連載
どうやら自分はロ●コンだったらしい。「放課後ライトノベル」第95回は『空知らぬ虹の解放区』で人に言えない趣味を解放しちゃおう!
数あるマンガ雑誌の中で,なぜか「週刊ヤングマガジン」だけを毎週読んでる筆者ですが,連載陣の中で最近のお気に入りが平本アキラの『監獄学園(プリズンスクール)』。
女子高から共学に変わった学園に入学し,男女比1:200の環境に置かれることになったキヨシたち5人の男子。ウハウハの学園生活を夢見るも,速攻で女子風呂の覗きがバレ“裏生徒会”の手によって懲罰棟行きに。クラスメイトの千代ちゃんとのデートの約束を果たすため,キヨシは脱走を試みる……。
一応シリアスな展開もあるものの,基本は『アゴなしゲンとオレ物語』の作者らしく,どう見ても痴女な服装の副会長を筆頭に,無駄なエロスが随所に炸裂するシュールなギャグ作品。主人公たる男子たちは,裏生徒会の横暴さに怒りを燃やしているようでいて,その実全員アホでスケベなので,応援しようという思いよりも失笑が先に立つ。まあ,どうせ男子も女子も何年かすれば社会という監獄の中に捕らわれることになるのだから,学校の中でくらい自由でのびのびと生活させてあげてほしいものです。あっ,自分で書いてて涙が……。
といったところで今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのは,ガガガ文庫の『空知らぬ虹の解放区』。厳格な校則に縛られた学園で,その代行者たる風紀委員と,そうした体制に風穴を開けようとする秘密組織との対立という構図が,『監獄学園』と似て……いや似てな……いや,やっぱり似て……(以下略)。
『空知らぬ虹の解放区』 著者:秀章 イラストレーター:綾歌リュウイチ 出版社/レーベル:小学館/ガガガ文庫 価格:620円(税込) ISBN:978-4-09-451345-5 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●恋愛禁止の学園に,今日も風紀委員の木刀がうなる
山と海に囲まれた全寮制の小中高一貫校,聖ヶ原学園。気品と規律,健全性を重んじる校風のこの学園では,校則によって持ち込み品から礼儀作法まで事細かく定められ,違反した者には厳しい罰則が下される。そうした校則の理念を体現し,学園の秩序を守らんとする者たち,それが風紀委員だ。
高等部2年の軒原拓馬(のきはらたくま)もまた,そんな風紀委員の一員。クラスメイトの小瀬村衣舞(こせむらいぶ)と共に,隠れて校則に違反した行為(例:エロ本の持ち込み)を行う生徒たちを罰するなど精力的に活動を行っていた。
あるとき拓馬は回収した課題のノートの中に,1冊の無記名のノートを発見する。そこに描かれていたのは,裸の男性同士が濃密に絡み合うイラスト。健全さの権化ともいえる拓馬にとって,そのノートの存在は校則云々以前に生理的に受けつけ難いものだった。こんなものを学園内にのさばらせていては,学園の風紀が大いに乱れてしまう!
強い決意と共に犯人の調査を開始した拓馬は,やがて学園の陰で暗躍する秘密組織“脳解”の存在に行き当たる。果たしてノートと“脳解”との関係は? 学園秩序の守護者・風紀委員と,その破壊者との戦いが,今,幕を開ける――!
●敵は同人誌密造集団!? 息もつかせぬサスペンス!
