インタビュー
フルスペックのアケコンで世界進出を目指すQanbaとは,どんな会社なのか。中国気鋭デバイスメーカーのキーマンに話を聞いてみた
Mad Catzが抜けた穴を埋めるように,中国のさまざまなアケコンメーカーが参入する中,Qanbaは製品のクオリティが高く,格闘ゲームファンの間では数年前から知る人ぞ知るメーカーではあった。これまでも国内の代理店を通して製品が日本に入ってくることはあったのだが(関連記事),それはごく一部の製品に限られていた。
今,そのQanbaが本格的な日本進出を考えはじめているという。多くの競合製品がひしめき合う日本市場を彼らはどう考えているのだろうか。東京ゲームショウ2017に合わせて来日した,Qanbaのキーマン達に話を聞いてみた。
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Qanba公式サイト(中国語)
QanbaUSA公式サイト(英語)
2009年に中国で生まれたQanba
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,Qanbaという会社について,改めてご説明いただけますか。
Qanbaは,2009年に中国で設立されたゲーム周辺機器メーカーで,主に格闘ゲーム向けのアケコンを開発し,制作,販売しています。自分自身がもともとゲーム好きで,とくに「KING OF FIGHTER'S 97」の熱心なプレイヤーでしたから,自分にとって使いやすいアケコンを作ろうと思ったんです。
4Gamer:
2009年というと……ちょうど「ストリートファイターIV」のコンシューマ版が出た頃でしょうか。
Xianglong氏:
ええ。当時は中国のゲーム周辺機器メーカーで営業として働いていたのですが,当時の中国には自分達が納得できるようなアケコンはありませんでした。なので,最初はハンドメイドで,木製のアケコンを作りました。それがQanbaの始まりで,そこから徐々に大きくなっていったんです。
4Gamer:
Mad CatzやHORI製のアケコンは,中国では手に入らなかった?
Xianglong氏:
はい。もちろん,海外には高品質なアケコンがあることは分かっていましたが,そうした製品は中国に輸入できないので,手に入れることはとても難しかったんです。なので,中国の当時のゲーマーは皆,手作りのアケコンを使っていました。後になって中国メーカーのアケコンが発売されましたが,品質はあまり良くありませんでした。
4Gamer:
なるほど。それでQanbaを立ち上げたと。当時なら,PS3とXbox 360用ですよね。
Xianglong氏:
会社を設立した当初の製品はPC用でした。PS3がまだ中国で輸入販売されていなかったので,格闘ゲームもPCが主流だったんです。それからPS3が入ってきたらPS3用を,Xbox 360が来たらXbox 360用を,という形でラインナップを広げていきました。とくに設立2年目の2010年にリリースしたQ3は,三和電子製パーツを採用していて,かつサイズも質感も立派になり,海外で名前が知られるきっかけにもなりました。現在は最新のプラットフォームであるPS4,そしてPS3とPCに対応した製品を主力に展開しています。
4Gamer:
アケコンが中心のラインナップですが,それ以外の製品もあるのでしょうか。
Xianglong氏:
アケコン以外ですと,現在はキャリーバッグや自社開発のボタンなどを販売していますが,どちらもアケコン製品のアクセサリーにとどまっています。違うジャンルに挑戦するチャンスもあったのですが,これまでは格闘ゲームにこだわった製品開発をしてきました。でも,これからは事業を広げなくてはならないので,ほかのジャンルにも製品にも挑戦していきたいと思っています。
4Gamer:
ちなみに,社名であるQanba(拳覇)には,どういう意味が込められているのでしょうか。
Xianglong氏:
“拳”はボクシングとか殴るという意味があって,“覇”は「覇王」の短縮系で,一番とかベストであるという意味になります。つなげた拳覇は造語ですが,英語で言えば“Best at fighting”といったところですね。
4Gamer:
まさに格闘ゲームを象徴したような社名,ということですね(笑)。
PCとPlayStation 4に対応する,4モデルの現行機種
4Gamer:
では,今回お持ちいただいた製品について紹介してもらえますか。
Xianglong氏:
はい。一番左の製品が「Drone(ドローン)」で,ビギナーあるいはカジュアルプレイヤー向けのローエンドになります。軽量でかつ,側面にケーブルを収納できるスペースがあって持ち運びやいのが特徴です。その隣が「Crystal(クリスタル)」で,こちらはミドルレンジ向けの製品になります。LEDを搭載していて,プレイ中に光るのがポイントですね。モードの切り替えで,ボタン押下時,バイブレーション連動,常時ONの3つの発光パターンが選択できます。
4Gamer:
これは……ボタンとレバーは自社製ですか?
