連載
【島国大和】無茶ぶりはなぜ生まれるのか? どうすれば避けられるのか?
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
かつてのゲーム業界の労働環境は,本当にえぐかったとよく言われます。休出や徹夜は当たり前,初任給で買うのは寝袋。
自分もゲーム業界に来たばかりの頃,先輩から,「イスを並べて寝るときは,背もたれを互い違いにすると落ちにくい」という,ありがたいアドバイスをもらったことがあります。
ほかにも,休日にオフィスで殺虫用のくん煙剤を焚いたら,机の下で寝ていたプログラマが何人もあぶり出されたとか,業務の過酷さに耐えかねて失踪したディレクターをMMORPGの街に探しに行ったとか。
ひどい話はいっぱい聞きましたし,実際に体験したこともあります。
なぜそんなにひどいことになるのか。大きな原因の1つがそう,「無茶ぶり」です。そんな仕事がそんな期間でできるか!
お久しぶりのゲーム開発者,島国大和です。今回もよろしくお願いします。
仕事をする以上,無茶ぶりは避けられないのかもしれませんが,しかし最近はアレです。コンプラ!
コンプライアンス(compliance)とは,この場合「法令遵守」のことを指し,企業や個人が法令や社会的ルールをちゃんと守ろう! みたいな感じのことです。
今,多くの企業はコンプラ重視です。社員に過度な負担をかけるような働き方はさせません。そんな時代なのですから,ゲーム開発だって,無茶なことはそうは発生しまい!
ほんとに!? ちょっと様子を見ていきましょう!
無茶ぶり一覧
では,ゲーム業界でよく見る,よく聞く無茶ぶりをざっくりさらっていきましょう。
●コンプラ的無茶ぶり
えー,コンプラ遵守で無茶な仕事がなくなったのでは;;
残念でした。コンプラで無茶仕事がなくなることもあれば,逆に発生することもあります。
ゲームの内容がコンプラ的にまずいので(反社会勢力が出ている,肌色が多い,社会通念上よくない行動が取れる,絵合わせ,出演者のスキャンダル等々),急いで差し替えだ! みたいなやつです。
こういうのって,問題になりそうな気配が事前に把握できていれば,社内の担当部署に確認してもらうなどするのですが,なぜかスポンと抜け落ちていて後から指摘が入り,現場がバタバタすることは結構あります。
ゲーム業界が巨大化して,生み出す利益も開発コストも莫大になっていますし,運営型タイトルとなれば,スケジュールも超タイト。
そんな中で急遽発生する差し替えは結構大変です。
企画者にはゲームシステム,シナリオライターさんには言い回しに注意を払ってほしい。演者さんや声優さんも身辺や発言には気を使ってほしい。
ただ,そうした気遣いが行きすぎた結果,毒にも薬にもならず,箸にも棒にもかからないゲームができちゃったりもするので,これがなかなか難儀な話です。
冒険する場所はどこか,しない場所はどこか,危ない橋を渡るときは計画的にいきたいですね。
記事の冒頭で少し触れましたが,働き方改革の影響もあります。ゲーム会社の働き方は,昔と比べてずいぶんホワイトになったと思います。無茶苦茶な残業は減りました。無茶しすぎちゃだめよ,という空気は以前より濃いです。会社に長居してると,帰れ帰れ言われますしね。
しかし,力の強い会社がホワイト化した裏で,力の弱い会社がブラック化していたりします。自分たちがホワイトに働くために,無茶な仕事を強要するようなムーブですね。
