プレイレポート
[プレイレポ]決死の覚悟で祖国への線路を走れ。ロシア革命時のチェコスロバキア軍を描いた異色の戦略RTS「Last Train Home」
プレイヤーは,図らずもロシアの内戦に巻き込まれたチェコの軍隊を操りながら,破壊と暴力で揺れる北の大地を生き延び,祖国への旅路を指揮することになる。
世界大戦をモチーフにしたゲームは枚挙にいとまがないが,その中でも「ロシア革命に巻き込まれた国外の軍隊」という,かなりユニークな存在が主役だ。今回は発売前にメディア向けのプレビュー版をプレイする機会を得られたので,そのレポートをお届けする。
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戦争は終わった……だが本当に長く険しい戦いはこれから始まる
本作の舞台となるのは20世紀初頭,第一次世界大戦による混乱と破壊で,世界に暗い影が落ちている時代だ。文字通り“存亡の危機”を迎えつつある国もあり,帝政ロシアもその一つだった。大戦の真っ只中にロシア革命が勃発し,ドイツなどの同盟国との戦いからも離脱することが決定された。
これにより,少なくともロシアでの戦いは終わるのかと期待されたが,実際はさらなる困難が待ち構えていた。国内での政治的主導権を握るための戦い,共産主義である赤軍と,反革命を標榜する白軍に分かれた内戦が始まってしまったのだ。
ここで微妙な立場に立たされたのが,赤軍にも白軍にも属さない勢力だ。今作の主人公となる「チェコスロバキア軍」もその一つで,元々はチェコ人の捕虜などが「チェコスロバキア独立のためロシア軍に協力する」という名目で戦争に参加していた。
そんな中,自分たちの指揮権が及ばず,強力な装備や兵器を持つ独立軍を危険視した赤軍は,「武装などの一切を放棄して“丸腰”にならなければ反乱軍と見なす」という決定をする。今だ混乱の極みにあるロシア国内を進むため,チェコ軍はそれを拒否し,独力で鉄道による帰還を目指すことに。
こうして,四方八方を敵に囲まれた異国での“祖国に帰るための戦い”が始まることになった……というのが本作の導入だ。
プレイヤーの使命は指揮官としてチェコスロバキア軍を操り,シベリア鉄道を利用してロシア国内を横断しつつ,国への帰還を目指すこと。ロシアから見るとチェコは西だが,ウラジオストクを経由して船便で戻ることになるので,実際は東へと向かう。
戦闘の基本的な流れは,最小3ユニットからなる部隊を操作し,各マップでの目標達成を目指すこと。ユニットは,それぞれロール(兵科)や特性などが異なるため,適材適所で運用していくことが肝要だ。なお,オプションでの難度設定にもよるが,基本的には死亡すればユニットをロストしてしまう気の抜けない仕様となっている。
戦闘で大事なのは,カバーとロールごとの能力だ。本作のキャラクターは忠実ではあるがごく普通の人間であるため,まともに銃器で撃たれればあっと言う間に死んでしまう。そのため,戦うときはフェンスや岩石といった隠れる場所を利用して被弾率を下げるのが基本となる。棒立ちよりも木箱などのハーフカバー障害物や,塹壕などのフルカバー障害物を利用しよう。
ロールはいわゆるクラスや兵科のことで,就いているロールごとに装備や使える能力が異なっている。特出した技能はないが移動が速いライフル兵,制圧射撃ができる機関銃兵,味方を回復できる衛生兵など,どれも前線維持に不可欠の存在で,マップにもよるがバランス良く配置したほうが有利になることが多い。
中でも視界外の隠れた場所を双眼鏡で確認できる偵察兵や,敵が利用するカバーの裏をグレネードで狙える擲弾兵などは,戦局が変わるほどの影響を与えることもあり,なるべく部隊に加えておきたいところ。索敵なしに突っ込んで重機関銃に狙われたり,高台から一方的に撃たれたりといった事態を避けるには,彼らは必須と言えるだろう。
