連載
【西川善司】腫瘍摘出手術を受けて自らがバイオハザード風になった話
西川善司 / グラフィックス技術と大画面と赤い車を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
※注意
今回の(善)後不覚では,そのテーマ上,手術前後に撮影された筆者の写真を掲載しています。包帯,血液,腫瘍などが登場しますので,苦手な人は気を付けてください。
2011年の12月はいろんなことがありました。
まず,10年間乗ってきたRX-7を降りることになりましたし(※詳細は筆者のblogポスト参照),さらにこのタイミングでMRI検査をしたら,左耳下にある首筋のところ,いわゆる耳下腺と呼ばれる部位の付近に腫瘍が見つかったのです。20代の頃からその位置にしこりがあるのは気がついて,粉瘤(ふんりゅう。ニキビに皮膚が覆い被さったようなもの)だと思って放置していたら,十数年間の間にむくむくと成長してしまったという。
初期検査で,「悪性腫瘍(=癌)ではないだろう」とは推測されていましたし,十数年以上も放置して,健康には何の問題もなかたったのですが,医師によれば,ウズラの卵以上に大きくなっているそうで,「さすがにもう摘出した方がいいでしょう」。結果,手術の日程が発見から2か月後の2月に決まりました。その間もラスベガスの2012 International CESへ取材に行ったりしているので,医師としても,それほど緊急を要するような判断ではなかったんだと思います。
入院ライフを楽しむつもりだったが…
さて,入院の翌日が手術で,その後一週間の入院と聞かされました。
ボクの中では「いつもの海外出張が国内の病院になるだけ」という捉え方で,いつも持ち歩いているストローラーバッグには意気揚々と身の回り品や着替え,そしてパソコンやゲーム機を詰め込んだのでした。
手術が終わった後は,ベッドで安静にすることとなるはずなので,その間,日中はベッドでPCを起動してしたり,病院の早い消灯後はヘッドフォンでもして夜更かしゲームに明け暮れようと画策していたわけです。
この種の製品は安いものから高いものまで,各社から色々でているのですが,今回は上海問屋から販売されている「DN-NBD05」を選択。天板がアルミで,マウスパッドとカップホルダまでがついて1599円(税込,購入当時)はなかなかのお値打ち価格です。
そんなこんなで入院です。入院当日は何もやることがないので,病室のセットアップを行うことにしました。自分が入院した西大宮病院の病室は4人部屋でしたが,カーテンによるパーティションがしっかりしていて,個人部屋に近い居心地でなかなか快適です。
ベッドには入院患者が使用してよい電源コンセントが2つも用意されていて,はっきり言って,北米取材時に滞在する安ホテルよりも設備は立派ですね。
あ,そうそう,ボクの入院した病棟はPCなどの使用が認められており,公共無線LANも完備されています。グレードの高い個室病室では有線LANも使えるとのことでした。自分は4人部屋でしたが,自分のPCでUQ WiMAXと契約してあるため,ネット環境は問題なしです。
まずは,買ってきたミニPCデスクをセットアップしてみました。
脚部はプラスチック製のロックにカチンとはめればそこそこしっかり固定できますし,手持ちの富士通製モバイルノートPC「LIFEBOOK PH75」(12.1インチクラス)であれば,通常使用でぐらつくこともありません。備え付けのマウスパッドやカップホルダも,よほど重い物を載せたり,力を掛けたりしなければ,ちゃんと使えます。完璧な商品ではないですが,1599円という価格を考えれば,よくできているほうだと思いました。
病室のテレビも地デジ化されていた。SDカードスロットも装備。SDカードに入れたAVCHDビデオも見られるらしい |
HDMI端子発見。なにげに充実の入力端子群だ。D端子があるのでWiiもつながるヨ! |
病室のテレビは有料の視聴カードを購入して差さないと,外部入力も使わせてもらえない。キビシー!! |
ボクは普段からストローラーバッグにHDMIケーブルを詰め込んでいるので,さっそくLIFEBOOK PH75とこの液晶VIERAとを接続してみることに。入院しながらも2画面を使いこなす「入院★多画面マニア」ライフに期待を抱きながらテレビの電源を入れてリモコンで表示を「HDMI1」に変更してみました。
