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[GDC 2024]数々のデーモンと戦いながら名作への階段を上り詰めた「Baldur’s Gate 3」は,拡張パックもDLCも続編もナシ
GDC 2024会場では,本作を開発したLarian Studiosのスヴェン・フィンケ(Swen Vincke)氏が基調講演を行い,6年に及んだ開発秘話と,「拡張パックもDLCも続編も作らない」という意志が語られた。
ベルギー生まれの同スタジオは,今から28年前の1996年に起業し,2002年発売のRPG「Divine Divinity」で広く知られるようになった。
もっとも,当時はパブリッシャとの軋轢があったり,開発資金の工面がなかなかうまくいかなかったりで「暗黒時代だった」と表現された。
光が差したのはデジタル流通の登場以降だ。自社パブリッシングに乗り出した「Divinity:Original Sin」(2014年)は販売本数300万本を記録。さらに「Divinity:Original Sin II」(2017年)は800万本のヒットとなり,ファンやメディアからの高評価で開発に自信がついた。
そうしてフィンケ氏らが目をつけたのは,名作IP「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を要するWizards of the Coastだった。
とくに,1990年代にBioWareが開発した「Baldur’s Gate」シリーズには,同スタジオも大きく影響を受けたようで,あるとき“20年ほど未使用のIPだったこと”に着目したのだという。
BGの版権使用料は決して安くはなかったそうだが,取得を決行。そうして生まれた新たなプロジェクトには,フィンケ氏の愛犬の名前を取って“コードネーム:グスタブ”と名付けた。
基調講演では「BG3の当初の企画書」も公開された。ペライチの内容は実に簡素なもので,翻訳すると以下のような文面になる。
我々は第1章を最初に作り上げることに集中する。ゲームプレイの基準ができあがったら,第1章で学んだことを応用しながら,第2章と第3章を作り上げる。ゲームの大きさを完全に把握するのは,第1章を完成させてからとする。
我々が第1章で目標とするのは,10〜15時間分のゲームプレイである。第2章は20〜30時間ほど,第3章はふたたび10〜15時間ほどの分量で,平均して40〜60時間ほどでプレイできることとする。第3章制で開発するのはDivinity:Original Sin IIと同じ要領で,コンテンツ量も似たものになると思われる。
デッドラインは以下のとおり。
・2017年7月末日:デザインドキュメントの完成
・2018年3月末日:プロトタイプの開発
・2019年12月末日:第1章を完成させてアーリーアクセス版をリリース
ちなみに,プロトタイプとなるアルファ版の完成は2018年11月18日,第1章のアーリーアクセス版は2020年10月6日,当時のゲームプレイのコンテンツ量は25時間分であったとされるので,主にスケジュール面がズレてしまっている。当初の計画はあまりにも楽観的すぎたようだ。
BG3開発におけるフィンケ氏の当初の構想は,「Divinity:Original Sin II」を下敷きとし,ルール面を「ダンジョンズ&ドラゴンズ ルールセット第5版」に作り替え,作中のシネマティックス(演出映像)を増やして豪華に見せる,という程度のものだったそうだ。
もちろん,フィンケ氏の言は,壇上でのトークを面白おかしくするための誇張も含まれているだろう。だが「その程度」と考えていた開発方針を実行するにも,同スタジオはパフォーマンス・キャプチャを使ったアニメーションやシネマティックス作りの経験に乏しかったり,ルールセットがあまりにも複雑すぎたり,さらには「Google Stadia」への対応を早くに表明してしまったがためにパフォーマンス問題が起きたりと,さまざまな“デーモン”が出現することになった。
BG3開発は,これらデーモンを1体ずつ倒して完成にこぎつけることが,Larian Studiosにとってのミッションになった。
2019年6月のE3 2019で,制作発表と映像制作会社製のCGムービーを公開したときは好評だったものの,2020年2月のPAX Eastで,開発者パネルを開催しつつゲームプレイトレイラーを公開したときは,次なるデーモン“ファンの風評”が頭角を現した。
これはフィンケ氏自身が墓穴を掘ってしまったような感じだが,当時は「Divinity:Original Sin IIのリスキン」(Reskin:表層だけを変えること)だと見破られ,酷評されることになったのだ。
さらにはPAX Eastが終わるや否や,新型コロナウイルス感染症の流行で開発進行に支障が出たり,フィンケ氏を含む脚本チームが第2章以降のストーリーをまったく描けなくなって停滞したりと,新たなデーモンたちが次々と襲いかかってくる。
そんなパンデミック期間中,ゲーマーコミュニティの澱んだ雰囲気がよくないと感じたフィンケ氏は,明るく振る舞う姿を見せようと決断。それぞれの部署の開発者たちが,当時の進行状況を紹介していくストリーミングセッション「Panel from Hell」を実施した。
配信では,フィンケ氏がなんとも動きにくそうなフルアーマーを装着し,司会進行に努めた。その姿が印象に残ったファンも多いだろう。こうして開発現場の透明性を高めることが,2020年10月に販売を開始したアーリーアクセス版の高評価につながったと述べられた。
しかし,パフォーマンス・キャプチャのパイプライン作りはうまくいかず,キャラクターのモデリングやアニメーションにもバグが多く,アクセス者数は徐々に減少する。そこに危機感を覚えたそうだ。
しかも結果として,BG3の作中のセリフ文字数は映画「ロード・オブ・ザ・リングス」三部作の3倍に。カットシーンの総時間はTVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズの2倍となる174時間に及ぶなど,同スタジオは気付けば“超大作”を作り上げてしまっていた。
2023年にもなると数々のデーモンを打ち倒し,開発の終盤ラッシュもスムーズに進んでいった。けれど,発売日を決定する際に“ラスボス”がいた。フィンケ氏がラスボスと称し,会場の笑いを取った最後のデーモンは,Bethesda Softworksの超大作「Starfield」だった。
2023年前半の段階では,話題性という点では「Starfield」のほうが大きかった。同作の発売も6月予定とアナウンスされていたことから,フィンケ氏は大事を取ってBG3の発売を9月に想定した。
だが「Starfield」の開発は遅延。9月にプッシュバックされたために,今度はなんとか1か月ほど早い8月3日のリリースにズラした。その選択が正しかったのは,GDC Awardsに至るまでの数々のゲーム賞を受賞していった事実だけで明らかだろう。
フィンケ氏は壇上で「我々は,皆さんが期待しているような拡張パックやDLCは作りません。『Baldur’s Gate 4』を開発することもありません。その版権はWizard of the Coastにあり,我々は次の道へと進んでいくのです」と話し,パッチでバグを修正したり,オプティマイズしたりする以外に,BG3の新規コンテンツを作ることはないと強調した。
また「奇妙なことに,GDCでは同業者たちから続編開発の是非で質問攻めにあっていますが,我々はもう新プロジェクトに取りかかろうとしています」と語ったが,新作についてこれ以上の言及はなかった。
ちなみに,BG3のコードネームになったフィンケ氏の愛犬“グスタブ”君は,ゲームの完成とともに他界したという。
そのうえでフィンケ氏は「悲しい選択でしたが,来週には新しい家族を迎えることになります」と,次のコードネームとなりそうな仔犬の画像をお披露目し,今回のトークセッションを締めくくった。
「Baldur's Gate 3」公式サイト
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