テストレポート
新型PS4「CUH-2000」分解レポート。カスタムAPUの刷新で生まれた余裕を小型化に振った,順当な進化版を見る
東京ゲームショウ2016のビジネスデイ初日という,ゲームメディア泣かせのスケジュールで発売になった本機を,4Gamerでも1台入手できたので,今回はHDD容量500GBモデルとなるCUH-2000AB01の分解レポートをお届けしてみたい。
なお,4Gamerはすでに,初代PS4(CUH-1000シリーズ),そして3代めPS4(CUH-1200シリーズ)の分解レポートをお届け済みだ(※APUや基板のリビジョンが変わるなどした「CUH-1100」も存在しているが,4Gamerでは分解していない)。本稿では両機の内部構造について適宜言及するので,Webブラウザの別タブで,以下の2記事を開いておくと,読み進めるにあたって便利だろう。
新型PS4「CUH-1200A」分解レポート。軽量化と省電力化を実現した背景には,筐体と基板のシンプル化があった
「PlayStation 4」分解レポート。AMDのカスタムAPUを搭載する新世代マシンは,とてもゲーム機らしいゲーム機だった
※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は4Gamerが入手した個体についてのものであって,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
小さくなったことで密度感が上がった新型PS4
このビジネスモデル転換は,半導体のプロセス技術の進歩,具体的にはPS4シリーズの頭脳兼心臓的な存在であるカスタムAPUの製造に用いるプロセス技術が,台湾TSMCの28nmから16nm FinFETへと微細化を果たしたことが契機となっている。従来からある据え置き型ゲーム機のビジネスモデルだと,プロセス技術の進歩はゲーム機本体の製造コスト削減に充て,「利ざや」を増やして,新世代ゲーム機立ち上げの初期投資を回収するというのが常識だった。
それが吉と出るか凶と出るか,現時点では判断できないものの,いずれにせよ,今回取り上げるCUH-2000シリーズだと,その基本スペックは,従来型のPS4と同じである(関連記事)。
というわけで,過去の分解記事を踏襲し,まずは外回りからチェックしていくことにしよう。
その外観は,前後に傾斜のついた意匠こそ継承しつつも,四隅は丸まり,また,横置き時の本体サイズは265(W)×288(D)×39(H)mmと,従来の275(W)×305(D)×53(H)mmと比べて相当に小さくなった。体積で約67%と言えば,イメージしやすい読者もいると思う。
重量は約2.1kgで,これはCUH-1200の約2.5kg比で約84%,CUH-1000は約2.8kgだったので,こちらと比べると約75%に軽量化したことになる。CUH-1000との700gという重量差はさすがに大きく,上の撮影をするとき持ち比べてみると,露骨に軽くなった感はあった。
ただ,単独で持つと,ちょっとした15.6インチ液晶パネル搭載ノートPCくらいの重さはあるわけで,おそらく正しい評価は「見た目の割に,ずっしりとした重量感がある」のほうだろう。言い換えると,密度感のある重量だ。
本体背面の比較。スペックではCUH-2000における光角形デジタルサウンド出力端子の省略がトピックなのだが,実機で見ると,むしろ排気孔のデザインが変わったことのほうが目を引く |
CUH-2000では,横置き時の正面向かって右側側面に吸気孔が追加となった |
CUH-1000&CUH-1200では背面部におけるかなりの部分が排気孔で占められているのに対し,CUH-2000では,背面側の排気スリットが目立たないくらい小さくなった。
一方,CUH-1000&CUH-1200ではできるかぎり吸気孔を目立たなくしようという意識が感じられたのに対し,CUH-2000では側面から簡単に見て分かる場所にスリットが設けられている。
全体で見れば,吸排気のための開口面積はCUH-2000で相応に縮小している。CUH-1000で250W,CUH-1200で230Wだった最大消費電力が165Wにまで低下しているため,内部で発生する熱の量がかなり減り,それが排気孔の縮小につながったということだろう。
なお,従来型のPS4筐体でワンポイントとなっていた「本体を横切るLEDインジケータ」はばっさり省略となった。一方,USB端子は従来のUSB 3.0対応からUSB 3.1 Gen.1へと地味にアップデートが入っている。
