レビュー
Samsung初のQLC採用SSDはゲーマーが選ぶに値するのか
Samsung SSD 860 QVO
Samsungでは初となる「4bit MLC」技術を採用するフラッシュメモリチップを搭載したSSDで,最も記憶容量が少ないものでも1TB,記憶容量の大きなものでは4TBという容量の大きさが特徴となっている。実機を試用する機会を得たので,新製品の技術的な見どころと実際の性能をレポートしてみたい。
なお,「QVO」をどう読むべきかは,Samsungがレビュワー向けに配布した資料には書かれていなかった。「EVO」は,進化を意味するEvolutionとかEvolveの略語であるから「エヴォ」と読めばいいが,QVOは素直に読めないので,正式な呼び方は分からない。
4bit MLC=QLCとは何か
4bit MLC(4bit Multi Level Cell)とは,「QLC」(Quad Level Cell)とも呼ばれている技術で,1セルあたり4bit(16値)のデータを記録できるNAND型フラッシュメモリのことだ。
QLCを用いたSSDには,IntelのSSD 600pシリーズや,Micron TechnologyのCrucial P1 SSDシリーズといった製品がすでに販売中である。これら先行する2製品は,いずれも論理インタフェースとしてNVM Express(以下,NVMe),物理インタフェースとしてPCI Express(以下PCIe)x4を採用する製品だった。それに対してSSD 860 QVOは,Samsungが2018年7月に開催したイベントで予告していたとおり,Serial ATA(以下,SATA)接続の2.5インチHDD互換SSDである。
QLCの利点と欠点については,Intelの「SSD 660p」のレビューでやや詳しめに説明しているので,未見の人や覚えていないという人はそちらも参照してもらうとして,ここではざっくりまとめておこう。
QLCでは,現在一般的な「TLC」(Triple Level Cell)に比べてセルあたりの記憶容量が2倍になることで,SSD製品の大容量化が容易になり,容量あたりの価格も下がるのが利点である。一方で,TLCに比べてとくに書き込み性能が低く,また耐久性も悪化するというのがQLCの欠点だ。
もちろん,そうした欠点をカバーするための工夫が,SSD製品には盛り込まれているのだが,それについては追々説明していこう。
容量1TB,2TB,4TBの3モデル構成
SSD 860 QVOの主な仕様と,北米におけるメーカー想定売価をまとめたものを表1に示す。
記憶容量別に1TB,2TB,4TBの3モデルの構成で,1TBモデルのメーカー想定売価は149.99ドル(税別,約1万7000円),2TBモデルは299.99ドル(税別,約3万4000円),4TBモデルは599.99ドル(税別,約6万8000円)となっている。
TLCを採用するSamsungの2.5インチHDD互換SSD「SSD 860 EVO」には,容量250GBや容量500GBモデルもラインナップされていたが,SSD 860 QVOは,最低でも1TB以上という思い切った製品構成になった。QLCは,性能や耐久性を犠牲にして大容量化を実現する技術と言い換えてもいいわけで,1TB未満のモデルを切り捨てたのは必然的な判断と言えよう。
さて,改めて表1のスペックを眺めると,逐次読み出し性能は550MB/s,逐次書き込み520GB/sとなっているが,これはSSD 860 EVOと変わらない値だ。また,ランダム性能はSSD 860 EVOよりも1000〜2000IOPS低い程度の数値が並んでいる。Samsungは2018年7月のイベントで,QLC搭載のSATA対応SSDは,TLC搭載のそれと同程度の性能になることを予告していたので,予告通りの公称性能を実現したと言えよう。
一方,気になる耐久性については,製品が寿命を迎えるまでにSSDに書き込める総容量を示す「TBW」(Total-Byte Written)を同容量同士で比較すると,SSD 860 EVOの1TBモデルが600TBなのに対して,SSD 860 QVOは360TBといった具合に,ぴったり6割となっている。
IntelのQLC採用SSDであるSSD 600pシリーズは,既存製品と比べて3分の1程度のTBWに留まるという話だった。それに比べれば,SSD 860 QVOのTBWは高いほうだ。Samsungは,QLCの耐久性に関してIntelよりも自信があるのかもしれない。もっとも,保証期間は3年間と,SSD 860 EVOの5年間より短いあたりからは,やや弱気な印象も受ける。
ただ,保証期間は製品価格とも関連してくるものなので,SSD 860 QVOはSSD 860 EVOより耐久性が低いから保証期間も短い,と言い切るのは早計だろう。