とはいえ,ゲーム開発者はそこそこ売り手市場だったりもするので,実は中間管理職的な動きをしている会社が,発注側からの無茶を受け止めつつ,なんとか現場に負担をかけずに回そうとして,一番疲弊してしまうケースもあったりはします。
●個人からの無茶ぶり
ゲーム開発が小規模だったころは,個人の能力,才覚に開発が左右されたと言います。
ですが,現在のゲーム開発は基本的に大人数のチーム仕事なので,指示が伝わらないと迷走しますし,迷走するとその分時間も予算もかかっちゃうので,いいことなしです。
昔,あるゲームディレクターの仕事ぶりを何回かテレビで見たことがあるのですが,無茶苦茶な感じでした。
「もっとこう,グワァァア! という感じで!」
ああいうのはインパクト重視で,無茶苦茶なところを切り取ってるのだと思います(そう思いたい)。
それなりのポジションに座ってる人は,成果を出したからそこにいるはずなので,全く意味不明な指示をしているわけではないでしょう。だから,偉い人の意見には何らかの意味がある。汲み取ろうとしてみる必要はありますね。
ただエライ人にも何種類かパターンがあって,中には現場に無茶を通したり,ダメージを現場のせいにしたりして地位を得た人もいます。
このパターンの人に真面目に付き合うと,権限がないまま責任とダメージだけを押しつけられ,キビシイことになります。指揮者の“芸風”は常に見ておくべきでしょう。そこを間違えるとメンタルを壊しますからね。
そう考えると,上にいると一番ありがたい人は,「現場に無茶を強要せず,お金を引っ張ってくる能力に長ける人」でしょう。かつてそういう仕事をしていて,それが成功体験になっている人。
仕事なんて,だいたいの問題はお金で解決しますよね。できる人を雇うとか,人数を増やして横に広げるとか,スケジュールを延ばすとか。お金があればたいていの手段を取れます。
それができない,つまり,お金が足りないことのしわ寄せが無茶ぶりという形になって,現場に降り注ぐわけです。
なので,次にありがたい上の人は「この予算ではここまでしかできません」ということを,上手に柔らかく交渉できる人ですかね。
お金を引っ張ってこれて,コスト交渉もできる人は,もう神様みたいなものです。
●会社組織からの無茶ぶり
会社という組織の中だからこそ生まれる無茶ぶりもあります。
「なんと,あなたのプロジェクトが遅れてる!? 大変ですね。でも別のプロジェクトがもっとヤバイことになってるので,優秀なプログラマーを1か月借りますね!」
「なに,プロジェクトがやばいですって? でも新人育成と,採用活動もあなたのところでお願いしますね!」
「運営タイトルの緊急対応だとしても,そんなでたらめな出勤状況は認められません。定時to定時の基本は守ってください!」
「有給がまったく消化されてないですよ。今月で消失しますよ!」
仕方ないんですよ。仕事ってそういうものですから。
クリエイターである前に,会社員なのです。
●プラットフォーマーからの無茶ぶり
ここはいくつかの具体例を挙げて紹介しましょう。
テストの必須化
今回,「無茶ぶり」をテーマにコラムを書くことになったきっかけは,2023年11月にGoogle Playでアプリを配信するための要件が追加された話題でした。
その要件とは,「最低でも20人で14日間のテスト」! 私もかつて趣味で個人製作のゲームをGoogle Playで配信していましたが,このルールはキビシイ!
