【ヒャダイン】主人公による窃盗問題を考えるんだ

ヒャダイン /  音楽クリエイター

ヒャダインの「あの時俺は若かった」 ブログ：http://ameblo.jp/hyadain/

第48回「主人公による窃盗問題を考えるんだ」

　ども。2015年が終わり，2016年がやってきますね。今年もいろんなことがありました。たくさんゲームしたなあ。この原稿を書きながらも，隣で十字キーを固定してポケモンのふ化作業をしてんだから，そこそこのゲーマーよね，俺。まあ振り返っても誰得なんでやめときますね。2016年もよろしくお願いします。

イラスト：松本隆一
気付いたら使える絵素材がなかったので，「松本さん，今すぐ泥棒描いてください」とお願いした結果がこちらでございます

　さてと。いよいよネタがなくなってきたぞ。どうしよう。あの禁忌に触れるとするか……。冷静に考えたら，どう見てもおかしいRPGあるある。ええ。アレです。「民家に土足であがりこんでタンスから物品を盗む行為」。これですよ。ほぼすべてのRPGで行われているこの行為。旅に必要な道具や，はたまた金銭を手に入れられることもありますね。しかも住民とノンキな会話をした直前直後にやるんだから。バシッというよ。もう2016年になるんだからね。もう俺も大人だからね。
　あれは，窃盗です！　窃盗だよ!!　ひとんち入って物や金を勝手に取ってくんだからさあ。立派な犯罪だよ。時々はした金とかゲットすることあるじゃん。あれって，子供のお小遣いか奥さんのヘソクリだよ。そんな，ささいなお金まで容赦なく持ち去る主人公御一行。窃盗団だよね。

　しかしそんなことを責めていてもらちがあかない。ここは一発，なぜこんな犯罪が横行することが許されるのかについてを考えねばなりません。多面的に考察しましょうね。

　まず一番に思いつくのは，「勇者という免罪符」。要するに，巨悪を滅ぼす勇者様御一行だから，人民は勇者様に奉公しなければならないというお触れが王様から出ているわけですよ。だから勇者様御一行が家に土足で入ってきたら何でもご奉仕せよ，さもなければ死刑だ！　死罪だ！　打首だ！　っていう，ね。
　しかーし。この論はほころびだらけですね。ええ。「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」なら分かるよ。だって，最初っから勇者だもん。しかしこれが「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」になると訳が違うよね。だって第一章から第四章までは勇者様じゃないもん。まだ自覚のない“導かれし者たち”だもん。
　「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」は言わずもがなでしょ。「ファイナルファンタジー」シリーズで言ったって，IIIはたまねぎ剣士でしょ。ガキンチョでしょ。ガキンチョ窃盗団。IVでは暗黒騎士だよ。違った意味で家財を引き渡さざるを得ないわ。なので，この考え方が通用するのは，極めて限定的ですね。

　となると，二番目に考えられるのは，住民に返却を確約してからのレンタル，ですよね。「自分達はこういったもので，これこれこうこうという理由で今あなたの家のタンスの中にある道具や金銭が必要なのです。旅が終わったあとですべて返却しますし，もちろんお礼もさせていただきます。というわけでお借りしてよろしいでしょうか，あ，借用書なら用意してあります。はい。こことここに実印，あと割印をこことここですねー。ご署名はこちらに。はい。こちら住民様のお控えでございます。返却の際，必要になりますので保管していただくよう，よろしくお願いします」。
　……って，バッツが言うか!?　ティナが言うか!?　ビアンカやフローラなら言いそうだけども！　夢もファンタジーもないよね。でも現実的だし，一番平和に解決するのはこの案だよね。あ，そうか。「うしおととら」のジエメイみたいにさ，霊的な存在が常に主人公一行には憑いていて，一通りレンタルしたあとにそういった事務作業は霊的な存在が担当しているっていうのは，どうでしょう。
　だって，主人公はチンタラしてられないじゃん。だからパパパっと盗ったあと，いや，取ったあと，霊的な存在が書類をかわす。分かりやすいね。

　次に考えられるのは，民家に入って金品を盗る行為がめちゃくちゃ素早くて，あと浅草のベテランスリ並にテクニカル，という考え方ですよね。
　ほら。普通に民家に入るんですよ。住民と楽しい会話にふけっている間，ほかのメンバーが住民に気付かれないように，さささっとぽっぽナイナイ。大きな「ふくろ」に金品を詰め込む狡猾な集団窃盗団。これも現実的じゃない？　まあ，ツボをぶっ壊したりすることもあるからバレやすいとは思うんだけどね。別に壊さなくたっていいじゃないかと思うんだけど，あのツボの調べ方はなんだかストレス解消になる。

　さらに考えられるのは，呪文や魔法の濫用。スリプル，コンフュ，ラリホー，メダパニ，マヌーサ，かなしばりやでんじはなどで動きを封じておいて，そのうちにパパパっと。
　だって状態異常の魔法って時間限定じゃん。命を奪うわけではなし。どうなんでしょうね，重度の後遺症とか残るのかな，状態異常。いや，残らないよね。ラリホーくらってもザメハですっきり目覚められるもんね。でも住民，目覚めた後にブチ切れるよなあ。あいつらマジゆるさねえ，ってなるんだろうなあ。うーん。後味悪い。

　あと考えられるのは何だ。あー，あれだ。社会自体のシステムが違うんだ。「みんなのものは自分のもの。自分のものはみんなのもの」という考え方。そもそも外を歩いていたら命を脅かすモンスターが住んでいる時点で，我々が住んでいる現代社会と違うシステムであることを認識しなきゃいけないのかもしれない。
　こういう思想がある社会だから，家に誰かが入ってきて私財を持って行ってもそれが悪いとは思わない。自分も隣の家に行って私財をパクってきても許される。人間全員家族！　みんなファミリーだぜ!!
　これってハッピーだよね。だとしたら道具屋さんとか武器屋さんの存在意義がなくなるかー。自分のものはみんなのもの，だったら武器も道具も販売しないで無償提供しなきゃですもんねえ。ふえー。

　とまあ，いろいろ書いてきたけど，例えばこんな疑問を子供が持ったとして，一番説明しやすいのは，レンタル制じゃないかと思いましたね。そう。借用書を交わしているに一票。ああ夢がない。

■■ヒャダイン（音楽クリエイター）■■ 2016年のヒャダイン氏は，正月番組からスタート！　2016年1月2日はNHK FM「ガルポプ新春SP」（20：20〜22：20），NHK総合テレビ「新春テレビ放談2016」（22：40〜23：58）に，そして1月3日はテレビ東京系列「ゴッドタン」（23：20〜24：15）に出演予定です。お見逃しなく！