レビュー
「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版をレビュー。現時点で113本のシナリオをとことん遊べる,古き良きダンジョンRPGの決定打
そんなWizardryシリーズにとって久々の新作となる,「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版のアーリーアクセスが,2021年12月17日に始まった。
“新作”と書いたが,実は本作,2006年にWindows XP向けに発売された同名作品をリニューアルしたものである。とはいえ,単に最新のWindowsに対応したというベタ移植的なものではなく,プログラムやグラフィックスなどに徹底的に手を入れて刷新されており,内容的に変わらないとしても“新作”と言って差し支えない程度には別ものだ。
今回は,ダンジョンRPGの初心者でも分かるように,本作の魅力や各種システムなどを紹介しよう。
Wizardryは今も日本で進化し続ける―――シリーズ最新作「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版の開発者にインタビュー
「ウィザードリィ外伝 五つの試練」のSteam対応版が,近日中にリリース予定だ。第一作の登場から早40年が経過するウィザードリィ(Wizardry)は,本家アメリカをさしおいて,今もなお日本で進化し続けている。今回はウィザードリィの日本独自展開における第一人者に,本作の見どころやゲームボーイ版外伝シリーズの昔話など,たっぷりと話を聞いてみた。
「ウィザードリィ外伝 五つの試練」公式サイト
古き良きウィザードリィが装いも新たに登場
ウィザードリィは,さまざまな種族・職業の冒険者による6名編成のパーティで,一人称視点のダンジョンを攻略するターン制RPGである。
現在のダンジョンRPGのジャンルは多彩なものとなっているが,ウィザードリィはそれらの始祖と言っていい存在であり,本作はその,古き良きウィザードリィの流れを引いた正統派だ。したがって,本作の各種システムも全体的にクラシックな造りとなっている。
たとえば,いまどきのRPGには当たり前のようにあるゴージャスなカットインや,モンスターのアニメーションなどの演出はほとんどない。第一印象のインパクトには欠けるだろうし,なにより未経験者が掲載画像を見ただけだと,とくに興味も湧かないかもしれない。
だがRPGとしての面白さの本質は,そういった見た目や演出などとは別の部分にもある。たとえば,名前や姿形すら分からない敵と繰り広げる緊張感あふれるバトル。あるいは,エンディングを迎えた後も思わず続けてしまう,レベル上げやレアアイテム探し。そして,シンプルな演出であるがゆえ膨らむ無限の想像力。これらを体現しているからこそ,ウィザードリィは,(いま振り返ると)プラットフォームのスペックが貧弱だった40年前から,多くのファンを惹きつけているのだ。
経験者向けの説明となるが,本作における各種システムは,基本的に初期のシリーズ作(#1〜3や#5,外伝シリーズ初期)を踏襲している。古き良き磨き上げられたシステムといえるが,一方でゲームの環境周りは,2021年に登場する新作タイトルらしく整備されている。
操作方法はマウスやキーボードに加え,ゲームパッドにも対応する。また,ユーザーインタフェースのレイアウトは4種類から選べるほか,幅広いカスタマイズが可能だ。さらに,プログラムはUnityで作り直されており,元々のグラフィックスが簡素なことも相まって,ゲームの動作は極めて軽快。そのほかにも,好きなイラストを取り込んでフレーム内に常駐させる機能などが追加されている。
権利関係が複雑なIPなため,一部の固有名詞は引き継がれていないが,それを除けばウィザードリィの範囲内で,幅広いプレイスタイルに対応できているだろう。
もっとも,往年のファンにとっては,上記の練り込まれた追加要素の数々より,シンプルに「クラシックなウィザードリィを,ワイドかつフルスクリーン環境でプレイできる」部分が刺さると思われる。これには筆者も想像以上のインパクトを受けたので,ウィザードリィの経験者は騙されたと思って,掲載されているスクリーンショットをフルスクリーン表示させてみてほしい。
ちなみに,イラストレーターの末弥 純氏がオリジナルを手掛けたモンスターの数々も,今回新たな命を吹き込まれた。末弥氏自らの描きおろしをはじめ,すべてが高解像度向けに対応して描き直されているのだ。むろん,氏以外が手掛けた描き直しも,すべて末弥氏が監修しているのでクオリティは保証されている。ベイシスケイプによる荘厳なBGM(これはオリジナル版と同様)が流れるなか,思い入れのあるモンスターが画面いっぱいに映し出されるたびに,感慨深く見入ってしまうのは筆者だけではないはずだ。
公式シナリオ5本+ユーザー制作シナリオがプレイ可能
現時点で108本ものユーザーシナリオがコンバート済み
本作で遊べるシナリオに関しては,まず,インストール直後の状態で5本の公式シナリオが用意されている。これらの各シナリオではキャラデータが別々に管理されており,場合によっては「武器の二刀流」「後衛からの攻撃」「能力の上限値」など,ダンジョンRPGとしての基本ルールも微妙に違っている。シナリオごとに新規の状態で始めることになるため,ざっくりと誤解を恐れずに言うと“5本のウィザードリィ”が収録されているイメージだ。
ちなみに,オリジナル版の発売当時に4Gamerに掲載したレビュー記事では,公式シナリオの内容も一通り紹介している。15年も前の記事で恐縮だがシナリオ自体は同じものなので,もし興味を持ったら「こちら」も参考にしてほしい。
また,15年前に発売された本作のオリジナル版には,ユーザーがシナリオを制作できるエディタ機能が付属していた。プレイヤーが公式サーバーにアップロードしたシナリオを,ほかの人がダウンロードして遊ぶことも可能だったわけだ。
そしてここからが肝心なのだが,これまでに公開されたそれらのユーザーシナリオは,今回のSteam対応版向けに全部コンバートされている。その数,本稿の掲載時点で108本※。つまり,2980円(税込)で本作を購入すれば,公式シナリオ+ユーザーシナリオを合わせた計113本を丸ごと遊べるのだ。
※2021年12月17日 アーリーアクセス開始時点
「一般の人が作ったシナリオなんてピンキリじゃないの?」と思う読者もいるかもしれないが,もしそうなら,認識を改めたほうがいい。公式シナリオと比べて見劣りがしないどころか,単体で商品として通用するレベルのシナリオもある。
これらのユーザーシナリオのクオリティの高さこそ,本作のオリジナル版を傑作たらしめ,熱心なファンの間で15年にわたって語り継がれてきた,最大の要因といっても過言ではない。それだけに,今回のSteam対応版において“遺産”が引き継がれていることは極めて重要なポイントなのだ。
最初にプレイする価値のあるシナリオ×6本を紹介
筆者は,本年6月に掲載した開発者インタビューを行ってから,本作の開発バージョンを半年以上遊び続けている。それらのなかから,とてもWizardry的だと自信を持ってオススメできる6本のシナリオを以下に紹介しよう。
●「適当RPG」【制作者:Mr.L-edさん】
タイトル名のとおり良い意味で適当……というか,肩の力を抜いて楽しめるシナリオ。NPCのテキストがネットスラングを多用しているなど,全体的にフランクな雰囲気で,初めてウィザードリィに触れるような若い人向けにも勧められると思いピックアップした。
ダンジョンの構造は極端に入り組んでおらず,アバウトに進んでも行き詰まることは少ないだろう。戦闘のバランスも比較的易しめで,ゲーム序盤から最低攻撃回数の上昇効果を持つ武器が入手できることもあり,パーティの強化を実感しやすい。全体として意外とボリュームがあるので,ダンジョンRPGの初心者は本シナリオでウィザードリィのお約束をざっくりと把握したら,次のシナリオを探すのも良いだろう。
●「階級別格闘大会」【制作者:9012さん】
ストーリーや謎解きの要素が一切ない,潔さを感じるシナリオ。マップ構造も,小さな玄室(モンスターが出現する部屋)が延々と連続しているだけと,非常にシンプルな造りとなっている。プレイ中はひたすらモンスターを倒し続けることになるが,謎解きなどは必要ないためパーティのレベル上げ作業に没頭できる。
なお,シナリオ内には,「肉弾戦」「魔法戦」「オールラウンド」「無差別」の4種類のダンジョンが用意されている。たとえば肉弾戦のダンジョンには直接攻撃タイプの敵しか出現せず,魔法全般が使用不可,といった特殊ルールも採用されているのだ。モンスターが攻撃時に繰り出すダメージ値などは,その見た目に準じており,この点を踏まえて戦術を考えるのも面白い。
