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子供たちの音楽体験のために。構想10年の“ラグジュアリー”なリズムゲーム「フェリシティーズ・ドア」を試遊[TGS2024]
本作は“世界各国の音楽家たちの楽曲”で音ゲーを楽しんでもらうという,なかなかに物珍しいスタイルだ。目指す先も,極上の体験を味わってもらうためのラグジュアリー・リズムゲームなんだとか。
構想は10年。いろいろあってようやく形にできたのが今のようだ。
昨今の音ゲーというのは「市場で勝ちにいくなら人気IPを用いる」のが主流である。この枠から外れたオリジナル路線にせよ,キャラクター性やストーリー性を強めたものというべきか,少なからず「音楽以外でも戦えるゲーム的な武装も用意する」ことが多いことだろう。
その点,本作もキャラクターやストーリーに力を入れていることは分かるのだが,コンセプトからして「ゲームを通して、世界中の子どもたちへ、良質な音楽体験を届けたい――」というものだ。
世界的な音楽大学出身の,音楽をこよなく愛する一流のアーティストたちの楽曲を,さまざまな面で音楽の専門家たちがゲームに落とし込む。同社代表かつ本作プロデューサーの由良浩明氏にしても,幼少期より世界中で表彰されてきた元プロのバイオリニストだという。
このように書くと,公式からは「いえ,我々はゲームであることを大切にしているので!」的な(よく我々が受ける)訂正を受けてしまいそうだが,目に見える情報を組み合わせると音楽特化。より厳密に言えば,音楽の力を信じて,ゲームという器を選んだ企画に見える。
といっても,由良氏は「ディアブロIII」や「ソウルキャリバーV」,劇場アニメ「涼宮ハルヒの消失」などの作品で音楽・芸術監督を務めた経験がある。2024年10月17日にNetflixで公開される3Dアニメ「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」のプロデューサーも務めるなど,コンテンツ関連でのクリエイターとしての実力は疑うべくもない。
といった前提に続き,実際のゲーム内容をみていこう。
収録楽曲はローンチ時点で計42曲の予定とのこと。リリース後には追加コンテンツとして追加楽曲を配信していくという。
ゲームモードはアニメ仕立ての「ストーリーモード」と,マンガ仕立てのサイドストーリー「ミュージックモード」が存在する。
前者は,双子兄妹のフェリシティとトムが,くまの人形みーちゃんとともに,夢の世界で子供たちを助けにいくというものだ。
テイスト的には“子供向けの童話”のような印象だ。濃いめの味つけを好むゲーマー層にはリーチしづらそうだが,世界中の子供たちに楽しんでもらう(=親御さんが安心して遊ばせられる)ことが目標なので,そのための仕立てと雰囲気はしっかりと形作れている気がする。
肝心のリズムゲームパートは,画面上部から下部に向かって,6ラインからノーツが降下してくるシステムである。
ノーツの種類は青色(タップ),赤色(ホールド),黄色(スライド)の3種。それと“ノーツではないがスライド操作”がある。
入力の判定はAwesome(すばらしい),Good,Bad,Missの4種で,楽曲難度もイージー,ミディアム,ハード,エキスパートの4種。現代の標準装備であるノーツ速度や入力・判定の調整機能もある。
ここまでだと,ごく自然な音ゲーと評せる。しかし本作は「音ゲーに自信があってもうまくできない」かもしれない。その理由は単純明快。本作は“音楽家こそ共感しやすい作り”になっているからだ。
正直,この先は(音楽への知見的な意味で)正しく言語化できる自信がないのだが,まず本作は「音楽家は音ゲーを難しいと思う傾向がある」「それは一般的な音ゲーのノーツ譜面が,ゲーム会社のプランナーに設計されているから」「ゆえに,ゲーム的に作られたノーツは,実際に音楽を奏でる人にとって,音と指を合わせるタイミングに違和感がある」「だから音楽家が音楽家のために作った」といった経緯がある。
