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「ニーア」シリーズ初のオーケストラコンサート「NieR:Orchestra Concert 12018」をレポート。フルオーケストラで全21曲が演奏
これまで何度か行われてきた「ニーア」シリーズのコンサートだが,フルオーケストラによる演奏は初めてのこととなる。指揮者は大井剛史氏,演奏は神奈川フィルハーモニー管弦楽団,そして演奏中の朗読にエミール役の門脇舞以さんと2B役の石川由依さんが出演し,全21曲が演奏された。本稿ではその夜の部のレポートと,コンサート制作に携わった開発陣へのインタビューをお届けする。
【セットリスト】
NieR:Orchestra Concert 12018
<第一部> NieR Replicant / NieR Gestalt
1.夏の雪
・エミール モノローグ1(朗読:門脇舞以)
2.イニシエノウタ
3.光ノ風吹ク丘
・エミール モノローグ2(朗読:門脇舞以)
4.エミール
5.掟ニ囚ワレシ神
6.愚カシイ機械
・エミール モノローグ3(朗読:門脇舞以)
7.オバアチャン
8.魔王
9.Ashes of Dreams
・エミール モノローグ4(朗読:門脇舞以)
10.カイネ(歌唱:エミ・エヴァンス)
<第二部> NieR:Automata
11.遺サレタ場所
・2B モノローグ1(朗読:石川由依)
12.遊園施設
13.美シキ歌
14.顕現シタ遺物
・2B モノローグ2(朗読:石川由依)
15.「塔」
16.依存スル弱者
17.双極ノ悪夢
・2B モノローグ3(朗読:石川由依)
18.追悼
19.終ワリノ音
・2B モノローグ4(朗読:石川由依)
20.Weight of the World(歌唱:ジュニーク・ニコール)
・エミール,2B モノローグ(門脇舞以,石川由依)
アンコール:全テヲ破壊スル黒キ巨人
(敬称略)
開演前のステージには,ニーアシリーズの楽曲を担当するMONACAの岡部啓一氏が登壇。「“いつかオーケストラで”と言い続けてきたことが,ついに今日現実となって感無量です」と挨拶した。
第一部の演奏は「夏の雪」よりスタート。東京アートアカデミーシンガーズによる美しいコーラスに乗って,スクリーンには都市に降り積もる雪のモノクロ映像が映し出され,物語の始まりを演出する。プレイヤーなら誰もが思い出す名曲のオーケストラアレンジにより,客席を一気にニーアの世界へと引き込んでいく。
演奏の合間には,門脇さん演じるエミールが楽曲のシーンに合わせてセリフを朗読。不治の病に冒されたヨナを助けるために旅立つニーアの強い意志をエミールが語った。
ニーアを象徴する名曲「イニシエノウタ」,そしてフィールドの「光ノ風吹ク丘」に続く4曲目は「エミール」だ。一緒に旅をしたニーアをはじめとする仲間に対する強い想いを語る彼の声の後に流れるこの曲に涙した人も多いのではなかろうか。
コンサートでは初演奏となった「掟ニ囚ワレシ神」は,ボス戦らしい激しい演奏でホール内が緊張感に包まれる中,映像ではこの曲を象徴する悲劇のシーンが次々と映し出され,続く「オバアチャン」や「魔王」も同様に,来場者の心を深くえぐっていく。
そして第一部のラストでは,エンディング曲「Ashes of Dreams」の清らかな演奏が終わり,エミールがカイネに向けて涙ながらに語りかけると,エミ・エヴァンスさんが歌唱する「カイネ」のイントロが静かに流れてくる。フルオーケストラの演奏に負けないエヴァンスさんの心を打つような美しい歌声は,多くの来場者の目頭を熱くさせたはずだ。
約20分の休憩を挟み,第二部はNieR:AutomataのメインBGMとも言える「遺サレタ場所」から始まった。ストリングス主体によるアレンジで,途中から目覚めるような壮大な音楽へと発展していく流れは,BGMという雰囲気を感じさせない。2曲目の「遊園施設」もBGM楽曲ながら,後半に男性のバスボイスが引き立つコーラスパートが入るなど,オーケストラらしいアレンジが施された。
そんな遊園施設でのボス戦で流れる「美シキ歌」は当日演奏された曲の中でもとくに激しいアレンジで,ボーヴォワールが撃ち出す弾幕のような無数の小円が真っ赤なスクリーンの中を飛び回り,彼女の狂気を演出。2曲挟んで「依存スル弱者」と「双極ノ悪夢」でも再び激しいアレンジの演奏が続き,印象的なバトルシーンの多い本作らしい構成となった。
第二部での石川由依さんによる2Bの語りは劇中通りクールながら,9Sやレジスタンスの仲間に対する思いや内に秘めた不安を心の声として明かしていく。
