プレイレポート
一つのアパートが舞台の,ミニマムだけど壮大なベルリンの物語。人を通して街の歴史を描く「The Berlin Apartment」[TGS2024]
東京ゲームショウ2024におけるbtf Gamesのブースには,手描きのアートが目を引くアクションアドベンチャー「Constance」と,ドイツ・ベルリンの一つのアパートを舞台とした「The Berlin Apartment」(PC / PS5 / Xbox Series X|S)が試遊出展されている。本稿ではディレクターのHans Böhme氏に説明してもらいながら試遊した「The Berlin Apartment」を紹介しよう。
試遊版は1989年,東ベルリンのアパートの一室から始まる。主人公の男性は,窓から飛び込んできた紙飛行機を拾い,そこに書かれていたメッセージを読む。その紙飛行機はベルリンの壁を挟んだ反対側のアパートに住む女性のもので,主人公は返事を書いた紙で紙飛行機を折り,女性の部屋へとそれを飛ばす。
これらの動作はちょっとしたアクションになっており,たとえば紙飛行機を折る場面なら,上に折るときはコントローラのアナログスティックを上に動かし,縦に折り目をつけるときは下に動かす。できた紙飛行機を飛ばすときは女性の部屋の窓を狙い,下に落ちそうになる紙飛行機をスティックで上昇させながら届ける……というミニゲーム感覚の遊びがあった。
そこから部屋の雰囲気は一変し,「その話は聞いたよ?」「おや,そうだったっけ」という会話とともに舞台は2020年へ。つまり親が子どもに昔話を聞かせていた……というかたちで,本作の軸に現代のベルリンがあるようだ。
そこから次の時代となる1933年に移行する。この時代の主人公は映画館の館主であるユダヤ人の男性で,このアパートを去ろうと持ち物を集めているところから始まる。
持ち物を集めるなかで,過去の出来事がモノクロのサイレント映画のように描かれる。この時代でも1989年同様に,トランクに詰め込むものを探したり,見つけたものをパズルのようにトランクの中にはめ込んでいったりする,ちょっとしたミニゲーム感覚の遊びがあった。時代が時代だけに,プレイしながらいろいろな想像が膨らむ。
とある出来事で1933年の物語が終わり,時代はまた2020年へ。このように複数の時代を通じて,ベルリンの街の100年の歴史と物語を描くというのが本作の流れだ。
ではなぜこのようなゲームを作ったのか,Böhme氏に聞いてみた。ベルリンではゲームの舞台のような古いアパートは珍しくなく,開発陣にも実際に似たアパートに住んでいた人もいるという。ではその部屋には,かつてどのような人が住んでいたのだろうか……。そのように考えていくうち,ある部屋のかつての住人たちを通した物語の描き方に辿り着いたそうだ。
ううむ,分かるっ! と思ったのは,実は筆者はベルリンのまさにそういった古いアパート(しかも本作の風景にも近い東ベルリン)に暮らしていたことがあったからである。ベルリンにはいまも壁の一部が点在しており,また年季の入った建物がたくさん残っていて,それらは壁が壊れる前の風景を想像させてくれる。そして,ゲーム内の1989年の壁がある時代の風景は,まさに「きっとこんな感じだったのだろうな」と思い描いたベルリンに近かったのだ。
The Whoのパロディを始め,見覚えのあるロックスター風のポスターが貼られた部屋の中もそうだ。ベルリンは壁で分断されたという悲劇的な一面がある一方,いわゆるインディペンデントな音楽カルチャーがカオスな環境で華やいだ場所でもある。
壁に向けてスピーカーを配置してライブをしたデヴィッド・ボウイ。実験的なクラウトロックやノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ジャーマンニューウェイブ)のバンドたち。壁の向こうへ音楽カルチャーを運び込んだマーク・リーダーなど,関連するアーティストや出来事を挙げればキリがないが,東側の主人公の部屋のポスターは,そういったものを嗜好した時代の若者を感じさせるものなのだ(ちなみに筆者がベルリンに移住した理由は,まさにこのあたりのカルチャーが好きだったからである)。
1933年の窓の外に見えるハーケンクロイツの旗は身につまされるし,2020年の古い建物の壁を塗っている様子もまたそれだけで今を感じさせる風景だ。本作には5つの時代があって1つの物語は45分くらい。ちょっとした探索の楽しさもあるのでそれを楽しむとしても,全体で5時間くらいあれば最後までプレイできそうだ。アート面や物語の見せ方,ちょっとしたパズル的要素にこだわりを感じたので開発期間について聞いてみると,「それもなかなかの歴史があります」と笑いながら答えてくれた。
どこかの国のどこかの町に住むどこかの誰か。そんな一見共通点のなさそうな人たちの身の回りの出来事が,なぜか自分と近く思われたり,その人自身の考え方に強く共感できたりする。どこかそんなことを感じさせてくれるのが,音楽や映画,ゲーム問わず「インディー」と呼ばれる作品の特徴だと思う。まさに「The Berlin Apartment」はそういう作品だ。Steamにもデモが配信されているので,気になる人はプレイしてみてほしい。
「The Berlin Apartment」公式サイト
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The Berlin Apartment is developed by btf Games. Copyright(C)2022-2024 btf GmbH.
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