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Access Accepted第788回:コロナ禍以前のようになったGDC 2024。問題を乗り越えながら進み続けるゲーム業界
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印刷2024/04/01 08:30

業界動向

Access Accepted第788回:コロナ禍以前のようになったGDC 2024。問題を乗り越えながら進み続けるゲーム業界

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 ゲーム開発者会議GDC 2024は,新型コロナ禍以前の賑わいを取り戻した一方で,リストラの嵐に見舞われたゲーム業界の課題も噴出した。だが,新作紹介などを通じて,ゲームクリエイターたちの情熱的な姿も多く見られたのも事実だ。今回はコロナ禍を乗り越え,新たな一歩を踏み出したGDC 2024の模様をお伝えしよう。


GDC 2024で垣間見た,就職難に揺れるゲーム業界


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 3月18日から22日にかけて,カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターで,今年で36回目となったゲーム開発者会議,Game Developers Conference 2024(以下,GDC 2024)が開催された。今年の来場者は3万人と,新型コロナウイルス感染症が流行する以前の賑わいを取り戻し,総勢1000人のスピーカーによる730種のレクチャーが行われ,エキスポフロアには325のブースが並んだ。

 毎年,期間中の水曜夜に開催されるGame Developers Choice Awardsでは,Larian StudiosのRPG「Baldur's Gate 3」が,ゲーム・オブ・ザ・イヤーを含む4部門を受賞し,評価の高さを改めて見せつけた。このアワードは,ICAN(International Choice Awards Network)と呼ばれる,500人を超えるゲーム開発者の投票によって選出されるものであり,まさに“開発者による開発者のための賞”で,大きな価値がある。

 このイベントで,会場に用意された丸テーブルと壇上の間を何度も行き交うことになったLarian StudiosのCEO,スヴェン・フィンケ(Swen Vincke)氏は,Best Narrative賞を受賞した際,「もう言うことが思いつかなくて申し訳ないけど」という前置きのあと,ゲーム業界の悪しき慣習について語り出した。それは,特にアメリカやヨーロッパで見られる雇用形態についてだ。

「カラテカ」や「プリンス・オブ・ペルシャ」の生みの親であるジョーダン・メックナー氏がGDC 2024に参加し,Digital Eclipseによる“ドキュメンタリーゲーム”の「The Making of Karateka」や新書「REPLAY」のプロモーションを行った。写真はGDC公式Xより
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 フィンケ氏は,「私はこれまで,何度も見てきましたが,経営者たちの金欲主義は改善したほうが良い。数字ばかりを見て,1作を開発し終えたら大量解雇し,その翌年になると人材を切り過ぎたことに気付いて,また再雇用するというもので,この壊れたループが繰り返されてきたのです。我々は,それを断ち切らなければなりません。経費を抑えて余剰資金を作り,次の開発が軌道に乗るまで我慢すれば良いのです。我々の業界には,雇用者を守るためのノウハウがまったく蓄積されていないのでしょうか?」と力説し,会場から大きな喝采を浴びたのだ。

 連載「第783回:大鉈が振るわれたActivision Blizzard,ゲーム業界でリストラが続く」でも解説したように,ゲーム業界の雇用状況は決して芳しいものではない。2023年からIndependent Game Festivalの会長として,イベントのまとめ役となったショーン・ピエール(Shawn Pierre)氏も,イベントの冒頭で「大きなゲーム企業からインディー,その内部から外部まで,我々の仲間たちがリスペクトされているようには見えなくなっている」と訴えていた。

 ゲーム産業は,もはやハリウッドの映画ビジネスの3倍にも及ぶ規模に成長しながらも,クリエイターたちが解雇されたり,ゲーム作りから離れていったりする事例が増えている。

会場近くの公園では,50人ほどの開発者が集い,雇用や差別に対する不満を絶叫する「GDScreams」というイベントも開催された(画像はPC Gamerより)
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 こうした状況になったことは,「ゲームビジネスが衰退している」わけではなく,ライブサービスによる人気作のロングテール化,開発ツールの使いかたが容易になったことで,市場の拡大が追いつかないほどゲームの供給量が増えていることや,生成AIなど技術の進化によって人手がいらなくなりつつあることなど,さまざまな要因があるだろう。しかし,そうした状況を嘆くよりも,「雇用者を守る経営者」が求められているのだと,筆者は感じた。

