レビュー
Iris Pro 5200搭載の超小型ベアボーンが持つ性能をKaveri搭載機と比較してみる
GIGABYTE BRIX Pro(GB-BXi5-4570R)
そんな超小型PCベアボーン市場には,GIGA-BYTE TECHNOLOGY(以下,GIGABYTE)も「BRIX」(ブリックス)という製品ブランドで参入しているのだが,同社は現在,ゲーマーをターゲットにした製品「BRIX Pro」(型番:GB-BXi5-4570R,以下型番表記)を準備中だ。これは,Haswell世代の統合型グラフィックス機能における最上位モデル「Intel Iris Pro Graphics 5200」(以下,Iris Pro 5200)を搭載するのが大きな特徴だが,果たして本製品は,登場後,高い注目を集め続けているAMDの新世代APUと戦えるだけの性能を持っているのだろうか。
今回4Gamerでは,国内展開未定というステータスながら,GB-BXi5-4570Rを日本ギガバイトから入手できたので,「超小型ゲームPC」としての可能性を探ってみたいと思う。
国内発売になれば初となるi5-4570R搭載ベアボーン
手のひらサイズに高いスペックを集積
ちなみにGIGABYTEは,1月末に世界市場に向け,Richland世代のノートPC向けAMD A-Series APU「A8-5557M」と,AMD未発表のノートPC向け単体GPU「Radeon R9 M275X」を組み合わせた小型PCベアボーンを「BRIX Gaming」(型番:GB-BXA8G-8890)として発表済みだ。その名のとおり,GIGABYTEがゲーマー向けとして訴求しているのはどうやらそちらのようだが,残念ながら,4Gamerでもまだ入手できていない。
付属品は下に示したとおりで,本体のほか,実測で80(W)
本体前面のインタフェース。必要最低限といったところ |
主要なインタフェース群は背面に集約されている。なお,写真で左端に見える穴は,盗難防止用ロックの業界標準である「Kensington Lock」用。HDMI Type A端子の左に見えるのはACアダプター接続端子である。上下の黒い部分は吸排気孔となり,とくに上は排気孔となるので,塞ぐようにモノを置いたりしてはならない |
本体背面のインタフェースもチェックしておこう。まず,ビデオ出力はMini DisplayPortとHDMI Type Aの2系統で,デュアルディスプレイ対応。USB 3.0はこちらにも2ポート用意されている。
有線LANは1000BASE-T×1。標準でIEEE 802.11a/g/n/ac&Bluetooth 4.0対応のmini PCI Expressカードモジュールを搭載しているため,無線LANも利用可能だ。
なお,背面上部にある黒い部分はファンに直結する排気孔で,設置にあたって,ここを塞ぐのはご法度となる。それ以外の本体の穴は主に吸気孔として機能しているようだ。
さて,冒頭でGB-BXi5-4570Rはベアボーンキットと述べたが,CPUのi5-4570Rはマザーボードに実装済み。キットに含まれていないのは,最大2枚のDDR3L SO-DIMMと,mSATA接続のカード型SSD,あるいは2.5インチストレージデバイスとOSだけである。
なお,i5-4670Rが低電圧版のDDR3L-1333&1600しかサポートしない関係で,対応メモリモジュールはPC3L-10600およびPC3L-12800のみとなる。標準電圧版SO-DIMMは利用できないので,この点は注意が必要だろう。一方のストレージデバイスは排他ではないため,最大では1枚+1台構成が可能だ。
筐体を開けるには,本体底面のビス4本を抜いて,右の写真で右上(=本体底面側から見て左手前)のノブをつまんで引き上げればOK。2つのSO-DIMMスロットとmSATA用のMini PCI Expressスロットがマザーボード側,9mm厚に対応した2.5インチストレージマウンタが底板側に用意されている。2.5インチストレージ用のSerial ATAインタフェースは専用ケーブルで用意されており,入手した個体だと,移動中に筐体内で暴れないよう,SO-DIMMスロットにテープで留められていた。
マザーボードは,筐体に対し,2本のビスで留められていた。そして取り外すと,マザーボードの“裏側”は,銅製ヒートシンクと遠心型のブロワーファンユニットが一体化されたCPUクーラーで,全体の5分の4程度が覆われているのが分かる。クーラーを外せばCPUに到達できるはずだが,ヒートシンクとマザーボードの結合は相当に強固で,無理に外そうとすると,CPUごと剥がれてしまいかねない――i5-4570RはBGAパッケージなので,剥がれてしまったら取り返しがつかない――ため,クーラーの取り外しは断念した。
