連載
孤独のボドゲ 第6回:感染拡大を食い止めるべく病原体と戦う協力型ボードゲーム「パンデミック:新たなる試練」
パンデミック:新たなる試練
ボードゲームと聞くと複数人でプレイするものと思われがちだが,実は1人でも遊べる作品は多く存在する。月刊連載の「孤独のボドゲ」では,そんな1人でも遊べるボードゲームを紹介しよう。ポイントとなるのは1人“でも”というところで,1人で遊んでみて面白ければ,友達を誘って一緒に遊べるというわけだ。
「孤独のボドゲ」第6回は,アメリカのゲームデザイナーであるマット・リーコック氏の代表作「パンデミック:新たなる試練」を紹介しよう。本作は,人類を滅亡させかねない4種類の病原体の感染拡大を食い止めるべく,医療チームのスペシャリストとして世界中を飛び回る協力型ボードゲームだ。
パンデミックは最大4人でプレイが可能で,最低でも2人からとなっているが,ソロプレイに対応したアプリ版がそうであるように,ボドゲ版でも1人複数役でプレイすれば問題なくソロプレイできる。複数キャラを1人で動かすことになるので,ストラテジーゲームのようなプレイフィールになり,複数人で遊ぶときとはまた違った面白さがある。本作を持っているけど,複数人でしか遊んだことがないという人もぜひ試してみてほしい。
ちなみに,初代パンデミックが日本で発売されたのが2009年なので,シリーズは今年で10周年となる。今回は,これまでに発売されたパンデミックのスピンアウト作品や,10周年記念版も合わせて紹介しよう。
※月刊連載「孤独のボドゲ」は,今回をもって不定期更新となります。
コンポーネントをチェック
デジタルゲームにはないボードゲームの魅力といえば,やはりコンポーネントである。作品によっては凝ったギミックを持つコンポーネントもあり,それを触ったり動かしたりするのが,これまた面白いのである。そんなわけで,ボードゲームの華ともいえるコンポーネントを見ていこう。なお,ここで紹介しているコンポーネントは新装版のものだ。
◯ゲームボード
全プレイヤーで共有するゲームボードには,世界地図が描かれている。地域ごとに色分けされているが,これは病原体の色と同じで,どの地域にどの病原体が広がりやすいかがひと目で分かるようになっている。ゲーム内に登場する病原体は「赤」「青」「黄」「黒」の4種類だが,ゲームボードの下を見ると病原体が5種類あることに気づくだろう。この紫色の病原体は拡張で追加されるものだが,今回は拡張を含めていないので,ベーシックな4種で話を進めていく。
◯病原体コマ
病原体を表すコマは4色あり,各24個が用意される。後述する感染カードによって,このコマがゲームボード上の世界地図にばら撒かれていき,1色でもストックが空になるとゲームオーバーだ。治療によってコマを回収すればストックに戻せるので,無くなりそうな色のコマは積極的に治療で回収したい。
◯役割カード&プレイヤーコマ
病原体から世界を救うべく立ち上がった,医療のスペシャリスト達が描かれたカード。「危機管理官」「通信指令員」「衛生兵」「作戦エキスパート」「検疫官」「研究員」「科学者」それぞれが特殊な能力を持っており,それをいかに活用できるかが本作のカギとなる。各スペシャリストには対応した色のコマも用意されている。
◯調査基地コマ
プレイヤーの拠点となるコマ。拠点のある都市では薬の開発が可能で,拠点自体はアクションで増設できる。移動はゲーム遂行に極めて重要なので,拠点は積極的に建てて,「シャトル便による移動」で時間を有効活用したい。
◯プレイヤーカード
プレイヤーカードは,「都市カード」「イベントカード」「エピデミックカード」の3種類から構成され,これらを混ぜたものがプレイヤーの山札になる。都市カードには世界各国の都市が描かれており,同色のカードを5枚集めると治療薬が作れる。イベントカードは,プレイヤー側に有利なアクションを起こすカードで,使うタイミングが重要だ。
エピデミックもプレイヤーの山札に混ぜられるカードだが,ほかの2つと違ってこれはプレイヤーを不利に追い込む。詳細は後述するが,引けば引くほど人類が滅亡に近づいていくといった感じだ。
◯治療薬マーカー
瓶を模したプラスチック製のマーカー。同色の都市カードを5枚集めて治療薬を作ったら,このマーカーをゲームボード上に置くことになる。4種類すべての治療薬を作ると,プレイヤー側の勝利となる。なお拡張セット「科学の砦」には,治療マーカーの豪華版が同梱されているので,雰囲気を高めたい人にオススメだ。
◯感染カード
