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“プレステの父”こと久夛良木健氏が,30周年を迎えた初代PSの開発秘話を語る。TGS 2024基調講演「ゲームで世界に先駆けろ。」視聴レポート[TGS2024]
2024年は初代「PlayStation」が発売30周年を迎えた年ということで,PS5の高性能上位モデル「PlayStation 5 Pro」をはじめ,多数の新展開が発表された1年だった。というわけで,今回の基調講演にはPlayStationの生みの親として知られる久夛良木健氏が登壇。初代PSから現在に至るまでの開発秘話が語られた。
※掲載画像は配信映像をキャプチャしたものです。
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ナムコの反応で潮目が変わった。初代PSはいかにメーカーの心を掴んだのか
4Gamer読者には説明するまでもないと思うが,改めて紹介しておこう。久夛良木健氏は,ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)で初代PlayStationからPlayStation 3までの開発を指揮した人物だ。
生粋の技術者であり,PlayStation以前には電子カメラ「MAVICA」のシステム開発や,情報処理研究所におけるデジタル技術開発で活躍していた。そんな久夛良木氏が立ち上げた“ソニー独自のゲーム機開発事業”が,のちの初代PlayStationとなる。
ただ,その立ち上げには苦労が多かったようだ。初代PSが発売を迎える前年にあたる1993年,日本各地のゲームソフトメーカーへのヒアリングを行った際の反応は「完璧な塩対応」だったという。当時のソニー社内にすら味方は少なかったとのこと。
メーカーの反応も当然だろう。当時は3Dグラフィックスをリアルタイムに制御するには莫大な処理能力が必要とされ,家庭用ゲーム機で実現するのは難しいと思われていたのだ。たとえ実現できたとしても,活用法が確立されていない以上,開発コストとの釣り合いを取るのは難しかった。
絶望的な状況にも思えるが,久夛良木氏は「この塩対応は嬉しかった」と語る。久夛良木氏はこの体験の中で,ヒアリングで得られた“成功できない理由”を教訓として受け取りつつ,抱いていた展望が他人に先んじていることを確認していたようだ。
その展望は,久夛良木氏が作り上げた「コンピュータエンタテインメント」という言葉で表現されている。当時は玩具の延長線上にあり,デジタル産業の中でも“熟れた技術”で作られていたゲームが,より幅広いジャンルを包括する最先端のエンタテイメントに進化するという確信があったというのだ。それを牽引する意図で推進されていたPlayStationのプロジェクトは,当時の感覚では奇異に映るのも仕方がなかったのかもしれない。
潮目が変わっていったのは,プロトタイプの映像をナムコ(現,バンダイナムコエンターテインメント)に持ち込んだ瞬間からだったという。当時,高価な業務用基板を採用できたアーケードゲームの世界では3Dグラフィックスを用いたゲームが出現し始めており,ナムコもそうしたゲームを手掛けるメーカーの1つだったのだ。
業務用基板と同じ3Dゲームを家庭用でも動かせるというのは,ナムコにとって大きな魅力だった。家庭用ゲーム機の構想はナムコ社内にもあったようだが,その動きをPlayStationがまるごと取り込んだ形となる。そこから,周囲のメーカーからの見え方も変わっていったという。
興味を抱いたメーカーを受け止めたのが,事前に用意された多彩な開発者向けのサポートだ。当時としては最先端の技術を用いていたため,それらを制御する方法を記したマニュアルが用意された。その中には関数やライブラリ群も含まれ,現代でいうGitHubのような役割を果たしていたという。
その内容は極めて実用的で,ナムコと「リッジレーサー」を開発した経験に基づいたソースコードがそのまま提供されているという。開発のハードルを可能な限り下げ,より良いものを誰でも作りやすくするという,技術者らしい開発ファーストな姿勢が見て取れる。
これまでの活動について語られた後は,今後の展望についても触れられた。久夛良木氏は,これからはAIを活用した“リアルタイムコンピューティング”の時代が来るだろうと語る。
技術の発展によって,今後は現実のあらゆるものが計算可能になるという。現実そのものの計算(シミュレート)が可能となれば,現実を分解してファンタジーな世界を体験でき,より発展したエンターテインメントが実現可能になる。そういった未来が来ることを,久夛良木氏は確信しているようだ。
久夛良木氏は,若い世代のクリエイターに向けて「皆さんの今のチャレンジはスゴすぎる」と語りかけた。知識やノウハウを瞬時に共有できる現代は,それを続ける限り好奇心や夢が潰えないという。そして最後には「これからみなさんが,未来を作るんですよ。楽しみにしています」とコメントし,基調講演を締めくくった。
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