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辿り着きたい高みがある。「放課後ライトノベル」第126回は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』で一流の冒険者を目指します
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印刷2013/01/26 10:00

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辿り着きたい高みがある。「放課後ライトノベル」第126回は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』で一流の冒険者を目指します



 ダンジョン,それはRPGを語るうえで避けては通れない存在。地下深く広がるそこには,レアアイテム,強力なボス,経験値をたくさんくれるおいしい敵……冒険に必要なものがすべて揃っている。そんなダンジョン探索の楽しみを突き詰めたのが,トルネコやシレンでお馴染みの「不思議のダンジョン」シリーズだ。

 一度力尽きたら,その時持っていたアイテムもレベルもすべてリセットされるというシビアな設定。それに加えて運の要素も大きく絡み,良い装備を拾ったのに食料が手に入らなくて死亡,ダンジョン踏破を目前にして凶悪なトラップを踏んで死亡,見たことのない敵にうかつに近づいたら盾を弾き飛ばされて死亡,操作ミスで店主を攻撃して死亡と,深夜ひとりで,テレビの前に座りながら,コントローラを投げたことも数知れず。

 そうやってプレイヤーたちの心を長年やさぐれさせてきた不思議のダンジョンシリーズだが,最近の「風来のシレン」シリーズではWi-Fiやパスワードを使用することで,一度倒れても,見知らぬほかのプレイヤーに助けてもらえるように。良い時代になったものだ。辛く厳しいダンジョンにも,時には素敵な出会いがあるというわけで,今回の「放課後ライトノベル」では『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』をご紹介。GA文庫大賞史上,初の大賞受賞作となったことでも話題の一冊だ。

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『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』

著者:大森藤ノ
イラストレーター:ヤスダスズヒト
出版社/レーベル:ソフトバンククリエイティブ/GA文庫
価格:651円(税込)
ISBN:978-4-7973-7280-9

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●ダンジョンの中で少年が出会ったのは……


 迷宮都市オラリオ。“ダンジョン”と呼ばれる広大な地下迷宮の上に築かれたその街には,「未知」「名誉」「財宝」「権威」など,人々が求める何もかもが揃っていた。今日も,そうした夢と欲望に魅せられて多くの冒険者がダンジョンを訪れる。

 本作の主人公,ベル・クラネルもそんな冒険者の一人だ。彼がダンジョンに求めていたのは,女の子たちとの出会い。そんなもん求めてダンジョンに潜るなよと言いたくなるが,タイトルにもなっているのだから仕方ない。ベル少年の夢は,モンスターに襲われている女の子の前にさっそうと現れて彼女を助けたり,美人のエルフと一緒に冒険したりして,あわよくばハーレム状態に……というもの。

 そんな彼に,ついに運命の出会いが訪れる。彼の前に現れたのは,牛頭人体,筋骨隆々,殺る気満々のミノタウロス。哀れにも彼の甘い夢が物理的に打ち砕かれようとした寸前,ミノタウロスは目の前で一瞬でバラバラに。ギリギリで彼を救ったのは,金髪金眼の女剣士――【剣姫】ことアイズ・ヴァレンシュタインだった。彼女の圧倒的な強さと美しさに魅せられたベルは,とにかく美女美少女と出会いたいという不純な動機を捨て,熱く燃える恋心を胸に宿し,彼女にふさわしい冒険者を目指そうと決意する。かくして少年の冒険譚が幕を開ける。


●神様と人間たちのファミリア


 本作の舞台は,ダンジョンやモンスターに加えて,エルフやドワーフ,獣人などが共存する王道のファンタジー世界。だからといって,普通の人間がモンスターと戦えるほど甘くはない。そうした人間たちをサポートするのが神様の存在である。

 天界での平穏で退屈な生活に嫌気が差した神々は,地上に降り立って人間と共に暮らしていた。下界で無制限に神の力を使うことを自ら禁じた神々だが,だからといって汗水流して働きたくもない。そこで彼らが考えたのが【ファミリア】という制度。彼らは自分のもとに集まる人間たちに「恩恵」と呼ばれる力を与え,その代わり人間たちに養ってもらうギブアンドテイクな関係を築き上げたのだ。

 ファミリアの規模は,大きなものから小さなものまで千差万別。その中でもベルが所属するファミリアは神様一人,人間一人(つまりベルだけ)と零細中の零細。しかもベルの神様であるヘスティアは,地上に降りてまだ日が浅いうえに外見が幼いこともあって,ほかの神様から舐められまくり。あげく「ロリ巨乳」呼ばわりまでされている。
 彼女以外にも多くの神様が登場するが,いろいろと悪巧みをする美の神・フレイヤや,一級の冒険者たちを集めているのに言動が小物っぽいロキなど,妙に人間くさい神々ばかりで,物語世界を明るく親しみやすいものにしている。そして,この親しみやすさこそがこの作品の持ち味なのだ。

 例えば本作には,一般的なRPGのようにレベルやステータスといった概念がごく普通に登場する。ゲームならともかく,小説で具体的に「力」や「耐久」がいくつという数値を出してしまうと不自然になりそうなのだが,この作品では神様の設定を使って,それを上手に説明している。
 また,単にゲーム的な設定を持ち込むだけではなく,「なぜダンジョンには次々とモンスターが出てくるの?」「なぜモンスターを倒したらお金が手に入るの?」「なぜ日の当たらないはずのダンジョン内で周囲が見渡せるの?」といった,よくある疑問にもしっかりと回答を出しているのも楽しい。


●少年の成長と一途な思いを見届けよ!


