インタビュー
「燃えろ!!プロ野球2016」開発スタッフに聞く,ジャレコゲームのキャラクターをあえてファミコン画質で蘇らせた理由
「燃えプロ2016」の開発は,飲み屋のテンションで決定?
4Gamer:
「燃えプロ2016」の配信を間近に控えての,率直なご感想をお願いします。
喜多村氏:
正直な話,本当に配信できるところまで持っていけるとは,思っていなかったです。発表時は,JACLUB(ジャレコ作品のキャラクター達によるチーム)の選手グラフィックスがあったくらいで,ゲームができていない状態でしたからね(笑)。いろんな媒体からインタビューを受けたのも,自分を逃げられなくするためでした。
4Gamer:
「燃えプロ2016」を開発することになった,そもそものきっかけは?
吉川氏:
4Gamer:
開発を任されたメビウスさんとしては,「燃えプロ」に対して,当初どのようなイメージを持っていましたか?
喜多村氏:
この話の前に「燃えプロ」のauスマートパス版(「燃えろ!!プロ野球」)を開発させてもらう機会があったのですが,そちらが思ったより話題にならなかったので,少し懸念はありました。ただ,PS4の北米ダウンロードタイトルを眺めていると,本当になんでもアリなんです。そこそこのペースで新作がリリースされている状況を見て,「もしかして『燃えプロ』,いけるんじゃないか……?」というヘンな自信が湧いてきたんです。
吉川氏:
「燃えプロ」は,海外では「Bases Loaded」というタイトルで発売されていて,北米・欧州では日本国内よりも売れているんです。30〜40代の外国人と話をしていても「Bases Loaded」の話題になると,普通に「Oh,Cool!」となりますね。
4Gamer:
日本のように,半分ネタ扱いされているわけじゃないと。
吉川氏:
そうなんです。「燃えプロ2016」を国内でリリースしてから,海外で「Bases Loaded」としてリリースすれば採算がとれるんじゃないかっていう皮算用も,正直あります(笑)。
喜多村氏:
海外版のリリースは,一番熱意をもってコンタクトしてくれたパブリッシャさんにお任せしています。ファミコン版同様,グラフィックスやデフォルトのチーム,選手名を海外仕様にしたものを,国内版の数か月後にリリースする予定です。いまの段階のROMで,現地スタッフに「これぞBases Loaded!」と言われているので,プレイヤーの反応が楽しみですね。
“初めにジャレコゲームキャラありき”の開発
4Gamer:
開発の具体的な流れについてうかがいます。冒頭で喜多村さんがおっしゃっていたとおり,まずはグラフィックスありき……という状態だったのでしょうか?
国原氏:
そうですね。僕が直接携わる前に,「ファミコン版のグラフィックスのままでPS4用ソフトとして出す」というところまでは,すでに決まっていました。昔のゲームを現行機種でリメイクする場合,色数を増やすといった変更が行われるものですが,「燃えプロ2016」では,ファミコン版の第1作目のイメージを損なわないことが,大きなテーマでした。
4Gamer:
たしかに,「燃えプロ」と聞いて真っ先に浮かぶのは,ファミコン版の画面ですよね。
喜多村氏:
ファミコン版のグラフィックスを再現するにあたって,3Dモデルに疑似ドット絵のテクスチャを貼ったとしても,絶対プレイヤーには伝わりません。魂の入ったドット絵でやらなきゃいかんというのは,一番最初に決めたことです。
国原氏:
もし本作が,“スーファミ版のシリーズ作のリメイク”だったら,ここまで話題にはなっていなかったでしょう。だから,この判断は正しかったと思います。とはいえ,そっくりそのまま再現するのでは面白くないと思い,せっかくなので,ジャレコゲーム出演キャラのチームを作ろうと考えました。
吉川氏:
ディレクターの国原さんは,ジャレコのタイトルのことをよく知っていることもあって,「どのキャラを出すか」というところから,打ち合わせが始まりました。開発当初は,発売予定日も価格も決まっていない状態で,ジャレコキャラだけが独り歩きをしている状況でしたね(笑)。
4Gamer:
ちなみに国原さんは,ファミコン世代ですか?
