インタビュー
「MOON DIVER」は,なぜこの時代に2D横スクロールアクションというジャンルなのか? 再結成した「鈴木爆発」コンビ,安藤武博氏と四井浩一氏に聞く
あえて難度を高めに設定しているが
自力でクリアできないわけではない
4Gamer:
今回,リリース形態として,ダウンロード専用という形を選んだ理由を教えてください。
一つは,とくにXbox Live Arcadeの市場で,The Behemothの「Castle Crashers」という作品をはじめ,横スクロールアクションのマーケットが切り開かれていたことが大きいです。MOON DIVERであれば,市場的にもプレイヤー的にも,親和性が高いだろう,と。
かつてのアーケードゲームも,家庭用ゲーム機に移植されたりはしていましたが,基本はゲームセンターに行って遊ぶのがメインでしたよね。ショップに行って買うのではなく,100円玉を握りしめて遊びに行くような。
その感覚の差って,今で言うとダウンロード版とパッケージ版の関係なんじゃないかと思うんです。
4Gamer:
ダウンロード専用のゲームは,パッケージゲームに比べて価格も抑えられていますし,まずは試しに……という感じで気楽に遊べるようなイメージはあります。
安藤氏:
そういうことなんですよ。実際,“Xbox Live Arcade”なんていうぐらいですし。なので,パッケージでの発売は最初から考えていませんでした。
4Gamer:
ターゲット層としても,やはり横スクロールアクション全盛のゲームセンターで遊んでいた世代を中心に狙ったということですか?
安藤氏:
そこは考えていました。ストライダー飛竜を知っているかどうかは,凄く重要だと思います。もちろん若い人達にも,このプリミティブな面白さを味わってもらいたいと思っています。そのために,体験版も用意しました。
今回は,難度はかなり高く設定してありますから,まずは体験版で試してもらえれば……と思います。
四井氏:
……あれでも難度は下げたんですよ。安藤さんが「下げろ下げろ」ってうるさくて,こいつダメだなあって思ってました(笑)。
安藤氏:
さすがに自力でクリアできる難度にしておかないと,今の時代はダメですから!(笑)
昔のゲームって,もの凄く難度が高かったじゃないですか。
4Gamer:
高かったですよね。そんなに頻繁にゲームを買えるわけでもないし,そもそもほかの娯楽の選択肢も今ほど多くなかったから,我慢して遊び続けていましたが(笑)。
安藤氏:
でも今日日,その頃と同じぐらい難しいものだと,ちょっと遊んで「こりゃムリだ」と思われたら,コントローラーを置かれて終わりなんですよね。なので,ある程度の難しさはありつつも,キャラクターのレベルを上げていくことで最後まで遊べるような調整をしました。
せっかく作ったのに,最後まで遊ばれないのはもったいないですからね。
4Gamer:
キャラクターレベルを上げるだけでなくても,マルチプレイで上手なプレイヤーを見ていると,コツが分かったりもしますし。
安藤氏:
ええ。ただ,そういった調整については,四井さんには四井さんなりの確固たる正解があるので,うまく丸めていただくのは難しい作業でした。まあ,それでも難しいんですよ(笑)。
4Gamer:
ちなみに安藤さんは自力でクリアできるんですか?
安藤氏:
クリアできるようになりましたよ! 何度も繰り返して,キャラクターレベルはだいぶ上げましたけど。
4Gamer:
それを聞いて安心しました。
プレイヤーからの評価として
あと10点は欲しかった
4Gamer:
PS3版の配信開始から,1か月ほど経ちましたが,プレイヤーからの反応はいかがですか?
