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「かまいたちの夜」と「逆転裁判」のディレクターと作曲家がミステリーゲームの楽曲について語った,「東京ゲームタクト 2019」のトークショーをレポート
「東京ゲームタクト2019」公式サイト
本トークショーに登壇したのは,「かまいたちの夜」ディレクターの麻野一哉氏,同音楽担当の加藤恒太氏,「真かまいたちの夜 11人目の訪問者」音楽担当の坂本英城氏,「逆転裁判」の生みの親である巧 舟氏,初代「逆転裁判」(以下,「逆転裁判1」)音楽担当の杉森雅和氏,「逆転裁判3」「5」「6」「逆転検事」シリーズ音楽担当の岩垂徳行氏,そして「逆転」シリーズ プロデューサーの江城元秀氏の7名だ。
ちなみに江城氏は,当初客席でトークを聞いていたのだが,急遽登壇する運びとなった。トークの司会進行を務めたのは,坂本氏である。
トークの最初の話題は,「かまいたちの夜」と「逆転裁判1」の音楽を作るにあたり,両ディレクターがどのようなオーダーを出したのかについて。
ゲーム音楽というと,通常はシーンに合わせてどんな音楽が必要なのか,ディレクターが用意したリストなどを元に作曲を進めていくものだ。しかし,加藤氏によると「かまいたちの夜」の場合はそういったものが一切なく,いきなりシナリオを渡され「これを読んで,場面に合いそうな曲と効果音を作ってくれ」と言われたという。
そんな無茶な指示を出した麻野氏は,「当時のゲーム開発は,今ほどきちんとしていなかった」とし,自身が某ゲームで,合体や分身,分裂するモンスターのプログラムを担当したときに,仕様書に「合体」「分身」「分裂」としか書かれておらず,「分身と分裂はどう違うのか」と頭を悩ませたエピソードを披露した。
実際「かまいたちの夜」では,麻野氏もシナリオ担当の我孫子武丸氏から「自由に作ってくれ」と言われていたとのことである。
とは言え,音楽に対する指示がまったくなかったわけではない。「かまいたちの夜」はキャラクターがシルエットで表現されており,見分けが付きにくいことから,麻野氏はキャラクターごとのテーマ曲にそれぞれ特徴を持たせるよう加藤氏に依頼したという。
例えば香山誠一のテーマは演歌調だが,加藤氏は「何で演歌にしたのか覚えていないが,たぶん悪ノリで作った曲が採用された」と話していた。そのほか麻野氏は,場面が切り替わった瞬間に世界も一変するような感じを出すため,「曲にイントロを付けないでほしい」とリクエストしていたそうだ。
一方,「逆転裁判1」では,杉森氏が「探偵パートと法廷パートの2つがあることだけは事前に聞かされていました」と発言すると,巧氏は「いやいや,開廷して,尋問があって,解明していく過程があると説明したはず」と反論。
ほかにも巧氏は,「推理のシーンでは,プレイヤーの思考の邪魔にならないように」「各シーンごとに雰囲気の異なる曲が必要。例えば裁判中は緊張感がほしい」といった指示を出したそうだ。
では具体的にどのようにして作曲を進めていったかというと,加藤氏は「かまいたちの夜」で「雪」と「恐怖」をアイコンにしたという。まず雪の表現では,場面に合わせて綺麗さの象徴になったり,怖さの象徴になったり,切なさの象徴になったりと,異なる役割を果たすことを目指したとのこと。
そして恐怖は,普通にメロディをつけるとよくあるサスペンスドラマ調になってしまうため,映画「ターミネーター」のテーマ曲のように,メロディに頼らない曲調を目指したとか。この点について坂本氏は「使える音数が少ない当時のゲーム音楽は,メロディで勝負するのが一般的。その中で加藤さんの手法は新しかった」とコメントしていた。
杉森氏は,「逆転裁判1」の音楽を当初「フュージョンで行く」と宣言していたという。しかし早々に挫折し,コードはフュージョンだがリズムはテクノ,そして多くの楽曲ではメロディがないというスタイルが誕生したとのこと。
杉森氏自身のお気に入りの曲は「捜査 〜核心」とのことで,巧氏も「ゲームボーイアドバンスでゲームを遊ぶときは移動中が多く,音を消すことが多かったのだが,この曲はきちんと聴こうと思った」と話していた。また岩垂氏は,それまでRPGやアクションゲームの楽曲ばかり作ってきたので,「逆転裁判3」で音楽を担当することになったとき,メロディのない杉森氏の手法に戸惑ったそうだ。
そうした杉森氏の,ある種無機質な楽曲作りは,実は加藤氏の影響を受けたものとのこと。杉森氏は「それまでのゲーム音楽がクラシックをルーツとしていたり,あるいはピコピコと言われるものを継承していたりする中,全然違う『かまいたちの夜』の楽曲を聴いて,こんな曲を作ってもいいんだと思い,ゲーム業界を目指した」と語った。なお杉森氏がもっとも好きな「かまいたちの夜」の楽曲は「遠い日の幻影」だそうで,「僕の知るかぎり,ゲーム音楽であんな曲はなかった」と振り返っていた。
話題は「かまいたちの夜」の開発当時のエピソードにもおよんだ。今も当時もゲーム開発は,ゲームのビジュアルがある程度固まってから楽曲の制作に取り組むのが一般的だが,「かまいたちの夜」ではかなり初期から作曲していたため,参考にする画像もなかったという。またスーパーファミコンはサンプリング音源であり,効果音に生音をふんだんに使っているのだが,そのぶん音楽に割けるメモリが極めて少なかったので,容量の少なさを逆手にとり,ミニマル(短いリズムやメロディを反復させる手法)調の楽曲を多用したそうだ。
ほかにもプレイヤーが抱く恐怖をより強めるために,「ドアのチャイムが聞こえた気がした」というテキストが表示されてから一旦間を置いて,実際に「ピンポーン」と効果音が流れるようにしたことも明かされた。麻野氏は「ホラーやサスペンスの演出では,とにかく間が重要」と説明していた。
また巧氏と杉森氏が,「逆転裁判1」開発時に裁判の傍聴に行ったエピソードも明かされた。巧氏らは,裁判長が木槌を持っていないことや「静粛に」と言わなくてもいいくらい法廷内が静かであることに驚いたという。とくに杉森氏の印象に残っているのは,殺人事件の裁判中に傍聴席に向けて披露された,血の付いたままのナイフだとか。
なぜ裁判のゲームを作ろうと思ったのかという質問に,巧氏は「もともとはミステリーのゲームを作ろうと,犯人の証言に証拠を突きつけて矛盾を暴き,追い詰めていくシステムを考えた。しかし探偵を主人公とするゲームはすでにあったので,ほかの職業はないかと探したときにドラマ『弁護士 ペリー・メイスン』を思いだした」とし,「だから順番としては裁判は一番最後」と回答していた。
なお綾里千尋・真宵姉妹をモチーフにした「逆転姉妹のバラード」は,当初もっと明るい曲調だったと杉森氏。開発上の事情により,千尋が早々に表舞台から姿を消すこととなったため,切なさを表現すべく急遽メインパートに半音移動するコードを加えたという。
また人気の「大江戸戦士トノサマン」は,当時のプロデューサーに唯一褒められた楽曲とのこと。杉森氏は,「ほかの曲だとメロディを抑えてシーケンスだけ,あるいはベースだけにしているので,この曲のメロディが際立つ」と説明。加藤氏も「エモーショナルなメロディは1タイトルの中に1つ2つでいい」と話していた。
坂本氏が「逆転裁判1」の「サスペンス」を挙げ,「1つの音で焦燥感や恐怖を表現している。しかもシリーズを通じて使われている」と説明すると,岩垂氏も「(続編でアレンジをするが)杉森さんの最初のバージョンですでに完成している」とコメント。
