レビュー
TDP 45Wのクアッドコアとデュアルコア。日本限定モデルを試す
Athlon II X4 605e/2.3GHz
Athlon II X2 240e/2.8GHz
» AMD初のTDP 45W版クアッドコアCPUと,Phenom II世代初のTDP 45W版デュアルコアCPU。いずれも日本限定モデルとして自作PC市場へ投入される新製品を,Jo_Kubota氏が評価する。PCゲーマーにとって,これらは果たしてどういう意味を持っているだろうか。
2009年9月18日0:01,AMDは,AM3パッケージを採用するクアッドコアCPUの新製品「Athlon II X4 605e/2.3GHz」(以下,X4 605e)と,デュアルコアCPUの新製品「Athlon II X2 240e/2.8GHz」(以下,X2 240e),「Athlon X2 235e/2.7GHz」(以下,X2 235e)を,日本市場限定モデルとして発表した。
「Energy Efficient」(電力効率が良好な意)版プロセッサであることを示す「e」がモデルナンバー末尾に付与された新製品。今回4Gamerでは,AMDの日本法人である日本AMDからX4 605eとX2 240eのサンプルを入手したので,さっそく,その実力を明らかにしてみたい。
AMD初のTDP 45W版クアッドコアCPUと
Phenom II世代初のTDP 45W版デュアルコアCPU
AMDは,Phenom IIとAthlon IIのブランドをどう棲み分けているのか,明確な説明を行っていないが,2009年6月以降はL3キャッシュの有無によって呼び分けているようで,実際,X4 605eとX2 240e(およびX2 235e)は,いずれもL3キャッシュを持たない仕様だ。また,従来製品と比べると動作クロックも下がっており,これら,L3キャッシュの省略とクロックの引き下げが,TDP 45Wを実現する原動力になっているといっていい。
今回,比較対象として用意したのは,AMDおよびIntelの低消費電力版クアッドコアCPUと,TDP 65W版デュアルコアCPUから,価格的にX2 240eの競合となり得る2製品。具体的には表1を参考にしてほしい。できれば,実勢価格が1万6500〜1万9000円程度のTDP 95W版「Core 2 Quad Q8200/2.33GHz」も用意したかったが,スケジュールの都合もあり,今回はQ8200Sで代表させている。性能面でQ8200SとQ8200には違いがないことが分かっているので(関連記事),消費電力さえ無視してもらえば,Q8200SをQ8200として見ることは可能だろう。
主役の2製品についてもう少し掘り下げると,まずX4 605eは,「Phenom II X4 905e/2.5GHz」をベースに,L3キャッシュを省略しつつ,動作クロックでベースクロック1段階分引き下げたような製品になっている。一方のX2 240eは,「Athlon II X2 240/2.8GHz」(X2 240)の省電力版といった趣だ。
AMDの指定するテスト環境で
従来製品や競合製品と比較
テスト環境は表2のとおり。今回のテストに当たっては,ASUSTeK Computerの「AMD 785G」搭載製品「M4A785TD-M EVO」と,Intelの「Intel G41 Express」搭載製品「DG41TY」で比較するよう,日本AMDからマザーボードの指定があったため,それに従っている。そのため,組み合わされるメインメモリが,AMD製CPUだとPC3-10600 DDR3 SDRAM,Intel製CPUだとPC2-6400 DDR2 SDRAMになっているが,この点はご了承いただきたい。
スケジュールの都合によりX2 240を確保できなかったため,今回は,「Athlon II X2 250/3.0GHz」(以下,X2 250)を2.8GHz動作させ,X4 240相当にした状態(以下,X2 250@2.8GHz)でもテストを行う。また,「Pentium Dual-Core E6500/2.93GHz」は以下E6500と表記する。
テスト方法は4Gamerのハードウェアベンチマークレギュレーション8.1準拠。ただし,テスト期間が極めて短かったため,今回は対象アプリケーションを「3DMark06」(Build 1.1.0)「Left 4 Dead」「Call of Duty 4: Modern Warfare」「Race Driver: GRID」の四つに絞った。また,グラフィックス描画負荷が高く,いきおいGPU性能がスコアを左右しやすい「高負荷設定」は省略し,解像度も1024×768/1280×1024ドットの2種類としている。
M4A785TD-M EVO メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:1万1000〜1万2000円(※2009年9月18日現在) |
※2009年9月18日10:35追記
「18日12:00を目処に掲載する予定」としていたグラフ4と,その考察を追加しました。
X4 605eはQ8200Sとまずまずいい勝負
X4 240eのスコアは「クロックどおり」
というわけで,「GeForce GTX 260」搭載グラフィックスカードを装着した状態のスコアから見ていこう。
グラフのバーは,上から3本がクアッドコアCPU,下4本がデュアルコアCPUになるが,グラフ1でX4 605eとX2 240e,X2 250@2.8GHz,Q8200Sはほぼ同じスコアで並んでいる。X4 905eとX4 605e,X2 250とX2 250e@2.8GHzは,どちらも200MHzのクロック差があることを考えると,X4 905eとX4 605eの間には,L3キャッシュの有無によるパフォーマンスギャップが存在していると述べてよさそうだ。
3DMark06のデフォルト設定,解像度1280×1024ドットの「標準設定」における「CPU Score」をまとめたのがグラフ2となる。3DMark06のCPU Scoreは,多分にマルチスレッド性能を見るものなので,クアッドコアCPUのスコアが高くなっているが,そんななか,デュアルコアCPUの中で,E6500が最も高い値を出しているのは,なかなか興味深い。
また,X4 240eとX4 250@2.8GHzのスコアがほぼ揃ったことからは,X4 240eが,X4 240の低消費電力(選別)版である可能性を強く感じさせる。
