レビュー
店頭で単体購入できるトリプルコアCPU,ありやなしや?
Phenom X3 8750/2.4GHz
» 注目のトリプルコアCPUが,いよいよ店頭に並ぶ。L3キャッシュを持ち,TLBエラッタ問題の解決したPhenomがさらに安価になることは,コストパフォーマンスを重視するゲーマーにとって大いに意味がありそうだが,果たして新製品は,高い価格性能比を期待する人々の思いに応えられるだろうか。
最上位モデルとして新たに追加された
「Phenom X3 8750/2.4GHz」をチェック
3月のB2ステップ版発表時点では,「Phenom X3 8600/2.3GHz」「Phenom X3 8400/2.1GHz」のみだったPhenom X3だが,B3ステップ版の発表に当たって,最上位モデルに動作クロック2.4GHz版が追加され,「Phenom X3 8750/2.4GHz」「Phenom X3 8650/2.3GHz」「Phenom X3 8450/2.1GHz」の3モデル構成となった。今回4Gamerでは,AMDの日本法人である日本AMDから,発表時点におけるトリプルコアCPUの最上位品であるPhenom X3 8750(以下,X3 8750/2.4GHz)の貸し出しを受けている。
さて,4月23日時点で店頭に並んでいるPhenom X4との主な違いは表1にまとめたとおりだ。
まあ,そういったAMDの台所事情はさておき,我々ゲーマーとして押さえておきたいのは,Phenom X3により,L3キャッシュを持つAMD製CPUの価格がまた一段引き下げられるという点だ。CPU内蔵のキャッシュ容量はGPU負荷が相対的に低い局面でゲームパフォーマンスを左右する傾向にあるため,Phenom X4と同じ共有2MBのL2キャッシュ容量を持つPhenom X3は,ことによるとコストパフォーマンス的に面白い存在となる可能性がある。
このほかテスト環境は表2のとおり。マザーボードはASUSTeK Computer製の「AMD 790FX」チップセット搭載製品「M3A32-MVP Deluxe/WiFi-AP」を用いることにした。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠。ただし,GPUにかかる負荷が高くなる「高負荷設定」は省略し,アンチエイリアシングや異方性フィルタリングを適用しない「標準設定」のみを採用する。また,同じ理由により1920×1200ドットのテストは行わないので,この点はご注意を。
地力ではPhenom X4に一歩譲るが
“1コア足りないデメリット”は決して大きくない
さっそくテスト結果を見てみよう。グラフ1,2は順に,マルチスレッドに最適化された「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の総合スコア「3DMark」,CPU Scoreだ。X3 8750/2.4GHzとX4 9850@2.4GHzのスコア差は順当といってよく,「マルチスレッドに最適化されたアプリケーションだと3コアは4コアと比べて不利だが,それが実際のゲームで大きなスコア差につながる可能性はそう高くなさそう」といったところか。
実際のゲームから,まずFPS「Crysis」と「Unreal Tournament 3」のスコアをグラフ3,4にそれぞれまとめた。両タイトルはいずれも,マルチスレッド処理に最適化した最新世代のゲームエンジンを採用しているため,グラフィックスカード側の負荷が比較的低くなる局面――Crysisは1024×768ドット,Unreal Tournament 3ではテストした全解像度――で,クアッドコアCPU優位なスコアが出ている。
X3 8750/2.4GHzとX4 9850@2.4GHzのスコア差は最大でも7%。無視できる違いと見るか,明確な違いと見るかは人それぞれだろうが,マルチスレッド対応ゲームタイトルで,同一マイクロアーキテクチャ&クロックのCPUを比較すると,クアッドコアがわずかに有利になるとはいえよう。
なお,Unreal Tournament 3の1280×1024ドット以下のスコアが少々荒れ気味なのは,ゲームが十分に“軽い”ため。グラフィックスカードが相対的にボトルネックとなっていることに起因している。
グラフ5は,マルチスレッド処理に対応しているものの,完璧に最適化されているわけではない「Half-Life 2: Episode Two」のテスト結果だ。X3 8750/2.4GHzとX4 9850@2.4GHzの間に違いはあるものの,こちらはさすがに無視できるレベルである。
最大8スレッド処理に対応するとして話題を集めたTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)だが,より実際のゲームに近い「Snow」では,描画負荷が相対的に高いこともあって,Phenomの3条件にスコアの違いは生まれなかった(グラフ6)。一方,CPUベンチマークの特徴が強い「Cave」だと,グラフィックスカードがボトルネックとなる1600×1200ドットを除くと看過できない差が生じている(グラフ7)。
最後はRTSから,CPUが持つシングルスレッド性能の違いが顕れやすい「Company of Heroes」(グラフ8)。X3 8750/2.4GHzとX4 9850@2.4GHzの間に,スコアの違いはほとんどない。
ところで,Half-Life 2: Episode TwoやCompany of Heroesのスコアについて筆者はほとんど変わらないと述べてきたが,よく見るとX3 8750/2.4GHzのスコアは全体的にX4 9850@2.4GHzのスコアをわずかに下回っている。この違いがCPUそのものにあるのか,そうでないのかを少し検証してみたい。
というわけで,ここではロスト プラネットのゲームオプションに用意された「並列処理」を利用してCPUのコア数を指定し,使うCPUコアの数が増えるごとにスコアがどう変わるかを追うことにした。その結果をまとめたのがグラフ9だ。