前面にある2基のUSBポートが離れた配置になったのもCUH-2000における大きな特徴だろう |
ちょっと「いいなあ」と思ったのは,横置き時の底面にある滑り止めゴムが△/○/×/□マークになったところ |
付属のゲームパッドは従来どおりの「DUALSHOCK 4」だが,新型(型番:CUH-ZCT2J)は,ライトバーの光が,うっすらとタッチパッドを透過するようになった。従来,ライトバーの光を確認するには覗き込むしかなったので,これは地味ながら悪くない改善ポイントと言えるだろう。
そのほか,アナログスティックとトリガー,ボタンの色がグレーになっていたりと,いろいろ変わっているのだが,聞くところによると,PlayStation用ゲームパッドというのは,ユーザーも気付かないところで頻繁にリビジョン改訂が入るそうだ。なので,ライトバーの色透過以外は,どこまでが「新型DUALSHOCK 4ならでは」の仕様なのかは,正直,はっきりしない。
2.5インチストレージは今回も簡単に換装可能
CUH-1000とCUH-1200では,横置き時の天板部を一部取り外すとストレージトレイへアクセスできる仕様だったのに対し,CUH-2000では,横置き時の底面側,左手奥にあるL字型の蓋に爪を引っかけたうえで引くと,簡単に蓋を取り外せる仕様だ。
あとは従来製品と同じく,△/○/×/□マーク入りのボルトを外して,テープを引っ張れば,トレイに入ったHDDが出てくる。
なお,筆者が東京ゲームショウ2016の会場で確認したところでは,PS4 Proにも同様の蓋があったので,ストレージ周りの仕様はPS4 Proでも共通という可能性が高そうだ。
敷衍するなら,PS4 Proと新型PS4では,その他にも共通の設計を取り入れている可能性が高いのではないかと思う。もちろん,個人的な推測にすぎないが。
筐体の構造は「従来のエアフロー設計を踏襲しつつ小型」に
基本的な分解方法は従来のPS4シリーズを踏襲していて,背面中央辺りにある「剥がすと保証が効かなくなるシール」の裏に隠れているトルクスビスを外すところからスタートする。
このビスを外すと,填め込み式の上面パネルと底面パネルを外せるようになる。従来のPS4だと,前述のとおり横置き時の上面パネルは一部がストレージカバーになっているわけだが,CUH-2000ではどちらも“1枚もの”になったことで,取り外しの難度は若干上がった気がする。
底面パネルの裏側には中国Casetek Computerの社名刻印があった。従来モデルだとここにはFoxconnの刻印があったが,今回は筐体の製造をCasetek Computerが請け負っているようだ |
上面パネルも同様の手順で外れる。上面側は内部全体がシールドで覆ってあるため,筐体側にシールドはない。また,本体側の写真右下には輻流ファンが見える |
薄くなった新型PS4の内部構造は,一見すると従来のPS4とよく似た印象なのだが,電源ユニットへのアクセスが,従来は底側からだったのが今回は上からになっていたりと,各部の位置関係が微妙に異なっている。
最大165Wという低消費電力化が,小型化へ大いに貢献したことがよく分かるだろう。
ちなみにこの新しい電源ユニットは「Sony Interactive Entertainment」の刻印入り。型番は「ADP-160CR」で,製造メーカーは従来どおり,電源関連製品大手であるDelta Electronicsだ。
DC出力は,最大消費電力が230WのCUH-1200だと4.8V 1.8Aと12V 16Aだったのに対し,同165Wとなった今回は4.8V 1.5Aと12V 13Aの2系統で,出力容量163.2Wという計算になる。ちなみに前モデルは4.8V 1.8Aと12V 16Aの2系統だった。
続いて,Blu-ray Discドライブと輻流ファンを多う金属シールドを外す。すると,ヒートスプレッダの全容も把握できるようになる。
続いて底面側のシールドを外すべく,無線LAN用アンテナケーブルと,ビープ音用スピーカーユニット基板を取り外す。
なお,「J20H091」という型番からメーカーには辿り着けなかったのだが,代わりに,米連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)形式認定がヒットした。そのテストレポートによると,IEEE 802.11nのMIMOでもテストでされているようだ。なので,2.4GHz帯を用いるIEEE 802.11nの通信速度や感度も向上している可能性が高い。