もちろんRTSらしく部隊を複数に分けて同時に探索したり,片方の戦力で敵を引きつけつつ回り込ませた部隊で相手を無力化したりといった,基本的な戦術も重要になる。戦闘前に立てた作戦が上手く決まったときは,非常に気持ちがいい。まさにシミュレーションゲームの醍醐味だ。
なお,ユニットには成長要素があり,戦闘やイベントで経験値を溜めることで,ロールのレベルや能力値を上げたり,追加のロールをアンロックできたりするようになる。弾薬などの消耗品と違い,人的資源は失うものがほとんどないが,適当に戦わせているとロストしてしまう。無謀な戦いをしないのはもちろんこと,イベントなどで怪我をしたときはきちんと休ませて,大事に扱うのが重要なのは,道中で嫌というほど実感できるはずだ。
列車は移動手段かつ“国に帰るまでの家”。強化して困難を極める旅に備えよう
ある意味戦闘パートより重要なのが,「列車での行動」がメインとなる移動パートだ。この列車は自軍の“移動拠点”のようなものであり,兵士の休息や編成を行うだけでなく,大目標である祖国への帰還を実現するための移動手段である。
移動パートでも戦闘パートと同じく,リアルタイムで時間が進んでいく。当然ながら列車は自由に動き回れないので,基本的に前進か停車の二択となる。移動には通常速度と増速駆動があり,前者は燃費がいい代わりに速度は控えめで,後者は速い分だけ燃費がかなり悪い,という特徴がある。
なお,列車を動かすには技師と作業員が必要で,彼らは個別に雇うのではなく,隊員が兼任する形だ。こちらは前述の戦闘用ロールと異なり,列車用のロールがあるので,戦闘で鍛えたから機関車の扱いも上手くなるというわけではない。
移動パートの主目的は指定地点への到達だが,移動と同時にほぼ必須となるのが“物資の調達”だ。軍の行動には,ほぼすべてコスト(物資の消費)が必要になる。列車での移動には燃料,戦闘には武器弾薬,回復には医療キットや救急箱,おまけに時間が経過するだけで食料が消費されるので,何もしていなくてもジリ貧になっていくのだ。
物資を調達する一番簡単な方法は,マップの各地に存在している廃村や湖などのロケーションで探索を行うことだ。探索は人員さえいれば複数同時に派遣できるので,部隊が移動しやすい場所に停車させ,なるべく効率よく指示を出していきたい。
ただし,列車は停止していると敵の注意を引き,画面中央の脅威メーターが上がっていく。一定値を超えると敵の爆撃イベントなどが発生し,場合によっては乗組員が何人も負傷することがある。隊員の回復や列車の修理のために,意図的に停車中に時間を経過させることはままあるが,あまり1箇所にとどまるのはおすすめしない。時間も物資も有限というわけだ。
探索部隊は徒歩なので目的地に着くには多少時間がかかるが,運が良ければ資源が入手できるし,目標が廃村なら資金などが見つかることも。さらに配置した部隊員にハンターやハーバリストといった特殊なスキル持ちがいれば,追加で物資を得られることもある。例え戦闘ではまだ役に立ちづらい新兵も,探索では強みを発揮することもあるわけだ。おまけに探索を完了すれば経験値も得られるので,積極的に探索させることで,戦わなくても能力を強化できる機会が得られるのがうれしい。
とはいえ派遣した部隊は移動や物資の回収にスタミナを消費するため,場合によっては疲労などのバッドステータス状態になるし,運が悪ければ野生動物などに襲われて怪我をすることもある。そういったユニットは適切に休ませないと回復が遅れるほか,働かせ続けるとさらなる状態悪化を招くこともある。例え人数に余裕があっても,無理はさせないように気をつけよう。
また,リソースに余裕があれば,駅や村などで直接物資を購入したり,逆に不要な物資を売却してお金に換えたりもできる。ただ,リソースは後述の列車の強化にも使用するので,よほど懐に余裕がない限り,必要最低限の取引に留めておくほうがいいだろう。
