プレイレポート
「両手いっぱいに芋の花を」プレイレポート。ソウルライクの要素を盛り込んだ,画期的なシステムが光る3DダンジョンRPGの新星
本作はそのタイトル通り,「芋の花」の種子を求めて地下迷宮を探索する3DダンジョンRPGだ。最初はその不思議なタイトル名に気を引かれるが,いざプレイしてみると,「3DダンジョンRPG」という素材を,実に斬新なゲームシステムで料理していて,驚かされる作品となっている。今回,発売前にプレイする機会を得たので,ダンジョンRPGが大好物で,マッピングが三度の飯より好きな筆者がプレイレポートをお送りしたい。
懐かしいけど斬新。これが3DダンジョンRPGの新しい形だ
ゲームをスタートすると,プレイヤーは唐突にダンジョンに放り出される。どうやら自分たちは調査隊であり,「人の侵入を察知するトラップによって,ダンジョンから出るための鉄格子が閉まってしまった」という状況の説明のみが行われ,すぐに操作できるようになる。
本作は,一見ごく普通の3DダンジョンRPGに見えるのだが,ゲームを進めていくと小さな驚きがいくつもあった。
まず,マップは暗い場所では確認できないという妙にリアルな仕様だ。ダンジョン内の壁には,ところどころに松明(たいまつ)がかけられており,火の点いた松明がある明るいマスでならマップを確認できる。
とは言え,これは決して不便な要素ではない。大抵は数マスおきに松明が灯っているし,プレイヤーは時間制限ありの松明を所持しているので,マップを見たいときは松明を点ければいい。また,壁に設置されている火の点いていない松明は,手持ちの松明で点火できる。壁の松明は永続的に明るい場所になるので,「未知の空間であるダンジョン内を自分の手で開拓していく」手応えがある。
当然,ダンジョン内にはモンスターもいるわけだが,この位置はすべて見えている。つまり,どのタイミングでどのモンスターと戦うかは,プレイヤーに委ねられている。
また,ダンジョン内には鍵がかかった扉があり,これを一方から開けることで,ショートカットが開通する。もちろん,「以前は遠回りしていた場所を近道できる」というのが一番のメリットだが,本作は敵の位置が見えているため,敵を避けられるルートが増えるのもポイントだ。消耗せずに先へ進みたい場合など,通常敵との戦闘を極力避けて進むのも戦略の1つというわけだ。
そして,モンスターとの戦闘については,プレイしていて最も驚いた。オーソドックスなターン制バトルなのだが,敵が,味方の誰を狙っているかが表示されるのだ。つまり,次のターンで敵から狙われているキャラは確実に防御が可能となる。
ターン制バトルであることを考えると,それでゲームになるのかと心配になってしまうところだが,普通のRPGの戦闘とは異なり,防御をせずに敵の攻撃をくらった場合のダメージが非常に高い。敵の攻撃は防御をすることが前提のバランスとなっているわけだ。
では狙われたらひたすら防御を繰り返せばいいのかというとそうではない。本作には「スタミナ」の概念があり,行動をするたびにスタミナを消費するのだ。当然,防御にもスタミナを消費するため,何度も行動していると尽きてしまう。こうなると,スタミナを回復する「構えなおし」以外の行動が一切とれなくなる。
スタミナが尽きて「構えなおし」せざるを得ないターンに敵に狙われると,大ダメージを受けることが確定してしまう。つまり,いかに「敵のターゲットが向いていないときに構えなおしてスタミナを元に戻すか」が重要な,“スタミナ管理バトル”とも言えるわけだ。
筆者は「ダンジョンRPGにまだこんな進化の道筋があったとは」と驚きながら,オープニングイベントであるダンジョン探索を進めていたのだが,そんなこんなで最奥らしき場所にたどり着き,ボスらしきモンスターが。
何やらオープニング1発目のボスにしては見た目が強そうだなと思ったが,この瞬間,筆者は気付いてしまった。「オープニングで強そうなデーモン」「行動にスタミナ消費」。そして,キャラクターの技能にはローリングによる回避というものがあるのだ。これは,間違いなくソウルライク……!