それを受けて巧氏は,「これは杉森君が『こういう曲が必要なんじゃないですか』と自発的に作ったもの。『逆転』シリーズでは,困ったときに使う一番の名曲」と評した。当の杉森氏は,「ミステリーに最適なコードがあるが,逆転裁判では劇中二曲(『序章』『ディミニッシュ』)でしか使っていない。なので別手法で緊張感を上げるために『サスペンス』や『捜査 〜核心』を制作した」と説明していた。
また杉森氏が,「とくに法廷パートでは,相手を叩きのめすような曲を目指した」と発言すると,加藤氏が「確かに相手を追い詰めていく過程で,どんどんテンポアップしていき,まるでアクションゲームをやっているような感覚に陥る」とコメント。杉森氏によると,当時流行っていたダンスミュージックを参考にした部分もあるという,
「成歩堂龍一 〜異議あり!」の「逆転裁判1」バージョンは,杉森氏がもともと「逆転裁判1」のメインテーマとして作っていた楽曲だったという。この楽曲は,巧氏が「できあがったときの記憶があまりない」と言うほど,スムーズに仕上がったそうだ。
一方で岩垂氏は,この楽曲の「逆転裁判3」バージョンを作曲しているが,すでに「1」「2」と2つバージョンが存在する状況で,どうやって差別化を図るか頭を悩ませたという。
続編関連では,坂本氏が「真かまいたちの夜」にて加藤氏の楽曲と中島康二郎氏の楽曲を「真かまいたちの夜 Nightmare 2011 MIX」として仕上げているが,当初は「絶対無理だ」と思っていたとか。しかし実際に試してみたところあっさりできてしまい,自分でも驚いたそうだ。加藤氏も,「素敵なアレンジに仕上げてくださって嬉しいです」と感想を述べていた。
話題は,「逆転裁判1」で,巧氏が成歩堂龍一のボイス「異議あり!」を演じていることにもおよんだ。この話自体は結構知られているが,会場では杉森氏が「狩魔豪」のボイスを演じていることが紹介され,会場では驚きの声が挙がった。
また「かまいたちの夜」でも,男性の悲鳴は当時のスタッフが演じているとのこと。収録は開発部の会議室で行われたとのことだが,収録時には,「ちょっと変な声が聞こえるかもしれないけど気にしないで」と周囲に伝えていたそうだ。
会場では,加藤氏が持参したキーボードで「かまいたちの夜」の楽曲や効果音に使った音色を紹介する一幕も。ヤマハ DX7IIの音色や,子どものコーラスを加工した音色などが披露された。加藤氏は「ハードの制約があったからこその工夫で,今だったら逆にできないかもしれない」と話していた。
杉森氏も,再び「成歩堂龍一 〜異議あり!」を挙げ,「うまく音を配置して,ディレイのような響きを出した」とし,やはりゲームボーイアドバンスの制約があったからこその工夫だったと語った。なお,岩垂氏はこの楽曲のオーケストラアレンジでディレイを再現しているが,坂本氏は当初「譜面が間違っている」と思ったという。
また巧氏は,ゲームボーイアドバンスの内蔵音源とスピーカーでは,低音が出にくいことに困ったそうだ。杉森氏によると,ベースの音を通常より1オクターブ上げるなどの手法で対応していたとのこと。そのためサウンドトラックを作るときは,低音のバランスをどうするかは議論になったという。なおニンテンドー3DSでは,内蔵スピーカーとイヤホンのどちらが用いられているかを判別できるので,「逆転裁判5」以降はそれぞれ用のバランスで聴けるとのことだ。
トークの最後には,登壇者各自が貴重なトークの場が設けられたことと,「かまいたちの夜」と「逆転」双方のシリーズを長年支えてきたファンに向けて感謝の意を示した。
最後に坂本氏が,「ミステリーという題材は,ゲームに限らずさまざまな形で表現されていますが,僕らはどうしたらもっと怖くなるのかを必死に考えながら音楽を作っています」とし,「今,ミステリーを扱うゲームの音楽を手がける人達は,このお二人の影響を確実に受けています」と加藤氏と杉森氏を称賛して,トークを締めくくった。
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