連載
レトロンバーガー Order 60:“家筐体”気分を「カプコンアーケードスタジアム」で味わおう。でもやっぱゲーセンも行こう編
「過去と未来を鉄の扉で閉ざせ」
(Shut the iron doors on the past and the future)
デール・カーネギーは著書「道は開ける」で,こう述べました。
ゲームで鉄の扉に閉ざされた空間と言えば? そう,アーケード筐体ですね。
便利なコンフィグや多彩な遊びが詰め込まれた現代の家庭用ゲームは楽しいものですが,ゲームのハードとソフトが一体となったアーケード筐体には「純粋なゲームプレイを楽しめる」というストイックな美しさがあります。アーケード筐体のことまで言及しているなんて,やっぱりカーネギーはすごいですね(ぐるぐるした眼で)。
……あ? カーネギーいわく「今日1日の枠の中で生きよ」(Live in day-tight compartments)? 未来を研究したり時代を先取りしたりするのがゲーム開発者の一般的な志向性,未来派だったり壁を抜けたりするのがゲーマーの一般的な志向性ってなもんです。ビデオゲームが存在しない時代を生きていた人物の発言を真に受けちゃいけません。寺山修司いわく「書を捨てよ、町へ出よう」,つまり「能書き垂れてばっかの本なんて投げ捨てて街(=アーケード=ゲームセンター)へ行こうぜ」ってことです(ぐるぐるした眼を逆回転で)。
まあ,まずは書を持たないと書を捨てることもできないので……などと脱線に脱線を重ねて“バター猫のパラドックス”のごとく話を宙に浮かせることもできますが,カモネギだか初音ミクだかはさておき,ゲーマーなら「家にアーケード筐体があったら良いのになあ!」と思ったことは二度や三度では無いはずです。「俺はアーケード産まれゲーセン育ち,レバーとボタンはだいたい友達」的な方々なら,アーケードゲーム基板とコントロールボックスの所有はもちろん,実際に“家筐体”環境を導入している人も少なくないでしょう。
アーケード筐体。それは魂の故郷。Arcade1UPがセールス好調らしく新製品を毎年出しているのは何故でしょう? 近年,アーケード筐体を模したゲーム機が数多く発売されているのは何故でしょう? 美少女ゲームブランドOVERDRIVE代表のbamboo氏が筐体風バッグを作ったのは何故でしょう? 宇宙の意思が,人類の無意識が,アーケード筐体を望んでいるのだ!(ノウマン)
筆者も製造元不明のテーブル筐体を自宅のデスクにしていたり,マイコンソフトの「XAC-1」に大型のコントローラや自作コンパネなどを設置していますが,やはり可能ならば業務用筐体が欲しいところです。
よく考えたらデスク上は見せられたもんじゃなかったので,「スペースインベーダー」のコンパネを取り付けた部分しか写せない筆者宅のテーブル筐体(Order 36から再利用) |
冷静に見てみるとカオスぶりがひどかった筆者宅のXAC-1 |
ただ,筆者の現住居含め,日本の住宅は大きいものを搬入しにくいところが多いうえ,「業務用製品を新品で」となると結構な高額なので,仮に「買える!」となっても躊躇する人は多いでしょう。実際,11年前にホリからアナウンスされた一般向けビュウリックスは販売取りやめになりましたし,筆者も買えたもんじゃありませんでした。あとIKEAとASUSのコラボによるゲーミング家具とやらがXAC-1みたいな方向性を追求してくれたら良いのですが,ドリンクホルダーとかリングライトとかを売り出すそうで,筆者的には「せめて1680万色に光ればなー」といった感じです。
ハードウェア的な家筐体は困難。その一方で,近年はゲームの中で筐体を再現しているケースが増えてきています。まあ,4:3画面のゲームを現行機に移植するとなると,レターボックス的に画面の左右を埋める壁紙などが必要ですしね。そんなわけで,今回はカプコンから2021年2月18日にNintendo Switch版が発売された「カプコンアーケードスタジアム」でやっていきましょう。
カプコンのフレンドリーなクラブに入ろう!
