インタビュー
Nintendo Switch「Champion Jockey Special」プロデューサーインタビュー。“体感ジョッキーアクション”へのこだわりとは
Wii。以下,Champion Jockey: GR&GIJ)をベースに,Nintendo SwitchのJoy-Conを使った直感的な操作に対応するほか,最新の競走馬データも収録している。
約6年ぶりとなるシリーズ最新版のセールスポイントや開発秘話を,プロデューサーの山口英久氏に聞いたので,その模様をお届けしよう。
なお,このインタビューには,事前に本作を試遊したうえで臨んでいる。そのプレイレポートは後日掲載の予定なので,そちらも楽しみにしてほしい。
ジョッキーのアクションを体感できるプレイスタイル
4Gamer:
まずは6年ぶりにシリーズを復活させることになった経緯から聞かせてください。
6年前にリリースした「Champion Jockey: GR&GIJ」や,その前身となる「ギャロップレーサー」「ジーワン ジョッキー」シリーズのファンのみなさんから,「最近は競走馬育成が主体の『Winning Post』ばかり出ているけど,ジョッキーゲームは出さないのか」という要望をいただいていました。
会社としての事情などもあって,なかなかお応えできずにいましたが,Joy-Conという独自のコントローラを備えたNintendo Switchが登場したのを機に,開発を決定したんです。
4Gamer:
「Champion Jockey: GR&GIJ」もPlayStation MoveやKinect,バランスWiiボードなどに対応していましたが,直感的な操作は,やはり本作にとっては欠かせないものなんですね。
山口氏:
遊び方は人それぞれですので,絶対に必要というわけではないのですが,実際の騎手のような操作ができると楽しいでしょうし,Nintendo Switchというハードがさまざまなスタイルで遊べることも意識しました。Joy-Conは本体に付属する機器で,別途購入する必要もありませんし。
4Gamer:
Joy-Conでの操作におけるチューニングには,かなり時間をかけたと聞きましたが。
山口氏:
ゲームとしては移植に近く,主な内容は「Champion Jockey: GR&GIJ」を踏襲していますが,新要素となるJoy-Conでの操作にはこだわりました。実際のジョッキーが騎乗中に行う動作をできる限り再現しているので,開発側としては一番遊んでほしい操作系ですね。
4Gamer:
激しくムチを入れると,結構疲れます(笑)。
山口氏:
あまり激しく振らなくても操作はできるようにしていて,むしろ振りすぎないほうがいいくらいなんです。でもテストプレイなどで遊んでみると,熱くなって思い切り振っちゃうんですよね(笑)。
4Gamer:
分かります。それだけ熱中できるということですね。大勢でプレイすると楽しそうです。
山口氏:
盛り上がると思います。実は今でも「Champion Jockey: GR&GIJ」を競馬場などのイベントで貸してほしいというオファーがあるんです。本作もまさしくそういったイベントに向いていると思うんですよね。
4Gamer:
操作はほかにどんなものがあるんですか?
山口氏:
片手に持ったJoy-Conだけ操作するものもあります。もちろん,できるだけ緻密に操作したい方に向けて,Joy-ConグリップやProコントローラに向けたものも用意していて,合計6種類から選べるようにしています。
4Gamer:
先ほど話にも出たように,「Champion Jockey」シリーズは「ギャロップレーサー」と「ジーワン ジョッキー」が1つになったものですが,山口さんが考えるそれぞれの魅力を教えてください。
山口氏:
ギャロップレーサーは,スピード感や爽快感を重視していて,競馬ゲームでありながら,プレイ感覚はレースゲームに近いものでした。最後の直線でぶっちぎる気持ちよさを引き出すために,細かな操作などは極力排除していましたから,慣れると連戦連勝できるんです。
一方ジーワン ジョッキーは,ジョッキーのシミュレーターに近いゲームデザインだったと思います。手前を替えるなどの細かい操作も可能でしたから。
4Gamer:
手前を替えるとは,どういうことでしょうか。
山口氏:
馬は走るときに左右の脚を均等に使っているわけではないのですが,ずっと同じ走り方をしていると一方の脚に負担がかかってしまうので,騎手はコーナーなどに合わせてにそれをコントロールしています。それを「手前を替える」と言うんです。
4Gamer:
騎手は馬のそんなところまで操っているんですね。
山口氏:
以前,実際にプレイしてもらったジョッキーの方に「これ本物っぽいね」とお墨付きをもらったほどで,完全にシミュレーター感覚なんです。