安藤氏:
及第点まで10点足りなかったというのが,正直な評判ですね。僕らとしては80点を目指したかったけど,70点といったところでした。
それは,僕が四井さんに拘束をかけてしまったからなんだと思います。足りなかった10点分をやる計画は,本当は四井さんの頭の中にありながらも,期間や予算の制約もあって,そこまでブーストさせることができなかったな,と。
4Gamer:
ただ,それをやってしまうと,いつまで経っても完成しなかったんでは? という,先ほどの四井さんのお話に繋がるわけですよね。
安藤氏:
プロデューサーという立場からすると,そこの見極めが一番難しい部分ではありますね。
さらにもう一つ,プレイヤーからの評価が70点程度にとどまってしまった理由を挙げるとすると,作っている最中に各ハードのダウンロード専用タイトルの質をガッツリ上げるようなタイトルが何本か登場したこともあると思います。
具体的には,Epic Games傘下のChair Entertaimentが手がけた,「Shadow Complex」の存在は大きかったです。2009年夏にあのタイトルがリリースされたことで,ダウンロード専用タイトルのクオリティやボリューム感が,パッケージタイトルと同じレベルまで引き上げられてしまったんです。
結果,短期間で工数をかけずに,とがった作品作りをチャレンジできたはずの市場が,ちょっと変化したんですよね。
4Gamer:
iPhone市場で安藤さんがやっているようなことを,こちらでは他社にやられてしまった……と。
安藤氏:
あっ! でもまあ,iPhone市場にはパッケージ販売の概念がそもそもないですからね(笑)。
まあ,そういうこともあって,MOON DIVERも2年前であれば80〜90点の評価をされたであろうところが,そういった大型タイトルと肩を並べなければならなくなったことで,70点の評価になってしまったと。
そういう意味で,僕がもう少し早く動いていれば良かったというのは,反省点の一つです。
四井氏:
でも,低い評価から高い評価まで,凄く幅があったのは,僕としては嬉しかったですよ。ストライダー飛竜も,当時は評価は凄く割れましたし。
安藤氏:
四井さんの作る作品は,しばらく経ってから“神ゲー”って評価されますからね(笑)。
鈴木爆発も,今では一部で神ゲーって呼ばれていますけど,それなら発売した2000年7月の時点で評価してほしかったですよ。
4Gamer:
でも,評価が割れたり,時間の経過によって評価が変わったりするゲームって,あまりないですよね……。
安藤氏:
そうですね。そういったことを考えたうえでも,MOON DIVERに関しては,ある程度狙い通りの受け止められ方をしたなと思います。突拍子もないゲームではないですし。
それに,実際に発売をしてみると,ダウンロード専用タイトルとしても「もう一声!」という希望や要望が思いの外たくさんあったというのが,あらためて感じられたところでした。
やはり,四井さんが手掛けているからこそ,期待値が高かったということもあると思うんです。
4Gamer:
70点の評価でも,「あのスタッフならやってくれただろう」という期待値込みの評価である,と。
独特な世界観やストーリーテリングは
すべて理詰めで考えられたもの
4Gamer:
例えば,今後のアップデートで,あと10点分の要素が追加される可能性はあるんですか?
安藤氏:
PS3版ではすでに行ったアップデートだと,サイレンスというキャラクターが使えるようになったり,スコアアタックを追加したりしましたが,さらに2回のアップデート予定があります。
それ以降はまだ白紙ですが,状況を見て展開しようと考えています。
4Gamer:
四井さんとして,アップデートに関するアイデアは何かありますか?
四井氏:
それはこのゲームに限らず,何かしらの考えはありますね。実現するかどうかは別としても,出してそこで終わりとはいつも思っていないんですよ。
安藤氏:
一つここで言っておきたいのは,僕自身,MOON DIVERの灯をここで消すつもりは毛頭ありません。四井さんと作り上げた一つの世界ですし,ロベルト・フェラーリのキャラクターデザインも僕は凄く気に入っています。
ですので,僕が関わるほかのコンテンツとの連携などもしつつ,本家MOON DIVERをどうしていくのかを,これから考えていく予定です。四井さんの構築したこの独特の世界を,僕は凄く気に入っているんで,絶対に手放したくないんですよ。
4Gamer:
世界観でいうと,ステージ名も変わっていますよね。「帰れ! 来るなと言ったはず!」のように説明的でありながら,よく分からない感じで(笑)。
安藤氏:
アクションゲームにおいて,必要以上の寸劇でストーリーを展開していくのは,プレイヤーにとってストレスになるという話を四井さんとしていたんです。でも,スクウェア・エニックスというブランドに対しては,ちゃんとしたストーリーや世界観を求めている方も多いんですよ。
その両方をうまく満たすために,ステージにああいう名前を付けることで,プレイヤーそれぞれが妄想できる余地を作りました。
4Gamer:
ちゃんと理詰めで考えられたものだったんですね。
ゲームに登場する敵キャラクターも,ファウストという少年のメフィストフェレスという魔力によって,世の中のあらゆる無機物が獣化して襲いかかってくる……という設定ですよね。これにも,やはり確固たる理由があるんでしょうか。
四井氏:
あれは,インパクトのある敵を考えたときに,あまりファンタジックな敵だと怖くないから,リアルなものがいいと思ってのことです。
ただ,それをゲーム中で説明することはできなかったので,設定だけが残ったというイメージですね。
キャラクターデザインのロベルト・フェラーリは,どんなキャラクターを作るにしても必ず自然界に存在するものから組み立てていくんですよ。例えば,モスキートはマシンガンや車のエンジンなどがモチーフになっていますが,すべて世の中に実際にあるものをモチーフにして,獣化していくというステップをすごく自然に取り入れてくれました。
それが,ファウストが持つメフィストフェレスという力による,無機物の獣化とうまくマッチして,敵キャラクターの存在そのものが,街から生み出された雰囲気にはなりましたね。
4Gamer:
ただボタン連打をしているだけでも楽しいゲームですが,背景の設定を知り,そこから物語を想像していくと,より楽しめるようになっていますよね。
ちなみに……PS3版とXbox 360版では,何か違いがあるんですか?