が,「カードを入れてください」というメッセージが表示されるだけで,何も映らず。電気は使い放題(?)なのに,病室設置テレビは10時間1000円のテレビカードを購入して専用スロットに差し込まないととまったく使えないのでした。我が人生において久しぶりに声出して言いましたよ。「ギャフン」て。
テレビは見ないし,外部入力を使うだけで1000円も出費するのは悔しいので,結局,「入院★多画面マニア」は夢で終わってしまいました。
手術日。フェイスオフ
丸一日何も食べられなくなる「食止め」の札を掲げられた。ダイエットが苦手な人は,おでこにこのメッセージを貼っておけば効果覿面のはず |
全身麻酔は胃や腸の活動も止まってしまうため何も食べられないらしい |
自分の手術は全身麻酔を伴うため,「麻酔から目が覚めずにそのまま植物人間になってしまっても文句は言いません」的な同意書を書かされました。文句言いたくても植物状態じゃ何も言えませんけどね。
入院当日の夕食は食べられますが,手術日は一日絶食,さらに手術日の翌日も朝食はなし(飲水は可)との説明も受けたりしました。
手術日の朝は6時に起こされたのですけれども,看護師にまずされたことは浣腸。朝に若い女性に浣腸をされたのは初めてのことですし,そもそも若い女性とトイレで2人きりになったことも初めてです。
手術の開始は午後13時から。病室の他の3人の入院患者がカーテンの向こうでうまそうに何かを食べたり飲んだりしている物音と匂いを2回我慢したあと,数人の看護師さん(助手?)と麻酔医師がやってきました。
「さあ,いきますよ」と言われてからすぐ,肩にとんでもなく痛い注射をされ,力が抜けてベッドに横になった状態で手術室にまで運ばれました。浣腸に続き,ベッドに寝たままエレベータに乗ったのも初めて。視界の下から上へと流れていく天井の蛍光灯を見ながら「いよいよか」と覚悟を決めます。
次に目を開けたときには手術が終わっていて,病室に運ばれていました。
よく映画やドラマで見かける,鼻に管を入れられた状態での目覚めです。力を振り絞って携帯電話で自分を撮影したのが下の写真です(一眼デジカメは力不足で持てませんでした)。
管が首に入っていて,傷口からの血を,「ドレーン」と呼ばれる“血袋”で吸い出しています。
この血袋が病院にとって新仕様のものらしくて,看護師さんもよく使い方が分からない様子。「やべ。負圧になってない」「どうやんの」「知ってるの○○さんしかいないよ」「ダメじゃない! これじゃ正圧のままだよ」みたいな会話のやりとりが聞こえてきて,かなり不安になりました。
看護師さんがやってきて,血袋に溜まった血を捨てるたびに「負圧になってますか?」といちいち確認しましたが,臆病すぎたかな。
ただ,翌日の朝を迎えてからは,起き上がれるようになり,トイレに自分で行けるようにもなりました。ただ,例のドレーン血袋を自分で抱えて回らないと行けないので,看護師さんにお願いして,紐で血袋を首から下げられるネックストラップを作ってもらっています。
ちょうどスケルトンで赤ボディの7インチタブレット端末をネックストラップで持ち歩いたらこんな感じのはずです。オッシャレ〜。
点滴された状態でバイオハザード リベレーションズをプレイ
術後,3日も経つと,体力的にはだいぶ回復していましたが,そのタイミングで,持ち込んだPCやゲーム機を使うのがとても難しいことに気づきました。
手術後1週間程度は1日に2〜4回ほど点滴をするのですが,そのたびに針を刺し直していては大変ということで,一度刺した点滴針は刺したままにしておくんですね。これを「留置」というのですが,留置用の針は,血液が固まって針の穴を塞がないようにするために,普通の注射針よりも太く長くなっています。そのため,刺すときは痛いですし,刺されたあとも異物感があるという。手を大きく曲げたりすると虫歯のような痛みが針の挿入箇所にあるから,基本,針が刺さっている側の手を動かすのには臆病になってしまうんですよね。
ちなみに,留置針からは透明の管が伸びていて,その先には点滴の薬液からのパイプとを簡単に接続するためのアタッチメントが備わっています。
点滴していないとき,留置針から伸びる透明の管には栓をして手首に巻いて貼り付けておくんですが,ゲームプレイで,その針が刺さっている手首を動かしたりすると,その動きに応じて針から透明の管に血が溢れ出て来たり,引っ込んだりするんです。管には栓をしているので,血が外に漏れることはないですけども,自分の血がリアルタイムに透明な管を行ったり来たりするのを見るのは結構な恐怖です。
