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[GTC 2015]カジュアルに楽しめるVRコンテンツ「360度ビデオ」を低コストで制作・配信するシステムが登場
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印刷2015/03/23 00:00

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[GTC 2015]カジュアルに楽しめるVRコンテンツ「360度ビデオ」を低コストで制作・配信するシステムが登場

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 2015年は,仮想現実(以下,VR)対応デバイスが多数登場,あるいは発表された年として,記憶に残るかもしれない。VR分野の先駆者であるOculus VRの「Rift」を筆頭に,「Project Morpheus」や「SteamVR」,「OSVR」などなど,まさにVR対応HMDのリリースラッシュといった状況だ。
 しかし,肝心なのはコンテンツをいかにして充実させていくかだ。GDC 2015では,ソニー・コンピュータエンタテインメントやEpic Games,Crytekなどが,映画並みの品質を備えたVRコンテンツを披露して未来の姿を示したが,一方で,「これほど高品質のVRコンテンツを開発するのには,かなりのコストがかかりそうだ」という不安を開発者達が感じているようにも思えた。

Nicolas Burtey氏(CEO,VideoStitch)
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 もちろん,そうした懸念や不安を払拭するためのツール開発も進められている。たとえばGTC 2015では,フランスで映像オーサリングツールの開発・販売を手がけるVideoStitchが,手軽かつ低コストで実現可能なVRコンテンツ「360度全周ビデオコンテンツ」について説明する講演「The Future of Video is VR. And it is Now」を行った。講演を担当したのは,VideoStitchのCEOであるNicolas Burtey氏だ。


VR対応HMDの本命はスマートフォンを装着するモバイルVR型?


 まずBurtey氏は,消費者がVRコンテンツを楽しむためには,高いハードルがあるのではないかと指摘する。リッチなVRコンテンツを体験するためには,それなりに高価なVR対応HMDを購入する必要があるだけでなく,高性能なPCやゲーム機まで用意する必要があり,これがハードルを上げることにつながっているのではないかというのだ。

左から,Riftの第3世代試作機Crescent Bay,Project Morpheus,HTC製のSteamVR対応HMD「Vive」。VR対応HMDはいろいろ登場するが,これらを楽しむための初期投資はそれなりにかかるとBurtey氏
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Gear VRのように,スマートフォンはカジュアルなVR HMDを構成するのに十分な性能と機能を有しているとBurtey氏は指摘する
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 現在主流のVR対応HMDは,液晶パネルや有機ELパネルといった直視型ディスプレイパネルを拡大光学系を通して覗き込む構造になっている。この構造なら,ディスプレイをスマートフォンに置き換えて,光学系アタッチメントを組み合わせることでも似たようなものが構築できる。実際に,このアイデアをもとにして作られたのが,Samsung Electronicsの「Gear VR」という製品だ(※現在販売されているのは開発者向けバージョン)。
 スマートフォンには,加速度センサーやジャイロスコープが搭載されており,頭部を中心とした全方位への視点の移動や,傾きを検出可能だ。精度や遅延といった性能面はともかくとして,VR対応HMDを構成する最低レベルのハードウェア要件は満たしているといえる。VRコンテンツを表示するコンピュータとしての性能も,最新のゲーマー向けPCや据え置き型ゲーム機には及ばないが,10年前の据え置き型ゲーム機よりは高性能となっており,絶対的な性能はそれなりに高い。

年間12億台も販売されているスマートフォンが,モバイルVRをリードするという
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 つまり,カジュアルなVRコンテンツを実行するのにスマートフォンは適しているわけで,ゆえに今後主流となるVRデバイスは,Gear VRのようなスマートフォンベースのHMD,いわゆる「モバイルVR」になるのではないか,とBurtey氏は問いかけた。
 この考えはBurtey氏だけのものではなく,Oculus VRのCTOであるJohn Carmack氏も,モバイルVRこそがVRデバイスの本命であるとGDC 2015の講演で訴えており(関連記事),その考えはVR業界に広がり始めている。

 さて,そうしたカジュアルなモバイルVRデバイス向けのVRコンテンツとして最適なのが,周囲360度の情景を撮影した動画コンテンツ(以下,360度ビデオ)である,というのがBurtey氏の講演における主題というわけだ。

 360度ビデオの映像自体は2Dのビデオストリームであるため,3Dグラフィックスを頭の動きに追従してレンダリングするよりも,システムにかかる処理負荷は低い。映像に取り囲まれたようなVR体験をシンプルに楽しむのであれば,360度ビデオとモバイルVRデバイスは,Burtey氏の言うように最適な組み合わせかもしれない。


360度ビデオのオーサリングと配信ソリューションが登場


YouTubeも360度ビデオの配信をスタート
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 360度ビデオに対するVR業界の期待は大きい。たとえば,YouTubeは2015年3月から,360度ビデオの配信を開始した。最近では360度ビデオ撮影用ソリューションの発売も相次いでおり,360度ビデオに対する期待感は,2010年の3Dテレビブームよりも大きいと指摘する人もいる。

 Burtey氏が率いるVideoStitchでは,360度ビデオのオーサリングソフトとして「VideoStitch Studio」を提供している。これは,最大6方向に向けて撮影されたビデオストリームを,球体内面に投射したような360度ビデオストリームに変換するツールだ。各ビデオストリームの重複して撮影された部分を検出して,フレーム単位で切れ目なくつなぐ機能が特徴だという。直方体の6側面それぞれにカメラを配置した撮影機器で録ったような映像を作るソフトといえば,イメージしやすいだろうか。