“チョイスアワード”で壇上に出るLarian Studiosのスヴェン・フィンケ氏と開発チーム。多くの受賞者が訴えた反戦メッセージをサポートしながらも,フィンケ氏は,経営者としての雇用者保護を主張した
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機械学習をゲーム開発に採用する意図で開催されるMachine Learning Summitだが,その初日では「我々はゲーム開発者の雇用削減を目的にしているのではない」と主張する講演者もいた
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ジャパン・パビリオンも登場したエキスポ会場


Unreal Engine 5.4のプレビューを公開したEpic Gamesのブースでは,「フォートナイト」のプレイヤーにはお馴染みの,巨大なリャマ・ピニャータが鎮座
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 GDC 2024のエキスポフロアを見ると,South Hallと呼ばれるメインエリアは,Epic Games,Unity,Meta,Tencentなどの常連ブースに加え,今年もAIやWeb 3,サーバー関連のテクノロジ企業が多い印象だった。また,North HallにはIndependent Game Festivalに出展されているゲームが集められた「IGFパビリオン」や,もはやデジタルゲームなのかどうか判別のつかない実験作品たちを集めた「Alt.Ctrl.GDC」など,お馴染みの専用エリアに加えて,今年はスタートアップ企業を集めた「GDC Start-Up」というエリアも登場していたのが新鮮だった。

 国家パビリオンには,ドイツ,スペイン,イタリア,ベルギー,ブラジルなどの常連に混じり,新たに参加したキルギス共和国のブースもあった。キルギスにもゲーム開発メーカーがあるというのは驚きだが,唯一の参加企業でもあった4Tale Productionが参加。MY.GAMESからリリースされる予定のPvPvEゲーム「HAWKED」の実質的な開発を行うなど,120人ほどの開発メンバーを抱える規模らしい。同国内のIT/ゲーム開発関連の人材は2400人程度だそうだが,キルギス政府は首都にHigh Technology Parkを設立して国内IT産業のインキュベーションや底上げを図っているという。

 また,今年のエキスポフロアで目立ったのが,ジャパン・パビリオンだ。独立行政法人として20年以上も前から世界で活動を広げている日本貿易振興機構(ジェトロ/JETRO)が主催者となりブースを出展していた。聞くところによると数年前から参加していたそうだが,今年は製品を持ち込んでいた企業が多かったこともあり,とくに目立っていたのだ。
 Japan Streetというイニシアチブの元で数社が参加し,自前のVRゲームや関連テクノロジを披露したり,商談のための拠点として利用したりしていた。

キルギス共和国のパビリオンにいた4Tale ProductionのCEO,オレッグ・スプテリア(Oreg Suptelia)氏。GDC 2024に参加するための渡航費は,政府が支援したという
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 ジェトロで事業開発担当の総括審議役である島田英樹氏や,デジタルマーケティング部主幹の牧野直史氏に聞いたところ,Japan Streetはアメリカの会社にとっては「国内にいながら,日本の優れたメーカーと商談できる」,そして日本から参加するメーカーにとっては「JETROのネットワークを生かして商談相手を探す」というコンセプトで推進されているという。もちろん,そのサービスの利用は無料だ。

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 また,ジェトロは43社から100作ほどの日本産ゲームを集め,Steamにて期間中の販売イベントとなる「GDC 2024 Made in Japan: Games Market」と名付けられたプロモーションイベントも開催した。ジェトロがGDCに参加したのは初めてではないと牧野氏は話していたが,これまで欧米で開催されるさまざまなゲームイベントを見てきた筆者にとって,日本の行政組織としてここまで国外でのゲームビジネスを後押ししている姿を見るのは,初めてのことだ。

ジェトロと言えば,日本酒! ブース全体の印象としては,ジェトロのサービスを上手く使って,外国資本の日本企業が幾つか参加しているという印象だった
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顔なじみとなった開発者たちの近況