「追悼」では,スクリーンにアダムとイヴの会話が,そして「終ワリノ音」ではポッド達による2Bと9Sの行動ログが映し出され,演奏はついにクライマックスを迎える。自分達が生まれた意義を語り,9Sに感謝の言葉を述べる2Bの声に被さるように,テーマ曲の「Weight of the World」をジュニーク・ニコールさんが歌いあげ,感動の渦に包まれた会場からは,鳴り止まない拍手の中「ブラボー!」という歓声が響き渡った。
再び登壇した岡部氏は「自分達が手掛けた楽曲が,たくさんの人達の手によってこのような形で聴いてもらえたことは,本当に幸せなこと」と語る。また朗読を担当した門脇さんも「今日エミールが言っていたように,私も皆さんに会いたい,ずっとエミールで居続けたい,そんな思いがこんな形で実現しました。また必ずお会いしましょう!」と感極まった声で来場者にメッセージを贈った。一方石川さんは,「NieR Music Concert 人形達ノ記憶」のときに,ヨコオ氏にこうした公演は「もうないよ」と言われて寂しい気持ちになったが,その後台湾公演や舞台,そしてこのオーケストラコンサートが続けて行われ,「ファンの皆さんの愛が,ヨコオさんの『ないよ』という気持ちを覆したんだと思いました」と感激したことを明かした。
最後はエミールと2Bによる掛け合いの朗読から,シリーズに共通する楽曲「全テヲ破壊スル黒キ巨人」へと突入。来場者を圧倒するパワフルな演奏とコーラスで,約2時間半のコンサートを締めくくった。
ここからは終演後に行われた岡部啓一氏,ヨコオタロウ氏,齊藤陽介氏への合同インタビューをお届けする。
――本日はおつかれさまでした。まずは本日の感想を皆さんからお聞かせいただけますか。
齊藤陽介氏(以下,齊藤氏):
以前からずっとやりたいと思っていたオーケストラコンサートを,10周年を迎える前にできたので,後はこの3人が2020年まで生きているようだったら(笑),何かやりたいと思っています。
ヨコオタロウ氏(以下,ヨコオ氏):
今日の感想は,岡部さんが舞い上がって大遅刻したことですね。このコンサートは,オーケストラを中心にやりたいという岡部さんのたっての希望で,まず音楽があってそこに映像を合わせるという手法で演出したんですが,岡部さんが遅刻している間に,僕は朝からずっと映像を合わせる作業をやっていて,本当に大変でした(笑)。もちろんコンサートはすごくいい内容で,冥土の土産ができたなと思いました。
齊藤氏:
岡部さんが遅刻したのは,前の日に台本を読み込んだ結果ですからね。
岡部啓一氏(岡部氏):
本当にそうなんです。言い訳ではないんですが,寝る前に台本を読んでいたらすごく緊張してしまって,寝られなくなってしまったんです。小学生の遠足前日の気分で。で,ウトウトして気付くと電話が鳴っていて,出たら集合時間の30分後だったんです。
ヨコオ氏:
しかも寝起きだから不機嫌で。
岡部氏:
本当に申し訳ない(笑)。感想については,皆さんの夢であり僕の夢でもあったオーケストラコンサートができて,感無量です。僕は冒頭とラスト以外は皆さんと同じように拝見していて,ニーアシリーズの成長を,お客さんと同じ気持ちで感慨深く見ていました。
――本日演奏された曲の中で,皆さんがお気に入りを1曲挙げるとすればどれでしょうか。
ヨコオ氏:
今回僕が文字や画像の演出をいろいろと付けさせていただいて,前半のレプリカント/ゲシュタルトはオーソドックスに悲しい感じでまとめていたんですが,後半のオートマタは反対にもっとパワフルな感じにしたんです。その中で「双極ノ悪夢」は,思い描いた構成通りに音楽がはまって,いい演奏になったと思いました。
岡部氏:
あれは帆足(帆足圭吾氏)の曲なんですが,最初に「スクエニさんっぽい曲」にしようというコンセプトがあって……。
ヨコオ氏:
ちょっと馬鹿にしてる?(笑)
岡部氏:
してないしてない(笑)。「リスペクト」ですよ。それが今回オーケストラバージョンになって,よりリスペクト感が増しましたね。
齊藤氏:
私は今回のコンサートの中でのベストは「カイネ」ですね。昼の部でがっつり泣いたので,夜の部は我慢できるかと思っていましたが,やっぱりダメで泣いてしまいました。ヨコオさんのテキストも,「終ワリノ音」のポッドのアレも,昼夜通して泣きました。改めてこの2人の天才ぶりを感じましたね。
ヨコオ氏:
だって岡部さんが「オーケストラを立てたいから,動画はあまり使わない方向で」って言うから,その結果として,静止画と字で頑張ったんですよ。
岡部氏:
僕としては映像が少ないほうが,制作が楽でもあるのかなと思ったんですけどね。
ヨコオ氏:
ただただ大変でした。そんな岡部さんはどの曲が?
