インタビュー
「鉄騎」「クロックタワー」を手がけた個性派クリエイター 河野一二三氏の最新作,「戦律のストラタス」について色々と聞いてきた
そこで今回は,戦律のストラタスの開発を手がけるヌードメーカーの河野一二三氏(シナリオ&ディレクション),KONAMIの向峠慎吾氏(プロデュース),山下慎二氏(ディレクション)に,色々と話をうかがってきた。ちなみに河野氏は,これまでに「鉄騎」「クロックタワー」「御神楽少女探偵団」「無限航路」などを手がけ,コアゲーマーから熱い支持を受けているクリエイターだ。タイトルそのものが気になるのはもちろん,河野氏の最新作という意味でも注目している人は多いのではないだろうか。
今回のインタビューでは,戦律のストラタスの内容だけではなく,河野氏の制作スタンスなども聞くことができたので,気になる人はぜひ読んでほしい。
「戦律のストラタス」公式サイト
「戦律のストラタス」誕生は,
ちょっとした挨拶から始まった?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,なぜ今回のような座組になったのか,その経緯から聞かせていただけますか。
最初は,ご挨拶だけでもと思ってKONAMIさんにお伺いしたんです。そして実際に向峠さんにお会いしたら,凄くいい雰囲気だったんですよ。その流れで企画書を見せたら,これまたいい反応をいただきまして。
向峠慎吾氏(以下,向峠氏):
「なんだ,企画書持ってるじゃん」って(笑)。
河野氏:
一応,持って行くかって(笑)。
4Gamer:
なるほど。「いつか何かやりましょう」みたいな感じのノリで行ったら,企画書が良かったこともあって,かなり具体的な話にまで進展したわけですね。
河野氏:
そうですね。「企画書持ってるなら見せろよ。このヤロー」って。
向峠氏:
いや,そこまで言ってない(笑)。
4Gamer:
しかし戦律のストラタスは,KONAMIから生まれた企画ではなく,ヌードメーカーが企画したタイトルだったんですね。
河野氏:
はい。ヌードメーカーはずっと自社企画によるゲーム開発にこだわっていますので。昨今,ゲーム業界も厳しくなってきていますが,今回もこういうチャンスをいただけたので,全力で頑張っていこうと。
向峠氏:
戦律のストラタスは,企画書が凄く良かったんです。ただその上で,「ここはこうしたほうがいいよ」といった感じで,プロデューサー的な立場から色々と意見を出させてもらいました。もちろん,ゲームの内容に関しては河野さんにお任せしています。僕の仕事はあくまで「プロデュース」なので。
4Gamer:
企画自体はいつ頃から温めていたんですか?
河野氏:
企画書を書いたのは2009年の10月くらいですね。企画書がまとまったらあまり寝かさず,パパッと持って行ったんですよ。
4Gamer:
そこから実際に動き始めたんですね。
最初の企画ではアラバキは出てこなかった?
ヌードメーカーとKONAMIが二人三脚でやった成果とは
4Gamer:
向峠さんは,河野さんの持ってきた企画書のどこに惹かれたのですか?
向峠氏:
アニメっぽい感じが,僕の好みでしたね。
河野氏:
ああ〜,今なら分かります。向峠さんの好みにも合ってますね。
今まで僕が手がけた作品は,「Elebits(エレビッツ)」を始めとして,ゲーム性ありきのタイトルが多かったんです。なので,ストーリーが全面に出る作品をやってみたいと常々思っていたんですよ。そんな時,今回の話がきたんです。なのでタイミングが良かったんですよね。
4Gamer:
トレイラームービーを観させていただいたんですけど,非常にターゲットがはっきりしている印象を受けました。
河野氏:
そこは向峠さんの,プロデュースの効果が出ていると思いますよ。僕はゲーム内容やシナリオをメインでやっているので。実は最初の企画書では,ロボットは出てこない予定だったんです。
向峠氏:
最初はタイトルも違いましたしね。
河野氏:
ええ。最初はアニメっていうより東宝の特撮系映画みたいなノリだったんです。どっちかっていうとレトロ感のある感じでしたね。ですので,そこは向峠さんと相談して,今風の雰囲気に変更していきました。
向峠氏:
今の若い人になじむように,アニメテイストの部分や声優のキャスティングは色々と調整しましたね。
4Gamer:
なるほど。では河野さんは,自分の意図したシナリオとは別の方向に行ってしまうのでは,という心配はなかったですか?
河野氏:
僕自身,最初の企画書は好きなんですけど,商品として大きく売りにくいとは思っていました。なので,変更すること自体にはあまり抵抗はありませんでしたね。
向峠氏:
でも根本的な部分は変わってないですよね。
河野氏:
そうですね。あと,商品として売る以上,一部のマニアに絶賛されるだけじゃだめだなと。戦律のストラタスに関しては,幅広いプレイヤーに遊んでもらいたいと思っていますし。
トレイラーは「面白さ」より
「格好良さ」をアピールしたものに
4Gamer:
本作は「ドラマチック・殲滅アクション」というジャンル名になっていますが,これはどういう意味なんですか?