SSD 860 QVOとSSD 860 EVOの重要な違いは,
TurboWrite領域を使い切ったあとの性能
また,LPDDR4メモリを使ったDRAMキャッシュ容量も,SSD 860 QVOはSSD 860 EVOとまったく同じだった。つまりSSD 860 QVOのハードウェアの構成は,表面的にはSSD 860 EVOとほとんど変わらない。
何度も書いているとおり,QLCは,既存のTLCやMLCと比べて,とくに書き込み性能が低くなるはずだ。同じコントローラや同じ容量のキャッシュメモリなど,ハードウェア構成がほとんど変わらないとなると,QLCを採用するSSD 860 QVOの書き込み性能は,SSD 860 EVOと比べて大きく下がるはずである。
しかし,前述のとおりSSD 860 QVOの公称性能は,TLCを採用するSSD 860 EVOと差がない。その鍵となるのは,SSD 860 QVOが採用するSSDコントローラをはじめとする内部構成と,Samsungが採用した「Intelligent TurboWrite」技術にありそうだ。
Intelligent TurboWriteとは,NANDフラッシュメモリの一部をSLCとして使い,その領域を一種のキャシュとして使う「TurboWrite」を改良した技術で,SLCに使う領域(以下,TurboWrite領域)が必要に応じて動的に増減するというものである。
TurboWrite領域の容量は標準で6GBだが,Intelligent TurboWriteでは,大量のファイル書き込みが発生すると,TurboWrite領域を自動的に拡大して対応する(必要がなくなれば自動的に減らす)。SSD 860 QVOの場合,TurboWrite領域は1TBモデルで最大42GB,2TBと4TBモデルでは最大78GBまで拡大するそうだ。
Intelligent TurboWriteは,2016年に登場した「SSD 960 EVO」で導入されたもので,SSD 860 EVOにも採用されていた。その仕組みやTurboWrite領域の容量も,SSD 860 QVOとSSD 860 EVOで違いはない。つまり,TurboWrite領域を使い切らない限り,SSD 860 QVOとSSD 860 EVOの性能に大差がないのは,不思議な話ではないのだ。
SSD 860 EVOに比べてSSD 860 QVOのほうがわずかにランダム読み書き性能が低いのは,QLCの読み書き処理がTLCに比べると処理負荷が高いためだろう。
ただし,TurboWrite領域を使い切ったあとの性能は,SSD 860 EVOとSSD 860 QVOで大きく異なる。SamsungがSSD 860 EVOおよびSSD 860 QVOのレビュワー向けに配布している資料によると,TurboWrite領域を使い切ったあとの逐次書き込み性能は,SSD 860 EVOの1TBモデルが500MB/sなのに対して,SSD 860 QVOの1TBモデルは80MB/sしかない。2TBおよび4TBモデルでは,SSD 860 EVOが520MB/sなのに対して,SSD 860 QVOは160MB/sとなるが,それでも差は大きいままだ。
※2019年3月4日追記
ITGマーケティングから「SSD 860 EVOの容量2TBおよび4TBモデルにおける『After TurboWrite』の逐次書き込み性能は550MB/sでなく520MB/sだった」と訂正の連絡が届きました。上の画像は550MB/sのままですが,本文は該当する箇所を正しいスペックに書き換えていますので,参照するときは気を付けてください。
余談気味だが,1TBモデルの書き込み速度が2TB,4TBモデルの半分しかないのは,おそらくコントローラとフラッシュメモリを接続するチャンネル数が半分だからだろう。
もうひとつ,わりと重要かもしれない違いとしてIntelligent TurboWriteが機能するために必要なSSDの空き容量が,SSD 860 QVOとSSD 860 EVOでは異なる点が挙げられる。
レビュワー向けの資料によるとSSD 860 QVOの1TBモデルの場合,168GB以上の空き容量がないとIntelligent TurboWriteが機能しないという。つまり,TurboWrite領域の最大容量――1TBモデルは42GB――の4倍に当たる空き容量がないと,Intelligent TurboWriteが無効になるわけだ。これがSSD 860 EVOの場合,250GBモデルで27GB以上の空き容量が必要となっている。同容量での比較が資料にないため断言はできないが,この記述から推測するに,SSD 860 EVOはTurboWrite領域の最大容量と比べて,2倍強の空き容量があればよさそうだ。