国原氏:
はい。「燃えプロ」もやっていました。
4Gamer:
すでに公式サイトなどで発表されているキャラクターからも,なんというか……年季の入った「ジャレコ愛」が伝わってきます。
喜多村氏:
国原が出したリストをもとに,1チーム30人分をチョイスしました。同じ作品で何キャラか登場していますが,極力かぶらないようにはしています。
吉川氏:
国原さんがまた,OKを出すかどうかの絶妙なラインを攻めてくるんです(笑)。「銀河任侠伝」(1987年リリースのアーケードゲーム)のプレイヤーキャラ「ヤッちゃん」は絶対外せないというのは,こちらから言わなくても分かっていますし,反対に「風雲少林拳」(1987年リリースのファミコンディスクシステム用ゲーム)や「伊賀忍術伝」(1988年リリースのアーケードゲーム)のキャラは,最初からリストに入ってなかったですね。
国原氏:
当初は某野球ゲームのように,名前だけジャレコキャラでいいかなとも思ったのですが,それでは面白くないでしょう。顔だけすげ替えるってのも考えたんですけど,グラフィックス担当の二人が,どうももの足りなかったようで(笑)。
4Gamer:
「燃えプロ2016」のグラフィックスは,メビウスの大石さんと,シティコネクションの上田さんが担当されたとのことですが,どのようなやり取りを経て,現在の形になったのでしょうか?
大石氏:
吉川氏:
上田は,ラフスケッチなどがない状態から,直接ドットを打ち始めていましたね。
4Gamer:
それはすごいですね。上田さんは,「ジャレコのキャラなら,もうなんでも任せて!」という感じで。
上田氏:
4Gamer:
キャラ一人分のグラフィックスを揃えようとすると,どれだけの量が必要になるのでしょうか?
大石氏:
バッティングで見ても,スイングに上・中・下段があって,それぞれミート位置に奥と手前のバリエーションがあるので,これだけでも結構な枚数が必要です。それに,守備時のグラフィックスや,ホームラン時の演出周り,さらにピッチャーの場合は投球モーションも加わるので,途方もない数になりますね。
上田氏:
最初は全身をそのキャラクターと同じにしちゃったんですけど,あまりにも数が多いので,ユニフォームくらいは統一しようということになりました。実際は,ユニフォームさえ着ていないキャラもいるんですけど(笑)。いま冷静に思えば全然着せられたのに,なんでそうしなかったんだろうと。
喜多村氏:
選手グラフィックスが勝手にキャラクターの絵になっていたので,まずいと思ったんですけど,そのときには9体くらいできていたので,すでに遅かったですね。じゃあもうそれでやるしかないなと(笑)。実際,開発コストの大半は,そのあたりにかかっています。
国原氏:
1キャラごとに新規の描き起こしですし,もともとの選手のアニメーションパターンも多いですからね。バッティングやピッチングも,ぱっと見は分かりにくいですが,パターンを追加しているんですよ。
4Gamer:
そうなんですか?
国原氏:
オリジナルのイメージをキープしつつ,「これこそPS4だ」というところを表現しました(笑)。
大石氏:
国原氏:
今回開発してみて分かったのは,当時のファミコン版開発スタッフの方々も,ものすごい野球好きっていうか,こだわって作っていたことです。投球フォームやバットスイングが,特定選手の特徴をよくつかんでいる……といったことがあとでぽろぽろ分かって,目から鱗でした。
宇野氏:
ピッチャーなんか,一人の選手にしか使っていないグラフィックスもありましたからね。
“「燃えプロ」らしさ”を巡る取捨選択
4Gamer:
そういった細かい部分を含めて,“「燃えプロ」らしさ”をプログラムで再現することは,難しかったですか。
宇野氏:
正直に言うと,プログラム側はそれほど大変ではなかったです。どちらかというとグラフィックス……画面比率を16:9サイズに変更したりといったことのほうが,大変だったのかなと思います。グラフィックス素材全般は,「OPTPiX SpriteStudio」(2Dアニメーションの作成に特化した,ウェブテクノロジ製のミドルウェアツール)で作成されているので,僕のほうでは,グラフィッカーさんが用意したものを再生しているだけです。
4Gamer:
グラフィッカー,プログラマともに,それぞれの工程に専念できる開発環境だった……ということですね。ちなみに,宇野さんはファミコン版「燃えプロ」のリアルタイム世代ではないようですが。
宇野氏:
喜多村氏:
リアルタイム世代の国原,未経験の宇野……という異なる世代によって,「なんでこうなるんですか,バグですか?」「仕様です」というやり取りが,最初の頃ずっと続いていましたね。1か月半くらいで,やっと打ち解けたみたいですが(笑)。
宇野氏:
そういえば“バントでホームラン”や“ファウルなのにランナーがホームイン”するのは、ゲームとして残して大丈夫ですかと心配されてましたね(笑)
4Gamer:
ファミコン版のそういった,“野球ゲームとしてよろしくない部分”をあえて残すのは,「それが『燃えプロ』だから」なのでしょうか?