何気に……と言ったら失礼かもしれませんが,旧作オムニバスソフトでの筐体オマージュに積極的なゲームメーカーの1つがカプコンです。「カプコン アーケード キャビネット -レトロゲームコレクション-」(PS3/Xbox 360)ではテーブル筐体風の壁紙,「ストリートファイター 30th アニバーサリーコレクション インターナショナル」(PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)では海外アップライト筐体をオマージュした壁紙を使えました。
そして先述のようにNintendo Switch版が発売中,PC / PS4 / Xbox One版も後日発売予定の「カプコンアーケードスタジアム」では,ついにバーチャル筐体が登場。ゲームセレクト画面が「プレイする筐体を選ぶ」というデザインになっているなど,アーケーダー魂が震撼することウケアイです。
プレイ時の画面は,[+]ボタンで展開できるメニューから「DISPLAY SETTINGS」を選択し,「フレーム」の項目を変更することで,バーチャル筐体の種類およびレターボックス部分の壁紙を設定可能。選んだバーチャル筐体はゲーム選択画面にも反映されます。
収録筐体の1つは1980年代末頃に発売された「ステイタス」。テーブル筐体ほど平たくはないけど,1990年代の筐体ほど立ち上がってもいない画面の傾斜角が時代を感じさせます。筆者としては1990年代の中頃,「ストリートファイターII’」や「大魔界村」などを入れて旧作コーナーで動いていたなあという印象です。
「ミニキュート」は人気の高い筐体ですね。ゲームセンターというより,おもちゃ屋やデパートの一角などでの稼働が印象深いマシンです。ざっくり四角柱状の筐体(正確には四角柱から2つの角を削ったような六角柱)からコンパネが出っ張ったデザインには「子供向けアップライト筐体」と言える優しい雰囲気があり,童心的な憧憬を呼び起こされます。側面や後方から見ても見栄えするスマートなペイントは,どんなロケーションでも「ここにゲームがあるよ!」というアピール性を発揮していたものです。今日の「ストリートファイター(V)」と言えば洗練されたガチの格ゲーですが,各地のミニキュートで小学生がほとんどガチャプレイで遊んでいた「ストリートファイター(II)」も,それはそれで趣深いものでした。
逆に「インプレス」は,筆者としてはあまり馴染みのない筐体です。インプレスの特徴は,当時のカプコンが売りとしていた立体音響システム・Qサウンドに対応していることですが,Qサウンド対応筐体と言ったら,筆者的に印象深いのは「いかにもここからQサウンドが出ます!」みたいな筐体デザインに特別感があった「Qグランダム」。そんなわけで「インプレスって触ったことあったかなあ……」と調べていたら,長らく使っておらず固着していた記憶の蓋がパカッと開き,「あーあーあー,某プラサカプコンで『エイリアンVSプレデター』やってたときコレだった覚えがあるわ。そこでしか触らない筐体だったから,ボタン配置やモニタ距離が独特に感じられて,それで印象に残ってる。ただ某プラサカプコンって当時の俺の行動範囲からちょっと外れたところにあってさ。たまにしか……」と記憶がデロデロと溢れ出してきました。
実際あまり触れたことは無いわけですが,逆に言えば,あのとき作れなかった思い出を今から作れる! さあ,やるぞ「エイリアンVSプレデター」! あっ収録されてねえ! まあ基板あるから良いか!!
そのほか,海外で主流のアップライト筐体も収録されています。とくに名称は設定されていませんし,これのモデルとなる筐体もあったのかちょっと分かりませんが(とはいえ調べたところソックリな1990年代後半の筐体写真が見つかり,再現したのであろう側板カットの角度などに感心したりもするのですが),当たり前のようにレバーはナス型だったり,マーキーもゲームごとに変わったりと,見れば見るほど作り込みに嬉しくなれます。
でもやっぱりゲーセンに(いろいろ留意しつつ)行こう!
といった感じで「カプコンアーケードスタジアム」収録筐体を見てみました。素晴らしい再現度ですが,しかし結局のところ絵に描いた餅であり,モッチモチです。今回,セガ筐体パートなども用意していながら掲載にいろいろ間に合わず,再来週の掲載回で筐体特集パート2として取り上げたいと思っていたり,「て言うか普段から無闇にネタを膨らませすぎなのでは? 今回くらいが適切なボリュームなのでは?」と懸念を覚えたりしますが,まあ「龍が如く」シリーズに登場するブラストシティだって絵に描いた餅でありモッチッチーです。
そう,アーケーダー魂を持つなら,画面内の筐体だけで満足できましょうか? イッツ・ア・否! やはりアーケードゲームは筐体でプレイして,コンパネに触れて,コインを入れてこそ,なんぼのもん!
家筐体は難しいですから,やっぱりアーケードゲームをプレイするならゲームセンター。しかし昨今の厳しい情勢の中,ゲームセンターは窮地に立たされています。GAME SPOT21やシルクハット池袋などの名店は姿を消しましたし,岡山ファンタジスタは資金ショートを公表しました。
まして4月23日には3度目の緊急事態宣言を4月25日〜5月11日に発令すると政府から発表され,中野TRFは5月末まで縮小営業,ゲーセンミカドは白鳥店を休業するとしています。ゲーム業界で言えば「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 3rdLIVE TOUR PIECE ON PLANET / TOKYO」のDAY2公演が急遽,有料生配信のみでの開催となるなど,イベント等も大打撃です。感染拡大の阻止は絶対的な命題ですが,それにつけてもフィジカルな体験を提供するタイプの娯楽産業が受けているダメージは,必要以上に大きすぎる気がしてなりません。
先日,PlayStation StoreでのPS3/PS Vita/PSP用ソフトの販売が今夏をもって終了することが発表されて大きな騒ぎとなりました。今夏の販売終了は撤回されましたが,それにしても出荷されたハードウェア台数/ソフトウェア本数が何万という単位の家庭用ゲームでも,終売になるということは騒ぎになるほどの文化的損失です。まして,絶対数がコンシューマーゲームに対して非常に少ないアーケードゲームおよび,そのプレイ環境であるゲームセンターが我々の前から姿を消すということが,どれだけ大きな文化的損失であるか。とくに非フランチャイズ系や個人経営店が廃業となったら,まず取り返しがつきません。
「ゲームは消費物であり,消費物に文化は存在しない」みたいな見方をする人はゲーマーの中にも少なくありませんが,筆者から言わせてもらえば,それは余りにも即物的かつ短絡的です。そう,未来とは過去からの積み重ねがあって成り立つもの。未来を創ることと,過去を語り伝えることは同じなんだ(本連載に登場6回目のフレーズ)。
つきましては,家庭用ゲームでバチバチと気持ちを盛り上げつつ,可能な限りモリモリとゲームセンターに繰り出していこうではないですか。公衆衛生にはペカペカと気を付けつつ! あと「全国ゲーム屋コロナウイルス対応支援窓口一覧」やCi-enなどを見てチャリチャリとチャリティったりしつつ!
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