連載
【Jerry Chu】究極のオープンワールドを体験しよう
Jerry Chu / 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
究極のオープンワールドを体験しよう
デフォルメされたキャラクターが登場し,子供も安心して遊べるテーマパーク。リアルにシミュレートされ,ときには暴力的な描写もあるオープンワールド型ゲーム。この2つには共通点がある。
テーマパークの広大な敷地には,さまざまなエンターテイメントが存在する。劇場で映像を鑑賞して,ファンタジーに浸るのもよし。ローラーコースターやシューティングゲームで体感的な刺激を求めるのもよし。園内を散策して写真を撮るのもよし。テーマパークには遊び切れないほどのアトラクションが用意され,多彩な楽しみ方がある。
オープンワールド型ゲームでは,さまざまなプレイスタイルが許容される。広大なゲーム世界には,多数のミッションが隠されており,ストーリーを進めるためにメインクエストを追うか。それはさておき,サブクエストをコンプリートしていくか。もちろん,自由気ままに世界を探索するのもいい。
テーマパークとオープンワールド型ゲームはどちらも,観客(プレイヤー)に娯楽を与えるため,さまざまな娯楽を内包した架空の世界だ。
究極のオープンワールド型ゲーム「Westworld」
オープンワールド型ゲームとテーマパークの共通点を浮き彫りにしてくれたのは,2016年10月に放映を開始したTVドラマ「Westworld(ウエストワールド)」だ。
ドラマの舞台は,アメリカ西部開拓時代の街を模したテーマパーク「ウエストワールド」。園内には「ホスト」と呼ばれるロボット達が暮らし,架空の街で盗賊や保安官,平民などの役を演じる。テーマパークを訪れる人間は「ゲスト」と称され,ホストと親交を深めたり,冒険に出かけたりして西部開拓時代を体験する。
ゲスト達の冒険,人間とは見分けがつかないほどに精密なホスト達の生活,テーマパーク運営者の権力争いを描いたSFスリラーだ。
本作の舞台設定は,非常にオープンワールド型ゲームらしいものだ。西部開拓時代をモチーフにした街の風景は,Rockstar Gamesの「Red Dead Redemption」を思わせる。カウボーイを演じ,ワイルドウエストを気の向くままに闊歩するゲストは,いかにも「Red Dead Redemption」のプレイヤーらしい。
一方,ホストは自律した人工知能を持ち,その姿はオープンワールド型ゲームに登場するNPCのようだ。ホストにはそれぞれ経歴と役割があり,ゲストを賞金稼ぎや宝探しなどのクエストに誘う。
没入感とリアリティに関して言えば,ウエストワールドはまさに究極のオープンワールド型ゲームだ。
「Westworld」のクリエイターであるJonathan Nolan氏とLisa Joy氏は,「VICE」のインタビューにおいて,近年のゲームを参考にしていることを明かした。「The Elder Scrolls: Skyrim」や「Red Dead Redemption」といったオープンワールド型ゲームのストーリーに興味を惹かれているそうだ。
また,「The New Yorker」のインタビューによると,シナリオ作成のリサーチとして「Grand Theft Auto」シリーズをプレイし,「劇中のホストをNPCのようにしたい」と方針を定めたという。
実際,ドラマにはオープンワールド型ゲームを思わせる演出が溢れており,筆者は何度もニヤリとした。単なるオマージュではなく,ゲームにおける暴力行為や人工知能といったオープンワールド型ゲームの本質について,考えさせられるところも多い。
ウエストワールドを訪れるゲスト
「Westworld」のストーリーはゲスト,ホスト,運営スタッフの視点で描かれる。
テーマパークの常客であるローガンと共にウエストワールドを訪れるウィリアムは,良識ある人間だ。困ったホストに手を貸したり,ホストに暴力を振るうことに難色を示したりして,人間のようにホスト達と接する。
そんな彼は農場娘のホストであるドロレスに魅了され,彼女と行動を共にしていく。ストーリーを忠実に追うプレイヤーである。
一方,ローガンはウィリアムとは正反対。ホストを助けようとするウィリアムをなじり,しつこいホストを問答無用で傷つける。運営側が用意したシナリオなどに目を向けず,ひたすら官能的な快楽を求める。オープンワールド型ゲームのストーリーやサブクエストを放り出して,好き勝手に暴れ回るプレイヤーに近い。
そして,単独でパーク内を動き回る黒服の男。ウエストワールドに数十年間も来場し続けているというベテランプレイヤーだ。
シナリオや体感的な刺激といった上辺の体験には興味を持たず,テーマパークに隠された秘密を探し求める。ホストに対して極悪非道な行為も厭わず,クリエイターが残したヒントを手繰って謎を解明しようとする。
そこには,ゲームをクリアしても飽き足らず,やり込みに熱中するハードコアゲーマーの面影がある。
キャラクターとの親交を楽しむウィリアム,快楽と刺激を求めるローガン,ひたすら隠し要素を探す黒服の男※。オープンワールド型ゲームと同じく,ウエストワールドには三者三様の楽しみ方がある。
※黒服の男の正体は,シーズン1の最終話で明かされる。その衝撃的な事実は自分の目で確かめてほしい。
ゲームAIの究極形であるホスト
ホストはいわゆるNPCであり,ゲストをもてなすための存在だ。人間と同等の身体と知能を持ち,それぞれの役に合わせた既定のルーチンに沿って行動する。テーマパーク内でさまざまな役を演じ,娼婦を演じる者もいれば,アウトローとしてゲストと戦う者もいる。
ホストは人間と自然な会話を交わし,意思疎通が可能なほどに高度な知能を備えているが,いくつかの制約もある。
まず,ホストはゲストに危害を加えられない。ホストが持つ銃器はホストを殺傷することができるが,ゲストは傷つけられない。殺されたホストは運営スタッフによって修復され,記憶を消去されてからテーマパークに戻される。
オープンワールド型ゲームのNPCは,主人公のキャラクターを倒せても,コントローラを握っているプレイヤーを傷つけることはできない。ゲームをリロードすると,NPCの記憶はリセットされる。ホストとゲームにおけるNPCは,本質的には非常に近い。
ロボットでありながら,ホストには感情がある。恋人と出会えば微笑み,怪我をすると悲鳴を上げ,家族を失うと泣き崩れる。涙があれば血も流す。周囲の環境を認識して行動を起こし,ゲストと親交を深めて絆を築くこともできる。
ホストのような意思を持つ自律型AIを作ることは,ゲームAI開発者の夢ではないだろうか。キャラクターに人間らしい振る舞いをさせるために,開発者はあらゆる手法を尽くしてきた。
ゲームAIの第一人者,三宅陽一郎氏は哲学を背景にしつつ,「主観的世界」を持つゲームキャラクターを作ろうと取り組んでいる(著作「人工知能のための哲学塾」に詳しい)。人間と見分けがつかず,確固たる人格を獲得しているホストはゲームAIの理想像と言えよう。
だが,いかに高度な人工知能を搭載しようとも,ホストは所詮,ゲストのおもちゃだ。ローガンや黒服の男はホストを道具と見なしているし,ホストを蹂躙することに快楽を見出すゲストもいる。
「Westworld」の第1話には,ホストの頸部を撃ち抜いて興奮したり,瀕死のホストが痙攣するのを見て大笑いしたりするゲストが登場する。どれだけ人間に近づけようとしても,ホストはゲストにとって欲望の捌け口に過ぎない。本物の人間ではないし,壊れたら修復できるから,何をしても許されるのだ。
ホストを虐殺して喜ぶゲストは,浅ましくて嫌みたらしいものだ。だが,オープンワールド型ゲームをプレイした人なら,ゲームのキャラクターを殺して達成感や高揚感を味わった経験を持っているだろう。
何の罪もないNPCを車で轢いたり,手榴弾で吹き飛ばしたりすることには,滑稽さと快感が伴う。我々は「NPCは人間じゃないから」と言い訳をしてきたが,同じことが「Westworld」のゲストにも言える。
最先端の人工知能を目の当たりにしながら,大半のゲストはストーリーやキャラクターではなく,浅ましい快楽ばかりを求める。最初は良識を持って行動していたウィリアムにも,徐々に変化が訪れる。その姿をゲーマーは戒めとすべきだと思う。
暴力描写は排除すべき,そんなゲームは規制されるべきと主張したいわけではない。ただ,ゲームには人間の醜い本性を露わにする力があることを知っておくべきた。
人工知能にまつわる「倫理」にも考えさせられる。人工知能の倫理と言えば,「人工知能が人間に害をなすか」という視点で語られることが多い。「Westworld」には「人工知能が人間に害をなし得る」というテーマが込められているが,「人間が人工知能に危害を加えてもいいのか」という問題も喚起してくれる。
ホストは本物の人間ではないが,彼らが感じる苦痛が紛いものとは思えない。ゲストの嗜虐心を満たすために,ホストは何度も痛めつけられ,殺され続ける。ホストを人間の慰み物にするのは,果たして許されることだろうか。その議論を巡ってウエストワールドの創設者達が衝突し,ホスト達に異変が起こり,「Westworld」の物語が大きく動き出す。
昨今のゲームに登場するキャラクターは,知能があるように見せかけたプログラムであり,実際に感情や思想を持っているわけではない。だから,我々はNPCを傷つけても気に病むことはない。
だが,もしウエストワールドのホストのようなゲームキャラクターが作り出されたら,それを傷つけてもいいのか。もし「Grand Theft Auto V」に登場するNPCが,人間と同様に自我を持つようになったら,我々はこれまでどおりにゲームを楽しめるだろうか。