国原氏:
4Gamer:
3バント失敗で打順が抜かされる……などの現象も,あくまで「燃えプロ」のルールであって,バグではないと。
国原氏:
バグではありません。
喜多村氏:
国原がすごくこだわっていたところが,「普通に野球ゲームを作ってもしゃあない」ってところです。リリース時のジャンル表記が「燃えプロ」だったのは,その心意気のあらわれです。
国原氏:
スポーツゲームではないですよね。「燃えプロ」というジャンル表記が使えなければ,「ETC(その他)」でいいんじゃないかと。
4Gamer:
(笑)。実際のところ,バントでホームランはどういった原理で発生していたのでしょうか。
大石氏:
ファミコン版の仕様は正確には分かりませんが, 内部パラメータ上では,バントまたはハーフスイングのモーションでも,普通に振りきった状態として処理されているのだと思われます。
国原氏:
この現象は,完全に想定外だったと思います。
4Gamer:
つまり,そういったルール変更メニューの項目数だけ,ファミコン版にはバグがあったと。
国原氏:
4Gamer:
プレイの感触は,やはりファミコン版準拠でしょうか?
喜多村氏:
ちょっとだけですけど,遊びやすくなっています。
国原氏:
操作方法は,方向キーまたはアナログスティックと2ボタン……というオリジナル準拠なので,当時プレイしていた方もその感覚で遊べます。ファミコン版は演出が飛ばせないので,1試合のプレイ時間が長くなるのが難点でしたが,「燃えプロ2016」では,ボタンを押せばスキップできます。しかも二人で遊ぶ場合,1試合の長さを3回,6回,9回から選べるようにしているので,短時間でテンポよく遊べるようになっています。
4Gamer:
野手がボールを捕った時にズズッと後退する,あの感じも再現してしまったんですね。
国原氏:
初めはパシッと捕れるようにしていたんですけど,「なんか違う」となりまして(笑),途中で宇野さんに入れてもらいました。どのくらい後退するかも,ファミコン版を極力再現するよう調整しました。
4Gamer:
そういった細かい部分一つとっても,どこまでが再現すべき「燃えプロらしさ」か……という判断基準は,かなりデリケートな感じがします。
吉川氏:
そこをちょっとでも間違ってしまうと,プレイヤーの琴線に触れないので,今回は,「燃えプロ」をファミコンの赤黒カセットで遊んて頂いた方々に向けて作らせてもらいました。音声も,カセットに内蔵された音声合成チップからダイレクトにデジタルレコーディングしたものを実装しています。
喜多村氏:
サウンド関連も,原作の豪華版という作りになっていると思います。
4Gamer:
逆に,ここは劇的に変えたという部分はあるのでしょうか?
国原氏:
元から登録されている選手名の変更機能,オリジナル選手やオリジナルチームが作れるようになっているのが大きいですね。チームは10チーム,選手は100人くらい作れるので,足りないと思ったら,どんどん作ってください。
吉川氏:
ペナントモードで優勝するとエンディングデモが見られるのは,ファミコン版にもありましたが,本作では特別なエンディングも用意しています。
喜多村氏:
これ,見た人はみんな泣くんじゃないですかね(笑)。
国原氏:
ペナントモードの試合数は,30,60,130から選べるようにしています。どんな条件で特別なエンディングが見られるかは,いろいろ試してみてください。
4Gamer:
細かい部分ですが,球場内の看板は,新規の描き起こしですね。
吉川氏:
本当はいろんなところに声をかけて広告を募りたかったのですが,諸々の事情により今回は見送ることにしました。次はガンガン集めたいですね。
ジャレコゲームのリブート攻勢は,ここから始まる
4Gamer:
次……というのは?
