レビュー
キワモノ要素は別として,封建社会をリアルに再現した戦国ストラテジー
天下統一V
» 5年ぶりに登場した戦国ストラテジーシリーズの最新作「天下統一V」を,「天下統一I/II」にハマり,「III」のコンセプトを惜しんでいた編集部 Guevaristaがレビューする。「III」で提起されたシステムを,楽しく遊べる形に仕上げたという意味で,注目すべき製品なのだ。
封建社会をきちんとシミュレートした戦国ゲーム
シリーズ従来作と同様に,プレイヤーの立場は大名でなく大名家全体。北は函館あたりまでを含む日本列島が城と街道のネットワークで表されており,もっぱら政治コマンド向けの区分けとして,マップは陸奥国,相模国などといった65か国に分かれている。城の総数は600,武将は3500人以上,プレイは1年を8ターンに分けた形,つまり1季節2ターン構成をとるため,いずれの要素でもボリューム感は満点といえよう。
シナリオは全部で4本。プレイできる大名家にアンロック要素はないので,外交を駆使したり,武力で席巻したりと,さまざまなプレイが可能 |
難度設定と,後継武将に関する設定。まだ確認できていないが,最強の生まれ変わり武将「(楠木)正成」さんは今作にも登場するのだろうか? |
優秀な世継が登場した翌年,サクッと家督を譲渡。実行できるコマンド回数が増えるうえ,お家騒動を未然に防ぐことにもなる |
実行を命じられないコマンドは多いし,戦況が悪化したり,より強い大名家から働きかけられたりすると,あっさり見限られたりもする。大名家から見た場合,彼らは家臣というよりもむしろ,目下の同盟相手なのだ。
青いのが自家+家臣に与えた城,水色が従属している豪族武将の城だ |
優秀な従属武将を家臣化。これで内政や外交にも活躍してくれるだろう |
そんな彼らを「譜代化」コマンドで普通の家臣にすることも可能だが,普通の家臣は普通の家臣で,時が経つにつれてどんどん忠誠心が下がっていく。それがこのシリーズの良き伝統である。定期的に俸禄を加増し,しまいには城ごと領地をくれてやる以外に,彼らをつなぎ留めておく方法はない。
従属状態の豪族と違って,通常の家臣には(城主に任じたあとでも)ほぼすべてのコマンドの実行を命じられるし,比較的自由に居城を整備/変更可能だが,一度上げた俸禄,与えた分の領地は二度と削れない。こうして各大名家は,新たな征服地を求めて前に転がり続けるしかなくなるわけで,このあたりはシリーズ初代作品から連綿と引き継がれる,優れたグランドデザインだ。
各武将の兵数がきれいな数字なのは,俸禄が1000貫文単位のため |
そしてこのゲームでも,家臣の禄高で“連れて来る”兵士の数が決まる。大名家が一括で集めた兵を武将に下げ渡すわけではないし,裏を返すと,きっちり俸禄さえ払えていれば,とくに兵士を募集する必要はない。兵士の募集コマンドは,戦で大損害を蒙った直後,急いで戦力を立て直すときに使う程度で,そのコストはびっくりするほど高い。
能力の低い武将を兵の引率係として使ったり,寄親の能力を補える人を付けたり。寄親と寄騎で家中の「評価」が逆転していると,寄騎の忠誠心が下がるのも,良いルール |
武将の能力に応じて,持たせたい兵力と維持したい忠誠度を,俸禄もしくは領地給与でどうにかこうにかハンドリングする……。このゲームが描くのはまさしくそういった,封建領主らしい苦悩である。ちなみに,豪族のみならず城主に任じた家臣が裏切ったときも,その持ち城は丸ごと持って行かれてしまう。そう,彼らとて小領主なのだから。
兵科設定のある野戦は,あくまでゲーム的だが楽しい
野戦はこんな感じ。兵力や士気もさることながら,黄緑色の「疲労度」バーが重要だ |
野戦は,マス目で仕切られた戦場で部隊を移動させ,互いに敵の部隊を敗走させるべく攻撃しあうというもの。敵の総大将部隊を敗走させるか,マップのいちばん奥の列まで突破するかすれば勝利で,防御側ならば所定のターン数粘っても勝ちだ。