レギュレーション8.1採用タイトルの中では描画負荷が比較的軽く,かつ,マルチスレッド最適化がある程度行われているLeft 4 Dead。そのテスト結果をまとめたのがグラフ3で,ここでは,X4 905eのスコアが突出して高い。ゲームアプリケーションにおいて,やはりL3キャッシュの存在は無視できない印象である。
「コア間で共有する大容量キャッシュを持つ」という点ではQ8200Sも同じなのだが,E6500のスコアの落ち込み方も踏まえるに,メモリコントローラがCPU内蔵かどうかが,スコアを左右しているようだ。
なお,X4 605eとQ8200S,X2 250@2.8GHzとX2 240eが“どんぐりの背比べ”なのは3DMark06の総合スコアと同じ。むしろここではその背比べに,X2 250も参戦している。
軽度のマルチスレッド対応が行われており,かつ,メモリコントローラの性能と,(今回は影響しないが)GPU側のシェーダプロセッサ数がフレームレートを大きく左右するCall of Duty 4: Modern Warfare(以下,Call of Duty 4)のテスト結果がグラフ4となる。
Call of Duty 4のように,キャッシュ容量よりも,CPUコア数とメモリコントローラのほうが影響するタイトルだと,X4 605eのスコアはかなり見栄えがいい。マルチプラットフォーム化の流れを受けて最近少しずつ増えてきた,軽度のマルチスレッド対応タイトルでは,X4 605eやQ8200Sといった低いクロックのクアッドコアCPUが,高クロックのエントリー向けデュアルコアCPUと,ほぼ同じか,場合によっては前者のほうが高いスコアを示すことがあるわけだ。
一方のX2 240eは,X2 250やE6500とほとんど変わらない位置にいる。
Left 4 DeadやCall of Duty 4と比べると,マルチスレッド化が進んでいるRace Driver: GRID(以下,GRID)の結果がグラフ5だ。一言でまとめるなら,Left 4 Deadと同様の傾向である。
高負荷時に踏ん張るX4 605e&X2 240e
X2 240eは発熱もなかなか少ない
TDP 45Wということで,ある意味最も気になる消費電力をチェックしてみよう。
テストに当たっては,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用。OSの起動後から放置して,30分経過した時点を「アイドル時」,ストレステストツール「OCCT」(Version 3.1.0)のデフォルト設定におけるCPU負荷テストを30分間実行した時点を「高負荷時」とし,それぞれシステム全体の消費電力を測定することにしている。
アイドル時については,CPUの省電力機能「Cool’n’Quiet」(CnQ)および「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(EIST)有効時と無効時のそれぞれでスコアを取得することにし,その結果をまとめたのがグラフ6である。
アイドル時の消費電力でIntel製CPUに敵わないというのは,「Phenom II対Core 2」で見慣れた光景といえる一方,高負荷時に,X4 605eとQ8200S,X2 240eのスコアが,ほぼ同じレベルで並んでいる点には注目しておきたい。
もちろん,マザーボードが異なる以上,AMD製CPUとIntel製CPUの厳密な比較には適さないため,これをもって「これら3CPUの消費電力は同じレベル」と断言できるものではないが,TDP 65WのX2 250から,X4 605eとX2 240eの消費電力が確実に低減しているとは言えそうだ。
用いたモニタリングソフトは「HWMonitor Pro」(Version 1.06)。CPUクーラーの回転数はいずれもPWM制御させている。
HWMonitor Proは,各コアの温度を別に取得できるが,グラフ7は,その平均値をまとめたものになる。
マザーボードが異なる以上,AMDとIntelの直接比較には適さないので,安易に足し算引き算しないよう注意してほしいが,同じAMD製CPU間で比較すると,X2 240eの温度は相対的に低い。とくに高負荷時の低さには目を見張るものがあり,実際の運用における熱対策のしやすさは,比較対象より一段上の印象だ。
エントリーCPUとして必要十分な性能は確保
価格差を考えると,より魅力的なのはX2 240e
端的に述べて,今回取り上げたCPUのうち,X4 905eを除くと,ゲーム中に体感できるパフォーマンス差はほとんどない。エントリーモデルらしい得手不得手はあるが,それらはおおむね,グラフィックスカードの性能でなんとかしてしまえるレベルだ。
その大前提に立つと,X4 605eは,1万5000円近い値段設定が厳しい。高負荷時の消費電力に魅力は感じるが,ゲーム用途で積極的に選ぶには,いろいろ足りない印象が拭えないのだ。
一方,非常に面白いのがX2 240eである。動作クロック,キャッシュ周りの仕様がリーズナブルで,消費電力と発熱が低く,かつメーカー希望小売価格は8500円(税込)。例えば,半ばチャットクライアントと化したような3Dオンラインゲームをサブで起動しておきつつ,必要に応じて,描画負荷の高い3Dゲームも起動するようなマシンを,小型筐体で実現したいという場合には,AMD 785Gマザーボードとともに,かなり魅力的な選択肢になると思われる。
……と,ここまで書いたのが17日の22:00過ぎなのだが,先ほど日本AMDから「製品ボックス外箱のシール部分に誤記があったため,X2 240eとX2 235eの販売をいったん中止する。修正の目処がつき次第,あらためて販売開始を案内する」という連絡があった。現時点で,販売再開日時は不明だ。
「解禁時間合わせでオンライン通販を開始するようなショップだと,“仕込み済み”の場合,自動制御で受注が始まってしまうかもしれない」などと,よけいな心配をしていたりもするが,果たしてどうなるだろうか。
※2009年9月18日18:30追記
日本AMDから「9月26日午前0:01より,X2 240eとX2 235eの販売を行う」という連絡がありました。
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