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[CEDEC 2012]クラウドゲームが当たり前になる日は来るのか? Ubitusの春日伸弥氏が全体像を解説
海外ではGaikaiやOnLiveといった企業がサービスを提供し,日本でも2011年10月にジークラウドがサービスを開始。そして2012年7月にはソニー・コンピュータエンタテインメントがGaikaiを買収したことで,クラウド化への動きが一気に加速するかと思われた。
ところがその後,OnLiveが清算手続きに入る(サービスは新会社に移行)など,なかなか動きが読めない。「実際のところクラウドってどうなの?」と考えている人もいるのではないだろうか。
CEDEC 2012の最終日(2012年8月22日)に行なわれたセッション「クラウドゲーミングを始めよう」では,ジークラウドへ技術提供を行っているUbitus(ユビタス)の春日伸弥氏が,クラウドゲームの概要やメリット/デメリット,サービス事例や今後の課題などといった全体像を語った。クラウドに興味を持つ開発者へ向けられた情報もあり,入門編としてよくまとめられたセッションであったので,その模様をレポートしよう。
ネットワーク越しにゲームを遊ぶ“クラウドゲーミング”
高速回線さえあれば幅広いマシンに対応可能
シンクライアントの概念自体はかなり前からあり,これまでは主に企業の情報システムなどで利用されてきた。それがマシンスペックや通信インフラの向上により,ゲームまでもが実現可能となりつつあるのだ。
そんなクラウドゲーミングにおける最大の特徴は,ゲームプログラムの本体がサーバー側で動いているということ。クライアント側が処理しているのは,サーバーから送られてくるストリーミング動画の再生と,プレイヤーが行った操作情報の送信だ。厳密にいうと,動画のデコードが行なえる端末であれば,ロースペックのPCやスマートフォンやタブレット,そしてテレビなど,ハードウェアを選ばずに遊べてしまう。
だが,ハードウェアには依存しない一方で,高品質のネットワーク回線が求められる。帯域の太さよりも遅延の少なさが重要で,それらを含めた環境に応じたタイトルを選べば,意外なほど幅広いジャンルで快適に遊べるということだ。
回線種別による違いを見ていくと,たとえば固定ブロードバンドやLTEといった安定した高速回線なら,FPSに代表される,瞬間的判断や操作が必要とされるジャンルを除けば,ほぼプレイ可能。3G回線の場合は,RPGやカードゲームなどといった“メニュー選択”が操作の大部分を占めるジャンルなら,基本的に問題はないという。
クラウドゲーミングの仕組みを示した図。クライアントにゲームがインストールされていないというのは,初めて知る人にとっては驚きだろう |
クライアント側では動画のデコード及び再生しか行なっていない。数年前の旧型機で,最新世代の3Dゲームをプレイするといったことも可能だ |
プログラムが手元になく,コピー対策には抜群の効果
高品質ネットワークや運用コストなどの課題も
続いて春日氏は,クラウドゲーミングにおける大きなメリットを3つ紹介した。
まずは,端末の機種を選ばない“クロスデバイス”対応であること。クライアント側では動画のストリーミング再生しか行なっていない(ゲームプログラム本体は動いていない)ため,各端末にあわせてプログラムを移植する必要がないのだ。ただし対応端末によっては,タッチパネルに表示させるUIなどを設定する必要がある。
続いてのメリットは,ゲームプログラムの本体がユーザーの手元に置かれていないため,コピーが事実上不可能ということ。海賊版対策としては極めて有効で,著作権対策が甘い国などでは,このメリットに着目しての引き合いが多いそうだ。
そして最後に,プレイ画面を複数のプレイヤーに同時配信できるメリットが挙げられた。現在も一部のユーザーが行なっているゲームプレイのリアルタイム配信を,違ったアプローチで実現できるものとして,春日氏は個人的に注目しているそうだ。
クラウドゲーミングを実用的な品質でサービス提供するには,「応答速度,運用コスト,端末互換性」の3つにまつわる問題が常につきまとう。各サービス会社はこの部分の改善に,日夜取り組んでいるというわけだ |
常時ネットワークを使用するクラウドゲーミングでは,通信インフラ周りの改善が永遠の課題ともいえる。応答速度と画質をいかに高いバランスで両立させるかが,各クラウドゲーミング会社にとって腕の見せどころ |
サービスに要するコストは,実は通信コストよりも電力コストの方が断然大きいとのこと |
地域によっては,動画のデコードすら満足にできない低スペックな端末でのニーズもあるそうだ。また,タッチパネル端末では仮想ボタンをオーバーレイで表示させることも必要となるなど,互換性を確保するため,ある程度の作業は必要となる |
9月から開発会社向けのβテストが開始
現在,世界中で多くの企業がこのクラウドゲーミングに興味を寄せているが,春日氏はセッションの最後に,Ubitusが用意しているさまざまな環境を紹介した。
クラウド化にあたり,ソースコードの改変は基本的に不要で,同時起動ブロックやプロテクト用ツールの解除だけでいいとのこと。また,バイナリをクラウド用に設定するためのツール群「Game Developer Kit」(GDK)も用意されている。
GDKの主な機能は「クラウドサーバー上にプログラムを展開するためのパッケージを生成」,「専用のWebポータルを通じて動作確認」,「タッチパネル端末向けに仮想ボタンのレイアウトを編集」という3つで,だいたい1タイトルあたり,一連の作業を約1時間で済ませられるとのことだ。
なお,これらのGDKは,2012年9月より企業向けのβ版を配布予定とのことである(無償)。クラウドゲーミングを新たに検討する開発会社にとっては,丁度良い機会といえるだろう。これによって,日本におけるクラウドゲーム化へ向けた動きも本格化するかもしれない。
- 関連タイトル:
GameNow(旧称:ジークラウド)
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