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[CEDEC 2019]さまざまなIPのキャラがフェアに対戦するための工夫とは。「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」の絵作りを開発陣が語る
各キャラクターの見え方が違っていてはフェアにならない
さて,今更説明するまでもないかもしれないが,スマブラSPといえば「さまざまなキャラクターをふっとばして遊ぶ,対戦型アクション」だ。これを表現するにあたって,ディレクターの桜井政博氏は,開発初期に「さまざまなキャラクターが同時に違和感なく存在すること」「さまざまなステージがそれぞれ魅力的に描けること」「フルHD/60fpsであること」という,3つのコンセプトを提示したそうだ。スマブラSPは,開発規模の大きなプロジェクトであり,この明快なコンセプトは有効だったと池沢氏は述べる。
では,このコンセプトをどのように実現していったのか。まず「さまざまなキャラクターが同時に違和感なく存在すること」については,「フェアでなければならない」ということが重要になる。
例えば,原作のフォックスとマリオのデザインを考えてみよう。フォックスは比較的リアルなタッチで,毛の1本まで細かく描かれている。一方,マリオはカラフルでデフォルメの効いたキャラクターだ。この2人をそのままのテイストでスマブラSPのステージに登場させた場合,フォックスは背景に溶け込んで見づらく,マリオは逆に浮いて目立って見えてしまう。これで対戦をしたなら,明らかにマリオが不利だ。とくにスマブラシリーズは,悪目立ちしたキャラクターが集中攻撃を受けやすい。そのため,すべてのキャラクターをフェアな状態で戦えるよう表現する必要があるわけだ。
均等な見え方を実現するため,開発チームは「デフォルメのバランス」「明度,彩度のバランス」「質感,陰影のバランス」を調整している。
フォックスであれば,影の濃さなどの明暗のバランスを調整しつつ,毛の情報量を抑えて,ディテールの描き込みよりもシルエットに重きを置いたデザインに。マリオであれば,オーバーオールの描き込みを増やしてややリアルタッチに,色味も少し落ち着いた雰囲気に調整されている。
とはいえ,すべてのキャラクターをまったく同じテイストに揃えては,個性がなくなってしまう。スマブラSPでは,どの程度歩みよるのか,どの程度個性を持たせるのか,桜井氏が1体1体すべてのキャラクターをディレクションしているそうだ。
また,スマブラSPの開発初期,絵作りの足掛かりとして,桜井氏からあるお題が出されたという。それは「戦場のステージで,マリオとリンクが戦っている様子の2Dイメージ」を作るというものだ。マリオとリンクはデフォルメのバランスが異なっているほか,肌や布,皮,金属といったさまざな質感を確認できる。そして戦場は,スマブラオリジナルのニュートラルなステージであり,構成はシンプルながら絵作りに必要な要素がすべて詰まっており,お題にぴったりだったと池沢氏は話していた。
これらを踏まえて,以下の2Dイメージが制作された。
本作の絵作りで注力しているのが,自然なライティングだ。参考のために,屋外でフィギュアを撮影することもあったそうだが,ここで注目したいのが,フィギュアの帽子部分に当たっている青い光である。この光は,青空からの光だけでなく,周囲にあるものが映り込んだ(色が回り込んだ)結果,青く見えている。しかし,ゲーム上でこれを表現しようとすると,これまでのレンダリング方法では単純に青く照らすことはできても,色を回り込ませる表現は比較的困難だったという。
また,間接光も強化している。間接光は,キャラクターがどこに立っているかを表現するために必要なだけでなく,「さまざまなキャラクターが同時に違和感なく存在すること」を表現することにおいても役に立つ。
そして肌の血色や,布や皮,金属といった素材の質感もこれまで以上に向上させるという方針が,2Dイメージで決まっていったそうだ。
ステージは「アート」と「ゲーム」の両面で制作
続いては「さまざまなステージがそれぞれ魅力的に描けること」について。103種あるスマブラSPの大乱闘モードのステージには,過去作から登場しているものが数多くある。スマブラSPにおいては,原作らしさを損なわずに,これらのクオリティを引き上げることに注力したそうだ。
しかし,それらはあくまで「アート」面での話だ。ステージ作りにおいては「ゲーム」面,つまり視認性も非常に重要となる。スマブラは,ステージから落下することがペナルティになるため,どこで落ちるのか,どこに着地できるのかをきっちりと把握できなければならない。対戦格闘ゲームなどに比べて,足場の視認性の重要度が高いのだ。