●「灼熱の車輪」【制作者:白石晃裕氏】
ユーザーシナリオの完成度の高さに目が行ってしまうが,公式シナリオも忘れてはならない。収録されている5本の公式シナリオは,どれも昔ながらのWizardryらしさが溢れているが,個人的にはこの「灼熱の車輪」をオススメしたい。
シナリオの世界観として1980〜90年代のヘヴィメタルが採用されており,往年の名曲・名盤の数々をモチーフとしたモンスターをなぎ倒していく。そしてダンジョン内に散らばるオートバイのパーツを探し,完成後はこれに乗って地獄のハイウェイを疾走しながら,ライブ会場へと向かうというストーリーだ。
世界観こそブッ飛んでいるが,適度な数のフロアにウィザードリィの各要素がコンパクトかつバランス良く詰め込まれた良作である。また,このような代物をオフィシャルが公開している部分にも,“シナリオ制作において常識に縛られる必要は一切ない”という,開発者からのメッセージのようなものが感じられる。
●「Infinite Labyrinth」【制作者:sugsyuさん】
ロビーから,小規模のダンジョンにランダムでテレポートしたうえで攻略を行うシナリオ。この数がとてつもなく多いため,プレイヤーの視点で見ると,ほぼ毎回新しいダンジョンに挑む形となる。その結果,擬似的なランダム生成ダンジョンとなっているのが実にユニークである。
ダンジョンの広さは,仮にマッピングを行わずとも,ぎりぎりクリアできるかどうかといったところ。出口が分からないなか,魔法使いや僧侶が使える呪文の残り回数などを確認しながら「もう1戦行けるか……?」といった判断を強いられる,あのヒリヒリした感触をたっぷりと味わえるだろう。
●「龍の邂逅」【制作者:叢雲さん】
対になった2本の塔を舞台とするシナリオ。
各フロアには,2本の塔を結ぶ連絡通路が設けられており,これを使って交互に行き来しながら攻略を行う。このマップ構造が秀逸で,初プレイ時は大変に驚かされた。踏破済みのマップ画面とにらめっこをしながら,次の攻略ルートを模索するのが好きな人にとっては,楽しくてたまらないシナリオだろう。
この2本の塔は,それぞれが龍の化身という設定である。ダンジョン内の断片的なメッセージを通じて,龍の神話が少しずつ語られるのだが,この雰囲気が実に良い。ゲームバランスに関しても,ラスボス討伐後は一転して激しいインフレを起こしており,その部分も含めコンシューマ版の“ウィザードリィ・外伝”シリーズらしさを感じさせるシナリオだ。
●「永遠の守護者」【制作者:natsukiさん】
戦闘のバランス,世界観,ギミック,アイテム性能,どれを見てもゲーム制作のプロが制作したとしか思えない。ダウンロード数も最多という,名実ともに本作を代表するユーザーシナリオである。
最初のフロアで1か所,なかなか嫌らしい仕掛けがあるので,初心者は素直に攻略情報を探すのが良いかもしれない。逆に上級者は,ノーヒントあるいはノーリセット(ただしラスボス以降はリセット必須)で挑戦するのも良いだろう。
これはあくまでも個人的な考えでしかないが,もしかするとこの「永遠の守護者」は,これまでに登場したすべてのウィザードリィ関連作品のなかでさえ,最も完成度が高いシナリオかもしれない。
筋金入りのファンのこだわりを目の当たりに
新規シナリオも作成可能だが現在のハードルは高め
シナリオエディタを触ったことがある人なら分かるだろうが,1本のシナリオを最後まで完成させるためには大変な労力を要する。しかもオリジナル版の五つの試練はWindows XP向けに開発されたもので,発売後ほどなくして最新OSへの公式サポートが打ち切られているのだ。
そういった状況下でも,本作のオリジナル版は熱心なファンの間で15年もの長きにわたって語り継がれ,これほどの数のシナリオが作られてきた。そのクオリティも含め,本当にすごいことだ。
本稿では6本のシナリオしか紹介していないが,そのほかの作品にも制作者のこだわりがたっぷりと込められている。そういったこだわりに直接触れられるのも,本作ならではの醍醐味と言えるだろう。113本のシナリオを全部プレイするのはさすがに厳しいとしても,ぜひ自分自身のお気に入りを探してみてほしい。
ちなみに,新たなユーザーシナリオの制作に関しては,(現在は)かなりややこしい状況となっている。端的に説明すると,Steam対応版のシナリオエディタは現在公開されておらず,2022年内の公開に向けて調整中である。一方,オリジナル版のシナリオエディタは現在も利用でき,これで制作したシナリオを公式サポートに申請することで,Steam対応版へコンバートしてくれるそうだ。
