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Intel,新世代のタブレット向けSoC「Bay Trail-T」を正式発表。製品名はAtom Z3000シリーズに
Bay Trailは,「Silvermont」(シルヴァーモント)マイクロアーキテクチャを採用したCPUコアと,Intel自社開発のグラフィックス機能とを組み合わせ,22nmプロセス技術を用いて製造されるプロセッサだ。Silvermont世代では,スマートフォン向けの「Merrifield」(メリフィールド,開発コードネーム)や,7月の時点で「Atom C2000」として正式発表済みのサーバー向け製品「Avoton」(アヴォトン,開発コードネーム)「Rangeley」(ラングレイ,同)などといった製品も存在するが,今回Atom Z3000として正式発表されたBay Trailは,タブレット端末向けとされるSoC(System-on-a-Chip)となる。
ラインナップは下の表に示したとおりで,詳細は後述するが,CPUコアは最大4基。メインメモリはAtom Zシリーズとして初めて最大4GBに対応し,デュアルチャネルアクセスおよびシングルチャネルアクセスをサポートするのがポイントだ。
CPUコアとメモリコントローラ,グラフィックス機能が進化したBay Trail
※1 LPDDR3:Low Power DDR3の略で,JEDECの標準規格。LPDDR2をベースに,データ転送速度を引き上げたものとなる
※2 DDR3L-RS:Double Data Rate 3 Low voltage Reduced Standbyの略。1.35Vで駆動するDDR3Lをベースに,アイドル時のリフレッシュ動作間隔を広げ,電流量を削減するようにした規格。JEDECによる標準化は行われていない
従来のタブレット端末向けAtomでIntelは,CPUコアと周辺回路,そして英Imagination Technologies製GPUコアIP(知的所有権)「PowerVR Graphics」を組み合わせてSoCを構成してきた。それに対して今回のBay Trailでは,Silvermontマイクロアーキテクチャと,自社の統合型グラフィックス機能を採用してきたのも新しいところだ。
その統合型グラフィックス機能には,今回,「Intel HD Graphics」という,聞き慣れた名称が与えられている。その正体は,「Ivy Bridge」(アイヴィブリッジ)世代の統合型グラフィックス機能をベースにしたもののようだ。Ivy Bridgeの統合型グラフィックス機能だと,演算ユニット「Execution Unit」の数は16基(Intel HD Graphics 4000)もしくは6基(Intel HD Graphics 2500)だった。一方のBay Trailだと4基なので,規模的にはIvy Bridgeの下位モデル比で3分の2ということになる。
対応APIはIvy Bridge世代のIntel HD GraphicsがDirectX 11とOpenGL 3.1,
なぜIntelはBay Trailで,統合型グラフィックス機能を自社製品に切り替えてきたのか。それを理解するカギとなるのが,スマートフォンやタブレット端末向けSoCで起こっている,GPU活用の動きである。
スマートフォンやタブレット端末向けのSoCでは,PCなどと比較した場合に,消費電力による制限――バッテリー駆動が前提で,かつ筐体が小型――により,CPU性能をそれほど高くできない。そして,そこで重要になるのが,GPUによる汎用演算(GPGPU)だ。
GPUコアによる演算は,1つの命令で複数のデータを同時処理するSIMD演算(Single Instruction Multiple Data)であるため,たとえばメディアデータの処理や認識処理などといった具合で使い方は限られるものの,汎用CPUコアと比べ,より少ない電力で高速な演算が可能になる。スマートフォンやタブレット端末では,汎用CPUコアと専門的なプロセッサを組み合わせるSoCが今後のトレンドと言われていることもあって,SoCメーカー各社は,開発リソースをそちらに向け始めた。
今回のBay Trailに,そうしたトレンドに合致する直接的な要素はないのだが,将来的にCPUコアとGPUコアの密接な連携が必要になることを踏まえたうえで,次世代以降の製品で実現すべく,第一歩として,自社製統合型グラフィックス機能の採用に踏み切ったのだろう。もちろん,Ivy Bridge世代のIntel HD Graphicsである以上,やろうと思えばOpenCLベースでのGPGPU処理は可能なはずだが,ARMやAMDは,CPUとGPUで同じ仮想メモリ空間を扱うなどもっと深い統合化を進める予定だったりする。同じ技術を採用するかどうかはともかくIntelとしても将来的にCPUとグラフィックス機能をより深いレベルで統合すべく,グラフィックス機能に手を入れる必要があり,だからこそ自社設計のものに切り替えたのだろう。
従来製品比で大幅な性能向上を果たしたBay Trail
“モバイル市場第2ラウンド”で勝ち残れるか
SoCとしてのBay Trailは,従来製品と同じく,CPUコアと統合型グラフィックス機能以外に,周辺回路やメディア関連の機能が統合される。また,温度や消費電力を監視しつつ,可能な場合に内部コアの動作クロックを自動的に引き上げる「Intel Burst Technology 2.0」を採用するのも特徴となっている。
Bay TrailのIntel Burst Technology 2.0が面白いのは,CPUコアと統合型グラフィックス機能だけでなく,ディスプレイコントローラやカメラ処理用のイメージ処理プロセッサなども対象となるところだ。最大4基のCPUコアと統合型グラフィックス機能,ディスプレイ,そしてカメラの7ユニット間で,消費電力と熱容量を分け合うことができるのである。
気になる性能だが,Intelによれば,Clover Trail世代のAtom Z2760と比較した場合に,CPU性能で約2.4倍,3Dゲーム性能では約4.8倍の性能向上が見られるとのことだ。
第2ラウンドでは,Intelの牙城であるサーバー市場へARM系の進出や,Windows 8.1タブレットの登場,MicrosoftによるNokiaの携帯端末ビジネス買収がもたらす影響と,環境面でさらに大きな変化が生じる。そのなかでBay Trailがどこまで健闘できるのかというのは,2013年後半から2014年にかけての,1つの見どころと言ってもいいだろう。
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