安藤氏:
基本的に同じです。違うとすれば,コントローラーの形状の違いですよね。あれによってプレイ感覚の好みが分かれますから,お好きなほうを選んでいただければと思います。片方しかハードを持っていない人は,お手持ちのほうで遊んでいただければ,と。
続編を作ることになるなら
タイトルは「SUPER MOON DIVER」
4Gamer:
そろそろお時間ということで,まとめに入らせていただこうと思います。
今後,お二人のコンビで,MOON DIVERの続編を作る予定はありますか?
安藤氏:
具体的には決まっていませんが,次があるとすれば,単純にステージを増やすこともできますし,今回をきっかけとした別の可能性も見えています。
もし続編が出るなら,タイトルは「MOON DIVER 2」ではなく,「SUPER MOON DIVER」にしますよ(笑)。スーファミ時代っぽくね。
4Gamer:
何となく懐かしい響きですが,不思議とMOON DIVERにはマッチしていますね。
安藤氏:
ただ,一つ残念なのは,一緒に開発したフィールプラスさんが親会社のAQインタラクティブさんに吸収されたことで,同じ開発陣で次を作るのは難しそうだという点です。
ですから次をやるには「水滸伝」の魯智深のように,英雄を集めるところから始めなければなりません。ただ,今回の開発でどうやって人を集めて,どうすれば上手く機能するのかは掴めましたから,そのノウハウを活用して,四井さんと新しい人達で何かをやりたいですね。
4Gamer:
四井さんはいかがですか?
そうですね,安藤さんとは,またぜひ何かやってみたいです。彼も立派なプロデューサーに成長しましたしね(笑)。
安藤氏:
そういっていただけるのは嬉しいです。四井さんとは,僕が会社に入って3日目ぐらいに知り合って,業界のイロハを教えていただきましたからね。
四井氏:
でも次やるなら,鈴木爆発じゃないけど,変なゲームを作りたいよね(笑)。
安藤氏:
僕も作りたいですよ。最近ああいうのはご無沙汰ですから……。
4Gamer:
個人的には,そういう方面も期待したいです(笑)。
では最後に,これからMOON DIVERで遊ぶ方にメッセージをお願いします。
安藤氏:
この作品は,四井さんからの挑戦状です。
先ほども少しお話ししましたが,どちらのハードでも,まずは体験版で遊んでみてください。遊んだ方や世代によって,それぞれ違う印象を持たれると思いますが,ぜひ挑んでみていただけると嬉しいです。
スクウェア・エニックスとしては,こういったハードめな内容やジャンルは,新しいチャレンジでもあるんです。ですから応援をしていただけると,新しい可能性も生まれてくるでしょうから,ぜひ応援をよろしくお願いします。
そして,SUPER MOON DIVERを作らせてください。
四井氏:
安藤さんと同じで,最初は体験版で遊んでいただくといいと思います。
もちろん体験版だけでは味わえない面白さが本編にはたくさんあるので,気に入っていただいたら本編を購入していただければと。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
MOON DIVERは,ダウンロード市場に向け,スクウェア・エニックスとしてオリジナルタイトルで勝負を挑んだ作品である。
安藤氏と四井氏は,まだまだ反省点はあると語っていたが,その反省点は,きっとこのお二人が次にコンビを組む作品で生かされることだろう。
ともあれ,現時点でこのお二人が目指したものの成果は,MOON DIVERに結実している。MOON DIVERに光る四井氏の職人技を,ぜひ体感してみてほしい。
「MOON DIVER」公式サイト
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