Xianglong氏:
はい。この2製品には,自社開発のボタンとレバーを搭載しています。ただ,ボタンやレバーのサイズや配置は上位機種と同じですし,ボタンのスイッチには三和電子製と同じオムロン製のものを使い,低価格ながら同等の操作感を実現しています。
4Gamer:
なるほど。確かに違和感はあまりないですね。
Xianglong氏:
我々がスポンサードしているプロプレイヤーだけでなく,世界中のプレイヤーから意見を求め,調整を施しています。低価格の製品であっても,レバーやボタンのサイズはやはり標準サイズでなくてはなりません。すべてのプレイヤーに本物のアケコンを届けたいというのが,Qanbaのこだわりなのです。
4Gamer:
低価格でもフルスペックだと。残る二つはハイエンド向けですか。
Xianglong氏:
ええ。ハイエンド向け製品である「Obsidian(オブシディアン)」と「Dragon(ドラゴン)」の2機種は,三和電子製のボタンとレバーを採用しています。どちらもタッチパネルやLEDを搭載したフルスペックモデルですが,大きな違いはDragonにのみ搭載された開閉機構でしょうか。
4Gamer:
どちらも筐体の素材が金属になって,デザイン的にも高級感があります。これはボタンの換装は可能なんでしょうか。
Xianglong氏:
レバーやボタンの接続には半田付けを使わず,ローエンドを含むすべての機種がリセプタクル(ファストン)端子接続になっています。Dragonはボタン一つで開閉可能なのでメンテナンスフリーですし,ほかの機種についてもケースを開ける必要はありますが,ボタンやレバーの換装は簡単に行えます。好みに合わせてボタンやレバーを変更するユーザーが多いので,そういった要望には応えられるようになっています。
4Gamer:
ボタンの配置は,VEWLIXですか。
Xianglong氏:
厳密にはVEWLIX配置ではなく,ゲーマーからの意見を反映して微妙にレイアウトを調整してあります。
4Gamer:
とくに鉄拳シリーズのプレイヤーには,ノアール配置を好むプレイヤーも多いと思うのですが。
製品化はしていませんが,Echo Fox所属のSaint選手とJDCR選手には,カスタマイズしたノアール配置,かつナスレバーを搭載したDragonモデルを提供しています。現時点でお約束はできませんが,将来的には別のレイアウトやパーツを採用したモデルを展開する可能性もあります。
4Gamer:
分かりました。ところで,近年格闘ゲームプレイヤーの間で取り沙汰されるアケコン関連の話題として,入力遅延の問題があります。同じメーカーの製品であっても,機種ごとに入力時に発生する遅延が異なるというのものですが,Qanbaとしてはこの問題についてどうお考えなのでしょうか。
Jeffrey氏:
入力遅延について,今のところその値がセールスポイントになるとは考えていません。なので大きくアピールこそしていませんが,もちろん社内的には調査して,問題がある場合にはファームウェアのアップデートで対処しています。製造に携わっているスタッフ達も製品を熟知したベテラン揃いですし,そうした問題があった場合はすぐに対応できます。
4Gamer:
なるほど。生産は自社の工場で行っているのですか?
Xianglong氏:
はい。開発も生産も,深センにある自社工場で行っています。ここにいるTan(Vice PresidentのTan GuangHua氏)がそのリーダーなのですが,従業員は全員が正規雇用で,かつゲーマーでもあるんです。
4Gamer:
え,本当に? それはすごいですね。
Xianglong氏:
単純に人手を増やせば量産は容易いのですが,それでは私達の求める品質が担保できないんです。例えばラインの担当者が抜けてしまうと,それまでの組み立てノウハウが失われてしまいますし,今作っているのがどういう製品なのか,理解しないまま製品が出荷されてしまいます。
4Gamer:
それはよく分かります。
Xianglong氏:
従業員がゲーマーであることの利点は,自分達でどういう機能があったらいいかを考えて,それを製品に反映できることにあります。それが高い品質を保証すると同時に,次の製品へのアイデアにつながる。そうした知識や経験が,今のQanba製品を支えているのです。
4Gamer:
しかし,よく人材が集まりましたね。さすがは中国といったところでしょうか。
余談ですが,このAndyは,EVO2007の「鉄拳5 DARK RESURRECTION」部門で7位に入賞したこともあるんですよ。
4Gamer:
おお。今も現役なんですか?