野戦では,あらかじめ(1年に1度)決めておいた,1番隊から8番隊までの兵科設定に基づきつつ,それらの配置バリエーションである陣形を選ぶところからスタートする。そして選んだ陣形で決まる各隊の配置予定箇所に武将を自由に配置していくという,ちょっと変わったスタイルになっている。
何が変わっているかを説明するなら,こういうことだ。例えば5番隊を鉄砲隊と決めておいたとする。そこに配置する武将は自由であるから,兵士を150人しか連れていない武将を置こうが,5000人くらい連れた武将を置こうが自由である。つまり,互いの軍がどのくらい鉄砲を持っているかは,事前に決まっていないわけだ。同じことは,もちろん騎馬や弓についてもいえる。
騎馬は移動が速い,弓は離れたところから攻撃できる,鉄砲は強いが雨や雪だと使えないなど,それぞれの兵科には特徴があって,互いに5部隊を超える規模の野戦なら,それなりに楽しいストラテジックパズルとして機能する。ただし,敵のAIは割とおバカさんなので,基本的に突破勝利は禁じ手と考えるのが必要条件かもしれないが。
今作における野戦は初代「天下統一」系および「天下統一II」系と違い,士気よりも疲労度が重要で,1回本格的な攻撃をかけた/受けた部隊は可及的速やかに後退させないと,バックハンドブローを喰らって逆に敗走するハメになる。そのターンの先攻/後攻がランダムに決まるという,天下統一シリーズでは伝統の戦闘システムと相まって,逆転劇が生じやすい仕掛けだ。強い部隊を1個作っておけばほぼ無敵という「天下統一II」系のノウハウは忘れて,適切な規模の部隊を交代で前面に出していったほうが,総じて勝ちやすいだろう。
足軽は前後/左右に3マス,騎兵はその倍動ける。しかし,このマップとルールなら,斜めにも移動できるべきだと思う |
野戦画面の基本が,選択部隊のクローズアップというのも,直してほしい仕様だ。まあ右クリックで全体画面に戻るが |
野戦が膠着すると,敵が一騎打ちを持ちかけてくることも |
また今作のルールは,ヒストリカルな視点で見ても奇妙なものだ。戦国時代の軍隊とは,基本的に各兵科のコンポジットであって,有名な長篠の合戦における武田の騎馬軍団と織田の鉄砲隊にしても,基本的に講釈師の,見てきたようなウソに属する。
武田の騎馬軍団とは,おそらく信濃国が有名な馬の産地だったことから来る俗説で,馬に乗った指揮官クラスと槍足軽や鉄砲足軽は,基本的に行動を共にしていたのである。同様に,織田家が集めた鉄砲もせいぜい1000挺程度であったとするのが最近の説だし,長篠の合戦の勝敗は,何より全体的な兵力の多寡,次に陣地構築の巧拙で決まったといわれている。
今作のポイントである兵科設定は,リアリティの観点からいえば間違いなくマイナスだ。初代「天下統一」系および「天下統一II」系よりも逆にアブストラクト性の強い,極めてゲーム的なギミックだと認識しておいたほうがよいだろう。
越後守護代 長尾晴景と関東管領 上杉憲政の,いろいろな意味であり得ない一騎打ち。有名な川中島の一騎打ちも,実は謙信じゃなかった説のほうが有力 |
出陣の際には,大名家直轄領の「農兵」(のちの郷士に近い人達)も動員可能。ただし,農繁期に動員すると,その年の年貢収入に悪影響が出るので注意 |
城主の配置が合戦の有利不利を分ける
強襲で敵を叩き出すか,包囲で兵糧攻めにするか。計略はお金がかかるものの,城が壊れたり,兵糧がぐんと減ったりする |
このあたりはシリーズ従来作品とあまり変わらないものの,包囲された城方を救うべく,「後詰」(ごづめ)と呼ばれる救援部隊を派遣できるのが,今作の特徴だ。
城を攻める側は,後詰部隊と野戦を行うか,囲みを解いて退却するかという判断を迫られるわけだが,ひとたび後詰部隊を打ち破るや,籠城側の心が折れて自動的に開城する。
そのまま囲んでいても決して落ちないであろう堅固な城でも,後詰さえ打ち破ればたやすく落ちてしまうため,これもなかなか判じ物のルールだ。せめて,包囲を継続するため,後詰部隊と戦えるのは包囲部隊の一部のみとかいう制限があればよいのだが……。このあたりは今後のアップデートに期待したい。