 そして,何より親しみやすいのが,主人公ベルのキャラクターだ。出会い目的でダンジョン探索とか,どんだけ不真面目だと思わせながらも,その実態は真面目で素直。さらに泣き虫なうえに臆病で,取り柄は逃げ足ぐらいと大変頼りない。伝説の剣を持っているわけでもなければ,ド派手な魔法を使うわけでもなく,ナイフを武器にモンスターと戦う姿もとかく泥臭い。だからこそ,ベルが憧れの女性を目指して一途に努力する姿や,大切な人を守るために自分より強いモンスターに立ち向かう姿は思わず応援したくなる。

 そんなベルを,さまざまな手段で助けようとするヘスティアの姿も印象的だ。神様のくせにバイトをしたり,ベルにプレゼントを贈るため,ほかの神様に一日中土下座をしたりと,一生懸命な姿が健気で可愛らしい。ボクっ子なところや,外見はロリなのにお姉さんぶっているところもポイント高し。
 どこのファミリアからも門前払いを受けていたベルと,人を募集しても全然集まらなかったヘスティア。この2人が互いを思いやり,家族としての絆を強めていく姿は,読んでいて温かな気持ちになれる。この2人の関係にベルが憧れるアイズの存在が絡むことで,種族を超えた三角関係が今後どう進展していくのかも気になるところだ。

 そして忘れてはいけないのが,この作品も以前紹介した『魔法科高校の劣等生』『理想のヒモ生活』と同様,「小説家になろう」出身の作品であるという点。新人賞受賞作というと,一作めが綺麗に完結しすぎて続刊の展開がしっくりこなかったり,それどころか続刊が出ないまま消えていったりという寂しい事態もよく見られる。だが,本作に限ってはその心配は無用だ。
 Webで公開されていた時点ですでに1巻より先の物語も書かれており,これから先,今以上に盛り上がる展開が約束されている。2巻の2月発売も決定しており,今から楽しみだ。GA文庫大賞の初の大賞作品として,ぜひこれからのGA文庫を牽引していくシリーズになってほしい。

■出会いがない人にも分かる,第4回GA文庫大賞受賞作

『うちの居候が世界を掌握している!』(著者:七条剛,イラスト:希望つばめ/GA文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/辿り着きたい高みがある。「放課後ライトノベル」第126回は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』で一流の冒険者を目指します
 初の大賞受賞者が出て話題となった第4回GA文庫大賞だが,ほかにはどんな作品が出ているのだろうか。まずは優秀賞を取った『うちの居候が世界を掌握している!』
 わずか15歳にして,博士号取得・大企業社長・指先一つで軍事衛星を操れるという超ハイスペックな主人公が,3人姉妹が暮らす飯山家に居候することに。浮世離れした主人公と3姉妹のやり取りも楽しいが,それ以上に凄いのが軍事衛星の活用っぷり。ここ一番で動かすのではなく普段から平然と使ってきます。
 また,奨励賞を受賞した4作品もすでに刊行されている。『木崎君と呼ばないで!』(長物守)は常にジャージ着用,格闘技経験有り,男勝りの性格も相まって「彼氏にしたい女子No.1」の木崎湧を,立派な乙女にしようとするラブコメディ。『空に欠けた旋律(メロディ)』(葉月双)は100年以上も戦争が続く世界を舞台にした恋と空戦の物語。叙情的な文体で語られる戦争の様子と,駒都えーじによる巨大ロボットのイラストが素敵。『男子高校生のハレルヤ!』(一之瀬六樹)は手違いによって女子校に通うことになった男子生徒3人組の物語。基本は女装する三馬鹿のドタバタコメディだが,要所要所では男らしい姿も見せてくれます。ちなみに表紙の娘はヒロインではなく,女装した主人公。
 最後に紹介するのは,『しきもんつかいはヒミツの柊さん』(桂木たづみ)。主人公は,謎多き少女・柊もえぎの持っていた「しきもん図鑑」に触れたことで,「しきもん」なる不思議な生物が見えるように。“しきもん”たちによるポ○モンチックなバトルと,あまりに天然でなかなか噛み合わないヒロイン,柊さんとの会話が楽しい一作。こうして見るとラブコメからファンタジーにSFまで,さまざまなジャンルが揃っている第4回GA大賞。さて次に受賞するのはどんな作品か。

■■柿崎憲(ライター/黄金の風邪)■■
これまで,いろいろなローグライクゲームをプレイしたが,一番遊びこんだのは,永遠に死に続けることになってしまった某ギャング組織のボスが主人公のフリーゲームだという柿崎氏。作り込みの高さがいたくお気に入りだったようですが,残念ながら“記憶を封じ込めたディスク”をなくしてしまったので,何のことだかさっぱり分かりませんなあ。
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