このボス戦は,「誰が狙われているか事前に分かる」という戦闘システムを理解・体得するための最終試験のような作りになっている。
3名のキャラは,技能欄に「大防御」か「ローリング」を持っており,ボスは見た目通りに強いので,攻撃に合わせて「大防御」か「ローリング」を成功させていかないと,一撃の被弾が致命的となる。「さあ,次のターンに狙われるのは誰だ……?」とドキドキしていると,全体攻撃が来ることもあり,気は抜けない。
ソウルライクの要素もあるが,ターン制コマンドバトルなので反射神経を必要としないし,3名のパーティーバトルなので,RPG特有の「仲間と協力して戦闘を組み立てる」感覚がある。ただのオマージュではない,「ソウルライクな戦闘をターン制バトルに落とし込んだらどうなるか」という挑戦的な試みが行われており,結果,それが非常に面白い。
ボスを倒した先にはレバーがあり,これを操作することで鉄格子が開く。これはオープニングの最初のシーンで調査員の背後に映っていたレバー。段差の上なので,飛び降りるとすぐに出口だ。ここでオープニング兼チュートリアル完了となる。
探索行の幕開け。自分だけのキャラクターをメイキングしてミッション遂行に挑め
オープニングイベントで操作した3名のキャラは緊急的に借りたメンバーだったらしく,調査員の女の子は非戦闘員の様子。ここからは,自分で作成した3名のキャラと共に冒険をスタートすることになる。
種族は「オーク」「ウッドエルフ」「ノーム」「ダークエルフ」「ゴブリン」「ドワーフ」「ヒューマン」の8種類から,クラスは「ウォーリアー」「ナイト」「クレリック」「シャーマン」「レンジャー」「ローグ」「ウィザード」「ソーサラー」の8種類から,それぞれ選べる。
準備が整ったら,ダンジョンへ調査開始だ。最初に進行するダンジョンは「広葉樹林の奥地」と「崖下のくぼ地」の2つから選べるが,「崖下のくぼ地」はオープニングで訪れたダンジョンだ。崖下のくぼ地内にはまだ行けない場所はあったのだが,現時点では進めない。実質,「広葉樹林の奥地」一択となる。
最初のチュートリアルダンジョンと同様に,ダークエルフの女の子は入口で待機。さまざまな話も聞けるのだが,その中で初めて,この調査の目的が明らかになる。
その昔,賃貸しの宝物庫となっていた迷宮の最下層に,錬金術師の一団が箱いっぱいの何かを持ち込んだ。当時の出納帳を見るに,それらは麦や芋の種子である可能性が高く,毒で汚染された土壌でも育つ研究をしていた者もいたらしい。
もし,この情報が確かで,迷宮の最下層に眠る箱いっぱいの何かを持ち帰ることができたならば,人々はもうひもじい思いをせずに済む──。こうした経緯から派遣されたのが,ダークエルフの女の子率いる,プレイヤーキャラクターたち「調査員」というわけだ。
こうして初のダンジョン探索が始まるわけだが,オープニングイベントの3人は,色々な「技能」を持っていたものの,新たに作る3人は完全に駆け出しのようで,何の技能も習得していない。回復役であるクレリックも回復魔法を使えない状態なので,まずは弱いモンスターと戦い,レベルを上げたい。レベルアップすると,技能習得のためのポイント割り振りが可能になる。
ダンジョンに入ってすぐの小部屋には,武器強化や防具製作を行ってくれるNPCも配置されている。武器強化は「サラマンダーの皮」を持ってくることで開始され,以降,お金のような存在である「鉄」を支払うことで武器を強化していける。防具製作にはモンスターの皮が毎回必要で,防具ごとに必要な皮が異なる。
本作では,戦闘終了後に体力とスタミナが全快し,戦闘中に倒れたキャラも戦闘後には復活している。このため,ベースキャンプに戻ることなく長々とダンジョン探索ができる……ように思えるのだが,2つの要素がネックになってくる。それが,松明の使用時間といわゆるMPにあたる「精神力」の問題だ。
松明の使用時間には制限があるが,これはベースキャンプに戻ると回復する。精神力の回復もベースキャンプに戻る必要があり,こちらが原因で戻らざるを得ないことも多いだろう。
ダンジョンには,氷系や炎系など特定の属性攻撃に弱いモンスターがいるので,それらをスマートに倒すには「ウィザード」や「ソーサラー」といった魔術師系のクラスが不可欠だ。序盤は精神力の最大値も低いので,魔術師系のクラスのメンバーの精神力をできるだけ温存しながら進み,ショートカットを1つ開通させることを区切りとしてベースキャンプに戻るといいだろう。
ベースキャンプに戻ると,それまでに倒したモンスターは復活してしまうが,ショートカットの開通によって,ルート上,次回以降は戦わなくて済むようになるモンスターも出てくる。そうして精神力を温存しながら進んでいくのだ。
