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[GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線
これは,肌の表現を高品質かつ低負荷で行う技術を解説する講演で,キャラクター表現に定評のあるスクウェア・エニックスらしいテーマといえよう。壇上に上がったのは,東京にある同社のテクノロジー推進部でChief Environment Artistを務めるAdelle Bueno氏だ。
ことの始まりは,スクウェア・エニックスがゲームエンジン「Luminous Studio」(ルミナススタジオ)の技術デモとして作成した,「Agni's Philosophy」のAgniちゃんだったという。
Agni's Philosophyは,プリレンダリングによるCGムービークオリティの映像を,リアルタイムCGで再現する実験的なプロジェクトである。普通のゲームでは考えられないようなことをいろいろやっていたので,4Gamer.netでは2012〜2013年にかけてたびたび取り上げており,そのことを覚えている人もいるだろう。
あれから数年経った現在では,もはやそれほど高品質という印象を受けない人もいそうだ。
最近では,ゲームのレンダリング解像度でも4Kの声が聞こえており,人物表現には,さらなるディテールが求められている。Agni's Philosophyの手法を使うなら,1人1人,顔が異なるキャラクターの数だけ,さらに大きなテクスチャを用意していく必要がある。
実際問題,今後は毛穴レベルまでのディテールが求められていくだろう。だが,「それ本当にテクスチャを用意してやるの?」とか「毛穴までやると,最低で2Kや4Kのテクスチャが必要だけど,それでもクオリティはイマイチだよ?」とか「毛穴といっても,顔の部位とか毛穴の種類で違ってくるから,タイルで並べるだけじゃ解決にならないよ?」といった問題も出てきており,Agni's Philosophyの手法で次世代のキャラクターゲームを作る見通しは,立っていなかったようだ。
とはいえ,毛穴レベルのディテールを無視するなら,顔面を構成する情報のほとんどは,もっと低解像度のテクスチャであっても正しく表現できるはず。
「大きな面積に,いろいろと細かいテクスチャを使う必要がある」となったときに,「これ,どこかで聞いたことがあるぞ」とBueno氏が閃いたのが,今回のテーマである「環境系」のテクスチャだという。
たとえば大きな岩を作る場合,環境系のテクスチャでは,岩1つ1つに個別のテクスチャを用意したりはしない。タイルテクスチャを基本として,そこにディテール用のテクスチャをブレンドすることで,さまざまな岩の表現を行う。このような環境系の手法を,キャラクターの顔にも使えないかというのが,基本的な発想だ。
顔というものを,環境アーティストの視点で見ると,ベースのテクスチャをタイルで使い,皮膚の毛穴にも繰り返し要素がある。つまり,形状や配置から見て一般的な毛穴パターンを探せば,いろいろと作業が捗るわけだ。
そこで,さまざまな顔のディテールを調べたところ,千差万別の微小な形状があることが分かったという。それらをなんとか一般的な形状に落とし込めばいいと,Bueno氏は考えた。
そこで毛穴や小皺を調べてみると,これらのディテールは,「点」と「線」のパターンに一般化できそうなことが分かったという。さらに複雑な形状も,それらの組み合わせで作れそうだ。
次に,それらの配置も調べてみると,部位によって特徴があることも分かってきた。
さらに,皺の方向についても調べてみると,部位に応じて規則性があることも見えてきたという。
こうしたリサーチを積み重ねたことで,環境系の手法が人の顔を作るのにも使えそうだということになり,新たな目標が設定された。それは,キャラクター1人1人に対して,巨大な顔のテクスチャを用意するのではなく,汎用のディテールテクスチャを調整することで対応するというものだ。
この手法を使えば,巨大なテクスチャを使うのに比べて,メモリ使用量は大幅に削減でき,表現力の向上も期待できる。
この手法では,最初に用意する顔のパターンは,512×512ピクセルや1024×1024ピクセル程度の解像度でも十分で,さらに中くらいから大きめの傷跡や,脂肪の袋などを作り込んでおくことになる。この時点で用意するデータには,毛穴などは含まない。細かい作り込みが不要なため,スカルプティングの制作時間は40%短縮できるという。
このデータに,追加のレイヤーとして微細な表現を重ねていくわけだが,デザイナーは,毛穴のタイプや強さ,大きさを頂点カラーによって制御しながら配置していくのだそうだ。
こうして実現した頭部の表現を従来の手法と比較したのが,下に掲載した4枚の画像となる。比較対象の「Old Work
今後の予定としては,ビットマップを用意するのではなく,Allegorithmicのミドルウェア「Substance」でプロシージャルに生成できるようにするとか,フェイシャルアニメーションに応じて毛穴が歪むようにすることが予定されているという。さらに高画質なった次世代のゲームキャラクター表現に期待したいところだ。
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