プレイレポート
[プレイレポ]身体感覚が伴う操作と,ロープによる救済と制限。「JUSANT」は“安らぎつつチャレンジ”できる一風変わったクライムゲーム
乾ききった大地にそびえたつ,巨大な塔の登頂を目指す本作。タイトル名のJUSANTとは,フランス語で「引き潮」「下げ潮」といった意味を持つ言葉で,「かつては水辺だったが,すっかり乾ききった土地」や「退潮著しい文明」といった意味合いを感じさせるものとなっている。身体感覚が伴う独特の操作感,想像力をくすぐる演出などが特徴の本作を,先行プレイの模様をとおして紹介したい。
乾いた大地の彼方から,少年(あるいは少女のようにも見える)が歩いてくる。この主人公が目指す先には,巨大な岩の柱のような「塔」がそびえ立っており,彼/彼女は何らかの目的のため,この塔を登ることになる。
主人公が背負うバックパックの中には,何やら不思議な生き物の姿が。この生き物は旅の相棒のような存在で,エコーを発することで周囲の植物を活性化させたり,遺跡らしきものを起動させたりする力を持っている。
主人公は何も語りはしないが,その様子から,塔を登るのはこの相棒のためであることを察するのは難しくない。あるいは他の目的もあるのかもしれないが,プレイヤーがそれを知る術があるかは定かではない。このように,饒舌に語らないがゆえに想像力をくすぐる序章で物語の幕が開く。
プレイヤーは主人公を操作し,ロープクライミングのような要領で塔の壁面を登っていくことになる。操作方法は一風変わったもので,コントローラの左右のトリガーがそれぞれ主人公の左右の手に対応し,「トリガーを押すと突起や窪みなどの手がかりを掴み,トリガーを離すと手を離す」という動作を行う。
この,身体感覚を伴うような操作感が,あたかもプレイヤー自身が岩を掴み,体を運んでいくような気分を味わわせてくれる。
もちろん,左右同時に手を離すと落下してしまうので,つねにどちらかのトリガーで手がかりを掴みつつ移動しなくてはいけない。よほど器用な人でもなければ,はじめはぎこちない動きになってしまうが,慣れるとスムーズに壁面を移動できるようになり,自身の成長を感じられるだろう。
手がかりと手がかりの距離が離れている場所では,ジャンプも必要になる。ジャンプ前にはボタンの長押しで力を溜め,ジャンプ後はタイミングよくトリガーを押して手がかりを掴む必要があり,ここでも身体感覚の伴った操作を求められる。
そして,岩に掴まって移動するうちに,主人公は次第に体力を失っていく。途中で手を休めて「握力ゲージ」を回復することもできるが,ゲージの上限は徐々に減っていくので,ひたすら塔を登るだけではなく,しっかり休める場所を探さなくてはならない。
このように,スリルあふれる登攀(とうはん)の感覚とやり応えを味わえる本作だが,一方で,アクションゲームがあまり得意でなくても楽しめる仕掛けも用意されている。
主人公は「ロープ」と「ハーケン」を持っており,これらを使って体を支えることが可能だ。操作ミスなどで落下してしまっても,ハーケンの位置まではロープをつたって登ることができるため,プレイヤーは必要以上にプレッシャーを感じることなく,大胆にチャレンジできる。ハーケンは同時に3個まで,好きな位置に打ちこむことができるので,難所に挑む前などは忘れずに使っておきたい。
さらにロープは,レスキュー隊や特殊部隊のようにラぺリング(垂直降下)に利用したり,ハーケンを支えに振り子のようにスイングして遠くまでジャンプし,フックショットのように使って足場を引き寄せるといった,命綱以外の使い方もできる。
なかなか便利なロープとハーケンだが,じつは主人公の移動範囲に制限を加えてくるものでもある。ロープは定期的に巻き取って回収しておかないと,ロープの長さより先に進めなくなってしまう。ハーケンも,使えば使うほどロープの可動域を制限し,遠くまで進めなくなるというデメリットがある。
塔を登って上を目指すという目的自体はシンプルだが,どんなルートを進むか,どこでハーケンを使うかはしっかりと考える必要がある。アクション一辺倒では先に進めなくなるが,ロープとハーケンに頼りすぎても行き詰まってしまう。そこが本作の楽しさであり,同時に醍醐味ともいえるポイントだ。
なお,ゲームの舞台となる「塔」はかつては人が暮らしていた場所らしく,そこかしこにその名残りがある。壁面をどんどん登っていくだけでも楽しめるが,各ロケーション自体が何かを物語るような「情景」になっているので,そこに居たであろう人々の暮らしを想像しつつ,じっくりと探索して回るのもひとつの味わい方だ。
あちこちに落ちている貝殻を拾えば,在りし日の「残響」を聞くことができるし(プレイヤーには音として聞こえるが,おそらく主人公が思いを馳せているという表現なのだろう)。住民同士が連絡のために使った置き手紙や,主人公より先にこの塔に訪れた者の日記が見つかることもある。
背中の「相棒」は大まかな行く先を示すと同時に,こうした収集物を見つける手助けもしてくれる。彼(?)の持つ特殊な感覚を「共有」すれば,収集物のおおまかな方向を知ることが可能だ。ただ距離まではわからないため,すべてを見つけようとするなら,相応の手応えを得られるだろう。
また,本作は音楽による演出も巧みなものがある。壁面を進んで新たなルートを見つけたとき,曲調がこちらを勇気づけるものに変わったり,核心に近づいたと思われる場面では,荘厳なオルガンの旋律が加わるなど,プレイヤーの気持ちの動きに寄り添うかのような曲の変化がリアルタイムで起こる。ぜひ意識しつつプレイしてほしいと感じたポイントだ。
「JUSANT」は,ロープクライミングのようなアクションを楽しめるだけにとどまらず,一つひとつの操作の成功や失敗,そのときのプレイヤーの心情などもからんだ,ゲームでしか味わえない「自分だけの物語」を楽しめる作品に仕上がっている。静かな秋の夜,ふと本を開くような感覚でプレイしてみるのにピッタリだろう。
「Jusant」公式サイト
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(C) 2023, All rights reserved, DON'T NOD
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