360度ビデオオーサリングツールのVideoStitch Studio。無料版は1024×512ピクセルの360度ビデオまで制作できる。有償版は制限なしだ
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 撮影方向が異なれば撮影時の露出は変わるし,撮影されたビデオストリーム間で色彩や階調が異なることもありうる。空を向いているカメラは露出を絞り気味で撮影するだろうし,地面を向いているカメラは開放方向にして撮影をすることだろう。また,乗り物やスポーツプレイヤーに取り付けた場合などは,カメラ自体が激しく振動することもあるが,カメラの向いている方向で映像の振動する方向(ブレ方向)は異なる。
 VideoStitch Studioには,このような各映像ストリームにおける色味や階調の違い,ブレなどの差異を調整する機能も備わっているという。

 Burtey氏はもうひとつ,映像のライブ配信に応用できる「Vahana VR」というソフトウェアも紹介した。これは,異なる方向を向いた複数のカメラで撮影されたリアルタイム映像に対して,VideoStitch Studioの色味/階調補正やブレ吸収などをリアルタイムに適用して,そのままネット配信できるソフトウェアとのことだ。

Vahana VRは,VideoStitch Studioの基本機能を備えた360度ビデオの生配信版ソフトだ。生配信は360度ビデオに新しい価値をもたらすかもしれない
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 このシステムの応用をすると,今までにない映像コンテンツをリアルタイム配信できるようになると,Burtey氏はアピールする。
 たとえば,スポーツ競技場にこのシステムを設置することを想定しよう。グラウンド上空に360度撮影カメラを設置すれば,空中に静止した視点で試合を観戦できるし,野球のベンチ席やサッカーなどのコーチ席に設置すれば,グラウンド上の試合展開を,控え選手や監督の視点で見られるだろう。
 劇場やコンサート会場に設置すれば,ステージ上の演者と共演している気分すら味わえそうだ。演者が自分に語りかけてくるような演出だって楽しめるかもしれない。

Burtey氏が「アメリカンフットボールをコーチ席から楽しめるようになるかもよ?」とイメージ画像を示した途端,会場から「ワオ!」の声が上がるのはいかにもアメリカのイベントらしいところ。コンサートのステージ上に360度撮影カメラを設置してリアルタイム配信すれば,アーティストと共演している気分が味わえるかも,とBurtey氏
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360度撮影カメラをロボットに設置すれば,インタラクティブ性はさらに高次元なものになる
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 360度撮影カメラを自律移動が可能なロボットに搭載すれば,視点を移動させることもできるだろう。たとえば,スポーツ観戦や劇場/コンサート鑑賞で上級サービスを購入したユーザーは,定点カメラだけではなく,ある程度の自由な視点で見られる仕組みにすれば,ビジネス面の可能性も広がりそうではないだろうか。

 GTCでの講演であるため,Burtey氏はNVIDIA製GPUの活用についても言及している。それによると,Vahana VRシステムは「GeForce GTX 980」を搭載したホストPCで実現されており,CUDAを用いて毎秒60コマのフルHD(1920×1080ドット)ビデオストリーム6本を処理し,4096×2048ドットで出力するパイプラインを構築しているとのことだった。

CUDAを駆使し,毎秒7億ピクセルの処理が1基のGeForce GTX 980で実現できているという
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講演会場で披露されたVahana VRのデモ。会場内で会場の様子をVR体験してもあまり面白くはないのだが,Vahana VRが持つポテンシャルは参加者に伝わったようだ
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 VR体験が楽しめるわけではないが,360度ビデオの雰囲気をWebブラウザ上で体験できるインタラクティブデモがVideoStitch公式Webサイトで公開されている。映像を再生してマウスで視点を移動させると,任意の方向が見えるというものだ。興味がある人は参照してみるといいだろう。


ユーザーがVRコンテンツを容易に作れる時代が来るか?


 VR対応HMDが3D立体視テレビと異なるのは,3D立体視テレビがあくまで平面の画面内で立体感を表現するのに対して,VR対応HMDでは映像の中に飛び込むような感覚を体験できることにある。360度ビデオは現状,インタラクティブ性には欠けるものの,最低限のVRハードウェアでカジュアルに楽しめるVRコンテンツとして,高い価値を持っていると感じた。
 VideoStitch StudioやVahana VRといったソフトウェアを活用すれば,ユーザーレベルでも360度ビデオのVRコンテンツが比較的容易に作れそうで,今後の広がりにも期待できそうだ。

リコーの360度カメラTHETAは,片手で持てるコンパクトな製品で,360度ビデオを個人でも撮影できる
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 また,360度動画撮影ができるカメラのほうも,手軽に導入できるものが登場しつつある。従来は,GoProのような小型カメラを複数まとめてセットできるアタッチメントを用いるのが主流で,個人レベルでこれを用意するのはなかなかにしんどかった。しかし,リコーが販売する360度カメラ「THETA」(シータ)ように,片手で持てるサイズで360度ビデオの撮影に使える小型カメラも登場しており,ハードウェア,ソフトウェア双方の面で普及が促されつつある。今後はユーザーレベルでのVRコンテンツ制作も広がっていくのではないだろうか。

 Burtey氏によると,VideoStitchでは2015年8月開催予定のSIGGRAPH 2015に向けて,さらに高度なデモを準備しているとのこと。SIGGRAPH 2015でのデモにも期待したい。

VideoStitch 公式Webサイト(英語)

NVIDIA公式Webサイト(英語)

GTC公式Webサイト(英語)


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