プレイレポート
[プレイレポ]「指輪物語」ゴラムの冒険を描く「The Lord of the Rings: Gollum」は,意欲的な見どころもあるが荒削りな印象は否めない
なお,PC / Xbox Series X|S / Xbox One版は,5月25日に開発元であるNaconより発売されている。
原作では主人公フロド(正確には彼の持つ指輪)を追跡し,ときに水先案内人となり,旅の最終局面でも重要な役割を果たした存在,ゴラムの知られざる運命を描く本作のプレイレポートをお届けする。
今回,筆者がプレイしたのは5月30日,31日ごろだったため,現在公開されている最新パッチ(不具合の修正やグラフィックス,UIの改良,パフォーマンスやゲーム品質の改善を含む)の内容とは異なる可能性がある。その点はご了承いただきたい。
3goo「The Lord of the Rings: Gollum」公式サイト
「指輪物語」とは,人間・エルフ・ドワーフの諸勢力の連合と,冥王サウロン率いる闇の勢力が「一つの指輪」を巡って争う最中,ホビットのフロドが滅びの山の火口に向かい,その指輪を破壊しようとするストーリーである。
ゴラムは一つの指輪を600年ほど秘匿していた人物で,指輪の魔力に魅了され,指輪のことを「いとしいしと(人)」と呼んで執着するまでになっている。体表のぬらぬらしたクリーチャーに成り果ててはいるが,じつはフロドらと同じく,のんきで善良なホビットの青年スメアゴルの成れの果てだったりする。
ピーター・ジャクソン監督が手がけた映画「ロード・オブ・ザ・リング」では,主人公フロドが指輪の強い誘惑に抗っていることや,指輪を捨てられなかった場合の末路を強調するために,大胆にクローズアップされていたゴラム。「The Lord of the Rings: Gollum」のデザインは独自のものだが,映画版の強い影響を感じさせる。
「The Lord of the Rings: Gollum」のストーリーは,ゴラムがサウロンによって拷問されたあと,闇の森のエルフから逃げ出して,モリアの坑道に至るあたりまでをベースに,オリジナルエピソードを加えたものだ。冒頭から「灰色のガンダルフ」が登場し,闇の森のエルフに囚われたゴラムを尋問し始めるという,なかなかに凝った筋書きとなっている。
原作小説や映画ではガンダルフやレゴラスにより,さらりと語られる出来事を入口にしたうえで,ゴラムが冥王サウロンのお膝元,モルドールの地でどんな目に遭っていたのか。そして,エルフが暮らす闇の森で何をしていたのかなどが描かれる。原作小説や映画のファンであれば,あれこれ思い出しながら,オリジナルの展開に興味を抱くことだろう。
ときおり,ゴラムの人格とスメアゴルの人格が葛藤する場面があり,そこではプレイヤーがドラマに少しだけ介入できる。スメアゴルは長い年月を孤独に過ごすうちに,ゴラムという「悪事でも厭わず行動する」人格を作り出すことで自分自身を守ってきた。その代わり,重要な判断が必要なときには2つの人格が衝突するのだ。
基本的にゴラムは強引な選択,スメアゴルは穏便な選択をしたがる。だからといってスメアゴルが善良というわけでもなく,誰かに責任をなすりつけたり,知人をかばわなかったりと,弱者であるがゆえの邪悪さを見せることがある。
このような具合なので,本作のストーリーは原作を知っていれば楽しみどころが多くなるものだ。ゴラムはどちらかと言えば,見ていて「不快になる」タイプのキャラクターであり,もちろん本作でもそこから大きく逸脱した描かれ方はしていない。
もちろん作中のキャラクターからの扱いも極めて悪く,物語を進めてもカタルシスが少ない。ゴラムらしい体験が十分に味わえるがゆえに,段々といたたまれない気持ちになっていく。
原作小説や映画のゴラムを知っていれば,それもすんなりと受け入れられるだろう(指輪の力に抗って主体的になったり,何かで報われて安住の地を見つけてしまったら本編と話がつながらない)。ただ,「指輪物語」の世界に初めて触れるという人には注意が必要だ。
冒頭でも触れた通り,本作は身軽なゴラムを操作し,険しい地形を踏破していくアクションアドベンチャーゲームだ。複数の章(ステージ)をクリアすることで,ゴラムの知られざるストーリーが進んでいく。ジャンプして足場から足場へと渡ったり,壁の割れ目につかまってよじ登ったりするシンプルな3Dアクションゲームである。
冒険の中には,オークやエルフの目を逃れて行動するシチュエーションも存在する。ゴラムは正面きっての戦いではほぼ無力のため,まったく勝ち目はない。草の茂みや濃い影に隠れて,やりすごすしかないが,捕まれば即ゲームオーバーだ。
ゴラムはさまざまな行動をとれるが,これらを自在に駆使してステージを踏破していくというより,何度も死んでゲームオーバーになり,そのうちに正解のアクションを探す展開になりがちだ。それぞれのアクションがあまり融通が利かないというか,決まった場所で決まったアクションを使わない限り,先に進めないことがほとんど。転落死したり,オークに捕まったりして,ゲームオーバーになることが頻繁にある。
ゴラムには体力の概念があり,魚や虫などを食べて体力を回復できるが,落下ダメージであっさり即死してしまう。体力を回復する機会はあまりなかった。
そもそも通るべきルートが見つかりにくいことが多く,「感覚を研ぎ澄ます」ことでヒントが得られることもあるのだが,肝心なところでは頼れなかったりもする。
また,物陰に隠れて進むときには,身体が障害物にひっかかりやすく,なんてことない場所で移動に手間取り,敵に発見されてしまうケースが少なくなかった。遊びのデザインと操作性,どちらも荒削りなところがあり,黎明期の3Dアクションゲームを久々にプレイしているかのようなノスタルジックな感覚がある。
ステージを進んでも新しいアクションやシステムが増えないため,プレイヤーの体験としてはあまり変わらないのも気になる点だ。舞台となるロケーションはトレヒ・ウンゴルの洞窟,バラド=ドゥーアの黒坑(くろあな),闇の森のエルフの里などに限られているが,同じ場所を何度も往復することになるため,プレイ時間を「引き伸ばしている」と思われても仕方がないだろう。
なお,海外版のリリース直後には公式Twitterが異例のメッセ―ジを伝えている(※リンク)。その内容は,プレイヤーの期待に応えられなかったことに対する謝罪,そしてゲームの改善を約束する声明文だった。ゴラムを主人公に抜擢した本作には,一風変わったゲームを期待したファンも多かったはず。それだけに,残念な気持ちもひとしおだっただろう(筆者もその1人だ)。
冒頭で触れた通り,現在はさまざまな修正や改善を含む最新パッチが配信されている。プレイする前には最新の状態にアップデートすることをおすすめする。
とはいえ,プレイしていくうちに,のんきで善良なホビットより,相反する内面の葛藤に苦しみ,周囲から虐げられるゴラムのほうが,現代的で寄り添いやすい主人公像なのかもしれないと思ったことも確かだ。それだけにゲームの単調さや荒削りであることが惜しまれる。これからのアップデートと改善に期待したい。
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Amazon.co.jp「The Lord of the Rings: Gollum」販売ページ(Amazonアフィリエイト)
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- ライター:高橋祐介
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