インドも今回のGDCがパビリオン初出展。国内で1つの市場として完結しているせいか,ぱっと見で海外でも通用しそうな魅力あるゲームは少なかったが,今年は「Venba」が高い評価を得ただけに,”インドゲーム“ブームのトレンドに乗れるかもしれない
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 それでもまだ,国家パビリオンとしてジャパン・パビリオンが十分でないと感じたのは,開発者たちがブースを出している光景に物足りなさを感じたからかもしれない。これは,必ずしもジェトロの問題というわけではないが,例えば2023年から急激にゲーム産業の育成に力を入れているブラジルは,「BrazilGames」という産業輸出プログラムを展開しており,開発産業貿易サービス省,輸出や投資を斡旋するApexBrazil,そしてゲーム産業の育成を行うAbragamesなど,異なる政府組織や法人が協力してブースを出展している。

 さらに,ブラジルの各州を代表するNPO,国際ゲーム開発者協会(IGDA)などの業界団体と選考された50社のゲーム関連企業による代表団が,サンフランシスコに送り込まれたのだが,そのブース出展費用はもちろん,渡航費までを肩代わりしてくれたそうだ。
 確かにドル高の昨今では,政府の直接的なサポートがなければ売り込みや宣伝活動のためにアメリカに来られないという中小のゲーム企業は無数にあるだろう。国家パビリオンによっては,文化芸術や教育などの行政法人が関わっていることも多く,各国の政府がゲーム産業を支えていこうという姿は,GDC 2024でも強く感じられた。

 ゲーム業界は今,まさにディフェンシブモードと言ったところだが,雇用や産業の育成などさまざまな問題を抱えながらも,徐々に改善し,その形を変えながら歩み続けている。懐かしい顔をGDC 2024で見かけることも多かったので,最後に彼らの近況を紹介しておきたい。

2023年7月の「BitSummit Let’s Go!!」でインタビューを行った,「SCHiM」の開発者であるエウォルド・ファン・ダー・ワルフ(Eword van der Werf)氏。子供の頃からお供をしていた影の精霊“スキム”が,はぐれてしまったことから,街の影だけを使って移動していくというパズルアドベンチャーを開発している。一見すると2Dだが,太陽などの光源から実際の影が作られている3Dグラフィックスの技法を使っているのが印象的だ。開発状況はこの8か月ほどで,グラフィックスやゲームプレイの調整を行い,エンディングまでプレイできるほどに進展。日本語対応で2024年中にリリースされることもアナウンスされている
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2Dプラットフォームアクション「Anima Flux」をGDC 2024に展示していたAnima Fluxのゲームデザイナー,アヴァンタイ・プリム(Avantaj Prim)氏とは,東京ゲームショウ2023以来の再会。Anima Fluxは,独裁政権の特殊エージェントである2人の遺伝子強化兵士がそれぞれの持ち味を生かして活躍していくという,1画面で2人のプレイヤーが協力できる横スクロールゲームだ。Jolly Co.という大きなIT企業がバックアップしているので,インディーゲームとは言えないが,モルドバを代表するゲームとして成長するかもしれない。発売は2024年第4四半期に決定し,Steamストアページではデモも公開中だ
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エキスポ内を徘徊中に目配せであいさつしてきてくれたのが,パキスタンブースにあったFRAG Gamesのディレクターであるオマール・ファルーク(Omar Farooq)氏。筆者はGDC 2023の記事で取材しているが,同社は現在,女性戦士を主人公にしたタクティカルRPG「Dastaan: Kingdoms of Seven Rivers」を開発中だ。画面を見たところグラフィックスが洗練され,少なくともアルファ版程度には開発が進展しているといった印象を受けた。PCだけでなく,PlayStation 5やXbox Series X|S,Nintendo Switchにもリリースされる予定となっており,2025年初頭の完成を目指して,パブリッシャを探しにやってきたそうだ
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「デイメア: 1998」が日本でもリリースされたイタリアのInvader Studiosといえば,熱烈なバイオ愛が高じてカプコンから日本に招待された,人口1500人の村出身の幼馴染みたちによるデベロッパだ。2023年8月には続編となる「デイメア:1994」も発売されているが,創設メンバーである,ミケル・ジアノーニ氏,ティツィアーノ・ブッチ氏,アレッサンドロ・デ・ビアンチ氏(写真左から)が,一緒に海外のイベントに出てくるというのは珍しい。その理由については“商談”とのみ答えてくれたが,何やら新規プロジェクトの開発を始動させている模様。東京ゲームショウ2024にも参加するとのことなので,そのときには詳しい情報を聞けるかもしれない
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