と,なにやら異能バトルでも始まりそうな感じで書いてみたが(実際,序盤はそんな感じの雰囲気なのだが),まったくもって申し訳ないことに本編中には異能のいの字も出てこない。というのも,“脳解”とは脳内解放区の略であり,その実態はさまざまなジャンルのマンガを自作,要するに同人誌を密造しては配布する集団なのである。
本稿をご覧いただいている読者諸氏には「なんでぇ,その程度かい」と思えるかもしれないが,「こんなものを読んでいては生徒が性犯罪者になってしまう!」と真剣に心配するような拓馬にとっては,まさに一大事。すぐさま調査に乗り出す拓馬だが,弟の辰巳(たつみ)の友人である光武悠(みつたけゆう)が,縄で縛られて下着1枚の状態で発見されたことで事態はいよいよ深刻なものに。
生徒が,しかも自身も可愛がっている後輩が被害に遭ったことに怒りを燃やす拓馬。そこへ,脳解のメンバーである“憂鬱な修道女(ブルー・シスター)”が接触を図ってくる。さらに,新たなる影の組織の存在も判明し――と,事態は徐々に不穏さを増してくる。
辰巳や衣舞,“憂鬱な修道女”の力を借りながら拓馬が学園の闇に迫っていく様は,まさに学園クライム・サスペンス。異能こそ登場しないが,その緊張感はバトルものに決してひけをとらない。手に汗を握りつつ読み進めていただきたい。
●堅物風紀委員,“二次ロリ”で悟りを開く!?
昨今,表現の自由に関する議論が盛んである。議論と一口に言ってもさまざまな立場や角度からの意見があり,単純化して語ることはできないが,一見すると立派な言葉の裏側に,自分が理解できない趣味嗜好への嫌悪感という,個人的な感情が見え隠れする意見が散見されることもある。
本編序盤の拓馬の思考は,そうした人々の態度を思い切り戯画化したものと言えるが,脳内解放区との接触や学園で起きた事件を通じて,彼の考えは徐々に変化していく。つまり本作は,自身が槍玉に挙げられるかもしれない表現規制の問題に対して,著者が叩きつけた挑戦状とも言えるのだ。
とまあ,見方によってはそんなふうにも取れる本作だが,それよりもまず印象に残るのが,これまで「食わず嫌い」をしてきた異文化に触れた拓馬のボケっぷり。前述した無名のノートを男が読むものと勘違いし,BL(ボーイズラブ)について“憂鬱な修道女”から講義されたり,「どうやら自分はロリコンらしいです」と爽やかに言い切ったり。終盤のドタバタ喜劇も含め,真面目で堅物な少年をいじるコメディものとしても楽しめる。
信念という固い殻にヒビを入れられた拓馬は,それまでの自分を捨て,表現の自由の使徒となるのか。それともなお,血も涙もない鋼の風紀委員として生きることを選ぶのか。驚きの事実が明かされるラストと相まって,今後の展開から目が離せそうにない。
■隠れオタクじゃなくても分かる,秀章作品
著者の秀章は『脱兎リベンジ』で第5回小学館ライトノベル大賞・ガガガ賞を受賞し,2011年にデビュー。今回の『空知らぬ虹の解放区』が2作めとなる。『空知らぬ〜』は風紀委員VS学園の秩序を乱す不埒もの,という構図だが,『脱兎リベンジ』は学園内における「勝ち組と負け組」,いわゆるスクールカーストをテーマにした一作となっている。
『脱兎リベンジ』(著者:秀章,イラスト:ky/ガガガ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
貧相な体格や妙な喋り方から“宇宙人”とあだ名され,クラスで日常的に小馬鹿にされている兎田晃吉(うさぎだこうきち)。そんな彼のひそかな自慢は,必死の練習で磨いてきたギターの腕。それすらも軽音楽部の先輩部員に封じられ,空き部屋で1人寂しくギターをかき鳴らしていたところ,晃吉は漫画研究会の兎毛成結奈(ともなりゆうな)と知り合う。彼女と,自分と同じく周囲から偏見の目で見られてきた彼女の友人たちとの出会いによって,ひと時の安らぎを得る晃吉だったが……。失意を乗り越え,クソッタレな世界を見返すための一大作戦が幕を開ける!
斬新なテーマやキャラクターがあるわけではないが,そのぶん新人らしい熱さは十分。味噌っかすにされてきた人間が世界に反逆するカタルシスを存分に味わわせてくれる。その勢いが多くの読者の琴線に触れ,ライトノベル情報サイト「ラノベニュースオンライン」で実施された投票企画「みんなで選ぶベストラノベ2011」の新人部門第1位を獲得している。
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