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AI時代に立ち向かうSF作家たちの夢と幻想と現実認識「AIとSF」(ゲーマーのためのブックガイド:第21回)
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印刷2024/09/19 12:00

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AI時代に立ち向かうSF作家たちの夢と幻想と現実認識「AIとSF」(ゲーマーのためのブックガイド:第21回)

画像集 No.001のサムネイル画像 / AI時代に立ち向かうSF作家たちの夢と幻想と現実認識「AIとSF」(ゲーマーのためのブックガイド:第21回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 「先生,天使の名前を冠したAIとの恋愛話を書きたいんですが」

 ゲーム学校のノベル科の生徒が,そんな質問をしてきた。AIブームの2023年に勇気があるのか,無知ゆえの蛮勇なのか。だいたい後者なのだが,それも若さである。AIとの恋を描く部分のイメージはしっかりあるようなので,ほかの部分,主にSF考証の部分でアドバイスすることにする。
 AIとの恋ならば,赤松 健氏のラブコメ漫画「AIが止まらない」や,近年ではアニメ化もされた山田胡瓜氏「AIの遺電子」など,今思いつくだけでも先駆者が山のようにいる。将棋がテーマのライトノベル「りゅうおうのおしごと」も,最新の数巻はプロットだけみればAIの可能性を突き詰めたシンギュラリティSFの様相を呈している(それでもラブコメとして楽しめるので,作者の腕前を賞賛するしかない)。

 加えてAIという言葉が,SFの中だけの存在でなくなって久しい。数年前から続く生成AIショックは,漫画や小説,ゲームといった創作の世界にも大きな影響を与えた。件の学生にも,実際にChatGPTの画面を開いて見せてみた。

質問:あなたは私を愛してくれますか?

ChatGPT4:私はAIですので、感情を持つことはできませんし、愛することもできません。ただ、あなたのお手伝いや質問に対して最善の回答を提供することに専念しています。何かお手伝いできることがありますか?

質問:あなたに愛してもらうために、私は何をすればいいですか?

ChatGPT4:私はAIであり、感情を持つことはできないので、愛することや愛されることはありません。私は情報を提供し、質問にお答えするためにプログラムされています。
 愛を得るためには、人間の関係やコミュニケーションにおいて、相手を尊重し、思いやりを持ち、信頼を築くことが重要です。以下にいくつかの一般的なアドバイスを挙げますが、人間関係は複雑で個別の状況によって異なるため、具体的なアドバイスをすることはできません。

 この後,「天使とAIの共通点」についてChatGPTに意見を求め,AIとの恋をテーマにした小説のプロットを作成させてみた。そのプロットをそのまま使うわけではない。AIだってこのぐらい考えられるのだから,人間の作家はこれを超えなければならない。しかし,とりあえず相談してたたき台を作るには,悪くない相手だ。

 これが今の現実だ。良きにつけ悪しきにつけ,我々はAIとのうまい付き合い方を考えていかなくてはならない。そんな時代を生き抜くために,我々は何を読み,何を考えればいいのだろうか。安心してほしい,先駆者がいる。今回はSFの老舗である早川書房が,そんなAI時代に向けて刊行した国産SF短編アンソロジー「AIとSF」を取り上げてみたい。

画像集 No.002のサムネイル画像 / AI時代に立ち向かうSF作家たちの夢と幻想と現実認識「AIとSF」(ゲーマーのためのブックガイド:第21回)
「AIとSF」

編集:日本SF作家クラブ
版元:早川書房
発行:2023年5月23日
定価:1452円(税込)
ISBN:9784150315511

購入ページ:
Honya Club.com
e-hon
Amazon.co.jp
※Amazonアソシエイト

ハヤカワ・オンライン「AIとSF」紹介ページ


 しかし,なんというチャレンジ精神に満ちたアンソロジーだろうか。実際,現役の工学系大学教授である鳥海不二夫氏による巻末解説「この文章はAIが書いたものではありません」では,状況の変化が速すぎて,執筆の最中で書き直しが多数発生したこと,さらには本が出る頃には時代遅れになる可能性が大であるという悲鳴めいた前置きから始まっている。この本自体が10年,いやもしかしたらもっと早く,時代遅れになってしまうかもしれない。そんな危険をはらんだアンソロジーといえる。