統合型グラフィックス機能となるIris Pro 5200は,動作クロックがベース200MHz,最大1.15GHzだ。
以上,GB-BXi5-4570Rの内部構造は非常にシンプルなものになっているとまとめていいだろう。半導体技術の進歩が,これほど小さいサイズのPCを,シンプルに実現できるようにしているのだと思うとなかなか感慨深い。
A10-7850K搭載のMini-ITXシステムと
その3Dゲーム性能を比較してみる
GB-BXi5-4570Rを概観したところで,テストのセットアップに入っていきたい。
今回,比較対象としては,Kaveri世代のAMD A-Series APUである「A10-7850K」を,日本AMDから貸し出してもらって用意した。マザーボードは,米AMD本社がレビュワーに推奨していたもののなかから,ASRock製のA88Xチップセット搭載Mini-ITXモデル「FM2A88X-ITX+」を独自に入手して組み合わせている。要は,「A10-7850Kベースの小型PC」と比較しようというわけだ。
i5-4670RとA10-7850Kでは,統合型GPUのスペックがかなり異なるが,念のため,両方のスペックを表1にまとめてみたので,参考にしてほしい。
なお,A10-7850Kのテストにあたっては,Kingston Technology製の「HyperX Performance」に属するPC3-19200 DDR3 SDRAMの容量4GBモジュール2枚セット「KHX24C11T2K2/8X」を用意したのだが,これがあっさりとデュアルチャネルDDR3-2400で動作してしまったことを報告しておきたい。FM2A88X-ITX+はメモリ設定としてIntelの「XMP」(eXtreme Memory Profile,JEDEC標準のSPDに格納できない設定を記録する拡張仕様の1つ)をサポートしており,BIOS(UEFI)からXMPを選択するだけでDDR3-2400動作したのである。
PC3-19200モジュールを用意してもDDR3-2400動作しなかった先のA10-7850Kレビュー時とは,そもそもモジュールあたりの容量もマザーボードも異なるのであくまでも参考情報となるが,今回,A10-7850KはデュアルチャネルDDR3-2400動作となるので,その点はご注意を。
そのほかテスト環境は表2,3を参照してもらえればと思う。GB-BXi5-4570RはBIOSにオーバークロック関係の設定がまったく用意されていないため,GB-BXi5-4570Rのメモリ設定はSPD情報のままとなっている。
あと1つ追記しておくと,4Gamerではグラフィックスカードのレビューにおいて,CPUの自動クロックアップ機能を無効化することがよくあるが,今回はPCシステムの比較ということで,より標準的な使い方を想定し,「Intel Turbo Boost TEchnology」および「AMD Turbo CORE Technology」はいずれも有効化した状態のまま変更していない。
非DirectX 11環境向けな傾向を示すIris Pro 5200
総じて「健闘している」といえる結果に
では,「3DMark」(Version 1.2.250)から見ていくことにしよう。今回はエントリークラス以下の3D性能を持つPCが主役ということで,いつもの「Fire Strike」だけでなく,DirectX 10ベースの「Cloud Gate」も実行することにした。
その結果がグラフ1で,GB-BXi5-4570RはCloud GateでA10-7850Kシステムに対して24%高いスコアを示す一方,Fire Strikeでは約84%のスコアに留まっている。
3DMarkは,GPU性能を問う「Graphics test」と,CPU性能を問う「Physics test」に大別される。そのため,Cloud GateではCPUコア性能の高さでi5-4670RがA10-7850Kを圧倒した……と思いがちだが,Cloud Gateのスコア詳細を見てみるとPhysics testで約36%高いスコアを示すGB-BXi5-4570Rが,Graphics testでも約14%高いスコアを示しているのが分かる。
「Graphics Core Next」アーキテクチャを採用するGPUは,どちらかというとDirectX 11に“寄った”特性を持っているので,その分,DirectX 10ベースのCloud GateではIris Pro 5200が相対的に優勢となるのだろう。
