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クリプトン・フューチャー・メディアとは,どんな会社なのか? 初音ミク誕生の経緯も紹介されたセッションをレポート
登壇したのは,クリプトン・フューチャー・メディアでチームマネージャーを務める熊谷友介氏。2002年に入社し,2007年に初音ミクの企画開発に参加して以来,スマートフォンやVRといった分野でさまざまなコンテンツをプロデュースしている人物だ。
「クリプトン・フューチャー・メディア」公式サイト
クリプトン・フューチャー・メディアとは
セッション冒頭で熊谷氏は,クリプトン・フューチャー・メディアという会社について紹介した。同社は,ミュージシャンやゲームクリエイター,映像クリエイター,イラストレーター,そして3Dモデラーなど,各分野のクリエイターが必要とする製品やサービスを開発する,いわばクリエイターのためのクリエイター,“メタクリエイター”の組織だという。
音楽の制作,出版やモバイルゲーム,キャラクターライセンス,各種ソフトウェア販売といったコンテンツだけでなく,サーバーの設計や開発,3DCGによるコンサートなど,技術面にも手を広げており,「コンテンツ」と「技術」の両面に明るいという強みを活かし,なければ自分達で作ってしまうという社風だ。
「できるからするのではなく,したいからできるようになる」。クリプトン・フューチャー・メディアとは,そういう会社なのだという。
さて,そんなビジネスの原点とは何か。それは「音で発想するチーム」だと熊谷氏は述べた。
さまざまな“音”を販売するビジネスからスタートし,日本で最大規模の音源販売サービスの運営として成長した同社だったが,音を売るというビジネスは,商売的に「めちゃめちゃニッチだった」(熊谷氏)。そこで「深掘りと応用」を繰り返し,ビジネスの手法を模索していったのだという。
クリプトン・フューチャー・メディアにおける深掘りとは,「音のことをひたすら突き詰める」ことだ。一方の応用とは,「得られた知識を応用し,新しいビジネスを見つける」ことだという
ビジネスイメージを図にすると,「T」字型で,横は応用,縦は深掘りを表している。熊谷氏はこれをバランスよく広げて,キレイな三角形を作り,面積を最大化することが重要だとした。
転機の1つとして,熊谷氏は携帯電話向け着信音配信サービスを2001年に開始したことを挙げた。それまで音楽制作者にしか販売できなかった商品が,携帯電話を通じて一般消費者に販売できるようになったのだ。
クリプトン・フューチャー・メディアはさまざまな携帯電話向けサービス&Webサービスを開始し,結果としてゲームまで作れる会社にまで成長したと熊谷氏は振り返る。現在はスマートフォン向けのゲームアプリ開発を中心に事業を展開しており,同社が2012年2月にリリースした「初音ミク ぐらふぃコレクション」(iOS/Android)もその1つとなる。
また,初音ミクを使った3DCGコンサートへの取り組みも紹介された。実際のオーケストラと共演したイベントを振り返って,このときの初音ミクの映像は,あらかじめ保存したデータを再生したのではなく,リアルタイムで動かしていたと熊谷氏は話した。
楽曲は生演奏になるので,実演では音の速度などが微妙に変化する。すると,事前にレンダリングしたデータではズレが発生してしまうのだという。この問題を解消するため,初音ミクをリアルタイムで動かすための装置も開発し,コンサートを実現させたと熊谷氏は述べた。
これらの事例を踏まえて熊谷氏は,いろいろなことを自分達の手でやるのは非常に大変だが,最終的には多様な問題に対応できる体力や知識が身に付く。このことが,音楽制作ツールの販売会社が幅広いビジネス展開をするようになった背景だとまとめた。
初音ミクが誕生した経緯
熊谷氏は続いて,初音ミク誕生の経緯を語った。ボーカロイドの初音ミクが登場したのは2007年のことなので,今年で10年が経過することになる。現在までの関連楽曲は50万曲以上,YouTubeへの投稿は200万以上で,BUMP OF CHICKENやLady Gagaなどの有名アーティストとのコラボも実現している。年間の市場規模は,約300億円だという。
初音ミクのルーツをたどると,世界初のボーカロイド製品が登場した2004年にさかのぼる。しかし当時,この製品はまったく売れなかった。PCで音楽を制作する人とっては,実際の楽器にどれだけ似せられるかが重要になる。人間の声もリアルさが求められ,ボーカロイドは受け入れられなかった。つまり,ターゲットを間違えたのが売れなかった大きな理由だと熊谷氏は述べた。
その後,日本語で歌える初のボーカロイドとして「MEIKO」がリリースされる。こちらは,500本売れればヒットといわれていた時代に,3000本のセールスを記録している。可愛らしいパッケージが,音楽を制作しない人にも受け入れられたのが要因だと,熊谷氏は考えているそうだ。
このヒットを受けて,初音ミクの企画がスタートした。ここで,逆転の発想が生まれる。「MEIKO」の前の作品が売れなかった理由は,歌声が人間と程遠かったからだ。そのため,歌っているのが「アンドロイド」ということにし,人間の代用や模倣ではない新たなボーカル表現としてアピールすることを狙った。
音声にはこれまで,プロのシンガーを起用していたが,初音ミクの開発時に「プロのシンガーだからといって本当にいい声なのだろうか」という疑問が挙がった。「面白い」「かわいい」「格好いい」といった声の特徴を引き出せる人は誰なのか? 検討を繰り返した結果が,声優という答えだったそうだ。
バーチャルアイドルでボイスは声優という,このカルチャーをうまく伝える方法として,イラストレーターを起用することも決まった。
とはいえ,初音ミクのコンセプトがうまく伝わらず,声優事務所との交渉が困難を極めたり,イラスト投稿サイトなども存在しない時代なので,誰にイラストを描いてもらうか探したりなど,初期の苦労はなかなか大きかったようだ。
初音ミクはなぜこんなに流行したのか?
初音ミクはどのようにして流行したのか。その経緯についても熊谷氏より紹介された。
最初はミュージシャンなどが,ニコニコ動画やYouTubeなどにオリジナル楽曲を投稿し始めた。その映像を見たり楽曲を聞いたクリエイターの中から,無償で絵や動画を提供して,プロモーションビデオを制作してあげようという動きが広まっていった。
熊谷氏によると,楽曲に共感したからこそ,こういった動きが起こったのだという。そして,完成したプロモーションビデオを見てさらに共感する人が現れる。それは踊る人だったり,小説を書く人だったりだが,2次,3次創作的な活動が生まれていく。それがやがて,日本国内に留まらず,世界にまで広がっていったというのだ。
熊谷氏は,初音ミクを語るうえで「共感」は欠かせないキーワードだとし,またクリエイターが生まれる環境の構築も重要で,きちんと整備しないと創作の輪は広がらないと述べた。これらをまとめて,「ツクルを創る」ことが重要だとし,セッションを締めくくった。
- 関連タイトル:
初音ミク ぐらふぃコレクション
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