ニュース
DirectX 11対応ゲームのフレームレートが上がるIntel Arcのドライバアップデートが発表となる
CPUとGPUのバランス改善でDirectX 11タイトルの性能が約2割向上
Intelは,2023年2月にドライバの改善により,DirectX 9タイトルの性能が大幅に向上したことをアピールした(関連記事)。そのときに,今後も定期的にアップデートを公開していくことを約束していたのだが,今回のアップデートは,その一環だ。
前回のDirectX 9タイトルに続いて,今回の目玉は,DirectX 11タイトルの性能向上にある。Intelによると,Arc A750リリース時のドライバソフトに比べて,最新版ドライバでは主要なDirectX 11タイトルのフレームレートが平均19%,99パーセンタイルフレームレートは,平均20%も向上したとのこと。
99パーセンタイルフレームレートとは,フレームレートのうち極端に低い下位1%を除いた値で,つまりフレームレートのスムーズさ(カクツキのなさ)を示す重要な指標だ。最新のドライバを使えば,Arc A770/A750でDirectX 11タイトルが,よりスムーズにプレイできるようになった,と理解すればいいだろう。
DirectX 11タイトルと聞いて,少し古めのゲームを想像する人もいるだろうが,「VALORANT」や「Apex Legends」も現役のDirectX 11タイトルであり,古いゲームに向けたアップデートというわけではない。プレイ人口が非常に多いタイトルを含むだけに,「DirectX 11タイトルにおける性能向上が持つ意義は大きい」と,Intelはアピールする。
さて,気になるのは,Intelが最新ドライバで何を行ったかだ。Intelは,「Arc A750と組み合わせるCPUは,Core i5がベストバランスであり,Core i9とArc A750の組み合わせよりも,Core i5とArc A750のほうが性能の伸びが大きい」というグラフを示しつつ,最新ドライバでは,CPUとGPUの負荷バランスを最適化していると説明していた。
次のスライドは,以前のドライバでOverwatch 2をプレイした場合のフレームタイム(※1フレームを描画するのにかかった時間,青の線)と,GPUの負荷(黄色の線)を記録したものだ。これを見ると,フレームタイムが長いときでも,GPUの負荷はあまり上がっていないことが分かる。つまり,GPUには余裕があり,CPUが足を引っ張っていることを示しているわけだ。
Intelによると,性能が低い統合GPUを手がけてきたため,同社のグラフィックスドライバは,「CPU性能に制限がない一方で,GPUが常にボトルネックになっている」という前提で作成していたそうだ。しかしグラフのとおり,ArcシリーズではCPUがボトルネックになるケースがあることが判明したわけだ。
3Dグラフィックスでは,ゲームプログラムがフレームを構成するために必要なデータやコマンドをDirectXに送り,最後にフレームを描画するPresentをコールする。Presentが呼ばれるとドライバ側に制御が移り,CPUを使ってDirectXのデータや命令を,GPUが処理可能な形式に変換してGPUに引き渡す。その後,GPUがレンダリングを行って1つのフレームが描かれる。つまり,CPUを使用したドライバの内部処理に手間取ると,GPUにおけるレンダリングは短時間で終わるのに,フレームタイムが悪いことが起きるわけだ。
そこで新しいドライバでは,ドライバ内部のCPUを使った処理を,ゲームプログラムやGPUレンダリングと並列で行えるようにするチューニングによって,CPUとGPUのバランスを改善した。その結果として,フレームレートや99パーセンタイルが改善したと,Intelは説明していた。
その成果を示したのが,次のグラフだ。最新版ドライバでOverwatch 2を実行すると,フレームタイムとGPU負荷の変動が,おおむね一致していることが見てとれよう。つまりCPUのオーバーヘッドが取り除かれたのだ。
ところで,一部メディアで報じられたこともあり,事情通のゲーマーならば,「Intelは,DirectX 9タイトルの性能改善にオープンソースソフトウェアの『DXVK』を使用した」と言われていることを知っているだろう。
DXVKとは,LinuxのようなWindows以外のOSで,Windowsアプリを動作させるエミュレータ「Wine」のために開発された「DirectX to Vulkanブリッジ」だ。DirectXの呼び出しを,Vulkanに変換して実行するソフトウェアスタックで,近年のLinuxにおけるWindowsゲームの性能向上も,DXVKの互換性や性能向上によるところが大きい。
そこでIntelに,「DirectX 11にもDXVKを使用しているか」と確認してみたところ,「あまり言いたくはない話題」と前置きしたうえで,「DirectX 11にもDXVKを一部使っている」と述べていた。ただ,「オープンソースやサードパーティのソフトウェアスタックをドライバに利用するのは,NVIDIAやAMDも行っており,Intelが特別ではない」と強調。そのうえで,ゲーマーにとって重要なのは,フレームレートが向上しているという事実だと述べている。
これについては,筆者もIntelと同意見だ。IntelのArcシリーズは,DirectX 12をベースに設計されたことにより,DirectX 11/9のアクセラレータを持たないと言われているので,Vulkanに変換するDXVKを利用するのは理にかなっている。
DXVKを利用することで,Intelが手を抜いているとか,楽をしたと見る向きもあるようだが,DXVKをそのまま利用しているわけではないし,ライセンス上の問題がないのであれば,使えるものはどんどん使って性能を上げていくことが,ユーザーの利益につながるだろう。
また,Intelのような開発力がある企業が,オープンソースソフトウェアを利用して開発コミュニティにフィードバックを行うことで,ソフトウェアの性能や機能が向上するというWin-Winの関係を築くことも期待できる。誰も損をしないわけだ。
フレームレート解析ツールPresentMonの0.5βを公開
フレームタイムの例が示すように,Intelは,CPUとGPUの性能バランスは大切だと強調している。Intelは,別の例として,「Counter Strike 2」の解像度1920×1080ドットにおけるデータを示した。
次のグラフを見ると,Core i5とArc A750の組み合わせの場合,Counter Strike 2ではグラフィックス品質「Low」設定だと軽すぎで,グラフィックス品質「High」がベストバランスだという。
CPUとGPUの負荷バランスを調べるのに役に立つのが,フレームレート解析ツールだ。AMDは「OCAT」,NVIDIAは「FrameView」を配布しているが,じつはIntelも,以前から「PresentMon」というツールを配布している。
「Fraps」に代表されるDirectXのAPIをフック(横取り)する旧世代のフレームレート計測ツールが推奨されなくなり,その代わりとして「Event Tracing for Windows」(ETW)の利用が推奨されるようになったあと,おそらく最初にリリースされたのがPresentMonだった。そんな古くからあるツールなのに,ゲーマーにおける知名度が低いのは,PresentMonが開発者向けツールでコマンドラインインタフェースしかないなど,使い勝手よくなかったからだ。
そんなPresentMonを大幅に改定した最新バージョン「PresentMon 0.5 Beta」を,Intelは8月22日の22時に配布を開始するという。Intelの説明によると,PresentMon 0.5 Betaはグラフィカルユーザーインタフェースを完備。詳細なフレーム描画のデータをオンスクリーンのグラフで確認できるようになり,CPUとGPUのバランスを調べるのに役に立つそうだ。
PresentMonは,Intel製GPUだけでなくAMDやNVIDIAなど他社製GPUにも対応する。パワーユーザー向けに,充実したコマンドラインオプションも,これまでどおり利用できるという。興味がある人は試してみるといいだろう。
IntelのArc Aシリーズ製品情報ページ
IntelのPresentMon配信ページ(英語)
GitHubのPresentMonページ(英語)
- 関連タイトル:
Intel Arc(Intel Xe)
- この記事のURL: