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[COMPUTEX]MicrosoftがPC販売で稼ぐ時代はすでに終わった。台湾ベンダーにIoTとサブスクリプションをアピールしたMicrosoft講演レポート
それゆえに,IntelやMicrosoftといったPCの主要コンポーネントを提供する企業は,COMPUTEXのタイミングに限らず,パートナーとの対話の機会を台湾で設けることが多い。例年であれば,COMPUTEXでMicrosoftが行う基調講演には,OEMメーカーとの折衝を担当するコンシューマ&デバイスセールス(CDS)部門のトップであるNick Parker氏が登壇し,同社の最新技術を紹介しつつ,OEMメーカーの新製品をステージ上で次々に紹介していくのが通例となっていた。
だが,台湾時間2018年6月6日に行われたMicrosoftの基調講演は,いささか違った姿を見せたようだ。ゲーマーどころか,一般消費者にもあまりピンとこない話題ばかりであるのだが,Microsoftという企業の現状が分かる内容だったので,簡単にレポートしよう。
従来のPC販売モデルに未来はない
Microsoftは現在,「Windows as a Service」の名称で,OSの定期アップデートを半強制化している代わりに,一度ライセンスを購入すれば,以後も追加料金の支払いなしに最新機能を利用し続けられるというスタンスでWindows 10を販売している。Microsoftは収入源として,「OEMメーカーがPCを販売するときに,OSライセンス料を徴収する」という従来のビジネススタイルを維持してはいるのだが,一方,企業向けには,OSライセンスに管理サービスなどをバンドルした「Microsoft 365」を,それ以外のユーザーにはOffice関連サービスを利用できる「Office 365」をそれぞれ提供している。
これらは,年次更新のサブスクリプションサービスで,ユーザーは常に最新の機能やアプリケーションを利用できる代わりに,一定額を定期的にMicrosoftに支払う仕組みだ。そして現在,Microsoftのビジネスにおける収益のうち,従来は過半数を占めていたOSライセンス収益は,2〜3割程度にまで低下しているという。つまり,企業としての成長を,サブスクリプションサービスに依存しているわけだ。
Microsoftは,これで問題ないとしても,PCを販売することで利益を稼いでいたOEM PCメーカーは,今後PC販売がゆるやかに減少していくと,その稼ぎ口を失っていくとも言える。そこで,Microsoftが台湾のパートナー各社に提案するのが「Azure IoT」のように,クラウドとIoTデバイスを使った新しいビジネスというわけだ。
Microsoftの言う「クラウドサービスプロバイダ」(CSP)とは,同社が提供するクラウドサービスやソフトウェア資産を使ってサードパーティ各社が独自のソリューションを作り,エンドユーザーに届けるというパートナー制度である。少々乱暴な言い方をするなら,「PC販売だけでは未来はない。Microsoftの提供するあらゆる製品やサービスを使って,次のビジネスチャンスを見つけてほしい」というわけだ。
IoTの世界にもサブスクリプションサービスを展開
※1 編注:Distinguished Engineer,最上級エンジニアといった意味の役職名
ちなみに,Azure Sphereとは,IoTデバイスに内蔵するコントローラとセキュリティ機構が組み合わさった「MCU」,カスタム済みLinuxの「OS」,クラウド経由で監視やアップデートなどの制御を行う「クラウドサービス」の三位一体構造で提供するセキュリティサービスのこと。Microsoftがセキュリティ全般を担保する代わりに,一定額を徴収し続けるというサブスクリプションモデルを採用している。
IoTの世界では,すべての機器が何らかのネットワークに接続されることが前提となるため,セキュリティ上の脅威が高まるわけだ。Hunt氏は私見と断ったうえで「セキュリティ対策の行われていないデバイスなど,“スマート”でも何でもない」と主張していた。つまり台湾パートナーには,IoTデバイス開発において「Azure Sphere」を利用してほしいというわけで,これもまた「PCに代わる次のビジネスチャンス」というわけだ。
なお,Azure Sphereと連動するアプリケーションはWindows上で動作させることも可能だが,Windows上で動かすこと自体は,すでに本筋ではない。「Microsoftの主眼はすでにWindowsにはない」ということが,ここからも推察できる。
同様に,Microsoftが提供する「Cognitive Services」という,いわゆるAI的なサービスも,CSPやエンドユーザー向けの新しいビジネスである。
MicrosoftのCognitive Servicesとは,画像認識や言語翻訳など,機械学習を使った各種サービスをクラウド経由で利用できる仕組みだ。学習済みライブラリは,“エッジデバイス”,つまり個々の機器にダウンロードして搭載することが可能で,たとえばカメラ内蔵のドローンに載せれば,人の目の届きにくい上空からの撮影映像を解析して,リアルタイムの検知を行えるといった具合である。
事例として紹介された製造サービスのJabilでは,クラウド上のFPGAで動作する機械学習ライブラリを通じて高速な画像認識サービスを用い,製造ラインのチェックと品質管理に活用している。これはエンドユーザーの例だが,こうした機械学習の仕組みをエッジデバイスに組み込んだり,あるいはAzureクラウドを通じて利用することで,より競争力の高いソリューションを作ってほしいというのが,COMPUTEX TAIPEI 2018におけるMicrosoftの台湾パートナーに対するメッセージだ。
「PC=Windows=Microsoft」というイメージを持つ筆者を含むほとんどの消費者から見れば,隔世の感があるが,Windowsをメインの商材としていたMicrosoftが,今後10年や20年先を見据えてすでに別の商材にビジネス的価値を見出しているのだと考えればいいだろう。
Microsoft公式Webサイト
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