インタビュー
目指したのは“今の時代”の「天外魔境」。「天外魔境 JIPANG7」開発スタッフインタビュー
「天外魔境II 卍MARU」の物語から約1000年前の「ジパング」を舞台に,ジパングの民,火の一族,鬼,人魚,天狗のいずれかの種族として,「火田」と呼ばれる畑を耕したりしつつ,「ヨミ」の完全復活を目論む「根の一族」と対峙することになる……というのが,基本的な設定だ。
さらに,シリーズでおなじみの田中公平氏が音楽を,辻野寅次郎氏が絵師を担当するなど,掴みの部分で天外魔境らしさが表現されているのも,大きな特徴といえるだろう(関連記事)。
今回,本タイトルの企画意図や,現状で見えている課題,そして今後の展開などを,プロデューサーの西 健一氏とディレクターの澤 紫臣氏,そして監修を務めるレッド・エンタテインメント クロスメディア事業本部プロデュース2部プロデューサーの倉田 慶氏に聞いた。
「天外魔境 JIPANG7」公式サイト
予定していた開発期間を上回った結果
三者のこだわりによって新しい形のブラウザゲームに
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずはあらためて,天外魔境 JIPANG7の企画が,どういった経緯でスタートしたのかを教えてください。
澤 紫臣氏(以下,澤氏):
発端は2009年秋に,レッド・エンタテインメントさんのところに天外魔境のブラウザゲームの企画を持ち込んだことなんです。
当時,僕と澤が関わっている「GameComplex」というプロジェクトで,いくつかの企画が進行していました。その過程で,レッド・エンタテインメントさんを紹介していただいて,「『天外魔境』というIPを使って何かできるかもしれない」ということを,何となく聞いていたんです。
天外魔境シリーズは,かつて僕も遊んでいましたし,澤はキャラクター名を全部覚えているくらいのファンです。そこで「絶対,面白いよね」と,企画を作ってレッド・エンタテインメントさんに持ち込みました。
そのときから倉田さんは参加していたんですが,非常に乗り気でしたよね。
倉田 慶氏(以下,倉田氏):
弊社としても,以前からずっと「天外魔境でオンラインゲームをやりたい」と考えていたんです。一度は発表まで漕ぎつけたこともあったんですが,諸事情で頓挫していました。社内でも,これから天外魔境というIPをどう展開していこうかという話をしていたところに,ちょうど今回の話をいただいたんです。
当時は,ブラウザゲームが今後台頭してくるといわれていましたし,弊社としてもこれはぜひ実現したい,と。
4Gamer:
当初から,レッド・エンタテインメントが開発にも深く関わる予定だったんですか?
倉田氏:
もちろんライセンスだけを渡してあとは全部お任せ……という形でも良かったんですが,せっかくのチャンスですから弊社がきちんと関わることで,天外魔境の新たなポジションを作っていきたいという考えのもと,こうしてご一緒させていただいています。
澤氏:
最初に企画を提出してから,ほぼ毎週,レッド・エンタテインメントさんには定例会議に参加してもらっています。細かい企画や,完成前の仕様書なども全部確認していただいているんです。
4Gamer:
というと企画内容だけでなく,細かく指示を出したりもしているんですか?
倉田氏:
いえ,基本的には澤さんと西さんにお任せしています。我々は,世界観や設定,イラスト周りに注力しているんです。
4Gamer:
では,レッド・エンタテインメントに最初に持ち込んだ企画と,現在の形に違いはありますか?
澤氏:
現状,サービスしているものとほとんど変わりません。
途中で削った部分はありますが,火田があって,クエストがあって,時代設定は天外魔境II 卍MARUから約1000年前という基本の部分などは,当初からの企画です。
4Gamer:
なるほど。軸となる部分はいっさいぶれていないんですね。
倉田さんは最初にその企画を見たとき,どんな印象を持ちました?