向峠氏:
アクションゲームでストーリーを重視しているところを推していきたい,という思惑を込めています。人間ドラマとして個々のキャラクターをしっかり描いていく部分が,本作の大きな魅力になります。
河野氏:
まあそれに関しては,「よくあるじゃん」って言われると思うんですけど,実際にプレイすると,想像以上に盛り上がると思いますよ。合間合間に入るアニメムービーや演出も,非常に凝ったものになっていますしね。
向峠氏:
3Dポリゴンのシーンと,アニメシーンと,会話シーンがスムースにテンポ良く展開していくんですよ。なのでプレイヤーは,テンションを落とすことなく常にモチベーションを保ってプレイできるはずです。
4Gamer:
トレイラームービーを見る限り,ゲームというよりも,むしろアニメ映画の予告編みたいでしたね。
向峠氏:
そこは実は狙ってました。実際にアニメ映画のトレイラーっぽく制作しましたし。
4Gamer:
ただ,あれだけ観ると,どんなゲームなのかはイマイチ分かりづらいですが。
向峠氏:
まずはどんなゲームかというところよりも,戦律のストラタスはカッコイイ作品なんだという印象を,ゲームファンに与えたかったんです。まぁ最初は,ここまでアニメっぽくするはずじゃなかったんですけど,台本を見たらアニメパートがガッツリ入っていて……。
河野氏:
オープニングとエンディングだけだと思ってたら,いつのまにかこんなに……って感じでしたよね。
当初予定したものの3〜4倍のアニメシーンが上がってきたので,最初はびっくりしましたね。正直,どうしようかと思いました(笑)。
でもそこは河野さんとともに,カッコイイ部分のみを選定したので,非常にいい感じになっていると思いますよ。
4Gamer:
それはぜひ,実際に確認してみたいですね。さらに楽しみになってきました。
ところで,情報を公開してからの,ゲームファンからの反響はいかがですか?
向峠氏:
ああいう世界観が好きな人や,声優さんが好きな人,あとはキャラクターデザインが好きな人などには,かなり刺さっている印象を受けます。
4Gamer:
石垣さんのロボデザインや,寺岡さんのメカデザインなどはいかがですか? こちらも好きな人には堪らないと思いますが。
向峠氏:
期待通りの好反応でした。ロボ・メカデザインに関しては,やはり第一線で活躍している人に頼みたいと思っていましたし,「さすが」というものが生まれていますね。
山下氏:
河野さんの中では,最初からアラバキのイメージが固まっていたらしいんですけど,これを具現化できる人がなかなかいなかったんですよ。選定中は,色々な人が候補に上がっていました。
向峠氏:
アラバキには有機的な要素もあるのですが,そこを表現できる人がなかなかいなくてね。
4Gamer:
ああ,確かに機械的な要素というよりは,生の人間っぽい感じも出していくとなると,デザイン的にも難しいところではありますよね。
向峠氏:
そうですね。なので,有機的な部分と機械的な部分,両方を調和させられるようなイメージでデザインしてくれる人が望ましかったですね。石垣さんはそれが出来る人なので,ぜひお願いしますという感じで決まりました。
4Gamer:
最初の段階では,アラバキを有機的にしようとは考えていなかったんですか?