QLCとTLCでは,フラッシュメモリの一部をSLC化したときの専有容量は変わってくるため,こうした違いが生じるのだろう。いずれにせよ,SSD 860 QVOを使う場合は,注意しておきたいポイントである。
CrystalDiskMarkでの性能はSSD 860 EVOと同等
さて,それではSSD 860 QVOの外観をザッと見たうえで,ベンチマークテストによる性能検証へと進めていこう。
SSD 860 QVOの筐体は,グレーに黒い四角形のワンポイントというカラーリングになっている。SSD 860 EVOは,黒のボディにグレーのワンポイントと,ちょうど正反対の塗装になっているのが面白い。本体,パッケージともに至ってシンプルで,これといって特筆すべき点は見当たらなかった。
今回テストに用いたのは,SSD 860 QVOの2TBモデル(型番:MZ-76Q2T0BW)である。そこで比較対象にも,SSD 860 EVOの2TBモデル(型番:MZ-
テストに使用するベンチマークは,一般的なストレージテストとして「Cry
テスト環境は表2のとおりだ。
まずは,定番のストレージベンチマークであるCrystalDiskMarkから始めよう。4Gamerでは,CrystalDiskMarkを「テスト回数9回,テストサイズ8GiB」という設定で5回連続実行したうえで,その平均値をスコアとして採用していることをお断りしておく。
グラフ1は,Queue Depth(以下,QD)=32,Thread数(以下,T)=1という条件における逐次アクセスのテスト結果をまとめたものだ。最大32のコマンドを先に送ってから逐次アクセスを行うので,対象ストレージにおける逐次アクセス性能の最大値に近い値が得られるテストである。
結果を見ると,SSD 860 QVOは逐次読み出し(Sequential Read)で562.9MB/s,
テスト回数9回,テストサイズ8GiBなので,単純計算だと1回のテストで72GiBのデータが書き込まれることになる。このサイズは,SSD 860 QVO,SSD 860 EVOともにTurboWrite領域の最大容量となる78GBに収まるので,差がつかないのも納得といったところだろうか。
なお,CrystalDiskMarkは実行に7分ほどかかるので,テスト終了後は1分程度のインターバルを取ってから再テストしている。SSD 860 QVOは,テスト回数を重ねるとQLCにおける書き込みの遅さが表面化するかもしれないと想像していたが,5回の測定値に有意な低下傾向は見られなかった。この程度の書き込み頻度なら,TurboWrite領域で処理できてしまうからだろう。
グラフ2はQD=8,T=8という条件で実行したランダムアクセスの結果をまとめたものだ。「マルチスレッド環境におけるランダムアクセス性能を見るテスト」として,CrystalDiskMarkのバージョン6世代で新設となったテストである。結果はグラフのとおりで,ランダム読み出し(Random Read),ランダム書き込み(Random Write)のどちらも,わずかにSSD 860 EVOが高い程度で,ほぼ横並びと言っていい結果となった。マルチスレッド環境下でも,SSD 860 EVOと遜色ない性能を持つということだろう。
ちなみに,QLCを採用するIntelのSSD 660pでは,QD=8,T=8条件のスコアが明らかに低かったのだが,SSD 860 QVOではそういう挙動は見られない。
グラフ3にまとめたのは,QD=32,T=1という条件で実行したランダムアクセスの結果である。この条件では,読み出し,書き込みともに約3%,SSD 860 QVOのスコアが高かった。最大32個のコマンドを先送りする条件だと,QLCにおける書き込みの遅さをコマンドの処理順で隠蔽できる可能性があるので,差がつきにくいことはあるだろう。
ただ,SSD 860 QVOのほうがスコアが高いとなると,同じコントローラであるMJX Controllerを採用するといっても,SSD 860 QVOのほうが実行性能は高いとか,ファームウェアの違いといった要素がスコアに影響した可能性が出てくる。MJX Controllerの動作クロックが明らかになっていないので,SSD 860 QVOのほうがコントローラの性能は上という可能性は否定できない。
続いては,QD=1,T=1というという条件で実行したランダムアクセスの結果をまとめてみた。コマンドキューを使わず,しかもT=1なので,ストレージのアクセス遅延が効いてくるテストである。