倉田氏:
天外魔境IIの1000年前を取り上げるのは,非常にキャッチーだと思いましたね。
ゲーム部分に関しては,当時の我々はブラウザゲームが実際にどう遊ばれているのかよく分かっていなかったんですが,澤さんはそちらが専門ですし,またゲーム作りという点では西さんがいますから,安心してお任せできました。
4Gamer:
その後,水面下で企画,開発が進行し,2010年9月の東京ゲームショウ 2010のタイミングで晴れて発表となったわけですよね。
ただ,その時点では「今冬サービス開始」とされていました。けっこう遅れてしまったと思うんですが……。
澤氏:
遅れてしまいましたねぇ。発表した時点では,仕様がほぼ固まって,始められるところから開発していこうというタイミングでした。
僕は,ブラウザゲームもソーシャルゲームもとっとと作って,とっとと世に出して,プレイヤーの意見を聞きながらアップデートをしていこうという考えを持っているんですが……。
4Gamer:
ブラウザゲーム/ソーシャルゲームは,従来のコンシューマゲーム/オンラインゲーム以上にプレイヤーありきの側面が強いですからね。
でも実際には,想定以上の時間がかかってしまった,と。
というのも,日が経つにつれて,プレイフィールの部分にも配慮しようという話が出てきたんです。
今は,場面の切り替わるところで火がフェードイン/フェードアウトしたり,細かいところでカカシが揺れていたりしますが,そういったゲームっぽい部分になると,西さんの温度が上がってくるんですよ。
それが一段落すると,今度は世界観や設定をきちんと見せるという部分で,レッド・エンタテインメントさんの温度が上がってくるんですね。
今回,クローズドβテストが終わったあとに音楽やオープニングムービーが付いたのも,“作品として詰める”ことにレッド・エンタテインメントさんが注力したからです。
4Gamer:
なるほど。三者三様に温度の高い時期があって,それぞれに時間をかけた結果,当初のスケジュールよりも遅れてしまった,と。
澤氏:
とはいえ,その結果として,ゲーム内に曲が付いただけでなくオープニングムービーまで用意できたり,ただ畑を耕すだけのゲームではなく,MMORPGのように100×100画面のフィールドがあったり,あるいはほかのプレイヤーの家までもがきちんとマッピングされたりと,新しいチャレンジができました。
そういったチャレンジの結果,きちんと天外魔境の世界を表現できたかな,と考えています。
「天外魔境 JIPANG7」はオープニングムービー付き
リッチ化が進む昨今のブラウザゲーム
4Gamer:
オープンβテストから音楽が付いたことで,クローズドβテストのときとはずいぶん印象が変わりましたよね。
あとから音楽を入れたのには,何か理由があるのですか?
西氏:
実は,最初のうちは音楽を入れる予定はありませんでした。というのも,ブラウザゲームはオフィスで仕事の合間に遊ぶ人もいますよね。それに企画をしている時期は,音を出さないブラウザゲームが一般的でしたし。
ところが途中で世の中がどんどん変わってきて……。
澤氏:
他社のブラウザゲームに音楽が付いているのを確認して以来,僕は「こういうのが出てきているから,これからは全部に入れなければならない」と盛んに主張していました(笑)。
4Gamer:
そこで,田中公平さんに作曲を依頼した,と。
倉田氏:
ええ。田中さんには以前から天外魔境シリーズの音楽を担当していただいてきましたので,話はスムーズに進みました。
田中さんは非常にご多忙な方なんですが,お願いしたときには運良くスケジュールが空いていて,1か月足らずの間に全曲仕上げていただけました。
西氏:
田中さんは大ベテランですし,もともと天外魔境の音楽をやっていたこともあって非常に話が早くて,「じゃあ,このシーンはちょっと暗くて重い曲」とか,「プレイヤーがあばら家に戻ってきたときは少しホッとするような感じがいいよね」といった具合に,どんどんイメージを膨らませてもらえたんです。
その結果,データの整合性の部分で手直しする必要が生じたくらいで,曲自体はほぼそのまま使っています。
4Gamer:
とく細かい注文をしなくても,自然にシックリ来るような楽曲が出来上がっていった,と。
西氏:
ええ。そういえば,田中さんはずっと,フィールドとバトルの曲を一番いいものにしなければならないといっていましたね。プレイヤーがプレイ中,最も多く聴くことになるのが,この二つの曲だからこそ,いいものにしなければ,と。以前,ラスボスの曲を一番いい曲にして,失敗したという経験もあるそうなんですが。