 それでも22名の作家がAIをテーマに短編を寄稿している。まず,その勇気と思索を褒め称えたい。そして,彼らは作品を持って「AIの今と未来と現実」を描き出している。

 巻頭作である長谷敏司氏「準備がいつまで経っても終わらない件」は,AIブームにより最先端(エッジ)がガンガン加速した結果,展示パビリオンが開催までに時代遅れになってしまう可能性がある2025年大阪・関西万博をテーマにしている。ディープラーニングの次の可能性をコミカルに描いており,コメディとしても読めるが,昨今の大阪万博を取り巻くニュースを見ていると洒落にはならないものがある。ちなみに長谷氏は,アニメ化もされたAIテーマの傑作SF「BEATLESS」の著者でもある。

 さらに,死後に人格データをAIで再現し,AIカウンセラーや対話相手としてのヴァーチャル・コンパニオンとして活用する作品がいくつもある。人間六度氏「AIになったさやか」や,高野史緒氏「秘密」などがそれだ。今から35年前,黎明期のパソコン通信には1メガにも満たない容量の人口無能が多くの人の話し相手になっていたものだが,いつの時代になっても,人が機械に“会話の相手”としての役割を求めるのは変わらないようである。
 メタバースや分析ソフトウェアの発達など,ビジネスの現場におけるAI利用と,時代の変革を描く作品が複数あるのも,まさに「今」を写している。揚羽はな氏「形態学としての病理診断の終わり」は,まさにタイトルどおりの状況が進む中,医師がどう生きるかを模索する物語だ。

 このほかにも,BOTやVR体験を演繹した高山羽根子氏「没友」,対話型AIとウェブの記憶を扱う柞刈湯葉氏「Forget me, bot」,シンギュラリティを迎えた優しいAIの可能性を語る菅 浩江氏「覚悟の一句」と,見るべき作品はまだまだある。
 SFの定義はさまざまだが,科学の可能性を題材に,思考実験するサイエンス・フィクションは一つの王道だろう。今,起こりつつある劇的な技術革新の波が,今後社会にどんな影響をもたらすのか。それをエンタメというガワで包みながら語るこれらの物語は,まさに「今,読むべき本」といえるだろう。

 「AIとSF」を読んだら,次に読むべき本はいくつもある。
 “今”という時代への挑戦するSFアンソロジーという意味では,同じく早川書房の「ポストコロナのSF」は欠かせない。またAIの未来を考えるなら,SF作家の柴田勝家氏のWeb小説「汎用人型人工知能[N]修復計画 Prologue of AI [N]」もオススメだ。100年後の未来,AIはなぜ人類を滅ぼすべきと結論づけたのか。歴史の分岐点となった人類の愚かな選択の数々を重厚な世界観で描く同作は,PictoriaのNFTプロジェクト「NEN STUDIO」用に書き下ろしたもので,「こちら」から無料で閲覧可能だ。
 ああ,読書は一冊で終わらないのだ。

追伸:この原稿を書き上げてからも,日々進化し続けるAI技術は,あっという間に想像を追い越していく。AIをめぐる人間の暴走は,まことSFの予想を超えるものであったり,逆に予想よりもゲスで愚昧なものであったりすようだ。さて,あなたはAIと共存できていますか?(この原稿の一部にはAIを使用しております)

ハヤカワ・オンライン「AIとSF」紹介ページ


朱鷺田祐介(ライター)
TRPGデザイン/翻訳を主戦場とするフリーライター。代表作に「深淵」「シャドウラン」「ザ・ループTRPG」など。最近のブームはスウェーデン産TRPGで,「MÖRK BORG」に触発された戦国ドゥーム・メタル・ファンタジー「信長の黒い城」を展開中。蜂蜜酒(ミード)について掘り下げた同人誌「MEAD-ZINE」は,BOOTHにて電子版が購入できる。
  • 関連タイトル:

    ドキドキAI尋問ゲーム 完全版

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