そこにある「違い」に関しては,なにがどう違っていれば区分けできるのか今の知識では解読できない。それでも違うことを納得できたのは,本作がやけに難しく感じたからだ。ノーツをうまくたたけない。イージー難度でもGood判定どころかMissを連発するほどであった。
これは単純な難度の話ではない。私はいわゆる“スマホ音ゲーのエキスパ初級者〜中級者くらいまでならフルコンできる”くらいは嗜んでいた経験がある。しかし,本作はリズムというかテンポが合わない。自分が遅れているのか,早いのか。それも分からないほどうまくできない。これを譜面作りの設計ミスと言うつもりはない。そうと言えなくなるほど,Awesome判定を出したときになんとも言えない感覚を味わえた。
音楽の正しい文法に則って作られたものは,ゲーム的な感覚とは違うやり方で,音を聞いて指を合わせることが求められる。それは指のみならず,全身の肌で音楽と付き合ってきた人ならではの体感らしい。
先ほど,ノーツとは違うがスライド操作があると書いたが,この操作は音楽家が演奏中に行う動き「譜めくり」を表現しているという。譜めくりは文字通り,“演奏中に譜面をめくって次のページにする”だけのことだが,プロには一呼吸のズレも許されない儀式でもある。きっと音楽の経験者なら,今この瞬間に喝采のごとき共感を覚えているのだろう。
音楽の演奏中,譜面に従い,演奏を阻害しないよう,気持ちのいいタイミングでめくる。楽曲のなかには「譜面をめくる動作のタイミングが高難度な楽曲」という概念もあるらしい。それを我々は,スマホやSwitchの画面で体験する。これがまた難しいのだ。毎回「今はこないで!」と思うような瞬間を狙い撃ちにされる。深層心理を言い当てられてハッとするときのような瞬間にだ。操作的には「スクラッチをキュッとやるアレ」に近いのだが,小憎たらしいほどに,音楽的にはここしかないのだろうと思うタイミングで,的確に譜めくり(スライド)がやってくる。
事実,本作のノーツ譜面は“ゲーム界隈のことはいっさい知らない,純粋な音楽家たちだけで制作した”と聞かされた。
音ゲーを流麗にこなす人を見ると,ゲーム画面の複雑怪奇な譜面の絵面も,ノーツをたたいていく指の流れも,「まるでピアノを弾いているようだ!」と感じることは多い。だが,本作のこれはもう「もはやピアノ」である。ピアノ未経験者なのであくまでイメージだが,ノーツの組み合わせ方からして,一般的な音ゲーのある種のパターンじみた型とはまったくもって違う。ただ,できたら明らかにカッコいいことだけが分かる。
もちろん,私が終始ヘタなだけだったらなによりだ。そうと罵るべく,音ゲー自慢の人たちにはぜひ体験してほしいと心から思う。だからレポートした。ほかの音ゲーならAPでも,本作だと及第点だったなら,私は思わず笑んでしまうだろう。この点を制作側に「もっとゲーマーが楽しめるような譜面にしてよ!」と言うのは,まあエンタメコンテンツとしては仕方ないかもしれないが,本作に関わる音楽家たちの名前の羅列はあまりにも強い。彼らの言い分も,本作の設計思想も,まずは信じてみようと思わされる。それがミーハー心だとしても,信じるくらいならタダだ。
本作はおそらく,たぶんだが,音楽を学ぶための教材にもなり得るのだろうと思った。それは良質な収録楽曲のみならず,楽曲プレイ自体が音の演奏の喜びを目指しているためだ。そのうえで,(真摯に学ぶがために)味も臭いも薄そうな教材用アプリではなく,ストーリーやビジュアルをちゃんと仕立てて,音楽ゲームであると主張できている。
コンテンツビジネスにおいて,この子供向け路線は無限の可能性を秘めている。作品自体,大陸や国境を問わずに受け入れられそうな雰囲気もある。結果でしか語れない私はナンセンスな自覚はあるが,大きく化けたものなら,リズムゲームの新たなスタンダードになる未来も――。
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