なお,物資の調達にせよ戦闘にせよ,部隊を置き去りにして先に進んでしまうと,残されたユニットは容赦なくロスト状態になる。育った兵士をうっかりミスで失うことはゲーム上ではもちろん,プレイヤーのメンタルにも大きなダメージを受けるので,確認してから先に進むようにしよう。実は筆者も途中でやらかしてしまい,かなりガックリきてしまった……。
さて,リソースに余裕がないシチュエーションが多いのは上で触れたとおりだが,まだまだ資源の使い道はある。それは「列車のアップグレード」だ。例え爪に火を灯す行軍生活でも,本拠地のアップグレードを軽視すると,さらに旅は厳しくなってしまう。
具体的に初期状態の列車には,機関車(動力),貨車(インベントリ),歩兵車(居住部)があり,それぞれ燃費の向上,インベントリの拡張,住環境の快適化といったアップグレードが用意されている。どれも実行するには物資と作業時間,そして作業員の割り当てが必要になるが,適宜実行していくのがオススメだ。
アップグレードを行えば,燃料消費を抑えたり,兵士の回復速度を早めたりできる。補給手段が限られる以上,消費を減らすのがリソース安定の近道というわけだ。
なお,イベントや店での購入で新たに車両を追加できる。例えば工作車なら素材から装備や弾薬を作成できるし,医務車なら負傷者の治療を車内で行える。導入コストは相応に高く,アップグレードのように気軽に実行できるものではないが,何よりできることが増えるので,メリットそのものは大きい。何とかリソースをやりくりしつつ,機会を逃さないようにしたい。
戦闘をスマートにこなす戦術と,リソースを管理する戦略の両方が重要な骨太のRTS
本作はRTSとしては比較的スタンダードな作りだが,事前の索敵をしっかりと行い,状況に会わせたキャラの運用をしないとスムーズなクリアは難しい,いい意味で王道を行く作品だ。もちろん力押しの攻略が可能な場面もあるが,倒すのに時間がかかって弾薬を消耗しすぎたり,敵の思わぬ反撃を食らって味方が負傷したりと,その後の行軍に大きな影響が出ることが多い。筆者の場合「物資が乏しいので敵の拠点を襲ったら,想像以上の反撃に遭って,むしろ消費の方が多かった」なんて状況もしばしばだった。
戦闘をスマートに終えられれば物資の消耗が減り,列車のアップグレードや物品売買に回せるリソースが増え,総合的な消費が減って戦闘に使える物資が増える。このように,戦闘パートと移動パートは,どちらか片方に注力すれば有利になるものではない。避けられる戦闘はなるべく回避するというのも,十分に考慮すべき戦略だろう。局所で勝利を収めても,途中で旅が破綻してしまっては元も子もないからだ。
個人的に,グラフィックスや各種モーションは若干物足りなさを感じた。しかし,雄大なロシアを自らカスタマイズした蒸気機関車で移動していく様はなかなか見応えがあり,愛着もわく。ストーリーは架空のものだが,史実をベースにしたシリアスな内容だ。道中のイベントも内戦真っ最中の混乱を色濃く描いたものが多く,善悪という概念が意味をなさない時代を強く感じるなど,印象に残る場面が多い。
ゲームバランス面では,難度の調整は可能だが,何も考えずに正面から突っ込んで勝てるわけではないし,ランダムで起こるイベントもデメリットが多く,全体的には少々難しめという印象だ。繰り返すが,とにかくリソースと兵士の健康の管理だけはしっかりやっておこう。
全体的に派手な作風ではないものの,第一次世界大戦時の「孤立無援の戦闘集団」という“主役”は上手く描かれており,戦闘をスマートにこなす戦術と,リソースを管理する戦略の両方が問われる,骨太のシミュレーションに仕上がっている。
ジャンルとしてのRTSファンはもちろんだが,「チェコスロバキア軍」というあまり主役に抜擢されることのない歴史の存在に興味をそそられたら,ぜひ本作を遊んで“最終帰郷列車”に乗ってみて欲しい。
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