「Westworld」が投げかけた疑問は,ゲーム開発者にとっても有意義なものだと思う。
裏で暗躍するクリエイター達
テーマパークの運営スタッフは,ホストの開発やシナリオの用意などを担当している。ゲストをプレイヤー,ホストをNPCに喩えるなら,運営スタッフはゲームクリエイターに該当するだろう。
ウエストワールドのシナリオ責任者は,アクション映画のようなスリルと刺激を包有する新しいシナリオを提案する。しかし,テーマパークの創設者であるロバート・フォード博士は異を唱え,観客を煽るだけの演出などは「単なる大道芸」と貶め,細部の作り込みにこそ価値があると主張した。
ゲストは虚飾ではなく,誰もが気づかなかったディテールを発見することに心を惹かれる。ゲストは自分は何者なのかを知りたいのではなく,「自分は何者になれるか」を垣間見たいからこそテーマパークを訪れる。そうフォード博士は熱弁を振るう。
フォード博士の主張を首肯するゲーマーは多いだろう。アクション映画のような派手なカットシーンもいいが,RPGでは演出よりも細部のほうが重要だ。
「Bloodborne」は派手なカットシーンが少ないが,ステージに散在するヒントを集め,ストーリーを紐解いていくのが楽しい。「Fallout 4」は部屋と骸骨の様子から,「ここで何があったのか」を想像するのが楽しい。他人を演じることで,普段の生活ではできない体験を味わう。それも,ゲームだからこその魅力だ。
その後,フォード博士は大量のホストを動員して,自分が考案した新シナリオに着手する。しかし,現体制の経営陣は「ここで働いているスタッフなどどうでもいい。我々が関心を持っているのは,ホストに書き込まれたソースコードとその知的財産だけだ」と言い放つ。
昨今,欧米のゲーム業界では厳しい労働環境が問題視されている。長時間労働はゲーム開発者にとって日常茶飯事であり,プロジェクトが終了したらスタッフを大量解雇する会社すらあるという。
クリエイターの意匠とスタッフの死活に関心を持たず,利権と知的財産にしか関心がないウエストワールドの経営陣。その姿を「ゲーム業界への風刺」と捉えるのは考えすぎだろうか。
人工知能とオープンワールド型ゲームの倫理を問い質す
ここまで読んで,「『Westworld』はゲーマー向けのニッチな番組」といった印象を持った人もいるだろう。だが,それは違う。「Westworld」は確かにゲームをモチーフにしているが,オープンワールド型ゲームをプレイしていなくても,珠玉のSFスリラーとして楽しめる。パズルのように入り組んだストーリー,巧みな編集技法,アンソニー・ホプキンス氏やエド・ハリス氏をはじめとする俳優陣の競演は,どれも目を見張るクオリティだ。
人工知能が飛躍的な発展を遂げている今だからこそ,「人工知能と人間の関係」はゲーマーに限らず,誰しもが関心を持つテーマだろう。
ゲームにヒントを得た「Westworld」は,映画「All You Need Is Kill」を想起させる。桜坂 洋氏の同名ライトノベルを原作としており,宇宙生物が襲来する近未来世界を描いている。
宇宙生物との戦争,その初陣で戦死した主人公は,あるきっかけで「死んだら初陣の前日に戻される」という特殊能力を得た。主人公の異変には誰も気づかず,主人公だけが初陣を繰り返すことで経験を蓄積していく。
そう,アクションゲームを繰り返しプレイして上達するかのように,主人公は何度も初陣を体験して己を鍛え,やがて戦局を打開する。タイムスリップ映画でありながら,ゲームならではの体験をシミュレートしたメタフィクションの一面も合わせ持つ。
「Westworld」にも同様の二重性がある。SF作品として楽しめるだけでなく,オープンワールド型ゲームへのオマージュとゲーマーへのメッセージをも読み取れる。
海外ドラマ全般に目を向けると,「House of Cards」や「Mr. Robot」といったゲームのネタを盛り込んだ作品が増えつつある。日本でもゲームとアニメをパロディにしたTVドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズが人気を博した。
だが,「Westworld」はネタやパロディの域に留まらない。オープンワールド型ゲームの体験を模倣して,その本質と人工知能に関わる倫理に深く切り込んでいる。一般向けのTVドラマでありながら,ゲームの在り方をこれほどに考えさせるとは実に驚きだ。
■■Jerry Chu■■ 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。 |
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