というわけでFire Strikeのスコア詳細を見てみると,総合スコアと同様,GB-BXi5-4570RはA10-7850Kシステムの約84%という結果に落ち着いている(グラフ3)。
続いてグラフ4は,エントリー設定で実行した「Battlefield 4」(以下,BF4)のテスト結果だ。ここではDirectX 11モードでの比較となるが,テストしたいずれの解像度においても,GB-BXi5-4570RはA10-7850Kシステム比で大きく離されている。とくに,1280×720ドットで,A10-7850Kシステムが平均50fpsを超えており,「とても快適」とまでは言えないものの,プレイ可能な水準を確保しているのに対し,GB-BXi5-4570Rが40fps弱,A10-7850Kシステム比にして約75%に留まっているのは,やはりインパクトが大きい。AMD独自のグラフィックスAPI「Mantle」を利用すれば,A10-7850Kはフレームレートのさらなる引き上げを図れるわけで(関連記事),この違いは大きいと言わざるを得ないだろう。
GB-BXi5-4570RでBF4を快適にプレイしたいということであれば,エントリー設定よりさらにグラフィックス設定を落とす必要がある印象だ。
BFよりさらに“重い”タイトルである「Crysis 3」のスコアがグラフ5である。ここでもエントリー設定でテストを行っているが,ご覧のとおり,テストに用いた2つのシステムでは,いずれもプレイアブルなフレームレートが得られなかった。
興味深いのは,DirectX 11をフルに使うCrysis 3だとA10-7850Kが有利なはずなのに,実際の平均フレームレートはGB-BXi5-4570Rのほうがやや高い点だ。そのスコア差は7〜16%程度と,意外に大きい。
その理由は定かでないが,このクラスのシステムにとって,Crysis 3のエントリー設定はGPU負荷よりもCPU負荷のほうが高く,それがこういう結果を生んでいる可能性はあるかもしれない。
グラフ6はエントリークラスのGPUでもプレイアブルなフレームレートを期待できる「BioShock Infinite」の「High」設定におけるテスト結果となる。ここでは,1280
ただ,その理由は何とも言えない。Crysis 3とは傾向がやや異なるため,「基本的にDirectX 10ベースとなるHigh設定のBioShock Infiniteでは,Iris Pro 5200で組み合わせられているとされるeDRAMが高解像度環境における優位性を生み出した」という可能性は考えられるのだが,いかんせんIntelがeDRAMとされるメモリの用途や仕様を明らかにしてくれていないので,推測の域を出ないのだ。
DirectX 9c世代のタイトルである「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)を用い,エントリー設定で実行したときのスコアをまとめたものがグラフ7となる。
ここで,GB-BXi5-4570RとA10-7850Kシステムは,ほぼ互角といえるスコアにまとまった。あえていえば,1280
いずれにせよ,1280
新生FFXIV キャラ編のスコアは「標準品質(デスクトップPC)」から見ていこう。新生FFXIV キャラ編のテストでは,グラフ画像をクリックすると平均フレームレートベースのグラフを表示するようにしてあるので,そちらも参考にしてほしい。
ここではGB-BXi5-4570Rが安定的に10%以上のスコア差を付けてA10-7850Kシステムを上回った。スコア7000以上に与えられる最高指標「非常に快適」を1280
これが最高品質になると,様相が異なる結果となった(グラフ9)。1280
こういう違いが出ている理由は何だろうか。A10-7850KのメモリバスはCore i5-4570Rと比べて1.5倍の帯域幅を持つため,“重い”テクスチャほどA10-7850Kが有利になるということはありそうである。同時に,新生FFXIVでは標準品質より最高品質のほうがポストエフェクトが増えているため,演算ユニットの規模が大きいA10-7850Kのスコアが上昇しやすいということはあるかもしれない。
最後はDirectX 11のフィーチャーをフルに使う「GRID 2」である。その結果がグラフ10で,ここではすべてのテスト条件でGB-BXi5-4570RがA10-7850Kシステムを下回ることになった。最も大きなスコア差がついた1920×1080ドットではA10-7850Kシステムの約89%だ。全体として気の利いたスコアは出ていないため,実際にゲームをプレイするならグラフィックス設定を下げる必要があるだろうが,ともあれ,DirectX 11タイトルではA10-7850Kが優勢という傾向に沿った結果が出ているとはいえるだろう。