喜多村氏:
このタイミングでもうお話ししてしまっていいと思うんですけど,吉川さんとは,今年の年末リリースにむけて「燃えプロ2017」を作るぞと。
4Gamer:
なんと! というか,やはり!
喜多村氏:
「燃えプロ2016」は,「燃えプロ」シリーズがいまの時代にどれだけ望まれているのかを問うために作ったという意味合いもあるんです。実際,うち(メビウス)でこれまでに作ったどのタイトルよりも反響がありました。一番驚いたのは,周囲の反応ですね。経理や総務に銀行などから「燃えプロ,頑張ってください!」っていう話があったということです(笑)。近所の飲み屋さんとかからもです。「メゾン・ド・魔王」(プチデポット開発のインディーズゲームのコンシューマ移植版)のときも,ゲーマーの間ではかなり反響があったんですけど,「燃えプロ」はもはや,社会的な信用レベルですね。
吉川氏:
世間の注目が集まるのは,ある程度予想がついていたのですが,そこで喜多村さんがすごいと思ったのは,ソフトの価格設定です。ダウンロード専売で864円というのは,ベタ移植タイトルでもギリギリの設定だと思います。
喜多村氏:
4Gamer:
潜在的な野球ゲームファンの掘り起こしも一役買いそうですね。
喜多村氏:
PS4は,シェア機能で動画を投稿できるので,渾身のエディットチームを披露する楽しみ方もあります。
4Gamer:
「燃えプロ2016」の対戦プレイはローカルのみ可能ですが,やはりオンライン対戦を期待してしまいます。そのあたりについては……?
喜多村氏:
「燃えプロ2017」では,「2016」をベースにしつつ,ネット対戦機能を付けたバージョンとして販売したいと考えています。これがもし売れたら,ほかのタイトルの開発も進むと思います!
4Gamer:
ほかのタイトルって……ジャレコ作品ということですか? ということは「◎◎◎◎◎◎(タイトル名自粛)」や「××××××(同)」の“新作”も遊べるかもしれないんですね!? 言うなれば「燃えプロ2016」は,“ジャレコゲーム・再始動ののろし”ですね。
吉川氏:
以前から別の展開も進めていたのですが,シティコネクションとしては,今後,“メビウス開発のPS4用ソフト”が,目玉の展開の一つになるのは間違いありません。
4Gamer:
レトロゲームファンの一人としては,今後のラインナップも楽しみです! 最後にお一方ずつ,コメントをよろしくお願いします。
国原氏:
内部的にも楽しんで開発できたタイトルで,かなり面白い作りになっています。ファミコン版の完全移植というわけではないので,「この辺が違うぞ」というツッコミは入れないでほしいんですけど(笑),当時ファミコン版を遊んだ人も楽しめる作品になっていると思います。個人的には,エディット機能で自分のチームを作るのが面白いので,友達や家族とワイワイ楽しんでほしいですね。
大石氏:
ファミコン当時のグラフィックスの質感を,十分に再現できたと思っています。当時プレイした方は,昔を思い出して楽しんでいただければと。
宇野氏:
プログラムは自分で一から組んだので,オリジナル版とまったく同じではありません。「どこが違うんだろう」というのを探しながらプレイするのも楽しいかもしれません。「燃えプロ」未経験の方は,最初にルール変更メニューの項目を確認してからプレイしたほうがいいと思います(笑)。
上田氏:
JACLUBの選手は,オリジナルのキャラの細かいところまで再現しています。元になったジャレコゲームを知らない方もいらっしゃるかと思いますが,さまざまな方向性のキャラが8頭身で表現されているシュールさを,視覚的に楽しんでください。
吉川氏:
ジャレコのゲームが新ハードで復活する,1タイトル目になります。2016年が,シティコネクションという会社になってからの“ジャレコゲーム元年”になるよう,いろいろな形で盛り上げていきたいと思っていますので,応援よろしくお願いします!
喜多村氏:
864円という価格と,各モードでどこまで遊べるかを考えると,かなりコストパフォーマンスの高い内容になっています。トロフィー要素もこだわって作ったので,ぜひ買っていただいて,プラチナトロフィー目指してがんばってください! 本作が一定以上の商業的結果を得ることで,次回作,次々回作と続く流れができますのでよろしくお願いします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「燃えろ!!プロ野球2016」公式サイト
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