ちょっとGoogle Play Consoleのヘルプ(外部リンク)を引用してみましょう。
アプリを製品版として公開するための申請を行う前に,必ずクローズドテストを実施する必要があります。製品版へのアクセスを申請するには,20人以上のテスターがオプトインしてクローズド テストを実施する必要があります。また,それらのテスターは 14日以上連続でオプトインする必要があります。
大手の開発チームであれば,20人14日なんて余裕で消化というか,そもそもデバッグ期間は数か月,並走して運営用途のリソースを作っているなんてことが珍しくもないですが,個人で20人を揃えるのはキビシイ。小規模チームでもキビシイ。
App Storeよりも全然ラクチンにアプリを公開できたGoogle Playも,だいぶ方向を変えてきましたね。
これに限らず,App StoreでもGoogle Playでも,アプリの公開にはルールがつきまといます。デベロッパポリシーやデベロッパガイドラインといった形で公開されていますので,興味があったら読んでみてください。
分量が多いですし,解釈の余地があったりするので大変ですが,開発者としては読み飛ばすわけにもいきません。
バージョンアップ対応
OSのバージョンが上がると,一部のAPI(あるソフトウェアの機能を別のソフトウェアから呼び出す仕組み)がサポートされなくなり,それを利用しているアプリは公開できなくなります。
これは一年近く前から予告されたりするので,対応していないほうが悪いのですが,そうはいっても,工数がなかなか読めません。
また,UnityやUnreal Engineで開発している場合も,新しいバージョンに対応する必要がありまして,これが一筋縄ではいかないことがあります。
バージョンアップしたら,あの関数が使えない,この関数の動作が違う,なんかおかしい,とか。とくに「なんかおかしい」がとてもヤバイ。そういったあれこれの不具合をあぶりだして修正するために,複雑怪奇化したゲームにおけるすべての動作の再確認が必要になります。
開発が長期化した大型プロジェクトでは,問題が出た部分のコードを組んだプログラマがもういないとかもよくありますし,タイミング系+組み合わせ系のバグ(特定のタイミングで特定の操作をした場合などでのみ発生するバグ)になると追うのはかなり難しくて,予想以上に時間を食います。
この手のは人海戦術によるしらみつぶしと,プロの技による修正が必要なので,工数が読みにくいったらありゃしません。
正確に言えば,こういったバージョン対応は無茶ぶりではなくて,人様の土俵で商売させていただく以上,そこのルールに従うの当たり前という話なのですが,それでも無茶ぶりに感じてしまうのは,その対処が大変で,作業に対する報酬もないからでしょう。
知人に大量のアプリを公開している人がいますが,長年かけて大量に公開したすべてのゲームのバージョン管理をし直すのが毎度憂鬱だと話していました。
自分の場合は,趣味として続けていたゲームの開発を,OSのバージョンアップのときに止めちゃうことが多いですね。仕事じゃなきゃやってられない作業です。
コンプラ的対応
たとえば,PlayStation向けのタイトルは,エロティックな描写の審査がほかのプラットフォームよりキビシイと言われています。
ほかにも,プラットフォームによってさまざまな違いがあります。以前,個人でAndroid向けゲームを開発したとき,公開にあたって「破壊はありますか?」「暴力(コミカル)はありますか?」といった質問に答える必要があったのですが,素直に答えたら,シューティングゲームで18禁になったことがあります。厳密に回答し過ぎました。
ギリギリのスケジュールのときに,これ関連のNGが出たりしてヒーヒー言うことが多いです。準備不足の方がマズいのでしょうから,こちらも正確に言えば無茶ぶりではないのですが……。
それ以外の細かいルールや推奨仕様
ほかにも,初期ダウンロードサイズ制限とか,最初のダウンロードである程度プレイできるようにしておくとか,細かいルールはありますし,さらには「推奨」の仕様もあります。
Androidならば「バックキーは常に反応したほうがいい」とか,iPhoneならば,「画面の四隅の丸いところにボタンを置くな,ノッチをちゃんと意識してね」みたいな。