ショートカットを開通させる要素も,オープニングのダンジョンからパワーアップしている。同じフロア内に複数のショートカットが登場し,ダンジョンの立体的な構造にも拍車がかかってくる。階段を上がったり下りたり,段差から飛び降りたりしていたら目の前に調査員の女の子がいて,いつの間にか入口に戻ってるなんてことも。ショートカットを考慮したダンジョンマップの構造も目を見張るものがある。
ダンジョン内は,コントローラのスティックでグルグルと見回せるのだが,この中には「段差を見下ろす」という動作があり,高低差のある場所で,下段に何があるかを上から確認できる。
ダンジョンの立体的な構造を見ていても感じるが,本作は「ダンジョンを探索する」ということを非常に丁寧に作り込んでいる。
例えば,炎系モンスターばかりが生息するという場所では,近くにある水をかぶって戦うことで炎ダメージを半減させられる。水かぶり状態は,ダンジョン内で数歩歩くと消滅し,必要であれば再度水場まで行く必要がある。
水場はダンジョン内にあるレバーの回転によって位置が変わるため,「この敵がいる場所まで濡れた状態を維持して進むにはどうすれば良いか」という思考を自然とするようになるし,慣れてくると迷わずに頭を使って状況を整理している自分がいることに驚く。
また,レバーには魚のマークがついていて,魚の頭の方向が現在の水場の位置になる。精神力が枯渇する度にベースキャンプに戻ることになるが,本作はベースキャンプに戻っても,壁の松明の点灯状況やダンジョン内の仕掛けは維持されている。
つまり,次にここへ戻ってきたときには,レバーの魚の頭の方向を見れば「現在,どの方面を攻略していたのか」が,マップで確認せずとも分かる。このあたりも含めて,ギミックの作り,加減が本当に絶妙だと感じる。
ベースキャンプへの帰還はメニューからいつでも行えるので,危ないなと思ったらすぐに帰還できる。戦闘中に1人が倒れたまま勝利しても,倒れたキャラにも経験値は入るし,全滅することのペナルティも「ベースキャンプに戻される」ことのみ。プレイヤーが損をするような事態がほぼ発生せず,とにかく「プレイしやすい」の一言に尽きる。
それでいて,ダンジョンRPGで重要な「1歩1歩を踏みしめて進むような探索感」は損なわれていない。次のショートカット開通を見据えたルート取り,どの戦闘を避け,どの戦闘で精神力を使った本気の戦いをしていくのかのペース配分,ギミック解除や,段差からの飛び降りの利用。このように,戦闘だけではなく「ダンジョン探索」を真に楽しめる,新世代のダンジョンRPGと言えるだろう。
画期的な3DダンジョンRPGの新星。ダンジョン好きには是非ともプレイしてほしい一作
自分でキャラクターメイキングした仲間とパーティーを組み,ダンジョン探索へ出かけ,戦利品を手に拠点となる町に戻ってくる。手に入れたお金やアイテムでパーティーメンバーを強化し,さらなる下層へと挑んでいく。この流れをゲームの核に据えた「ウィザードリィ」形式のダンジョンRPGは多い。
しかし本作は,ソウルライク要素を盛り込んだターン制バトルの導入や,ダンジョンの立体的な構造,ショートカット開通を探索の一区切りとして頻繁にベースキャンプへの帰還を促す流れにより,過去の3Dダンジョン系作品とは一線を画している印象だ。パーティーが全滅した際のペナルティが「ベースキャンプに戻される」ことだけなので,グイグイ突き進む選択肢が採れるのも良い。
ストーリーや世界設定についても,冒頭で長々と説明するのではなく,ダンジョン探索が進む過程で,NPCに話しかけることで徐々に明らかになっていく作りも素晴らしい。プレイヤーはやはり,スタートしてすぐにゲームをプレイしたいわけで,それを実現しつつ,世界設定や物語への興味も持続させる本作の手法は,見事と言わざるを得ない。
筆者はダンジョンRPGが大好きだが,さすがに,このジャンルでもう新しい体験はないだろうと思っていた。昔のままでは不便なので,ある部分を簡略化したり,現代風に作り変えてみたりと,ダンジョンRPGでは,これまでさまざまな試みが行われてきたわけだが,間違いなく自分が好きだった「ダンジョンRPG」という範囲内でこれだけ新鮮な体験ができることが,すごく嬉しかった。
可愛らしいビジュアルとは裏腹に,3DダンジョンRPGとして非常に骨太な内容だ。体験版も配信されているので,少しでも興味があればぜひプレイしてみてほしい。
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