結果はグラフ4のとおり,ランダム書き込みは同程度のスコアだが,SSD 860 QVOのランダム読み出し性能は,SSD 860 EVOの約82%にとどまった。原因として考えられるのは,QLCゆえにエラー訂正が多発し,それが遅延となって現れた可能性だが,TurboWrite領域で処理が完結しているのなら,エラー訂正以外のオーバーヘッドが生じていることになる。この結果だけだと,どちらが原因かはなんとも言えないところだ。
CrystalDiskMarkの結果を見てきたが,SSD 860 QVOのスコアはSSD 860 EVOと同程度と言っていいだろう。QD=1,T=1条件におけるSSD 860 QVOのランダム読み出し性能が,2割ほどSSD 860 EVOより低いのは気になるが,体感できるほどの違いは生じないと思われる。TurboWrite領域を使い尽くさない限り,SSD 860 QVOはSSD 860 EVO並の性能を発揮してくれそうだ。
SSD 860 QVOのI/O性能はSSD 860 EVOより上か
4GamerのSSDテストにおいては,読み出しと書き込みを混在させたアクセスパターンを使用し,1時間の連続アクセスを行った総合スコア「IOPS」(I/O Per Second)値をスコアとして採用している。また同時に,Iometerのテスト開始直後1分間におけるIOPS値と,終了間際の1分間におけるIOPS値も比較する。激しいディスクアクセスを1時間続けることにより,IOPSがどのくらい変化するのかが分かるだろう。
結果はグラフ5のとおり。1時間の平均IOPS値を示す総合スコアは,SSD 860 QVOがSSD 860 EVOを約22%上回るという有意な差を示した。
Iometerのテストサイズは4GiBに抑えているので,TurboWrite領域内で完結するはずだ。となると,SSD 860 QVOとSSD 860 EVOでこれほど差は生じないように思えるのだが,結果はこのとおり。もしかすると,CrystalDiskMarkの結果から推測したとおり,SSD 860 QVOのほうがコントローラの処理性能――たとえば動作クロック――が高いのかもしれない。
一方,開始後1分間と終了直前1分間のIOPS値を見ると,SSD 860 QVOの開始後1分間は,総合スコアよりも約1%高い結果となった。つまり,連続で読み出しや書き込みを続けると,約1%の性能低下が見られたわけだ。
一方,SSD 860 EVOの開始後1分間および終了直前1分間のスコアは,総合スコアより顕著に高い。実のところ,SSD 860 EVOは1時間のテスト中に大きくIOPS値が落ち込む時間があったために,このような結果になっている。したがって,Iometerを使った1時間の連続アクセスで,より安定したIOPS値を示したのはSSD 860 QVOのほうだった。
つまり,SSD 860 QVOは,TurboWrite領域内で完結するようなストレージアクセスならば,SSD 860 EVOより高い性能を示すわけだ。TurboWrite領域内に収まる限りという条件がつくので,この結果をもってSSD 860 QVOがストレージI/Oを酷使するアプリケーションに向いているとは言えない。それでも,日常的なPC操作の中で発生する細かなストレージアクセスは,SSD 860 QVOのほうが高速であると推測できる。
TurboWrite領域を使い切る状況でも無難な性能を示すSSD 860 QVO
最後は,PCMark 8におけるExpanded Storageテストを見ていこう。Expanded Storageについては「HyperX Savage Solid-State Drive」のレビュー記事で詳しく説明しているので,未見の人はそちらも参照してほしい。
簡単におさらいしておくと,Expanded Storageは「Consistency test v2」と「Adaptivity test」という2つのテストからなる。そして,Consistency test v2は,以下に挙げる3フェーズで構成される。
- Degradation pass(劣化フェーズ):テスト対象のストレージに大量のランダムデータを書き込み,SSD内部においてデータの再配置が起こりやすい状況を作ったうえで,さらにランダムデータの量を毎回増やしながら合計8回のストレージテストを行い「再配置が多発している状況での性能低下」を調べる
- Steady state pass(安定化フェーズ):一定量のランダムデータを書き込んだうえでストレージテストを5回実行し,劣化の度合いが最大になった状態での性能を調べる
- Recovery phase(修復フェーズ):適切なインターバルを置きつつストレージテストを5回実行して,「性能が低下した状態からどの程度回復するか」を調べる