ええ。先ほども言ったように,企画段階ではロボットを出す予定すらなかったので。僕は,「何を表現したいか」というところからゲームデザインをするんですよ。
例えば,言葉の矛盾を指摘する探偵描写をシステムに落とし込みたいという思いから「御神楽少女探偵団」が生まれましたし,逃げたり隠れたりするときの恐怖をシステムで表現したくて,「クロックタワー」を作りました。
今回は,モンスターパニック系のフォーマットをゲームシステムに落とし込みたいと思って企画をスタートさせています。なので,どういう肉付けでどういう世界観にするか……ということは,割と後回しでしたね。
パニック映画のフォーマットを分解し,
ゲームに当てはめていく制作スタイル
ちなみに,プラットフォームをPSPに決めた理由は,どういったところでしょうか。
河野氏:
企画内容からして,ある程度パイの上限や,ターゲットは想定できますよね。そうなると,バジェットから逆算して携帯機,中でもPSPが打倒なのかなと。企画当時は,まだPSPが爆発的に売れている状況ではなかったんですけど,今は凄いことになっていますよね。
4Gamer:
最近は落ち着きましたけど,ちょっと前まではどこへ行ってもPSPが売り切れていましたね。
ちなみに,戦律のストラタスでは,各章の前半部分でアクションシーンがあり,そこで情報収集をするそうですが,そのあたりについて詳しく教えてください。
河野氏:
パニックものって,最初は“驚異”を示すところからスタートするじゃないですか。本作ではその部分を演出だけに頼らず,ゲームプレイの部分とセットで表現したかったんです。
その後,次のステップとしてモンスターの生態とかが分かってきますよね。その一連の流れも,演出部分じゃなく,ゲーム内にガッチリと盛り込みたいと考えました。要するに,逃げ惑う街の人々,それに襲いかかるモンスター,それを撃退する主人公達を描きつつ,アクションしながら中身を詰めていく。その一連の流れをベースに,本作のストーリーは進行していきます。
4Gamer:
まさに,東宝の特撮っぽい感じですよね。
河野氏:
最初は「Xファイル」や「怪奇大作戦」みたいに等身大に限定した感じだったんですけど,それだと地味な印象は拭えない。そんな時,映画の「クローバーフィールド」を思い出して,大きいモンスターが人間サイズの敵を生み出す設定にすれば,巨大モンスターと等身大のアクションを両立できると思ったんです。
4Gamer:
実際にプレイするときは,まず人間サイズの敵と戦い,最終的には大きい敵と戦う場面でアラバキが出てくる訳ですね。
河野氏:
そういうことですね。
4Gamer:
お話を聞いている限り,河野さんの発想には,映画の影響がかなり大きく影響しているように思えます。
それはありますね。映画やドラマを見て「ここが面白いな」と感じたとき,それをどうやってゲームに落とし込もうかとよく考えるんですよ。例えばパニックものの場合,“出現”“恐怖”“真相の解明”といったように,フォーマットが決まってるんですが,戦律のストラタスでは,そのフォーマットをどうシステムに落とし込むかをまず考えました。
まぁ,ゲームって1匹のモンスター相手では,パッケージ1本分のボリュームにすることは難しいので,実際には30分アニメのように1話1体形式で,複数のモンスターを出そうということになりました。
4Gamer:
なるほど。
河野氏:
アニメの「キャシャーン」を作ったシナリオライターさんの最後のお弟子さんが主催している「鳳工房」というグループがあって,本作の開発には,そこの方達にたくさんのアイデアをいただきました。今回は,そういう異業種の方達と一緒に仕事が出来たという意味でも,いい座組だと思います。
4Gamer:
その方達はゲームのシナリオも手がけたことがあるんですか?
河野氏:
家庭用はほとんどやっていなかったと思います。でも,ゲームのシナリオ会社さんはあまりピンと来なかったというか,この作品に合う感じではなかったんですよね。
個人的には,ファンタジーにはしたくなかったんです。話の中で,モンスターの生態に科学的な説明が付けられるようなストーリーにしたかった。ただ,それができる人って意外に少なくて。
4Gamer:
プレイヤーが納得できるように説明できれば,シナリオの説得力にも繋がってきますしね。やはり異業種の方と組まれたというのは,ゲームの完成度に大きく影響しそうですか?
河野氏:
大きいと思います。僕が知らないだけかもしれないですけど,ゲーム畑でそれが出来る人はなかなか見当たらないですね。実は「無限航路」のときに,スタッフの出したアイデアを僕がほとんどボツにして,最終的には僕自身でほとんどやってしまったんです。なので,今回はそのときの反省を生かしています。向峠さんに協力してもらっている部分も,その経験が生きているところでしょうね。
無限航路は戦艦ものなので,コア層に向けてまっすぐ進めたんですよ。ですが戦律のストラタスには,もっと広い層に向けてアピールできると思うので,向峠さんにはそこをお願いしたという形です。
豪華声優陣を起用した音声収録で
河野氏の厳しいダメ出しが連発?
4Gamer:
アニメ制作をサテライトが担当し,人気声優陣がキャラクターの声を務め,キャラクターデザインにはエナミカツミさんが起用されています。関わっているスタッフがとにかく豪華ですが,ここまで豪華だと,もうアニメを作ったほうが早いんじゃないか? という話にもなりそうですが。
この座組でアニメを作ろうとすると,とんでもなくお金がかかってしまうので……。ってサテライトの監督さんに言われました(笑)。もちろんファンの要望が多ければ考えますけどね。個人的には,そうなってほしいとも思います。
4Gamer:
声優の選定はどなたが行ったんですか?
向峠氏:
KONAMI側でやりました。選定には,僕がその時に観ていたアニメが色濃く反映されています(笑)。
4Gamer:
河野さんがシナリオを書かれていたときって,まだ声優は決まってなかったですよね。
河野氏:
僕は元々声優さんに強い興味があるほうじゃないので,今回の声優さんってほとんど知らなかったんですよ。
4Gamer:
なるほど。では自分の書かれたシナリオを声優さんが演じていて,違和感を感じることはありませんか?