そこでスマブラSPでは,ステージを奥行きによって「遠景」「中景」「近景」の3つのレイヤーに分けて描いているという。近景になるほど強調して描くことで,足場を分かりやすくしているのだ。なお,キャラクターが立つ部分は「正中線」としてまた別に扱われている。
ステージによっては,正中線のすぐ後ろにオブジェクトが配置されていることがある。この場合,レイヤー分けでの微妙な差では正中線が視認できない。そこで行われているのが,床の強調だ。
例えば,機械が存在する世界のステージであれば,床の側面にライトを仕込むことで,どこが床なのかを分かりやすくできる。ライトの配置が難しいステージでも,ストライプにするなど原作にふさわしいモチーフを用いたり,側面を暗くしてコントラストを強くしたりして,「ここは乗れる」と一目で分かるようにしている。
スマブラオリジナルのステージである戦場を例に,ステージの絵作りのポイントも紹介された。
1つめは「よく見る場所を作る」というもの。スマブラSPのステージは,正面から,かつカメラを引いた状態で一番見栄えが良くなるように作られている。
また,架空の世界とはいえ,ステージ中のオブジェクトに古代と中世のものが配置されているなど,時代が異なるものが混ざっていては違和感が生じてしまう。そこで「文化・時代の統一」が2つめのポイントとなる。
3つめのポイントは「構成」だ。構成については「空間の抜け」「非対称」「崩し」の3つがある。「空間の抜け」は,画面の中のどこかに,あえて隙間を作るというもの。画面の中にたくさん情報を入れたいと思っていても,あまりに詰まっていると,窮屈に感じてしまうからだ。とくに戦場は,全方向に開けた気持ちの良いステージとなっている。
「非対称」は,自然物を描くときは非対称にするというもの。対称のデザインは安定感があるが,使える場所が少ない。古戦場はステージの作りを対称にしつつも,見た目は非対称になるようにしているという。
「崩し」は,岩やブロックが並んでいるところは,同じような大きさや形のもので構成するのではなく,あえて大小を織り交ぜて不規則にしていくというものだ。
4つめのポイントは「ライティング」。各オブジェクトに,同じ光源からの光が当たっているか,それぞれが固有色を主張していないか,立体感が損なわれていないかなどを意識している。戦場は逆光になっているが,環境光だけでは光が弱く,のっぺりして見えてしまうので,レフ板を設定し反射光を当てて立体感を表現しているとのこと。
5つめは「風合いの差について」。ゲーム中,長い面や広い面を描くことがあるが,均一な表面を保っているものは生産されたばかりの工業製品のようで不自然だ。そこで,その場所の経年劣化,汚れ,くすみなどを想像して,効果を足していくのが有効だ。
フルHD/60fpsを実現するための工夫
最後は「フルHD/60fpsであること」のコンセプトについて中村氏が紹介した。
スマブラSPにおいて,キャラクターの視認性のためにフルHDであることは外せなかったという。カメラの引きによっては,キャラクターがわずか24×39ドットで描かれることもあり,その状態で何をしているのかが分からなければならないので,高い解像度が必須となる。
また,対戦型アクションである以上,紙一重での攻防をストレスなく行いたいと考えると,60fpsを維持したかったと中村氏は述べる。
昨今の対戦ゲームにおいて,「フルHD/60fpsは普通じゃない?」と思うかもしれないが,スマブラSPにおいては簡単なことではなかったという。スマブラSPの場合,最大8体のファイター,ステージ,アイテム,アシストフィギュア,ポケモン,エフェクト,UI,最後の切り札やステージ変化といった突発的な演出など,GPUで処理しなければならない要素が多いのだ。
では,フルHD/60fpsの実現のため,開発チームはどういった対策を行っていったのか。
まず最初に,Nintendo Switchのハード性能の検証を行った。桜井氏から,「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」をそのままNintendo Switchに移植するよう指示があり,これによって性能的に「どのぐらいの挑戦ができるのか」が明確になったため,非常に役立ったという。
こうしたさまざまな対策を取っても,60fpsを維持できないシーンが稀に発生してしまう。そこでスマブラSPでは,GPU負荷に応じて動的に解像度を変更する仕組みも導入されている。ファイターが4体の場合は横の解像度が,5体以上の場合は縦横の解像度が5段階で変化するそうだ。
以上のように,スマブラSPというさまざまなIPのキャラクターが集うタイトルは,開発者の多くの工夫によって成立している。キャラクターやステージの絵作りに細かなこだわりがあることを意識してプレイしてみると,新しい発見があるのではないだろうか。
「CEDEC 2019」公式サイト
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