都市名が書かれたカード。感染処理フェーズでは,このカードの山から感染率と同じ枚数だけカードを引き,そこに書かれている都市に病原コマを1つずつ配置していく。上述したエピデミックカードを引くと,捨て札にある感染カードが再度山札の上に置かれてしまい,同じ都市に再び菌が撒かれやすくなる。
◯感染率マーカー&アウトブレイクマーカー
感染率は,感染処理フェーズで引く感染カードの枚数を表す。感染率はエピデミックカードを引くたびに上昇していく仕組みだ。
一方のアウトブレイク(感染爆発)は,同じ都市に4つめの病原体コマが置かれようとしたときに発生する。そこに病原体コマを置く代わりに,その都市と接続された都市に病原菌がばら撒かれるのだ。このアウトブレイクが7回起こるとゲームオーバーとなる。
10周年記念版
冒頭でもお伝えしたとおり,パンデミックは今年で10周年を迎える。それを記念した豪華版が日本でも発売されたので,こちらのコンポーネントも紹介しよう。
◯化粧箱
10周年記念版の化粧箱は,一昔前の救急箱を思わせるデザインになっており,これだけでも所有欲を満たしてくれる。
◯ゲームボード
通常版と比べると,デザインの雰囲気が明るく,若干サイズが大きくなっている。カードを置く場所は,滑り止め加工のようなものが施されており,山札が崩れにくくなっているのもポイントだ。
◯病原体コマ
通常版がプラスチック製なのに対して,記念版は木製となっており,初代パンデミックに原点回帰している。また,病原体コマを保管しておくペトリ皿を模したケースも付いており,これにコマを入れておくと雰囲気抜群だ。
◯役割カード
役割カードは,身分証明書を模したデザインになっており,それぞれのプロフィールや指紋まであるというこだわりっぷり。
◯プレイヤーコマ
通常版から大きくグレードアップしたのがプレイヤーコマだ。ただのプラスチックコマだったものが,ミニチュアに刷新されており,造型もなかなか細かく作り込まれている。やはり豪華版はこうでなくちゃ。
◯各カード
プレイヤーカードや感染カードのデザインも,一新されているのが分かる。
◯治療薬マーカー
治療薬マーカーも木製に。それぞれの病原体の形に合わせてくり抜かれており,サイズもそこそこ大きい。
◯感染率マーカー&アウトブレイクマーカー
感染率&アウトブレイクマーカーも木製だ。木製コマは,ゲームボードの上で滑らせて動かしやすいというメリットがあるので,割と頻繁に動かすことになる両マーカーも木製になっているのは嬉しいポイントだ。
ぼっちプレイの流れ
改めてパンデミックのルールをおさらいしよう。このゲームの勝利条件は,同じ色の都市カードを5枚集め,調査拠点にてすべての病原体の治療薬を作ること。一方で,「1種類でも病原体コマのストックがなくなる」「アウトブレイクマーカーがドクロに達する」「プレイヤーカードの山札がなくなる」の1つでも満たすと敗北となる。
今回はせっかくなので,10周年記念版を使用したいと思う。なお,最初から最後までやると文字数がアウトブレイクを起こすので,ここでは手番の動きや“感染爆発”の瞬間などを見せられればと思う。それではゲームの準備から始めていこう。
初期の感染都市が判明したら,次にプレイヤーカードの山札を作る。ここでエピデミックカードも混ぜていくのだが,立て続けにエピデミックを引くとゲームバランスが鬼難度になるため,混ぜるエピデミックカードと同じ数の山を作り,それぞれに混ぜてからシャッフルして,1つの山を作ろう。こうすることでエピデミックカードがいい塩梅でバラけてくれる。
最後に,調査拠点とプレイヤーコマを「アトランタ」に置けば,ゲームの準備は完了となる。そんなわけで,さっそくプレイを始めてみよう。本作におけるプレイヤーの手番は以下のように構成されている。
(1)4つのアクションを実行する
(2)プレイヤーカードを2枚引く
(3)感染の処理をする
まずは(1)のアクションフェーズから。ここで出来ることは以下のとおりだ。
【移動アクション】
◯自動車か船による移動
白線でつながった隣接する都市へ移動する。
◯直行便での移動
都市カードを1枚捨てて,その都市に移動する
◯チャーター便での移動
現在いる都市と同じカードを捨てて,好きな都市に移動する
◯シャトル便での移動
調査基地から別の調査基地へと移動する
【そのほかのアクション】
◯感染者の治療
自分のいる都市にある病原体コマを1つ取り除き,ストックに戻す。治療薬を完成させている病原体だった場合は,この1アクションですべて取り除ける。
◯調査基地の設置
自分のいる都市と同じカードを捨てて,調査基地を設置する。
◯知識の共有
自分のいる都市と同じカードを,自分と同じ都市にいるほかのキャラクターに渡す。または受け取る。