「Champion Jockey Special」では,ギャロップレーサー風の「GR」スタイルと,ジーワン ジョッキー風の「GIJ」スタイル,自分でカスタマイズする「Customスタイル」を用意していますので,自分に合った操作で楽しんでいただけると思います。
4Gamer:
その「GRスタイル」と「GIJスタイル」ですが,レースでの有利不利はあるのでしょうか。
山口氏:
「GIJスタイル」で操作できると,若干有利かと思います。「GRスタイル」だと手前を替えるのは自動になるのですが,「GIJスタイル」では手動なので,最後の直線で手前を替えると,ちょっとだけ伸びるんです。違いはそれくらいですね。
“馬に任せる”ことでも勝利できるバランス
4Gamer:
本作ではNintendo Switch版「Winning Post 8 2017」との連動要素もありますね。
山口氏:
はい,ちょうど開発の時期が同じということもあり,ぜひ入れたいと思いました。Winning Post 8 2017で育てた馬にChampion Jockey Specialで乗ることができたり,逆にChampion Jockey Specialの騎手をWinning Post 8 2017に参戦させたりできます。
4Gamer:
同じ競馬ゲームとはいえ,内容は大きく異なりますので,データをうまく合わせるのは難しそうですが。
山口氏:
技術的には難しくありませんが,ゲームのジャンルが違いますから,合わない部分がいろいろ出てくるんです。とくにWinning Post 8 2017の競走馬データはかなり細かいものになっていますので,Champion Jockey Speicialとのすり合わせやバランス調整が大変でしたね。
4Gamer:
データといえば,本作の史実馬のデータは1万2000頭分もあるそうですね。Winning Postほど細かくはないにしても,違うパラメータを1万2000頭に設定して,管理するのは大変だと思うのですが……。
はい(笑)。基本はJRA(日本中央競馬会)さんなどが出しているデータベースを参考に,当社の独自のデータ処理方法を使用しています。例えば「脚質」みたいなデータは,なかなか機械的に決められるものではく,印象が与える影響も大きいので,プレイヤーのみなさんの印象とずれないよう,最後は1頭1頭手入力で調整しています。とにかく人海戦術で作りました。
4Gamer:
手入力ですか。気が遠くなりますね。
山口氏:
前作から6年経っていますから,そのぶんのデータの更新もしなくてはいけません。例えば三冠馬「オルフェーヴル」のデータは前作にも入っていましたが,2歳のときのものでしたから,正直,能力はそこそこレベルでした。その後とんでもない馬になりましたので,当然それは本作のデータに反映させています。この辺り,発売後の成長をどこまで見極められるか,かなり難しいですが,開発チームの腕の見せどころでもありますね。
4Gamer:
さきほど話に出た,プレイヤーの印象に近づける調整も大変そうです。
山口氏:
今作で「ゴールドシップ」に乗りたいというプレイヤーさんが多いのですが,この馬はクセ馬として有名なんです。先日データができあがってきたときに乗ってみたんですが,私の騎乗との相性が悪いのか,とにかくスタートや追走にむちゃくちゃ苦労して(笑),本当のジョッキーもこのぐらい苦労して乗っているんだろうなということを感じました。このように個性が際立っている馬については,かなりこだわって作っていますね。
4Gamer:
収録する競走馬の基準はどのあたりなのでしょうか。
山口氏:
中央競馬の競走馬については,過去の重賞級やオープン馬はほぼ完全に押さえています。それより下のクラスの場合は,最近活躍している馬が多いですね。もちろん海外馬や地方馬についても,重賞やGIで活躍しているような馬を相当数収録しています。また一部架空の馬なども登場します。
ストーリーモードは1983年以降の好きな世代から始めることができますが,お目当ての馬が出てくる2〜3年前から始めると,自分が重賞の常連になったぐらいのところで出てくるので,オススメです。国内を制覇すると,次はヨーロッパでナンバー1を目指すことになるので,かなり長く遊んでいただけるのではないでしょうか。
4Gamer:
好きな馬に乗るのはもちろんですが,自分に合った馬を探すのも面白そうですね。
山口氏:
はい。基本的には,集団の中でレースを進める先行馬や差し馬が乗りやすいと思います。逆にレースを引っ張る逃げ馬や,最後の直線で一気にほかの馬を抜き去る追い込み馬は難しいですね。逃げ馬はオーバーペースになりがちですし,追い込み馬はスタートをうまく決めると前に出てしまったり,最後の直線で内に入ると前の馬が壁になってしまったりという,やっかいなところがあります。
4Gamer:
