連載
男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ / 第24回:「ゲイレスラーとアマガミ」
著者近影
いわゆるギャルゲイを買うのは恥ずかしい。若い時――20代前半でも恥ずかしかったが,30代に入ってその恥ずかしさはさらに増した。っていうか,20代前半の時点で,30代になってもこの手のゲイムを買うとは思ってもみなんだ。むしろ,30代になってギャルゲイをプレイしている自分に軽くショックを受けてみる。何してんだ私。
しかし,それでもなお,買わねばなるまい。そこに面白そうなゲイムがある限り。恥ずかしい買い物は,面白いゲイムをプレイするための通過儀礼なのだよ。恥ずかしさを乗り越えた先に,手に入れた達成感があるのだ。そう,もうすでに大きな意味で「アマガミ」は始まっているのである。
こういう戦は速攻に限る。「兵は神速を尊ぶ」と郭嘉も言っておる。悪即斬。そう思った私は,店に入るや否や,目的のブツを手に取りそのままレジに直行する――ことができればよかったのだがね,どうやら私はニュータイプとして覚醒してしまったようだ。
見える,見えるぞ! 私にも敵が見える! なんとゲイムショップの中にいる人間が全て敵に見えたため,勢いをそがれ新作コーナーまでたどり着けずに立ち止まってしまったのだ。そして,大した用もなくXbox 360コーナーへ足を運び,何かを探す。
突然だがここで私は皆に問いたい。何も探しているものがないのに,何かを探さなきゃいけない人の不毛な気持ち,味わったことがあるか? と。
ただ,私もニュータイプの前にプロレスラー,プロレスラーである前に社会人である。こんな状況でも,新たに学ぶことを忘れない。というのも,この逆境の中で無理矢理探した「あつまれ!ピニャータ 2:ガーデンの大ぴんち」が妙に欲しくなってしまったのだ。
男女2人が吊り橋の上を歩いていると,恐怖のドキドキとトキメキを勘違いして,ついつい恋に落ちるという説がある。きっとそんな感じでピニャータ2が欲しくなったのだろう。
だが,今日の目的はあくまでアマガミである。手に取ることが照れくさくないピニャータ2を買ったところで,意味など何もない。正気に戻ったとき,それでも私はピニャータを愛せるのか? そんな覚悟で買われたピニャータの気持ちになってみろ。すまんかったピニャータ。今日のところは素直に恥ずかしい買い物をしよう。そして今日,見事アマガミを持ち帰ったら,いつかあらためて迎えにくるよ。それまで待っていてくれ。
さて,アマガミだ。
自意識過剰だというのは分かっている。ゲイムショップでバイトしていたことがあるんだから,店員も誰が何を買おうがとくに気にしちゃいないってことぐらい,身に染みて分かっている。だが,恥ずかしいもんは恥ずかしい。
みんながこっちを見ている。私がアマガミを手に取るのを待っている。心なしか,私が店に入ってから人が増えたような気がする。敵の援軍だ。これは早いところ決着をつけねば,ゲイムショップが人であふれ返ってしまい,米騒動ならぬアマガミ騒動がおこってしまう。大正デモクラシーだ。そういえば,最近の教科書では鎌倉幕府成立は1192年ではなく1185年になってるんだって。我々はいったい何を覚えさせられていたんだ? こうなると歴史の学科で生徒が教師に点数をつけられるのって,ナンセンスな気がしてくる。歴史自体,何が正解なのか分かんないんだから。
……は! そうか! こうして今私が恥ずかしい思いをしているギャルゲイも,100年後にはゲイムの主流になって,ごくごく普通のものになっているかもしれない! っていうか,そもそも具体的に何が恥ずかしいのか分からない! そうだそうだギャルゲイのどこがいけないんだ! 意を決して,アマガミのパネルを持ってレジへ行く。
まあ分かり切ったことだが,こういうときに限って客が並んでいる。そして,こういうときに限ってレジが三つあるのに一つしか開放されていない。そんなもんだ人生。ここまできたら,開き直るしかない。
すると,前に並んでいる人からの視線を感じた。手には私と同じ商品,すなわちアマガミのパネルを持っている。彼は値踏みするように私を見る。私も負けじと値踏みする。男性。メガネをかけ,ケミカルウォッシュのジーパンを履き,当然チェックのシャツの腹より下の生地はジーパン内部に収納されているという,極めてベーシックないでたち。基本に忠実なのはいいことだ。彼はうしろに並んでいる私をしばらく見たあと,ニヤリと笑ってレジへと姿勢を正した。
待て。
ちょっと待ってくれ。
なに今の「同士よ!」みたいな微笑み。
なんなら「俺のほうがちょっと兄貴だぜ」的な。
違う。私は違うんだ。私はたぶんだけど君とは違うんだ。君とは兄弟なんかじゃない。私はゲイレスラーであるからして決して2Dキャラに興味などなければ,声優さんにも興味はない。君のようなニュータイプではないんだ。イヤむしろ私のほうがニュータイプなのか? っていうかニュータイプって何? それよりもどうすればこの誤解が解けるんだ。なんならリング上でやっているようにキスの一つや二つでもすればいいのか?
っていうか恥ずかしがろうぜ。ギャルゲイってホラ,現実では耳にしないようなセリフがガンガン飛び出すでしょ? そういう恥ずかしいものベースでできているものなんだから,ちゃんとそういう風に扱うのが礼儀だと思う。そこで開き直っちゃダメだと思うんだな。だって恥ずかしいってこと自体は悪いことではないんだから。
そうこうしているうちに,基本に忠実な彼の会計は終わり,私の番になる。そしてニュータイプの彼は,去り際,私に一撃を喰らわせることに成功した。なんと彼は,すれ違いざまに「ふふん」と鼻で笑ったのだ。振り返る私。彼はもう,人ごみの中に……。疾風ウォルフ。敵ながら天晴。悔しくもどこか爽やかな気持ちで,でもやはり狼狽しながら,私はレジのほうへ向き直った。レジ係は女性だった。アマガミのパネルを差し出し,商品が出てくるのを待つ。
するとレジ係の女性は眉をひそめた。だが私は,女性にどう思われようと気にならない。ゲイだから。それよりも,さっきの彼に共感もしくは優越感を抱かれていたことのほうをどうにかしたい気持ちでいっぱいだ。だがそれも,もう叶わない。まあいい。負けたと思ったら負けなのだ。このことは忘れよう。
財布に手をやる。レジの女性は棚を事務的に探したあと,信じられない言葉を吐いた。
「すみません,売り切れです」
私は,彼に敗北したことを悟るまでに,しばらくの時間が必要だった。 -了-
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