底側の金属シールドをビスを抜いて取り外すと,基板の裏面にアクセスできるようになった。
見えてきた基板を眺めると,こちらの面には8枚のグラフィックスメモリチップがあり,それに囲まれた場所に,シールド板と一体化したヒートスプレッダ付きヒートシンク,要するにパッシブクーラーをカスタムAPUへマウントする金具がある。これを外せば,ついにマザーボードと取り出せる仕掛けだ。
パッシブクーラーはやや複雑な形をしているが,実測で全体の長辺は約100mm。長辺を「横」としたときの奥行きは長い部分で同60mmだ。ヒートスプレッダ部は実測約50(W)
この実測に従って計算してみるとヒートスプレッダ部の体積は約11万6643mm3。CUH-1000&CUH-1200だと同11万2000mm3だったので,パッシブクーラーの大きさはあまり変わっていないどころか,むしろ少し大きくなっていることになる。
「カスタムAPUの発熱が減っているのになぜパッシブクーラーが大きくなったの?」と思うかもしれないが,これにはおそらく,ファンのサイズが関係している。
CUH-2000が搭載するファンの径は実測約83mmでインペラの高さは同14mm弱だった。CUH-1200Aだと順に約82mm,約20mmに比べると,径は変わらないが,6mmほど薄くなったわけだ。
ファンが薄型になったことで,クーラーを通過する時間あたりの空気流量は大きく減っているはずだ。カスタムAPUの発熱が低下しても,同時に空気流量が減っているのだから,クーラーがむしろ大きくなっているのは,不思議でもなんでもなかったりする。
分解は以上である。前述したとおり,位置関係の違いは多少あるものの,マザーボードを金属シールドで上下から挟み込む構造や,筐体周囲のスリットから流入したエアを輻流ファンで電源ユニット方向に逃がすエアフロー設計という基本構造は,従来型PS4のそれをしっかりと踏襲していることが分かると思う。
カスタムAPUとシステム制御用のLSIは新バージョンに
いよいよマザーボードである。以下,カスタムAPUが載る側を「部品面」,載らない側を「パターン面」と呼ぶが,まずは全体写真を以下のとおり示しておきたい。
マザーボード部品面。従来のPS4だとマザーボードはL字型をしていたのが,今回は長方形に近い形状となった。なお,基板型番は「SAD-001」のようだ |
マザーボードパターン面 |
CUH-2000のカスタムAPUは,「CXD90043GB」という型番入りの新型だ。4Gamerで確認した限り,CUH-1000では「CXD90026G」,CUH-1200では「CXD90037G」だったので,CUH-1200比では型番が6上がったことになる。
「ソニー・コンピュータエンタテインメント」からSIEへの社名変更による影響で,ダイ上の会社名刻印が「SONY INTERACTIVE ENTERNAINMENT INC.」に変わった点にも注目しておきたい。
通常,ダイサイズは実測よりかなり小さくなるので,あくまでも参考値になるが,面積比だとCUH-1000&CUH-1200の361mm2に対し,CXD90043GBは約212.5mm2であり,ざっくり約59%に縮小した計算だ。
ダイサイズが小さくされば,それだけ,1枚のウェハから取れる数が多くなるので,これにより,カスタムAPUの製造コストはかなり下がったと見ていいだろう。
またカスタムAPUの変更に合わせて,部品面では,電源部の仕様が変わった。CUH-1200まではカスタムAPU用に4フェーズ用意していたのが,CUH-2000では3フェーズになり,規模が小さく(=実装面積が少なく)なったのだ。カスタムAPUの消費電力が下がった証みたいなものかもしれない。
なお,部品面側には,CXD90036Gのローカルメモリとして,Samsung Electronics製の2Gbit DDR3 SDRAM「K4B2G1646F-BCMA」,またファームウェア用としてMacronix International製のシリアルフラッシュメモリ「MX25L25635FZ2I-10G」も載っている。
DDR3 SDRAMの型番は微妙に変わっているものの,CXD90036Gと周辺構造はこれまでと同じという理解でいいはずだ。
ところで,CUH-2000がUSB 3.1をサポートした以上,CXD90036Gをそのまま採用するのはおかしいと思うかもしれないが,実のところ,CUH-1200が対応するUSB 3.0と,CUH-2000におけるUSB 3.1 Gen.1は基本的に同じものだ。それゆえに,CXD90036Gでも対応できたのだろう。