お金はかかるが,積極的な侵攻作戦に有効な「駐留」。落とした城に次々と駐留先を切り替えていけば,コマンド数は節約できる |
駐留にはかなりの費用がかかる(数百人,数千人の衣食を賄うのだから当然である)ものの,戦を進めるうえでは重要なギミックだ。というのも,このゲームでは戦闘が終わると,各武将は自分の城(城持ち武将でない場合は,大名家の本城)に帰ってしまうためである。
前線が敵地の奥へ進んだら,主要な武将に前線近くの城を与え,行軍疲労を減らしつつ戦うのかコツ |
それに対して居城概念が追加された「天下統一III」以降では,居城が戦場からどんなに離れていても,戦闘が終わるたびに帰還する仕組みとなり,次の出撃ではまた長い距離を行軍せざるを得なくなった。駐留のルールは,要するに駐留先に定めた城を仮の帰還先にするシステムなのであり,使い方次第で行軍距離を大幅に縮めてくれる。
家臣を城主に任じたり,城主に複数の城を与えたりするときにも,のちのちの戦で生じる行軍疲労が少なくなるよう考えるのが,重要なプレイテクニックとなる。
豪族武将のご機嫌を伺う,正しい大名家描写
不戦同盟を結んでみた相手から,すかさず婚姻の申し入れが |
軍事同盟を結ぶと,互いに援軍要請が可能になる点もさることながら,同盟関係にある大名家の領地なら軍隊を連れて通過できる点は,非常に重要だ。初代「天下統一」系および「天下統一II」系で頻発した,両隣が同盟相手になってしまったので,どちらかを滅ぼすしかないという事態が,今作では生じないのだ。
また,大名家同士の外交関係を不安定にするイベントが多発することも,今作を面白くしている。ときどき「ええと,あなたは一番の味方だったハズでは?」と,しばし茫然とするような事態も生じるが,大がかりな陣取りゲームである本シリーズで,同盟関係が律儀に守られすぎると,退屈な展開になってしまうのである。それを防ぐ意味で,油断できない設定はむしろ歓迎すべきだろう。
同じく同盟相手から,婚姻の申し入れ。ええと気が早すぎません? |
有能な家臣と自家の姫をめあわせ,親族に引き込むのも有効な策 |
娘が生まれたときの選択肢。名前もさることながら,武将……ねえ? |
こちらが当家の姫一覧。武将になるべく,真理亜も育っている |
朝廷にマメに献金したり,戦で大きな成果を上げたりすると,官位叙任の使者が |
外交の相手としては大名家のほかに,本願寺,幕府,朝廷といった一大勢力があって,本願寺と同盟を結べば一向一揆勢力と戦わなくて済むし,幕府および朝廷に“献金”を続けると,それぞれ役職と官位をくれて自家の威信が上がり,外交と人材管理が楽になる。また,京都のあたりまで勢力下に収めていれば,朝廷を使って強制的な和議を命じたり,足利将軍家の威光を背景に,敵対する大名に対する包囲網を形成させたりといったことも可能だ。
豪族に礼を尽くし,また自家の勢威が増してくると,向こうから従属希望を申し出てくるケースが増える |
本能寺の変に相当する一大謀叛の可能性や,総大将同士の一騎打ち,謀略が露見したときに起きる忍者同士のカードバトルなど,ケレン味もたっぷりな今作だが,少なくとも現在のところ国内で最も優れた封建社会シミュレータであることは疑いない。各大名家の成長ペースも実にスピーディで,油断しているとあっという間に時代に取り残される。これで初代「天下統一」ばりに,野戦をスキップするオプション(あと,できれば忍者バトルもオフにするオプション)があれば,ほぼ文句はない。
黒田幸弘氏が監修していないせいか,ややフレーバー要素が強調されてしまったものの,「天下統一III/IV」の迷走で,しばらく本シリーズから遠ざかっていたという人にも,ひさびさにお勧めできる出来だ。
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