Andy Lam氏(以下,Andy氏):
ええ,今年のEVO2017にも参加しまして,あまりいい成績ではないですが,64位でした。日本のユウ選手やノビ選手,ミシマスター選手とは,今も交流があります。
4Gamer:
ではAndyさんのプレイヤーとしての意見も,製品に反映されているわけですね。
Andy氏:
そうですね。自分のようにアーケードでのプレイに慣れていると,やはり「安定していて動かない」ことが大事だと感じます。そうしたこだわりが反映された結果,Dragonのようなハイエンドモデルが生まれたんです。
Jeffrey氏:
補足になりますが,プレイヤーからのフィードバックは,中国本土はもちろんのこと,日本や韓国,北米や欧州圏からも可能な限り集めるようにしています。我々はサンフランシスコにも営業拠点を持っていますし,そこでプロモーションや開発チームへのフィードバックをとりまとめているんです。
グローバル展開を目指すQanbaと日本市場
4Gamer:
では,Qanbaの日本での展開について聞かせてください。現在のところ,Qanbaのアケコンは日本で発売されていません。こうして来日されたからには,少なからず日本市場について考えていると思うのですが……。
Jeffrey氏:
おっしゃるとおり,いまのところ日本では,Qanbaの製品を買うことはできません。これは主に,ライセンスの関係ですね。北米や欧州,それからアジア地域とは,リージョンが異なりますから。ですが,もちろん日本の市場には興味があります。
4Gamer:
ということは,近々日本でもQanbaの製品が買えるようになる?
Jeffrey氏:
ええ。Qanbaではグローバル展開の一環として,一日も早く日本の皆さんに製品をお届けするべく準備を進めています。日本の格闘ゲーマーやコミュニティの皆さんに,Qanba製品でのゲームプレイを楽しんでいただきたいですね。
4Gamer:
それは格闘ゲーマーとしては嬉しい限りです。しかし現在の日本市場は,今おっしゃった北米や欧州,アジア地域に比べて,そこまで大きな市場ではないのでは?
Jeffrey氏:
我々から見た日本は,やはりアーケード文化が生まれた場所でもありますし,世界的に見ても成熟したマーケットだと考えています。ですから,そこに自社の製品を投じることには,単なる販売台数といった数字だけでない価値があると認識しています。
4Gamer:
なるほど。
Xianglong氏:
それに日本のプレイヤー達は,常に最先端のテクニックを生み出し,アケコンの仕様に新しい風を吹き込む先駆者でもあります。そうした人達に我が社の製品を使ってもらうことは,Qanbaの製品が“本物”であるのことの証左になるでしょう。
4Gamer:
そういえば,Qanbaはプロプレイヤーのスポンサードにも熱心ですよね。Xiaohai選手やDakou選手,Abao選手といった中国の選手はもちろんのこと,日本のときど選手,ももち選手,韓国のSaint選手,JDCR選手といったEcho Fox所属のプレイヤーとも契約されたとか。
Jeffrey氏:
はい。将来にはもっと多くの,そして広い地域のプレイヤーにTeam Qanbaの門戸を開いてきたいと考えています。また,今年のEvolutionやTekken World Tourに協賛したように,イベントへの協力も積極的に行っていきたいですね。
4Gamer:
期待しています。最後に,日本の格闘ゲームファンに向けて,何かメッセージをいただけますか。
Xianglong氏:
最初にお話ししたとおり,Qanbaはもともと「自分達にとって使いやすい製品」を生み出すべく,立ち上げた企業です。これからもそれを忘れず,初志貫徹でやっていきたいと思っていますので,応援よろしくお願いします。
Jeffrey氏:
事実上のアケコン専門メーカーとして,より多くの,そして世界中のプレイヤーのニーズに答えるべく,今後も製品を開発していくつもりです。ローエンドからハイエンドまで,フルスペックの製品を提供していきますので,皆さんぜひ期待していてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
Qanba公式サイト(中国語)
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