◯治療薬の発見
調査基地にて,同じ色の都市カードを5枚捨て札にし,その色と同色の病原体の治療薬を完成させる。
エピデミックを引くと,強制的に以下の処理を行うことになる。
(1)感染率の上昇
感染率マーカーを1つ進める。
(2)感染
感染カードの山札の一番下のカードを引いて,その都市に病原体コマを3つ置く。
(3)度合い増加
感染カードの捨て札をシャッフルして,感染カードの山札の上に乗せる。
この処理を終えたあとに,感染処理をするわけだが,「度合い増加」によって捨て札の感染カードを山札の上に戻しているので,すでに感染している都市に再び病原体コマが置かれることになる。
このギミックが非常に良く出来ていて,病原体コマが3つ置かれている都市を放置したままエピデミックが来てしまうと,アウトブレイク(感染爆発)を起こす確率がぐんと上がってしまうのだ。
エピデミックの処理は,「プレイヤーカードを2枚引く」の中で行われることなので,当然次に感染の処理をすることになる。ここでエッセンを引いてしまうと大変なことに……。
アウトブレイクによってばら撒かれた病原体コマによって,その都市の病原体コマの数が4つになってしまうと,そこでまたアウトブレイクが発生する。連鎖爆発というやつだ。1枚の感染カードの解決中は,同じ都市で複数回のアウトブレイクは発生しないので,この場合はロンドンを除いたお隣さん「パリ」「ミラノ」「サンクトペテルブルク」に病原体がばら撒かれる。
「最初から最後まで書いていたら〜」なんて言っていたが,普通に2手番で終了してしまった。ほとんどの場合は病原体との接戦になるのだが,今回はやたらと運が悪かったようだ。いや,今回の原稿に限っては運が良かったとも言えるが……。
とまあ,こんな感じで,プレイヤーが考えて行動する部分と運に任せる部分の塩梅がほど良いゲームになっており,ソロプレイでも十分に楽しめるので,興味を持った人はぜひ遊んでみてほしい。
最後にパンデミックのスピンアウト作品をいくつか紹介して,締めたいと思う。
パンデミック:新たなる試練(Amazon.co.jp)
パンデミック:クトゥルフの呼び声
クトゥルフ神話をモチーフにしたスピンアウト作品。病原体ではなく,カルト信者やショゴスと戦うことになる。原作でいうアウトブレイクは,ショゴスの召喚という形に置き換わっており,召喚されたショゴスを逃してしまうと,邪神が1体ずつ復活していく。クトゥルフが復活してしまうとゲームオーバーだ。
「パンデミック:クトゥルフの呼び声」(Amazon.co.jp)
パンデミック:イベリア
19世紀中ごろのイベリア半島を舞台にしたスピンアウト作品。パンデミックの基本ルールがベースとなっているが,19世紀には手軽に移動できる飛行機が存在しないので,その代わりに鉄道や船が主な移動手段となっている。
鉄道は,アクションで線路を敷くことで,特定の都市間を高速移動できるといった感じだ。病原体コマが置かれることを未然に防ぐ,「水の浄化」というアクションも加わっており,原作よりも戦略性が増している。
「パンデミック:イベリア」(Amazon.co.jp)
パンデミック:ライジングタイド
19世紀末〜現代のオランダを舞台にしたスピンアウト作品。病原体ではなく「水」が敵となっており,プレイヤーはオランダを洪水から守るために奮闘することになる。水浸しになった土地から水を汲み上げるために風車を設置したり,移動を容易にするために港を建設したりと,原作とはまた違った戦略性が求められる。
「パンデミック:ライジングタイド」(Amazon.co.jp)
パンデミック:ローマの落日
古代ローマ帝国の盛衰をテーマにしたスピンアウト作品。ローマ帝国が制圧される前に5つの好戦的な蛮族と同盟を結ぶか,またはそれらの蛮族を殲滅することが目的となる。最初から一人用のルールが用意されているのが嬉しいポイントで,この時代設定が好きな人であれば,原作よりもハマれるはずだ。
「パンデミック:ローマの落日」(Amazon.co.jp)
パンデミック:完全治療(ザ・キュア)
パンデミックのルールをダイスで再現した作品。原作と比べて運要素がかなり強くなっているぶん,カジュアルに楽しめる。いろいろな種類のダイスをじゃらじゃらと触っているだけでも面白く,個人的には一番プレイしているパンデミック作品なのだが,現在では日本語版の入手がかなり困難なのが残念なポイントだ。友人宅やボードゲームカフェなどで見かけたらぜひ遊んでみてほしい。
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