河野氏:
KONAMIさんのほうで,ちゃんとシナリオを読んでキャスティングしていただけたので,ほとんどありませんでしたよ。それでも違和感があれば,ちゃんとリテイクを出しますから。
河野さんの収録は厳しいですよ(笑)。
河野氏:
でもそのおかげで,キャラクター同士の掛け合いはバッチリでしたね。
山下氏:
河野さんは,各キャラクターの声のイメージが,初期段階から固まっていたらしいんですよ。なので収録の際はすごく厳しいんですけど,声優さん達も一直線に役作りが出来たんじゃないかなという気がしましたね。
向峠氏:
このキャストを相手にバンバンNG出してましたしね(笑)。
河野氏:
そりゃしますよ。どんな大物声優さんでも,物作りに遠慮はしませんよ(笑)。
4Gamer:
あまり声優に対するこだわりがないからこその厳しさかもしれませんね。
河野氏:
でも,やはり人気声優さんだけあって,実力は凄かったですよ。なので,僕の中では今回,そんなにNGを出した印象はないんですけど……。
向峠氏:
今までどんだけNG出してたんだって感じですよね(笑)。
闇雲にワールドワイドを狙うよりも
ターゲットを絞ることが重要
本作は,海外での発売は予定しているんですか?
向峠氏:
今のところ決まってないのですが,反響によってはあり得ますね。
4Gamer:
アニメ人気の高いフランスなんかでは,受けそうな気もするんですが。
向峠氏:
最初から日本のアニメファンを想定していたので,海外はあまり視野には入れてなかったんですよね。
河野氏:
あっちもこっちも取ろうとすると,結果としてどっちにも受けないものになったりしますしね。やはり海外を狙うなら海外オンリー,日本を狙うなら日本オンリーっていうようにしていかないと,厳しいものがあると思いますよ。
向峠氏:
やはりワールドワイドって難しいですよね。エレビッツをやっていたときはワールドワイドを狙っていたんですが……。最近は,仕向地ごとにゲーマーさんの好みが違ってきていると感じています。
それと日本では,携帯ゲーム機の人気が高いですけど,海外ではあまり携帯ゲーム機が流行っている感じではないですよね。
河野氏:
戦律のストラタスは,企画書段階からターゲットを絞りに絞った作品です。開発中は,ターゲットに向けた作品作りにのみ集中できますから,コンセプトのブレもないですし,芯のあるいいゲームになると思いますよ。
最初の段階で狙いを定めて,明確な「答え」を出したからこそ,開発中の迷いがなくなるんだと思います。こちらとしては,元々河野さんの考えた企画なので,なるべく河野さんの色を出せるように上手く引き出していきたいですね。
河野氏:
タイトルも凄く分かりやすいですよね。今までは僕が全部タイトルを付けていたんですけど,今回はKONAMIさんから「こういうタイトルにしませんか」って案を出していただいたんですよ。それを聞いたときに「こういうパターンもあるんだ」って感じで,非常に勉強させてもらいましたね。また一つ大人になったかな(笑)。
向峠氏:
なんですか,それ(笑)。
4Gamer:
今回お話を聞かせていただいて,本作の発売が非常に楽しみになりました。それでは最後に,読者へのメッセージをお願いします。
河野氏:
では,最後のおいしいところは山下さんに持っていってもらいましょうか(笑)。
山下氏:
繰り返しになりますが,非常にターゲットが明確な作品なので,そういった方々が楽しめるというのはもちろんなんですけど,純粋にアクションゲームとしても楽しめると思います。あと,成長要素や難度設定もあるので,アクションが苦手な人でも,十分プレイできるバランスです。発売日までしばらくありますが,戦律のストラタスをよろしくお願いします。
パニック映画の魅力を分解し,それをゲームに落とし込むという手法で,近未来の帝都東京を舞台にした“ドラマチック・殲滅アクション”を作ろうと考えた河野氏。一方のKONAMI側は,企画の軸を一切ブレさせることなく,それをより広い層へアピールするための徹底したプロデュースを行ったのだ。河野氏の持ち味を活かしつつ,「一部のマニア向け」に終わらない作品へ昇華させようという,開発者達の意志が垣間見えるインタビューだった。
キャッチーな世界観やキャラクターデザインだけでなく,豪華声優陣にも注目が集まる戦律のストラタスだが,果たしてどのようなゲームに仕上がるのか非常に楽しみだ。30分枠の特撮もののように進んでいくというゲーム展開や,河野一二三作品ならではの骨太なゲーム性にも期待したいところ。今後の情報公開を楽しみに待ちたい。
「戦律のストラタス」公式サイト
- 関連タイトル:
戦律のストラタス
- この記事のURL:
キーワード
(C)2011 Konami Digital Entertainment