R9J04G011FP1。Blu-ray Discドライブの制御用と見られるマイクロコントローラである |
HDMIトランスミッタとみられるMN864729。なお,有線LANポートの近くにICっぽいものも見えるが,これはアイソレーショントランスである |
さて,部品面にはもう1つ,「Panasonic」ロゴの入ったLSI「MN864729」も見えるが,これはHDMIポートにつながっているので,HDMIトランスミッタでまず間違いない。このLSIも歴代PS4で継続して採用されているものだ。
CUH-2000でもHDMIのスペックは1.4aのままなので,HDMIトランスミッタが変わっていないというのは,妥当なところである。
パターン面で目を引くのは8枚のメモリチップである |
メモリチップは7GbpsグレードのK4G80325FB-HC28になっていた。PC用グラフィックスカードなら「オーバークロックマージンが増えた」と喜ぶところだが,ゲーム機にはそもそもオーバークロックという概念自体がないわけで…… |
パターン面で目立つのは,前段でも簡単に紹介した,8枚並ぶGDDR5メモリだろう。8Gbit品のメモリチップ8枚で総容量8GBを実現するのはCUH-1200と同じで,メモリチップのメーカーがSamsung Electronicsなのも変わっていないが,CUH-1200ではメモリクロック6GHz相当(実クロック1.5GHz)対応品「K4G80325FB-HC03」だったのに対し,CUH-2000では同7GHz相当(実クロック1.75GHz)対応品「K4G80325FB-HC28」に変わっているのだ。
ただし繰り返すが,CUH-2000の基本スペックはCUH-1200以前と同じ。なので,メモリがチップスペックどおりの7GHz相当で駆動しているというのは考えにくい。単純に,コストや安定供給性といった調達上の都合で選んだら7GHz相当品になったということなのだと思われる。
また,CUH-1200では部品面にあったシステム制御用のマイクロコントローラが,パターン面に実装された点,そしてそのチップに「SIE」刻印が入っている点が目を引く。
型番も,CUH-1200だとSCEI刻印入りの「A00-C0L2 518FZIK」だったのが,CUH-2000では「A01-COL2 623FX01」なので,「A00」から「A01」になったようである。それが何を意味するのかは分からないが,最も可能性が高いのは,「新しくなったカスタムAPUのシステムバスに対応するため,システム制御用マイクロコントローラも変える必要があった」というものだ。
もちろん,それ以外にも何らかの機能が追加されたか,バグの修正がはいったか,そういったアップデートが入った可能性もある。
ちなみにLSIは,スリープ時や起動時,ファームウェアアップデート時にシステムバスを乗っ取ってシステム全体を制御する役目を担っていると考えられている。
システム制御用のマイクロコントローラとみられるLSIは,SIEロゴ入りのA01-COL2 623FX01に切り替わっていた |
ローム製のモータードライバ「BD7764MUV」もパターン面に移っている。こちらはCUH-1200世代と同じICだ |
というわけで,ざっくりまとめるなら,カスタムAPUとシステム制御用のマイクロコントローラが「SIE世代」に切り替わったのを除くと,ほぼ同じ構成だ。メモリチップが7GHz相当で動作しているのだとすればビッグサプライズだが,そうでない可能性のほうが高く,その意味では,構成部品に驚きはそれほどない。
電源ユニットの薄型化やファンの低背化が小型化に寄与したCUH-2000
筐体の小型化にはむしろ,薄型になった電源ユニットや,低背になった輻流ファンが大きく寄与している印象を受ける。いずれも,カスタムAPUの製造プロセス技術が16nm FinFETに切り替わり,消費電力や発熱が抑えられたことの結果というわけだ。
CXD90036Gとその周辺など,手付かずとみられる部分もあるので,「標準版PS4」にはまだまだ小型化の余地がありそうだ。16nm FinFET第1世代のPS4としては順当な製品だが,将来的には,さらに小型のPS4が登場してくる可能性もありそうである。
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