というわけで,入院中にプレイしたバイオハザード リベレーションズは,シリーズ最高の恐怖が味わいました。キャンペーンモードはクリアしましたけど。
留置針は4日間以上は使えないらしくて,4日経つと,元の留置針を抜いて,別の場所に新しい留置針を刺します。結局自分は入院中に両手が自由に使えることはほとんどありませんでした。トホホ。
そうそう,PlayStation Vitaの「みんなのGOLF 6」は片手でも遊びやすかったですよ。今後「点滴ゲーマー」になる入院予定の人は,入院前に買っておきましょう。
うれしいこと。かなしいこと
どこかの編集部がレビュー機材を病室にまで送り込んできたかと思いつつ,片手でなんとか箱を開けると中からは風船がドバっと浮かび上がりました。
某ゲーム開発会社さんからのお見舞いの贈り物でした。さすが,ゲーム業界,センスがいいですよね。こんなの送られたら思わず笑顔が出ちゃいますもの。
調べてみると,ボクがもらったのはワックアップバルーンのものでした。Webサイトを見てみると,ボクがいただいた「お見舞い用」以外にも,誕生祝い,結婚祝いなど色々あるようです。これは,実際にお目にかかれない状況下でのメッセージギフトとしては最高かもしれません。
自分もいつかマネしようっと。
さてさて,術後,PCやゲーム機を使うのが難しくなってしまった理由がもう1つあります。
それは,手術の後遺症です。
耳下腺付近は顔面を制御するための様々な神経が通っているのですが,今回の手術ではここに触れることが避けられないため,術後,顔面制御に関係した後遺症がいろいろと出るんですね。ボクの場合は,左目だけ瞬きができなくなるという形で後遺症が出てしまいました。
無理矢理指で目蓋を閉じてやることはできるのですが,瞬きができないとやはり目が疲れるんですよね。今ならば瞬きしない我慢比べはかなり無敵です。それと,集合写真の撮影時,ボクだけウインクしている可能性が出てきました(笑)。
医師からはそのほか,物を食べたときに口をうまく閉じられなくなる後遺症が出ることもあり得ると言われましたが,そっちは大丈夫そうです。
まぁ,神経は次第に回復するらしいので,高確率で治ると思っていますが,担当医師も「個人差あるんで,最終的にどうなるかはよく分かんないですよ」って感じでした。
ちなみに格闘漫画「グラップラー刃牙」の世界だと人間の視神経は首筋を通っている設定ですが,大丈夫,ボクの左目の視神経はちゃんと脳に直結しているのでちゃんと見えています。目蓋が閉じられないだけです(笑)。
おわりに
ウズラの卵よりも一回りも大きかった腫瘍。検査の結果,悪性腫瘍ではないことも判明した |
ある日の病院食。入院生活をするとダイエットになるというが,入院前と退院後で体重の変化はなかった…… |
最後に,摘出した腫瘍の写真をご覧に入れましょう。
やはり,大きさはウズラの卵よりも大きい印象です。管のようなものも生えていたので,血液も流れ込んでいたんだと思います。
ところで,耳下腺腫瘍は数万人に一人の発症例があるそうですが,原因はよく分からないとのことでした。昔話の「コブとり爺さん」のコブが,耳下腺腫瘍がモデルになっているという見方もあるそうです。もっともボクの場合は,運動不足が祟って「コブとり」というよりは「小太り」の傾向が強まっていますけどね。
手術後2週間が経ちましたが,左目の後遺症は相変わらず。しかし,傷周辺の腫れは少しずつ引いてきているような気がします。
後遺症を早く克服して,また,仕事にゲームに,そして趣味のクルマに,力を注いでいきたいと思っています。
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。4Gamerの連載「3Dゲームエクスタシー」をはじめ,オンライン/オフラインのさまざまなメディアに寄稿したり,バカゲーを好んでプレイしたり,大画面にときめいたり,観切れないほどBlu-rayビデオを買ったり,オヤジギャグを炸裂させたりして毎日を過ごしている。 |
- 関連タイトル:
バイオハザード リベレーションズ
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