オリジナル版のシナリオエディタは非常に強力なので,その気になれば過去のシリーズ作を完璧に再現することも不可能ではない。そうやって作られたシナリオが野放しで公開されてしまうと,著作権上のトラブルが起こるのは想像に難しくない。そのための措置ということだろう。将来的にどうなるのかは分からないが,現状としては,新規シナリオの制作はハードルが高めとなっている。
2021年に登場する「ウィザードリィ」は,どのように映るのか
歴史ある名作シリーズであるウィザードリィの“新作”は,経験者にとってどのように見えるだろうか。
おそらくだが,強いこだわりを持つファンほど本作が好ましく映ると思う。そもそも,クラシックな造りのウィザードリィが,現行プラットフォーム向けにリリースされるのは本当に久々のことである。しかも,ワイドかつフルスクリーン環境でプレイできるのだ。
しかも本作は動作が軽快で,演出も簡素なため,繰り返し作業においてストレスとなる部分がない。たとえば,気に入ったシナリオは延々と育成作業に没頭してしまうものだが,そういった作業がまったく苦にならない。むしろ,いまどきの最新RPGと比べても遊びやすいと感じる人もいるだろう。
では翻って,ウィザードリィの未経験者にとって本作はどう見えるのだろう。筆者が未経験者ではないので想像でしかないが,やはり独特のクセがあることは否めない。とくに,プレイヤーキャラが死にやすいという部分に対しては,抵抗感を抱く人も少なくないと思われる。
例えばシナリオの開始直後などは,HPが少ないためにいともなくあっけなく死ぬ。たとえ中盤以降になっても,敵の先制攻撃や宝箱のトラップ等であっけなく死ぬことは変わらない。それどころかレベルドレイン,パーティの全滅,捜索隊の二次遭難,キャラクターの消失(ロスト)も当たり前のように起こる。
「そういった部分も含めてウィザードリィだ」と言われれば確かにそうなのだが,客観的に見るとハードコアモードに理不尽さが加わったようなゲームなので,いまどきの若い世代のゲーマーにとっては受け入れがたいだろう。
実際のところウィザードリィをプレイする際は,上記の悲劇を回避するためのソフトウェアリセット(本作の場合はCtrl+F1キー)がデファクトスタンダードとなっているが,この部分も人によって評価が分かれるはずだ。
リセット技については昔からいろいろと言われているが,個人的には全然問題ないと思う。リセットを封じた先にある“醍醐味”は確かに感じるが,それは皆に強いるようなものではない。実際のところ,パーティをとことん強化することに喜びを感じる人が大半なのだろうし,リセットも許容している……と思う。ただ,やたらにリセットすると緊張感がゼロになってしまうので,ボーダーラインは自分で判断しよう。
一生遊べるウィザードリィ
今回のSteam対応版は,当初予定されていた発売日の前日に延期が発表されるという,前代未聞の事態となってしまっていた。紆余曲折と一言で済ますには,あまりにも色々なことがありすぎるタイトルだが(2021年12月15日時点で現在進行形だ),まずはこうやって無事にアーリーアクセスが始まったことを歓迎したい。
古き良きシステムを踏襲したウィザードリィが,現代のゲーム環境を積極的に取り入れ,ユーザーシナリオを含め発展が感じられる形で登場したことは,ゲームの歴史的にも大きな意義がある。今となっては「Ultima」のシリーズも途絶えてしまい残念な限りだが,少なくともウィザードリィ(の日本展開)に限っていえば,本作がある限り安泰であろう。
というより,もはやこれ以上の進化は望みようがないし,少なくとも筆者には想像がつかない。熱心なファンにとって本作は,文字通り“一生遊べるウィザードリィ”となる可能性がある。
「ウィザードリィ外伝 五つの試練」Steam対応版は,古き良きダンジョンRPGの決定打と呼ぶにふさわしいタイトルである。しかも,そんな本作が現在は2980円という,ありえない価格でアーリーアクセスが行われているのだ。ダンジョンRPGに少しでも興味を持っているなら,この年末年始にぜひ腰を据えてプレイしてほしい。後悔することはないはずだ。
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