CPU名称の直後に[A]とあるのは,ロスト プラネットの「並列処理」オプションからスレッド数を指定したもの。[B]は,[A]に加えて,マザーボードのBIOSから動作するCPUコアの数を指定した状態。同じ「1CPU」でも,[A]の場合,CPU自体は3もしくは4コアでWindowsから認識されているのに対し,[B]だと本当に1コアしか動いていないが,[A]同士,[B]同士で比較すると,微妙にズレているのが分かる。[A][B]とも,X3 8750/2.4GHzよりもX4 9850@2.4GHzがわずかだが全体的に高いスコアを出しているのである。
この結果を受けて,今度はSiSoftware製の「Sandra XII」(Version 2008.1.14.20)が持つベンチマークテスト「Multi-Core Efficiency」を行うことにした。これは,CPUコア間,あるいはL2/L3キャッシュメモリのクロスバーの転送帯域幅を測定するもので,スコアの単位はGB/s。値が大きいほど転送帯域幅が大きく,高速ということになる。
ここでは,X3 8750/2.4GHzとX4 9850@2.4GHz,X4 9850/2.5GHz,そしてPhenom X4 9850 Black Editionで動作させるCPUコア数をBIOSから3に制限した状態(以下,X4 9850[3コア]@2.4GHz)の4パターンでスコアを計測。いずれも5回計測し,最も高いスコアを出したセットを抽出している。
その結果がグラフ10だが,注目すべきはX3 8750/2.4GHzとX4 9850[3コア]@2.4GHzの違いだ。ある程度並ぶと思われたが,豈(あに)図らんや,一定の差が生じているのである。
X4 9850@2.4GHzとX4 9850/2.5GHzを比べるに,動作クロックによる違いはほとんどなく,以上の状況証拠から,Phenom X3で1コア“殺す”に当たって,CPUパッケージ内部で何らかのペナルティが発生していることを推測できそうだ。もちろん,今回比較した対象はPhenom X4 9750ではなく,あくまでX4 9850/2.5GHzなので,X3 8750/2.4GHzとPhenom X4 9750を比較したときにも同じ結果になると断言はできないが,可能性は十分にある。
消費電力はPhenom X4より明らかに低い
発熱も少なめで,ぐっと扱いやすい存在に
システム全体の消費電力を,ワットチェッカーで計測してみよう。Windowsが起動してから30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間連続実行し,その間で最も消費電力の高かった時点を「3DMark06実行時」,そしてMP3エンコードソフト「午後のこ〜だ」ベースのベンチマークソフト「午後べんち」の耐久テストを30分間連続実行し,やはり最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,温度と消費電力をチェックした結果をまとめたのがグラフ11だ。
X4 9850@2.4GHz,X2 5000+@2.4GHzは動作クロックを変更しているため,スコアが参考程度となること,省電力機能は無効化してあることをお断りしたうえで進めるが,TDP 95W化の恩恵は少なくない。Phenom X3の消費電力はAthlon 64 X2よりは確実に高いものの,一方でPhenom X4と比べると相当扱いやすくなっている。
グラフ12は,「CPUID HW Monitor」(Version 1.06)を使ってCPU温度をコア別に取得し,平均温度をスコアとして採用した結果をまとめた結果だ。今回のテスト環境はバラックで,CPUクーラーは「Athlon 64 X2 3800+」製品ボックスに付属していたアルミ製ヒートシンクベースのものを利用しているが,X3 8750/2.4GHzは造作もなく冷やし切れており,冷却面に大きな心配はいらない気配。いまAthlon 64 X2を利用している環境なら,CPUをX3 8750/2.4GHzに交換しても,そのまま運用を続けられそうだ。
Athlonからのステップアップに好適だがやや高め?
売価が2万円前後にまで下りてくれば面白い存在に
気になるのは価格だ。X3 8750/2.4GHzの1000個ロット時価格が195ドルで,秋葉原ショップ筋の情報によれば,国内“初値”は2万4000円前後になる見込み。Phenom X4 9750の実勢価格が2万5000円前後であることを考えると,消費電力と発熱,互換性以外にPhenom X3のメリットはほとんどなくなってしまうのである。
もちろん,そのあたりに価値を見い出せる人にとってはアリで,筆者としても個人的にどちらを選ぶかと問われれば,Phenom X4よりもはるかに扱いやすいPhenom X3に軍配を上げる。しかし,ライバルとなるAthlon(64)X2やCore 2ファミリーの存在を考慮するに,2万円前後くらいが,Phenom X3がブレイクするために必要な価格帯ではないかと思う。2万円を下回るかどうかくらいにまで下がれば,コストを重視したエントリークラス,あるいはサブのゲーム環境を構築するための,買い得感のあるCPUとして,X3 8750/2.4GHzは輝きを増してくるのではなかろうか。
また,ここまであえて触れてはこなかったが,キャッシュ容量で勝るPhenom X3が売れ出すと,Athlon 64 X2やAthlon X2は,ゲームに使えるローコストCPUとしての役目を終えることになるだろう。AMD派のゲーマー諸兄諸姉は,そろそろ本気でPhenomシステムへの移行を考える時期に差し掛かってきたといえるかもしれない。
- 関連タイトル:
Phenom
- この記事のURL:
(C)2007 Advanced Micro Devices, Inc.