一般的には,Degradation passで徐々に性能が低下していき,Steady state passでは性能低下が最大となって,Recovery phaseで回復していくパターンを示す。そのため,性能低下と回復の度合いから,SSDに高い負荷をかけ続けたときの性能や快適さを測ることができるわけだ。
一方のAdaptivity testでは,上のRecovery phaseに相当するテストを10回繰り返してストレージにとって性能を発揮しやすい環境にしたうえで,PCMark 8のストレージテスト結果を求めるものになっている。ベストケースにおけるスコアを見るものという理解でいい。
Expanded StorageとAdaptivity testはともに事前処理としてストレージに大量のランダムデータを書き込む。TurboWrite領域はいったん使い切るので,「After TurboWrite」時の性能が極端に低いSSD 860 QVOにとって,かなり厳しいテストになるはずだ。TurboWrite領域を使い切るような,稀な状況が起きたときに,どのような性能を示すかを見てみるテストと考えればいいだろう。
まずは,Consistency test v2の結果から見ていきたい。グラフ6はConsistency test v2におけるStorage testの合計18回の平均帯域幅の変化をプロットしたものだ。
SSD 860 QVOは,スタート時のDegradation pass 1で約183MB/sの平均帯域幅を見せるものの,徐々に性能が下がってSteady state pass 2で約93MB/sという最小値を記録した。おおむね平均帯域幅が半分まで落ち込んだわけだ。だが,Recovery phaseに移ると回復を見せ,Recovery phase 2で183MB/s弱まで回復している。
高負荷時でも240MB/s弱の帯域幅をキープし,Recovery phaseでは310MB/s台まで回復するSSD 860 EVOに比べると,SSD 860 QVOは高負荷に弱いということになってしまう。しかし,レビュワー向け資料に書かれているAfter TurboWrite状態での性能差に比べると,SSD 860 QVOの高負荷時における平均帯域幅は,そうひどく悪いわけでもない。Samsungの想定内,あるいは想定以上の結果を出していると見ていいのではなかろうか。
SSD 860 QVOの高負荷時における振る舞いを詳しく見るために,Consistency test v2実行時の平均ストレージアクセス時間を見ていこう。
PCMark 8は,オフィスアプリケーションやゲームといった複数のアプリケーションにおけるストレージアクセスを再現することで,グラフ6で示した平均帯域幅を算出している。つまり,Consistency test v2は「各アプリケーションのワークロードを実行したときのステータス」も得られる。今回は,アプリケーション別の測定結果から,Adobe Systems製の写真編集アプリケーション「Photoshop」を使った負荷の高いワークロード「Photoshop heavy」における平均ストレージアクセス時間の変化を抜き出して,それを確認してみよう。
グラフ7は,Photoshop heavyにおける読み出し時の平均ストレージアクセス時間をまとめたものだ。
SSD 860 QVOは,0.56msでスタートして,Steady state pass 2でワーストとなる0.76msを記録したが,Recovery phaseでは0.51msまで回復している。テストを通じて0.02ms程度のゆらぎしか見せないSSD 860 EVOに比べると,SSD 860 QVOのほうが性能のブレが大きいと言えるが,グラフ4にまとめたCrystalDiskMarkのQ=1,T=1条件における読み出し性能を見ると,SSD 860 QVOの読み出し時における遅延は,SSD 860 EVOより大きいと考えるのが妥当だ。そう考えると,SSD 860 QVOは高負荷時に読み出しの平均ストレージアクセス時間が大きく悪化するとまでは言えないだろう。
次のグラフ8は,書き込み時における平均ストレージアクセス時間をまとめたものだ。
SSD 860 QVOは,テスト開始時こそ2.49msとSSD 860 EVOと大きく変わらない結果だったが,Degradation pass 7では10.28ms,Steady state pass 5で10.18msと,10msを超えるHDD並の平均ストレージアクセス時間を記録してしまった。しかし,Recovery phaseに移ると,速やかに2ms前後まで回復している。