実際,フィールドもバトルも聴きやすく,それでいて感情移入できるような曲に仕上がっていて,非常に嬉しかったです。
倉田氏:
本当に期待以上のものになりましたね。
そこからさらに,ゲーム内に音楽が入るなら,オープニングムービーにも曲を付けたいということにもなり……。
西氏:
オープニング曲もワクワクするものに仕上がりましたし。
澤氏:
開発後半のモチベーションは,音楽の良さに引っ張られた部分が大きいかもしれません。
4Gamer:
この音楽に見合うものを作らなければ! となったわけですね。
実際,オープニングムービーと音楽には,非常に驚かされました。
澤氏:
あそこには,天外魔境IIへのリスペクトやオマージュを込めているんです。
倉田氏:
導入部は,天外魔境IIを非常に意識しています。
最初の絵コンテは澤さんに描いていただいたんですが,その段階でかなり曲調を意識した展開になっていましたね。
澤氏:
その中でも意識していたのは,ブラウザゲームを含むオンラインゲームでは,プレイヤー全員が主人公だということです。
オープニングムービーでは,プレイヤーが選ぶべき存在を一番大きく扱い,ストーリーのキーとなる「火の勇者」はメインビジュアルのところで登場し,消えていくという演出にしています。
企画,開発中は何度も火の勇者の扱いについて議論したんですが,この形に落ち着きました。
倉田氏:
通常のコンシューマゲームであれば,設定がきちんと立っている火の勇者を前面に出すところですが,今回はプレイヤーキャラクターの印象付けをしなければなりません。そこがこれまでと違うところですね。
4Gamer:
そもそも,ブラウザゲームなのにオープニングムービーを作ろうと考えたのはなぜですか?
澤氏:
もともと音楽なしのオープニングムービー的なものを用意していたんです。テキストで背景のストーリーを説明していくような。
ただ,果たしてこれで間が持つのかという疑問も生じてきて……。
倉田氏:
そこで上がって来たオープニング曲を聴いたときに,これはあらためてムービーを作り直しましょう,と。
まだ文字が読みづらい部分が見受けられるので,手直しする必要もありますね。
4Gamer:
現状だと,オープニングムービーは1回しか見れませんよね。
西氏:
そこも今,繰り返し見られるよう直しているところです。
実は,最初から何度も再生できるようにすることも可能だったんですが,それだとありがたみが薄れてしまうんですよね。そこで,最初にインパクトを与えておいて,しばらくしてからいつでも見られるようにしようという,開発側の意図もあるんです。
倉田氏:
またPR展開の一環で,動画サイトなどにもUpしていきます。
回線の問題,ゲーム序盤の導線の弱さ……
βテストで判明した課題への対応は?
4Gamer:
オープンβテストでは,回線の状態が悪いからか,サクサク遊べないという状況が発生していました。
澤氏:
実は,サーバーの処理能力的には何も問題はなく,回線がボトルネックなんですよ。とりあえずは,サーバー側のキャッシュの処理速度を上げるなど,適宜対応しています。
とはいえ,根本の原因は回線ですから,インフラの増強も並行して行っています。
倉田氏:
一時期と比べると,ずいぶん緩和されているんですが,もっと早くできるだろうという感覚はありますよね。
4Gamer:
クローズドβテストよりも圧倒的にレスポンスが悪くなったという印象を受けました。
これはプレイヤー数が増えたから,あるいはデータの転送量が増えたからといった理由でしょうか。
西氏:
どちらも,ですね。
当然,我々も悪化の予想はしていたのですが,あそこまで酷くなるとは思っておらず,プログラムで何とかできる範囲の修正を慌てて行ったり,サーバーを入れ替える手はずを整えたり……ということをやって対処しています。
より抜本的な解決もしていかなければいけないと認識しています。
これはプレイヤーの皆さんにとって,最も気に掛かるところでしょうから,対応スケジュールなどはきちんとアナウンスしていきます。
4Gamer:
こういう部分でストレスを感じてしまうのは,プレイヤーとしてもゲームを素直に楽しめなくなってしまいますからね……。
ところで,βテストの参加者からは,どんな意見が寄せられましたか?
