プレイレポート
[プレイレポ]美少女のお嬢様と奇妙な屋敷で過ごす夏。MAGES.の完全新作「岩倉アリア」は,フルボイスのリアルファンタジー・サスペンスADV
物語の舞台は1966年の日本。主人公である16歳の少女・北川壱子は,ふとしたことから旧華族の屋敷で住み込みの女中として働くことになる。
逃げ出したいと思っていた生活から一転し,優しく穏やかな雇い主・岩倉 周と,人間離れした美しさを持つお嬢様・岩倉アリアの元で過ごすことになったひと夏。日を追うごとにアリアに惹かれていく壱子だが,屋敷の中に奇妙な点があることに気が付いてしまう……。
プレイ中は,屋敷にいるさまざまな人と会話をしつつ,時に「MAPモード」で屋敷を探索して,隠された秘密を収集していく。絵画が趣味である壱子は,見たものや気になったものをスケッチブックに写生し,屋敷の謎に近づいていくのだ。
なお本作は,絵画のようなグラフィックスも大きな特徴である。キャラクターや背景,そしてイベントシーンなどがとても美しく描かれているのだが,時にその美しさが怖さに繋がることも。これがまた,物語や世界観に深みを与えてくれるのだ。
本稿では,女性同士の友情や絆なども描かれている「岩倉アリア」の魅力を,大きなネタバレを避けながら紹介していこう。
本作はレーティングがCERO:Cで,少し衝撃的な場面もある |
美しい少女アリアを中心とした初恋の物語
主人公の北川壱子(CV:鈴代紗弓)は,1年勤めた職場を辞めて,以前いた養護施設へと戻ってきた。とある日,施設のバザーに賑やかしとして出していた壱子の絵が,旧華族の紳士・岩倉 周(いわくらあまね)の目に留まる。それを切っ掛けに,彼女は住み込みの女中として岩倉の屋敷で働くことになる。
これだけ聞くとシンデレラストーリーのようだが,本作の本筋と魅力はそこではない。
岩倉 周(CV:森川智之)は,娘と2人で屋敷に住んでいる物腰の柔らかい紳士。門番や庭師といった最低限の使用人を雇っているが,掃除や娘の世話を頼みたいと壱子に住み込みの仕事を提案する。ふだんは貿易商の仕事をしている |
周の娘・アリア(CV:中村千絵)は,人間離れした美しさを持つ大人びた雰囲気の少女。身体が弱いため,岩倉家を訪れる客人の応対を仕事にしている |
壱子が屋敷で出会ったアリアは,神々しいまでの美しさを持っていた。周から「以前いた女中は,アリアが辞めさせてしまった」と聞いていたとおり,少し気難しそうな性格をしていたのだが,壱子が描く絵をアリアが気に入ったことから,ふたりは急速に打ち解けていく。
屋敷では,岩倉家の専属料理人である宮内スイや,周の秘書を務める明里といった女性も働いている。またスイは,壱子にとって人生で初めての友達ともいえる存在になっていく。
岩倉家の専属料理人である宮内スイ(CV:本多真梨子)は,洋食屋キッチン・プリュスを営む宮内家のひとり。岩倉家に日々の食事を届けたり,厨房で調理をしたりしている。気兼ねなく話せるスイは,初めての環境で不安を抱えながら働く壱子にとって大きな支えとなっていた |
非日常の中で女性同士の強い心の繋がりが丁寧に描写されていく
物語は,主人公である壱子視点で進んでいく。ときおり選択できる「MAPモード」では,探索や掃除をする部屋を選ぶことが可能。時に,かわいらしい調度品を発見したり,何らかの気づきを得たりすることもある。
「MAPモード」に進むと,その場面で重要な部屋(赤色部分)を確認しないと終了できない |
絵を描くことが好きな壱子は,気になるモチーフを見つけたらその場で写生帖(スケッチブック)に描きとめる |
女中として生活する壱子だが,掃除やアリアのお世話をしていく中,小さな違和感に気づく。ある人のふとした仕草,廃棄箱に捨てられていた血に汚れた袋,風呂場のタイルにあった小さな黒いシミ,小箱に収められた赤い液体入りの瓶……など。
そして,それらの点と点が繋がって線となって浮かび上がったとき,穏やかな日常とはほど遠いこの屋敷の秘密を想像してしまうのだ。
昼夜問わず働いている庭師(CV:大須賀純)は,気がつくと不気味な視線を送ってくる |
得体のしれない恐怖にさらされながら働く壱子だったが,少し意地悪で困らせてくる半面,かわいらしくて暖かい一面を持つアリアに惹かれていく。そして,あまりにも平穏な日常とはかけ離れているアリアの世界に少しずつ足を踏み入れていくのだった。
いい意味で,身も心もアリアに翻弄されている壱子 |
主従の関係でありつつも,徐々に特別な感情を抱いていくふたり |
本作は,屋敷の秘密とともに女性同士の強い絆が描かれている。そこには,友情や愛情,慈しみの心,支えたいと思う気持ちだけでなく,自分のものにしたいと思う欲望なども。中には同性への愛もあるのだが,“百合”要素を前面に押し出してはおらず,すべてを内包した“強い絆”が,全編に渡って丁寧に描かれていた。
作中でひと夏を過ごすと,エンディングを迎える。プレイの進め方によって内容が変わるマルチエンディング方式で,33年後の1999年に壱子はどこで誰とどんな風に生きているのかが描かれる。
なお今回,すべてのエンディングを見終えてから本稿を書いているのだが,いまだに「あれ,そういえばこれはどうなっていたのか……」と気になる点がいくつもある。
物語を進めている時には,特に不自然な点はないと思ったのに,後から振り返ってみると発言に違和感があったり情報の辻褄が合わなかったりするのである。
そういった点と点を繋ぐと,また新しい物語が見えてくる。見えていても気づけない,隠されている真実がいくつもあって,そこに至るまでの道筋が本当に丁寧に作られているのだなと思った。
6月27日に発売される「岩倉アリア」だが,プレイする人は,最低でも2周以上プレイしてほしいし,できるなら全エンディングも見てほしい。また,プレイを進めることで開放されるSide Storyも必見である。
なおニンテンドーストアでは,体験版が配信されている。本作が気になった人は,まずこちらを遊んでみるのもいいだろう。
発売日:2024年6月27日発売予定
対応機種:Nintendo Switch / Nintendo Switch Lite
ジャンル:リアルファンタジー・サスペンスADV
価格:
限定版:7150円(税込)
通常版:4950円(税込)
DL版 :4400円(税込)
CERO:C(15才以上対象)
「岩倉アリア」公式サイト
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岩倉アリア
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