以上,総じてGB-BXi5-4570Rは健闘している印象だ。とくにDirectX 10以前のAPIを用いたタイトルや,描画負荷の低い曲面では,CPUコア性能の高さを武器に,A10-7850Kと十分戦えていると見ていいのではなかろうか。
消費電力はかなり低め
3Dゲーム実行時の動作音は……
という具合に,ゲームテスト結果はなかなかのものを見せたGB-BXi5-4570Rだが,消費電力はどうだろうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を取得してみよう。
テストにあたっては,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OS起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時とした。その結果がグラフ11である。
A10-7850Kシステムとは電源周りがあまりにも異なるため,横並びの比較は行えない。そのためA10-7850Kシステムのスコアは参考としたが,GB-BXi5-4570Rは3Dアプリケーション実行時でも90W未満と,かなり低いのが分かる。電球1個分の消費電力で,3Dゲームがそこそこ動いてしまうわけだ。アイドル時にいたってはわずか18Wであり,これは相当に低消費電力と言い切ってしまっていいだろう。
一方,動作音だが,これは結論から言うと,相応にある。前段で触れたとおり,GB-BXi5-4570Rで採用されているのは小型のブロワーファンであり,そのためか,ファン回転数が上がると,やや高い音に寄った音が聞こえてくるようになる。エントリークラスのGPUに搭載された,見るからに低コストな薄型クーラーの音に近い感じだ。
というわけで今回は代表例として,Crysis 3実行時の音を録音してみたので,聞いてもらえればと思う。下にリンクボタンで示したのは,GB-BXi5-4570Rの正面からちょうど0.5m離れたところにコルグ製のポータブルレコーダー「MR-2」を置き,その内蔵マイクで録音した音を,zipファイルに圧縮したものだ。筆者の事務所には暗騒音が多めなので,やや分かりにくいかもしれないが,50秒経過時にCrysis 3を終了させた結果として,その後,ファンの音が小さくなっていくため,相対的な音の大きさは分かるのではないかと考えている。
Crysis 3実行時のGB-BXi5-4570R動作音(zipファイル)
感覚としては,机上にちょこんと置いて使うと,3Dゲーム実行時にややうるさく感じられる程度,といったところ。耳から離したところで使うなら我慢できるレベルと考えてもいいだろう。
ちなみにアイドル時は極めて静かと言ってよく,耳を近づけないとファンの音は聞こえないほど。ちょっとびっくりするくらいの静音性だった。
超小型ゲーム機として面白い存在
最大の課題はIntelのドライバサポートか
DisplayPortとHDMIを持ち,小型で場所を取らず,無線LANに対応するといったメリットもあるので,テレビとつないでゲーム機的に使ったり,メインPCのある部屋とは別の部屋でサブのゲームマシンとして使ったりするのにも向いている印象だ。
懸念があるとすれば,やはりIntelのグラフィックスドライバだろうか。AMDがドライバスイート「Catalyst」の最適化を着々と進め,少なくともβドライバは1か月かそれより短い単位で更新しているのに対し,今回テストに用いたIntelのグラフィックスドライバ「15.33.8.64.3345」は,もちろんテスト開始時の最新版だが,それでも2013年11月27日付けのものだ。GPUコアの素性がどんなによくても,最終的なゲームにおける性能や安定性を決めるのはドライバの最適化度合いであり,そのときそのときの最新ゲームタイトルをプレイする前提に立つと,どうしてもIntelの統合型グラフィックス機能には不安が残る。
ただ,懸念はそれくらいともいえ,使い方次第ではゲーム用途としても十分にアリだ。なんと言ってもこの小ささは魅力であり,小型PCを探しているなら,国内発売に関する情報が出てくるのをチェックすべき製品ではなかろうか。
GIGABYTEのGB-BXi5-4570R製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
BRIX
- この記事のURL: