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[SPIEL'18]2018年のアナログゲームのトレンドは? 一般公開日に先駆けて行われたプレスカンファレンスの模様をレポート
このイベントが年々右肩上がりで規模を拡大させていることは,先の記事でも触れた通りだ。一般公開日の前日となる10月24日に開催された,SPIEL'18の主催団体Friedhelm Merz Verlagによるプレスカンファレンスでも,大きな成長を続けるSPIELや,それを支えるアナログゲームへの社会的認知度の高さに対する自信が伺えた。
量的・質的に発展するSPIEL'18
カンファレンスに登壇したFriedhelm Merz Verlagのドミニク・メッツラー氏は,SPIEL'18の特徴として最初に量的な規模の増加を挙げた。今年の出展者数は50か国から1150ブース,紹介される新作はなんと1400にも及ぶ。これに応じて,会場となるエッセンメッセの展示面積も,新たに完成したホール6をフルに使用しての8万平方メートルへと拡大した。
各国のパビリオンの数も2018年は増加している。この国際見本市では,日本,台湾,韓国など,それぞれの国のゲーム作家や出版社が共同で出展するという光景がおなじみになっているが,今年はフランスやイギリスの出版社が大規模な共同ブースを出すほか,インドネシアのゲーム作家15名のパビリオンが,同国政府支援のもとで初出展するのもポイントといえるだろう。
SPIEL'18のこのような量的拡大を受け,メッツラー氏は昨今のアナログゲームがサブカルチャーからポップカルチャーの主流へと躍り出たと高らかに宣言した。それを象徴するかのように,今年はドイツ文化評議会(Deutscher Kulturrat)の会長がゲストとして招かれ,ゲーム作家組合(Spiele-Autoren-Zunft)とのディスカッションを行う予定となっている。
音楽・美術・建築などのさまざまな芸術活動を統括し,ドイツの文化政策に大きな影響を与えるドイツ文化評議会の参加は,アナログゲームやSPIELというイベントそのものが,政治・行政的にも注目される文化財(Kulturgut)になったことを示している。
ドイツの社会にとって,今やアナログゲームは,プレイすることで生まれる連帯感や喜びを通じて,教育や人々の統合にポジティブな影響をもたらすものとして,大きく期待されているのだ。
ここで興味深いのが,メッツラー氏やボードゲーム出版社協会のヘルマン・フッター氏が強調するように,このアナログゲームのブームがデジタル化が進む社会の中で進展していることだ。
2人の報告の中でとくに面白かったのは,アナログゲームはデジタルゲームを競合相手として認識しつつも,デジタル化そのものを巧みに利用しながらブームを作り上げているという部分だ。
例えば,一緒にテーブルを囲んでプレイするアナログゲームは,デジタルゲームでは完全に代替できない社会的なインタラクティブ性や,楽しい体験・感情を提供してくれるのだという。また,スマートフォンのアプリなどを使用してアナログゲームにデジタルな要素を取り入れた作品も徐々に増えてはいるものの,全体的な傾向となるには至っていない。
確かに,近年のアナログゲームは,「アプリでも処理できることをいかに人間にやらせるか」を考慮しながら,パーティーゲームとしての面白さを創り出しているものが多いように思う。
一方で,商業的な観点から言えば,SNSやブログ,動画チャンネルなどのデジタルメディアは非常に大きな役割を果たす。専門ゲームショップを通さないゲーム販売を行ううえで,こうしたメディアは主要な宣伝ツールとなるからだ。
また,ゲームショップは単なるゲーム販売店ではなく,定期的にボードゲームの集いを開催する場でもあり,そうした活動の告知のためにはやはり積極的にデジタルメディアを活用していく必要があるといえそうだ。
余談となるが,今年のSPIELでは,新作やブースの見取り図が載った無料ガイドが配布される。今まではエッセンに来る前に新作を調べ,その新作を会場で入手できる場所を,電車の時刻表並みに分厚いカタログで確認しないといけなかった。だが,今年はこのガイドのおかげで,そうした手間は10分の1以下になったように感じる。これはむしろ「今までなぜなかったのか」と言いたいくらいだが,SPIELにおける素晴らしい改善といえるだろう。
今年のSPIELの注目作は
カンファレンスでは,独創的なゲームを表彰するInnoSPIELの受賞作品も発表された。InnoSPIELは,2017年に新設されたばかりだが,第1回受賞作が納得の「Magic Maze」だっただけあって,今年の受賞作品にも大いに期待がかかるところだ。
そんなInnoSPIELの第2回でノミネートされたのは,Game Factoryの「Bonk」,Ravensburgerの「Cool Runnings」,Nürnberger Spielkarten Verlagの「The Mind」だ。この中で選考委員の大きな支持を集めて受賞したのは,レースゲームの「Cool Runnings」である。
この作品は,レースのコマとして実際のアイスキューブを使うという段階ですでにユニークだが,ゲーム中に引くカード次第で,水や塩をかけたり,手で触ったりして相手の氷を溶かして妨害できる。このように,氷を使った豊かなインタラクティブ性が評価されたといえそうだ。
Bonk |
The Mind |
これに続いて,SPIEL'18におけるゲームのトレンドも紹介された。今年のトレンドとなっているのは,協力型(Co-op型)ゲームである。プレイヤーが互いに競い合うのではなく,協力してゲームをクリアしていくこのスタイルのゲームでは,プレイヤー間のコミュニケーションが成功の鍵となる。
ゲームショップ主催のボードゲームの集いやボードゲームカフェが増えている昨今の状況を考えると,対戦してギスギスするゲームよりは,同じ目標を目指すゲームに人気が集まるのは自然な流れだろう。
また,アナログゲームの社会的貢献を考えた場合にも,協力型ゲームを通じて,信頼,配慮,他者への共感など,社会生活上で役立つポジティブな気質が培われるところも高く評価されそうだ。そうしたプレイヤー側の需要を,ゲーム作家の方もしっかり認識しているようだ。
そのような協力型ゲームの例としてメッツラー氏は,Amigoの「X-Code」や,HABAの「Die Legende der Irrlichter」といった作品を挙げた。
Die Legende der Irrlichter |
X-Code |
ボードゲームをプレイする層のなかでも重要な位置を占める家族や子供に向けたゲームも,興味深い新作が目白押しだ。メッツガー氏が紹介した数々の作品のなかで筆者がとくに惹かれたのが,12面体にタイルを張って惑星を作るBlue Orangeの「Planet」,1990年代のゲーム機のコントローラを模したコンポーネントが目を引くIelloの「8Bit Box」,7歳という低年齢から楽しめるKosmos-Verlagの脱出ゲーム「Exit Kids - Code Breaker」だ。
もちろん,プレスカンファレンスで紹介された作品は氷山のごく一角にすぎない。4Gamerでは今年もさまざまなアナログゲームを紹介していく予定なので,続報をお見逃しなく。
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