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[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
その具体的な例として挙げられたのは,アメリカと欧州それぞれにおける1980年代のゲーム事情だ。
Fernandez-Vara氏によれば,欧州のゲーム業界が活発だった理由は,「Bedroom Developers」と呼ばれる10代の開発者がヒット作を連発したことにあるという。当時欧州では,アメリカでヒットしたATARIのようなゲーム機よりも,「Commodore 64」などのコンピュータのほうが売れていたため,子供がゲームの開発環境を整えやすかったという背景もあると氏は述べていた。
まずJuul氏は,「今の学生達は,ゲームに親しんでいるが,興味があるものしかプレイしないため,知識に偏りがある」と分析する。そのため,歴史的なゲームについて議論する場合,他のゲームを引用して語れなかったり,ゲームデザインにトラブルが生じたときに,過去のゲームを参考にして解決できなかったりするという。
そういった問題点を踏まえ,Juul氏の講義「The Games 101 Course」は,ゲーム知識の偏りを解消する内容になっているのだそうだ。
学生には,試験と500ワードのレポートが毎週課せられる。レポートは,Juul氏が候補に挙げた3つのゲームタイトルから1つを選び,3時間以上プレイするという条件付きだ。
ちなみに,セッションでレポートの候補タイトルの一例として挙げられていたのは,「Adventure」「MYST」「Zork」のアドべンチャーゲーム3本。おそらく,候補に挙げられるタイトルのジャンルが毎週変わるようになっているのだろう。
上記のような古いゲームタイトルを提示されたところで,どうやって今プレイするのかと疑問に思った人もいるかもしれない。しかし,Juul氏によれば,New York Universityには,14種のゲームコンソールと1000以上のタイトルを収めた「Game Library」という施設があるので,レトロゲームのプレイ環境には困らないとのことだ。
ちなみに,Wardrip-Fruin氏が勤めるUniversity of California Santa Cruzにも,Game Libraryと同じような「Gaming Lab」と呼ばれる施設があり,ゲームを学ぶ環境が充実しているとのことだった。
「レトロゲームは難しいので,マニュアルを手に入れること」というほほえましいものもあったが,最も強調されていたのは「エミュレータを利用せざるを得ない場合もあるが,法律を厳守すること」。Fernandez-Vara氏は「私達は教育者なのですから」という言葉を付け加えていた。当然だが,ここは外せないポイントになるだろう。
以上,セッションの模様をお伝えしたが,今回のセッションはゲーム史教育というものが海外でどれだけ真剣に考えられているかをうかがわせてくれるものだったと思う。Game LibraryやGaming Labといった施設からも,大学がゲーム史教育に注力していることが分かるだろう。
余談だが,筆者自身も,Juul氏の「興味があるものしかプレイしないので,知識には偏りがある」というコメントに耳が痛くなり,今後は幅広いジャンルをプレイしていこうと思わされたセッションでもあった。
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