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[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
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印刷2012/03/07 18:50

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[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート

 「Game Developers Conference 2012」のセッションには,ゲーム開発者に向けたものだけでなく,教育関係者向けのものが多数用意されている。現地時間の2012年3月6日に行われた「Knowing the Past: Game Education Needs Game History」というセッションも「ゲームの歴史」をテーマとし,教育関係者に向けたもの。大学でゲーム史教育に携わっている准教授や研究員達が登壇し,ゲームの歴史が持つ特殊性や,その学習方法などが語られていた。

Clara Fernandez-Vara氏(Singapore-MIT GAMBIT Game Lab)
画像集#002のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
 セッションに登壇したSingapore-MIT GAMBIT Game LabのClara Fernandez-Vara氏は,「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」と前置きし,「ゲームの歴史は,地域によって大きく異なるものだ」と語る。
 その具体的な例として挙げられたのは,アメリカと欧州それぞれにおける1980年代のゲーム事情だ。

黄金時代のスペイン製ゲームタイトルを示したスライド
画像集#003のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
 1980年代というと,アメリカでは,いわゆる「アタリショック」によりゲーム業界が冷え込んでいた時期にあたるが,一方の欧州では,スペイン製のゲームが黄金時代を迎えており,ゲーム業界が非常に盛り上がっていた時期にあたるのだという。
 Fernandez-Vara氏によれば,欧州のゲーム業界が活発だった理由は,「Bedroom Developers」と呼ばれる10代の開発者がヒット作を連発したことにあるという。当時欧州では,アメリカでヒットしたATARIのようなゲーム機よりも,「Commodore 64」などのコンピュータのほうが売れていたため,子供がゲームの開発環境を整えやすかったという背景もあると氏は述べていた。

Noah Wardrip-Fruin氏(University of California Santa Cruz)
画像集#004のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
 続いて登壇したUniversity of California Santa CruzのNoah Wardrip-Fruin氏は,「Kinectがなければ『Dance Central』は生まれなかった」とDance Centralを例に挙げ,ハードウェアやほかのゲームからの影響を大きく受けて誕生したゲームも少なくないという。そのため,ゲームの歴史を語るうえで,個々のタイトルやジャンルだけを見てもあまり意味がなく,そのタイトルが影響を受けたものは何なのかという点までを含めた考察が重要になると氏は説明する。

Jesper Juul氏(New York University)
画像集#005のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
 さて,なかなか掴みどころがなさそうな印象を受けるゲームの歴史だが,実際にはどのように大学などで教育が行われているのだろうか。そんな疑問に答えるべく,New York UniversityのJesper Juul氏が,実際に大学で行っているゲームの講義について語っている。

 まずJuul氏は,「今の学生達は,ゲームに親しんでいるが,興味があるものしかプレイしないため,知識に偏りがある」と分析する。そのため,歴史的なゲームについて議論する場合,他のゲームを引用して語れなかったり,ゲームデザインにトラブルが生じたときに,過去のゲームを参考にして解決できなかったりするという。

 そういった問題点を踏まえ,Juul氏の講義「The Games 101 Course」は,ゲーム知識の偏りを解消する内容になっているのだそうだ。
 学生には,試験と500ワードのレポートが毎週課せられる。レポートは,Juul氏が候補に挙げた3つのゲームタイトルから1つを選び,3時間以上プレイするという条件付きだ。
 ちなみに,セッションでレポートの候補タイトルの一例として挙げられていたのは,「Adventure」「MYST」「Zork」のアドべンチャーゲーム3本。おそらく,候補に挙げられるタイトルのジャンルが毎週変わるようになっているのだろう。

Juul氏の授業で出される試験問題の例。写真左のようにゲームの発売年を答えさせる問題だけでなく,写真右のようにビデオゲーム以外からの出題もあるそうだ
画像集#006のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート 画像集#007のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート

 上記のような古いゲームタイトルを提示されたところで,どうやって今プレイするのかと疑問に思った人もいるかもしれない。しかし,Juul氏によれば,New York Universityには,14種のゲームコンソールと1000以上のタイトルを収めた「Game Library」という施設があるので,レトロゲームのプレイ環境には困らないとのことだ。
 ちなみに,Wardrip-Fruin氏が勤めるUniversity of California Santa Cruzにも,Game Libraryと同じような「Gaming Lab」と呼ばれる施設があり,ゲームを学ぶ環境が充実しているとのことだった。

ハードウェアの中古品が入手できないなど,エミュレータを使わざるを得ない場合もあるとFernandez-Vara氏
画像集#008のサムネイル/[GDC 2012]「ゲームの歴史を知ることは,ゲームの今を知ること」。3人の教育者がゲーム史教育の重要性を語ったセッションレポート
 セッションの最後には,再びFernandez-Vara氏が登壇し,授業で生徒にレトロゲームをプレイさせるときの注意点をいくつか紹介した。
 「レトロゲームは難しいので,マニュアルを手に入れること」というほほえましいものもあったが,最も強調されていたのは「エミュレータを利用せざるを得ない場合もあるが,法律を厳守すること」。Fernandez-Vara氏は「私達は教育者なのですから」という言葉を付け加えていた。当然だが,ここは外せないポイントになるだろう。

 以上,セッションの模様をお伝えしたが,今回のセッションはゲーム史教育というものが海外でどれだけ真剣に考えられているかをうかがわせてくれるものだったと思う。Game LibraryやGaming Labといった施設からも,大学がゲーム史教育に注力していることが分かるだろう。
 余談だが,筆者自身も,Juul氏の「興味があるものしかプレイしないので,知識には偏りがある」というコメントに耳が痛くなり,今後は幅広いジャンルをプレイしていこうと思わされたセッションでもあった。

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