あくまで推奨なのから,強制なのまで。推奨は無視することもできますが,守ってないとストアの「オススメ」に表示されないなど,いろいろ不利があります。
そして,クライアント様からの「推奨は全部守ってね」の一言で,仕事量がドゴーンと増えます。どうせ来るでしょ? と思って,言われる前に対応を進めていることが多いのですが,予定外のものがいきなり来ると怖い。
逆に言えば,大変な作業でも,事前に準備ができているなら無茶ぶりにはならないんですよね。
●クライアントの無茶ぶり
無茶ぶりしてくる人と言えば,やはりお金を出す人,クライアントですが,これにもさまざまあります。
ミスマッチの発注
ゲーム開発は座組で決まります。基本的にメンツを揃えた時点で,どの程度のクオリティがゲームが完成するのかをある程度予想できます。
ちょっと違うかもしれませんが,「美味しんぼ」でいうところの,「揚げるところを見ずに,腕のいい天ぷら職人を当てられる」というやつに近いです。
ただ,それができるのは,天ぷら職人が天ぷらを揚げる場合の話。残念なことに,ゲームのプロジェクトにおいては,アクションゲームが得意な開発チームにRPGを発注したり,ネットワーク経験のないところにソシャゲを発注したりといった「メンツと作りたいものがかみ合っていない」案件が発生します。寿司職人にカレー作らせたり,キャッチャーに棒高跳びさせたりするようなもんです。
この発注のミスマッチは,発注側に問題があるとも言い切れない部分があります。開発チームや開発会社は「できる」と返答していると思いますし。
発注にあたっては,デューデリジェンス(この場合,開発能力や企業体力などのチェック)もクリアしているはずですが,クリアしたから大丈夫というわけでもありません。
「開発経験者」や「技術評価者」の経験が足りていない場合もありますし,詳しくは後ほど詳しく説明しますが,初期の想定から仕様が変わったりといったこともあります。ゲーム開発の場合,開始前にガチガチの要件定義があることは稀です。
大手開発会社には,外部の開発チームのディレクションを専門とする部隊があったりします。こういったところに「自分で開発したことがない」にもかかわらず,「知見と実績がある」とカウントされてしまうタイプの人が混じってたりすることもあるようです。
ゴールが動く
上で「開始前にガチガチの要件定義があることは稀」と書きましたが,要件定義がフワフワしているということは,開発中にゴールが動くということです。これはもうヤバイ匂いしかしません。最悪ですが,よくあります。
「俺たちが作っているものは何なのだ? どれぐらいのクオリティが求められているのだ? え,また新規仕様追加?」
無間地獄というか,押井 守の夢落ち風というか。ゴールを固定してほしいと誰もが思う中で,今日もゴールがまた動く。これはツライ。
契約書レベルだと記載されていない必須事項が大量にあるのは,ゲーム開発あるあるです。
要件定義に書かれた文言に「当然これも含まれるでしょう?」みたいなやり取りで,後出しジャンケンで仕事が増えることもあるあるです。
もらった予算で材料を買い,ラーメンを作り始めてから,「普通,チャーシューとメンマは入ってるでしょう?」と言われて,「確かに入ってるのもあるけど,120円の袋麺には入ってないよなぁ」と思う,みたいなボタンの掛け違いです。
ひどい場合は,「何か食べたい」と言われてラーメン作ってたら「カレーがいい」みたいなことになるので,どうなってもいいように仕事を進めるしか。
これも実際のところ,カレーを作っているところに「肉じゃがに変更」みたいな話だったら,まだ何とかなる場合もあるので,それほど抵抗せずに受け入れてしまったり。ただ,どうなってもOKな開発なんてのは高難度ですよ。
要求クオリティがひたすら上がっていくのもつらいです。
例えば3Dモデル。スカートや髪の毛などの揺れモノのが人体を貫通したりすることはゲームの絵だとありがちですが,初期に「別に構わない」と言われて見積もった工数,予算で開発を進めたら,「もっとクオリティを上げないと納品物として受領できない」と言われてしまうやつですね。
「ほかのゲームではこれ位やっていますよね」とクライアントが持ち出した例が,予算が2ケタ違うAAAタイトルだったりと,予算と希望のズレが後々になって露呈することもあります。
発注側は見積もり時には安くしたいから,「過大な要求はしませんよ」というポーズをとりますし,受注側は受注したいから「できますよ」というポーズをとります。
そんな仕事の仕方をしていては,細かい恨みを大量に買ってそうな感じにも見えますが,このあたりは持ちつ持たれつなので,誰かが悪いわけでもありません。
発注側も悪意を持って無茶ぶりしてるわけでもないですし,受注側だって悪意を持って無理だとか無茶だとか言っているわけではありません。持ちつ持たれつのラインの調整が必要なやつですね。
自社開発なら,無茶な発注をすれば残業代や離職率に跳ね返るので,歯止めが効きやすいのですが,発注者と受注者が別会社だったりすると,結果的に「定額働かせ放題」というか「無茶言って通れば通るだけトク」という関係性になりがちなので,ゴールをちゃんと交渉する,握る,が重要なポイントだと思います。
これのあたりはどうにも,ある程度「良心」に頼る部分が発生しがちで,無自覚に悪意のある人が混じってるとキビシいことになりがちです。
●規模による無茶ぶり
最近はゲームの開発規模が巨大化したことにより,無茶のレベルも飛躍的にアップしがちになっています。
たとえば,ある会社の20人ぐらいでゲームを作っていた時ならば,誰のところが大変で,誰のところに余裕があるかは,割と簡単に把握できますが,クライアントプログラムはA社,サーバとネットワークはB社,グラフィックデザインはC社といったように,複数の会社が参加していると,「ちょっと相談しましょう」のコストがバカ高くなって状況が共有できず,結果,力の弱い会社が苦労したりします。
シナリオが遅れて,イベントスケジュールに間に合わせるために,グラフィックスで突貫仕事が大発生とか。3Dモデリング会社のレベルが高くていいものを作ってくれるのだけど,その動かし方がいまいちで,それをなんとかしろとプログラム会社がツメられるとか。
これ,1つの会社の同じフロアでやってても多発する類の問題なので,複数の会社をまたぐとなると,解決のコストが高くなります。
無茶ぶりの構造
プラットフォーマー絡みや,組織内で生まれるものはひとまず置いて,一番多いと思われる発注側と受注側間の無茶ぶりというものは,つまるところ,こうなんじゃないかなと思います。
●発注側の問題
発注側の見積もり能力が足りないと,「こういうものをこれ位の予算と期間で欲しい」という要求が無茶なものになります。
最初から無茶ならともかく,「そんなに凄いものを作る必要はないですよ」という形でプロジェクトがスタートすることが多くて,泥沼が可視化されたころには死屍累々。
無知からくるものなので悪意はないのですが,これはほんとうに初期コミュニケーションが重要なやつですね。
そして,悪意がある要求もあります。「無茶は承知で,契約上の強い立場を利用して無理を言う」場合です。発注側にこれでうまくいった成功体験があると,発生しがちです。
ですが,「よし,うまいこと押しつけた!」みたいな進行をすると,問題が大きくなって手に負えなくなってから爆発して,結局発注側も痛い目を見ることにもなります。受注側がなんとかやりくりしようとしても,無理なものは無理なんですよ。
無知であるパターン,悪意であるパターン,そしてそのハイブリッドパターン。
何度も経験すると,無茶ぶりしない発注者は神様のように見えます。後光が凄いですよ。ありがたやありがたや。
●受注側の問題
受注側の問題は「開発能力不足」に集約されますが,これもいくつかに分類されます。
1つは単純な「技術力不足」。 そもそも完成させる能力がない。これは手に負えません。
そしてもう1つは「交渉能力不足」です。「その期間と予算だと,ご希望の内容は実現できないので,代わりにこれならどうでしょう?」「そのクオリティだとAAAタイトル級のコストがかかりますが,予算的に融通は利きますか?」といった交渉ができるかできないか。これが欠けた場合,爆死するかしないかは発注側次第です。
人手不足が原因の場合もあるんですが,これは結局のところ予算不足だったりもして,単に受注側の問題とも言いづらいところがあります。そして,これが単なる不足人数分の人件費の話ではないのです。
例えば月額100万円の人材は,100万円分の仕事をしてくれるかといえばさにあらず。会社の維持コストだって必要ですし,人材派遣会社から来ている人なら,その会社の利益も含めて100万円です。そして本人は受け取っている金額以上の仕事をする義理はない。
そんな構造ですので,会社もエース級とそうでない人を混ぜることでプロジェクトの進行調整,コスト調整をしています。全員エース級にしろ,エース級を何人増やせ,というのは無茶な話なのです。
エース級だけ構成されたチームはありえませんし,実際のところ,できる人ばっかりだと,指揮が執りづらくなって逆にスムーズに行かなかったりもします。
双方の要因を確認したところで,無茶ぶりを避けるにはどうしたらいいか。発注側に知識があって適切な工数が読め,モラルのある要求ができるか。受注側に技術力と交渉力があり,適切な工数に着地させられるか。プロジェクトを成功させるには,少なくともどちらかにスキルが欲しい。できれば両方欲しい。
発注側と受注側はプロジェクトの両輪のようなもので,どちらかだけが一方的に悪いということはあり得ませんし,相手の足りない部分をどちらかが補えれば,うまく走れます。どちらかがダメでも,うまくいくときはうまくいきますし,何なら両方ダメでも,運が味方してくれる場合もある。
神頼みしたくなりますね。
まとめ
お仕事というものは,結局「予算」と「期間」と「能力」の問題でしかないです。
基本的には支払われた金額分のものしかできませんし,細かい注文があればあるほど,ロスは増えます。
「大将のお任せ握り」なら,その日の朝に仕入れた旬なネタの握り寿司が出てくるかもしれませんが,こちらでネタを指定してしまうと,あまり新鮮でないものが出てきてしまうかもしれない,みたいな話です。
細かいことを発注すると,そのためのスペシャル対応が必要になるので,どんどん高コスト化します。お任せと同じコストで作れると考えてはいけません。
それでもお金を出すからには,思い通りのものを作りたい。それも分かる。
思い通りのものを作れるコストを払っているか。適正に予算が使われているか。
「無茶ぶり」と「正当な発注」との差は,ちゃんとコスト感を読んでるか,状況を把握しているか,立場の差から生まれる圧を悪用していないか,受ける側の能力に無理がないかといった,さまざまな要素が絡み合って生まれます。
ここから導き出される,開発現場にとっての答えとしては。
どんな無茶ぶりでも,拘束された時間に対して賃金が支払われるなら,そしてそれが納得価格ならウェルカムです。ウェルカーム!!
費用対効果が見込める無茶ぶりは無茶ぶりではないぜ!
無茶ぶりをする側としては,受注側と工数感の意思疎通が取れているか。納得されているか。納得されてるなら,ALL OKでしょう。オールオッケー!!
「答えがそれでいいのか」という声も聞こえてきそうですが,多分それでいいのでしょう。仕事ってそういうものです。
「安い」「早い」「うまい」のうち,2つまでは求めてよいけど,3つを揃えるのは無理ですよ,2つ選んでいただければ最善を尽くします! ということです。
所詮仕事なので,割に合わない要求だと思ったら,お断りするなり,トンズラするなり,手はあるわけです(トンズラするときは仁義を通しましょう;)。
この開発陣にこれを頼んでも達成できないな,と思ったら,達成できるものに調整するか,代わりにお願いすることを予算の範囲内で考えるだけです(発注をキャンセルするときも仁義を通しましょう;)。
無茶ぶりというものが,「聞いてない」「費用に見合わない」「そもそも実現不可能」みたいなものを指すとするならば,ちゃんと意思疎通をするしかないですね。
発注側も受注側も,お互いをリスペクトし,慮って仕事を進めるしかないんじゃないでしょうか。
自分に敬意を払わない人のために,自分を削ってまで仕事をしようって人はなかなかにワーカーホリックです。
そんなわけで今回のお話はこんな感じで。
たとえ無茶ぶりがあったとしても,分かりやすい悪人はどこにもいないし,それゆえに,無茶ぶりはキツイんですよね。
不幸なプロジェクトが増えないように,うまいこと泳いでいきたいです。
なんかこう,マジメ風な話になっちゃったけど大丈夫でしょうか。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。島国さんが冒頭に書いている「イスを並べて寝るときは,背もたれを互い違いに」のテクニックは,雑誌の編集部などでも広く知られていました。深夜業務が多かった業界ではあるあるなんでしょうか。 |
- この記事のURL:
キーワード