー氏は「ゲームデザインのスキルを学んで帰ってきた」ということで,貴重な人材として迎え入れられたわけだ。
Firaxis Gamesの家庭的な雰囲気は,ゲーム開発者の数が少ない土地柄が生んだカルチャーなのかもしれない。
ここで思い出しておきたいのは,「シヴィライゼーション」シリーズの続編が,すべて若い才能に委ねられてきたという事実だろう。“シド・マイヤー”というブランド名はついているものの,第2作のリードデザインは「Rise of Nations」のブライアン・レイノルズ氏,第3作はジェフ・ブリッグス氏,第4作は後にElectronic Artsで「SPORE」の開発に携わるソーレン・ジョンソン(Soren Johnson)氏,そして第5作は,現在独立して「Jon Shafer's At the Gates」というストラテジーゲームを開発中のジョン・シェイファー(Jon Shafer)氏といった具体に,マイヤー氏は自分の名を冠したゲームを,まるで独り立ちするための登竜門であるかのように若手に任せ,自分はクリエイティブディレクターとしてバックアップしてきたのだ。そういえば,あの「Age of Empire」で知られるブルース・シェリー(Bruce Shelly)氏も,MicroProse時代のヒット作,「Sid Meier's Railroad Tycoon」の開発でチームを引っ張った実質的なリードデザイナーであった。
こうして考えると,シド・マイヤー氏の異名である“シミュレーションゲームの父”が,いかにふさわしいものであるのかに気づく。マイヤー氏が意識しているのかどうかは分からないが,彼のやっていることは,シミュレーションやストラテジーの成功を目指す若い開発者達に対して,父親のように胸を貸し,次々に巣立たせていくことに他ならない。
この包容力こそが,30年を超えて今もなお現役であり続けるマイヤー氏と,ゲーマー達が愛してやまないFiraxis Games作品を生み出す原動力なのではないだろうか。短い取材ではあったが,そんなことを感じた筆者であった。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
来週と再来週の週刊連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,筆者取材のためお休みします。次回の掲載は,8月25日を予定しています。
- 関連タイトル:
Sid Meier’s Civilization: Beyond Earth
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