岡部氏:
僕は今回,デモバージョンから今日演奏されるまでの過程を順に聴いていて,それぞれ印象が違っていて,その都度感想も違うんですよね。今日完成したものを改めて聴いて,個人的には「塔」が気に入っています。原曲とはまた全然違って,すごくいい曲にアレンジしていただけたのは嬉しかったですね。
ヨコオ氏:
誰の曲?
岡部氏:
もちろん僕の曲ですよ!(笑)
――先ほどヨコオさんがお話しした「音楽ができてから映像を作る」という手法の具体的なプロセスを教えていただけますか。
ヨコオ氏:
最初にオーケストラの音源,次にボーカルが乗った音源が順に上がってきて,そこから制作を始めました。先ほど話したように「なるべく動画を使わない」といった縛りの中で,各社のスタッフさんにも頑張っていただいて,昨日深夜に最終データを入れるという,ギリギリのところまで作っていました。スタッフが3人ぐらい死んでましたね。
岡部氏:
普通は音楽に映像を付けるときは,クリック音を聴きながらやることが多いんですが,今回はオケっぽく,テンポも揺らしながらやりたいという要望を出した結果,「リアルタイムで映像のタイミングを合わせる」という演出になってしまったんです。
ヨコオ氏:
映像は1つの動画になっているんですが,再生スピードを音に合わせて手動で調整してシンクロさせているんです。だからスタッフさんはものすごい大変なんですよ。見ているこっちは常にハラハラしていて,だから映像がなかったアンコールの曲は本当に安心して聴けました。おかげさまで,皆さんには喜んでいただけたようで,スタッフさんには感謝しております。
――岡部さんの遅刻以外に,何か印象的な出来事などはありましたか。
岡部氏:
事故的なものはなかったですが,先ほどの映像をシンクロさせる演出に関して,リハやゲネプロなどで演奏するたびにテンポが少しずつ違っていて,オケって生き物なんだということを改めて思いました。僕はそれを面白く聴かせてもらいましたが,スタッフさんは大変だろうなと思いながら見ていました。
――ニーアシリーズの次の野望はありますか。
岡部氏:
音楽的にはずっと夢だったオケコンが終わって,気持ち的には一段落しているんですが,次は夢だったこの形をどれだけ多くの人に聴いていただけるのか,という野望はあります。
ヨコオ氏:
最近本当に海外公演を口にするようになったんですよ。超感じ悪い(笑)。
岡部氏:
逆に言うとそれ以外ないですからね。あくまで夢ですよ。オケコン自体も夢だったで,今回それが叶ったので,次も夢見ています。
――最後にファンの皆さんに一言ずつお願いできればと思います。
ヨコオ氏:
今日のコンサートは,チケット高いのに来てくださってありがとうございます。昔からニーアシリーズを愛していただいて,グッズを買ってもらって,それがこの公演に結びついたと思います。皆さんが支えてくださったことが今日に結実していて,本当に感謝いたします。
齊藤氏:
今回のコンサートはかなり大きな会場で,僕らもどうなるか分からなかったんですが,昼も夜も満席で嬉しかったです。このキャパでもチケットを買えなかった方がいて,世界公演は大げさですが,もしチャンスがあれば名古屋や大阪などでも開催したいという夢はあります。それも難しい場合は,何かしらの形でお手元に届ける可能性もありますので,ご期待ください。
岡部氏:
僕もお2人と同じ思いです。手前味噌ですがとてもいい公演だったと思っていて,もし今日来られなかったという方は,ニコニコ生放送の有料配信を見ていただければ,楽しんでもらえると思っています。
本当にいろいろな方々の御協力により積み上がった集大成となりましたので,ご来場いただいたファンの皆さんと,協力いただいたスタッフの皆さんには感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました。
ニコニコ生放送では夜公演の模様のタイムシフト視聴が可能です(2018/10/16(火) 23:59までご視聴いただけます)
販売期間:2018年10月10日(水)23時59分まで
2,500ニコニコポイント(税込 2,500円)
URL:http://live.nicovideo.jp/watch/lv314491280
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