馬は生き物ですから,車などと違い,あてにならない部分もあると思いますが,そのあたりはいかがでしょうか。
山口氏:
確かに,システマチックに作るとどうしても機械感が出てしまい,乗り方が決まってきたりします。馬の乗り方についてジョッキーに話を聞くと,必ず「馬の邪魔をしない」という答えが返ってくるので,それをゲームに生かしたいなと思いました。
馬への指示が多少ずれてしまったり,馬の脚質に合っていない走りをしたとしても,勝つ可能性を残しておくことで,乗り手はその馬の力を信じられるようになりますから。
4Gamer:
何もせず,馬に任せて勝てることもあるということですね。
山口氏:
結果的にそういうこともありうるバランスに設定しています。実際の競馬でも,馬に任せるほうがいい場合はありますし。中継でカメラが向こう正面を捉えているとき,ジョッキーが激しく手綱を動かしている馬は,あまりよくない状態のことが多いですからね。
本作では,勝負の厳しさより,「馬に乗って勝てて嬉しい」という部分を強調しています。もし物足りないと感じたら,難度を上げたり,ユーザーインタフェースを消して,感覚だけで乗ってみたりするといいかもしれません。
4Gamer:
難度はどのようなところで調整しているのでしょうか。
山口氏:
馬の能力や,操作判定のシビアさなどですが,実際に変更するとはっきり違いが分かると思います。
ゲームをきっかけに,競馬の面白さをユーザーに伝えたい
4Gamer:
ところで,山口さんは何をきっかけに競馬が好きになったのでしょうか。
山口氏:
中学生の頃,競馬好きの父親がテレビで見ていた日本ダービーで,「ミスターシービー」という馬が後方からぶち抜いて勝つのを見て,衝撃を受けたのがきっかけでしたね。そこから興味を持って見るようになり,馬券を買えるようになってから,さらにのめり込みました。
4Gamer:
競馬ゲームを手がけることになったのも,競馬好きだからですか。
山口氏:
結果的には,ですね。テクモ(当時)に入社後,まったく競馬に関係ないゲームを作っていましたが,競馬好きだということは公言していて,それで「ギャロップレーサー3」の担当になりました。それからずっと競馬ゲーム人生です(笑)。
4Gamer:
大井競馬場での冠レースを定期的に開催するなど,コーエーテクモゲームスは競馬を盛り上げる取り組みに積極的ですが,手応えはいかがですか。
山口氏:
実際にゲームを遊ばれている方が来てくれることも多くて,私どもとしてはそういった方々と対面できる,大変貴重な場だと考えています。実際の競馬とゲームの両方を楽しんでもらえるような場を作っていけるように,少しでも力になれればというのが,私個人としての見解ですね。
あの広大なトラックを重低音を立てて走る馬を見るのは非日常の体験ですし,さらに馬券を買っていれば,当たった外れたの悲喜こもごもも楽しめます。それを少しでも知ってもらえる機会を作っていきたいですね。
4Gamer:
競馬場は実際に行くと,その巨大さに驚かされますし,馬という生き物がいるせいか,ほかのスポーツの会場とは違う,独特の雰囲気がありますよね。
山口氏:
そうなんですよ。今はインターネット投票が当たり前になってしまいましたが,馬が好きならあの場にいるだけでもテンションが上がりますし,生の馬を見たり,新聞の予想を参考にしたりして,その場で馬券を買えるのも独特ですよね。
4Gamer:
今作でシリーズ作品を初めてプレイする人もいるかと思うのですが,そういった方々も含めて,どのように遊んでほしいですか。
山口氏:
前作のプレイ経験があるなしに関わらず,競馬ファンであれば,競走馬に乗れるのは,やっぱり嬉しいと思うんですよね。私も含め開発陣が,それぞれの大好きな馬に騎乗して,チェックという建て前でずっと遊んでいますから(笑)。
また,競馬をそれほど詳しく知らなくても,レースゲーム感覚で楽しんでいただけますので,これをきっかけに競馬を好きになっていただければ,私どもとしても嬉しいですよね。
4Gamer:
ゲームだけでなく,本物の競馬も盛り上げたいんですね。
山口氏:
もちろんビジネスではありますが,作っているのが全員競馬ファンなので,ゲームを通じて競馬の人気が高まってくれることが,実は一番の望みなんです。過去にもゲームで競馬を覚えたという方は多いと思いますし,私はそれが今でも可能だと思っています。
とくにこのChampion Jockey Specialはアクションゲームなので,ゲームとしてもより入りやすいですし,Nintendo Switchをお持ちでしたら,ぜひ手にとっていただきたいです。
4Gamer:
発売を楽しみにしています。ありがとうございました。
「Champion Jockey Special」公式サイト
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