ワーストでも3.53msに収まったSSD 860 EVOに比べると,SSD 860 QVOは高負荷時に弱いという結果と言える。ただ,IntelのSSD 660pがワースト80msという,とんでもない平均ストレージアクセス時間を記録したのに比べれば,かなりマシと言えよう。
なお,容量1TB未満のSATA 6Gbps接続SSDでは,Consistency test v2で10msを超える平均ストレージアクセス時間を記録することは珍しくない。そう考えると,SSD 860 QVOの高負荷時における書き込み性能はひどく悪いわけでもなく,なんとか踏ん張って高負荷に耐えていると言えるのではないだろうか。
Consistensy test v2で実行した合計18回のStorage testから,最も高いスコア(Best score)と最も低いスコア(Worst score)を抜き出したものがグラフ9だ。両者のスコア差が小さいほど,高負荷時の性能の落ち込みが小さいと言える。
その結果だが,SSD 860 QVOのワーストスコアは,ベストスコア比で約92%だった。SSD 860 EVOは同じ比較で98%なので,SSD 860 QVOのほうが高負荷に弱いとは言える。ただ,ワーストのスコアが極端に下がっているわけではなく,ここまでの結果から見て妥当なものだろう。
Adaptivity testの結果もまとめておこう。グラフ10はAdaptivity testで実行したStorage test合計10回のスコア平均を,グラフ11は平均帯域幅をそれぞれまとめたものだ。
SSDだと総合スコアは差が付きにくいテストなのだが,SSD 860 QVOの総合スコアは,SSD 860 EVOの約98%となり,有意に低いと言えよう。平均帯域幅はSSD 860 EVO比で約60%となので,かなりの差が出ている。だが,レビュワー向け資料にあったAfter TurboWrite時における性能差を考慮すれば,こんなものだろうと言える結果だ。
総じて,SSD 860 QVOの高負荷時における性能は,同容量のSSD 860 EVOと比べると見劣りするが,QLCのSSDとしては無難にまとめているという印象だ。
SSD 860 QVOの性能は悪くはない。問題は価格設定か
ただ繰り返しになるが,SATA 6Gbps接続で小容量のSSDでは,PCMark 8のConsistensy test v2でSSD 860 QVO並の性能を示すSSDは,決して珍しくなかったりする。
先にレビューしたIntelのSSD 660pは,PCIe/NVMe対応SSDだったので,高性能が売りの他社製NVMe対応SSDと比べてしまえば,かなりひどい性能という印象が拭えなかった。それに比べて,SATA 6Gbps接続のSSD 860 QVOであれば,同じSATA 6Gbps接続で比べる限り,そこまでひどい製品ではないという印象になる。実際には,インタフェースの優位性もあって,ほとんどのテストで数値自体はSSD 660pのほうが上なのだが。つまり,QLCを採用する初の一般消費者向け製品で,SATA 6Gbps接続を選択したSamsungの判断は正解ではなかろうか。
ゲーマーにとって,容量1TB以上のSSDが安価に購入できるのなら,ゲームのインストール先をSSD化できるという点で非常にありがたい。問題は価格だろう。
本稿執筆時点で,TLCを採用するSATA 6Gbps接続のSSDは,容量1TBでも2万円を切る製品が多い。国内価格はまだ明らかになってはいないものの,SSD 860 QVOの1TBモデルは,価格対性能比で魅力が感じられない。一方,SSD 860 QVOの2TBモデルや4TBモデルはたしかに安価であるため,この価格帯と容量で競合となるTLC採用SSDはないとは言える。
ちなみに,Samsungの資料によると,ゲーマー向けノートPCでは,容量256GBクラスのSSDと容量2TBのHDDを組みわせるストレージ構成が,2017年の製品では一般的で,その場合,製品価格のうち150ドルほどがストレージのコストであったという。つまり,SSD 860 QVOの1TBモデルはストレージ総容量こそ半減するものの,2017年における256GB SSD+2TB HDD構成と同等の価格で「フルSSDによる快適なユーザー体験」が得られるというのがSamsungの主張である。
ゲームのインストール先にHDDを使っているゲーマーなら,それを2TBモデルや4TBモデルのSSD 860 QVOに変えることで,圧倒的に快適になる。あくまでも予算があるならであるが,4TBモデルを検討しても悪くないといったところがSSD 860 QVOの総評になりそうだ。
SamsungのSSD製品公式Webページ
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