西氏:
現時点では,不具合やバグの報告が中心で,それに基づいて確認,修正を行っています。
倉田氏:
いくつか厳しい意見をいただいているのは事実です。
そういった中で修正できるものは,可能な限り直していこうという話し合いをしています。
澤氏:
やはり重視しなければならないのは,「最初に何をやっていいのか分からない」という意見です。序盤に関しては,とくに分かりやすい誘導を追加する必要性を痛感しています。
4Gamer:
序盤からフィールドに登場する敵が,わりと強いんですよね。
ランクがIの敵なら何とか倒せるけれども,Hの敵と戦うと瞬殺されてしまって,けっこうびっくりしました。
倉田氏:
ええ。ランクIは考えれば倒せるようにしています。
おっしゃる通り,ランクが一つ上がるだけで急に勝てなくなってしまいますので,全体のバランスはもっと調整する必要があります。
澤氏:
実は,ほかのプレイヤーを連れて行けばけっこう勝てるようには作っているんです。ところが今の時代は,そういった試行錯誤を必要とする過程で,諦めてしまう人が少なくないんですよね……。
そういった意味で,ちょっと“突き放している”感が生じているかもしれません。
倉田氏:
私は人魚を選んでプレイしているのですが,正直,ほかのプレイヤーを連れて行ってもキツいですね。
逆に,ほかのプレイヤーを連れていると敵が強くなる仕様になっているので,むしろ一人の方が戦略を立てやすかったりもするんです。
澤氏:
ああ,連れて行ったプレイヤーが持っている絵札を把握していないと,そうなりますよね。
4Gamer:
絵札戦にしてもそうですが,プレイヤーがメモを取っていないとゲームが思うように進行しない部分がありますよね。
西氏:
確かにメモを取ることで確実に勝率が上がるという面を持たせていますが,実は絵札をいろいろ持っているだけである程度勝てるようにもなっているんです。現状,その段階にたどり着くまでの導線が弱いんですよね。そこは,具体的な修正作業に入っています。
あとは,ゲームが始まった直後に「おみやげ台」に置いてある素材を回収して,きちんと絵札を合成していればフィールドに出てもある程度勝てるようにしているんです。しかし,そもそもおみやげ台に気づかない人もいます。
そこで矢印を出して何かあることを明示するとか,そういったことが必要なんでしょうね。
倉田氏:
最初の素材の合成に失敗してしまうこともありますよね。
西氏:
あれは一つ二つ成功すれば大丈夫だろうと,80%の確率で成功するようにしたんですが,やはり全部失敗してしまう人もいて……。
澤氏:
全部失敗したら,げんなりしてゲームをやめてしまうかもしれませんよね。
4Gamer:
編集部には,合成するどころか,貴重なものだと思って素材を火田に植えてしまう人もいました。収穫後も合成せずに大事に取ってあったり。
西氏:
そこもきちんとした説明が必要ですよね。大切にしなくても,バトルを繰り返していれば素材はたくさん手に入りますから。
最初に貴重なものだと思い込んでしまうから,合成できない,すると絵札が作れないからバトルにも勝てないという,こちらの想定とは逆の流れができているんですよ。そこはきちんと直さなければいけません。
澤氏:
そういった誘導の追加は,序盤を中心に追加していきます。
加えて,このゲームはストーリーが進んでいくことに大きなポイントがあります。毎日畑仕事をして,絵札を合成して,敵と戦って終わり……というものではないですから,きちんとストーリーを盛り上げるようなアップデートも準備しています。
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天外魔境 JIPANG7
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