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VAIO設立2周年記念のプレスツアーで安曇野本社工場を見学したついでに,「ゲームPC作って」とお願いしてきた
世界的にPCの売り上げが減少している状況での船出とあって,先行きを危ぶむ声も少なくなかったが,同社の強みである高密度設計技術を生かしたハイスペックと携帯性,およびデザイン性を兼ね備えたノートPCの展開により,2015年度には黒字転換を果たすなど,厳しいPC市場の中でも健闘しているようだ。
去る2016年7月15日,VAIOは,40人を超える報道関係者を集めて,本社のある長野県安曇野市の安曇野工場にて「VAIO設立2周年記念プレスツアー」を開催した。本稿では,説明会と工場見学を通じて,いまや日本でも数少ない「マザーボードレベルからノートPCを製造する設備と技術」を持った企業であるVAIOの現在を見てみよう。
PC事業とEMS事業で業績はV字回復
第三のコア事業立ち上げを目指す
現在のVAIOは,大きく2つの事業を展開しているという。1つはソニーから継承したPC事業で,ノートPCの開発,設計から販売までを行うものだ。高性能な2-in-1ノートPCのVAIO Zシリーズや,柔軟なCTO構成が可能なビジネス向けノートPCのVAIO Sシリーズなどを展開しており,とくに2015年は,法人向けの販売が大きく伸びたという。
Windows 10 Mobile搭載スマートフォンの「VAIO Phone Biz」も,この事業分野に含まれるものだ。
もう1つは,同社が有する高度な製造技術を利用した「電子機器受託製造事業」(Electronics Manufacturing Service,以下 EMS)である。
安曇野工場はもともと,1961年に東洋通信工業が豊科工場として設立したもので,1974年にソニーの子会社となって以降,オーディオ機器やPC,そして犬型のエンターテインメントロボットとして有名な「AIBO」(アイボ)の製造を手がけるといった,幅広い実績を有する。つまり安曇野工場は,PC製造以外にも高い技術力とそれを生かせる設備を備えており,それを利用してパートナー企業が求める電子機器を製造するEMS事業が,PC事業と並ぶ柱になっているというわけだ。
安曇野工場を見学。中国生産のノートPCもストレージやOSは日本で導入
説明会に続いては,3班に分かれて工場内部を見学するツアーが行われた。ただ,工場内部の撮影はすべて禁止であったため,以下で掲載する写真は,すべてVAIOから提供されたものとなることをお断りしておく。
筆者のグループが最初に見学したのは,工場内で「EMCサイト」と呼ばれる電波関連の試験設備である。EMCとは,Electro Magnetic Compatibilityの略で,簡単にいえば電子機器が発する電波が他の機器に干渉したり,人体に有害なレベルになったりしないことを確認することだ。
先述したとおり,ソニー時代からPC以外の製品も多数手がけていたこともあり,安曇野工場はPC工場としては異例なほど,EMC関連の設備が充実しているのである。筆者は,国内のPC工場を多数取材しているが,ここまでの試験設備があるPC工場は,他にないのではないかというレベルだ。
次に見学したのは,ノートPCのマザーボード部分を製造する基板実装のラインである。
デスクトップPC,ノートPC問わず,大抵の国内PCメーカーはマザーボードを外注しており,部品を取り付けて完成したマザーボードを受け取って,本体に組み込むのが一般的だ。昔は大手のPCメーカーであれば,工場内にマザーボードの製造ラインを有していたものだが,高度に機械化されたシステムで維持運用にコストがかかることもあってか,今ではほとんどのメーカーがマザーボード製造から撤退してしまっている。
だがVAIOの場合,最も製造難度の高いVAIO Zのマザーボードは,安曇野工場で製造しているという。基板自体は完成品として納品され,それに部品を実装してマザーボードとして完成させる作業を,本社工場内で行っているのだ。VAIO Zのためだけに維持するには高価すぎる設備のはずだが,おそらくはこの基板実装ラインを有することが,PC以外の製造受託や第三のコア事業などにも効いてくるのかもしれない。
最後の見学は,ノートPCの組み立てや検査の工程だった。
VAIO Zの場合,基板実装ラインで製造されたマザーボードや,外部のパートナー企業から納品された液晶パネル,キーボードなどを筐体に取り付けて,1台のノートPCへと組み立てていく。接着剤で外装を貼り合わせる作業は機械で,各コンポーネントをまとめて組み立てる作業は作業員が担当するという,分担により作業は行われていた。
一方,国外のメーカーに委託して製造しているVAIO Sも,最終組立は安曇野工場で行っている。筐体にマザーボードやキーボード,液晶パネルを取り付ける作業は委託先のメーカー側で行うが,SSDやHDD,光学ドライブといったストレージなどは,安曇野工場で取り付けているのだ。
OSやソフトウェアのインストールも同様で,完成状態でのシステム検査も安曇野工場の仕事となる。こうした最終段階を安曇野工場で行うことを,VAIOでは「安曇野FINISH」と呼んでいる。
日本では珍しくなったマザーボードの製造プロセスがあることを除くと,PCの組み立てや検査の工程は,国内PCメーカーの一般的なものと変わらない。しかし,海外で最終組立までして国内は配送のみというメーカーに比べると,最終的な品質への責任を国内の工場でしっかり保証しているという点は心強い。
VAIOのPCは比較的高価な製品が多いだけに,品質へのこだわりが言葉だけのものではないというのは,エンドユーザーにも歓迎できることだろう。
VAIOブランドのゲーマー向けノートPCを望む
ソニー時代のVAIOが,ゲーマー向けのPCを作ったことは一度もない。しかし,単体GPUを積んだ重量1.5kg未満のモバイルノートPC「VAIO type S」「VAIO type Z」や,インタフェース規格である「Thunderbolt」の原型となった光インタフェース技術を採用して,専用の外付けグラフィックスボックス「Power Media Dock」で単体GPUを利用できる「VAIO type Z」の2011〜2012年モデルを展開するなど,単体GPUを組み合わせたモバイルノートPCの分野では先駆者であるのだ。
現在,単体GPUを搭載したモバイルといえるノートPCといえば,Razerの「Razer Blade」か,MSIの「GS40」ぐらいか。グラフィックス性能と排熱設計を適当な重量に収める難しさ,それに加えて適正な製品価格を実現することの難しい点が,手がけるメーカーの少なさにつながっていると思われる。
だがVAIOの高密度技術があれば,価格はともかく性能と排熱設計,重量のバランスが取れたゲーマー向けノートPCを作ることも不可能ではないはずだ。
あるいは内蔵ノートPC路線ではなく,RazerのThunderbolt 3接続型外付けグラフィックスボックス「Razer Core」を利用したり,同様の外付けグラフィックスボックスを開発したりという手もある。
他社にない魅力的なデザインや携帯性を備えたゲーマー向けノートPCであれば,国内だけでなく海外展開も可能であろう。
といった話を,ソニー時代から旧知の同社幹部や商品企画担当者を捕まえて,熱弁を振るってきたわけだ。それが功を奏するかどうかは分からないが,VAIOのスタッフもゲーマー向けノートPCに求められる要素について,筆者にいろいろと質問をしてきたので,興味は引けたかもしれない。
VAIOブランドのゲーマー向けノートPCが将来登場してくることを期待したい。
VAIO 公式Webサイト
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