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今のeスポーツ産業に必要なのは,将来に向けた取り組み。「世界におけるeスポーツの発展〜次の100年の基盤づくり〜」セッションレポート
本稿では,Ultimate Media Ventures(UMV) CEO ブルーノ・サントス氏によるセッション「世界におけるeスポーツの発展〜次の100年の基盤づくり〜」をレポートする。
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サントス氏は,かつてプロスポーツのエージェントとして活動したのち,eスポーツ業界に転身した人物で,過去にはアメリカのチーム「FaZe Clan」のeスポーツ事業の運営を担当していた。また2017年には,eスポーツの国際団体「Gorilla Core」を創設している。
サントス氏はまず,サッカーなどリアルスポーツがどのように発展してきたか,そしてそのビジネスモデルなどを学ぶことが今後のeスポーツの発展にとって重要だと語った。とくに,まだ新しい産業であるeスポーツを一過性のもので終わらせず,これから20年30年と継続させるためには,しっかりした基盤を作らなければならないと強調した。
その基盤作りのため,サントス氏は2019年,高校教育向けのeスポーツプログラム作成に取り組んだとのこと。このプログラムでは,競技タイトルとなるゲームの戦略,戦術や,プロプレイヤーとして活動するには何が必要なのかだけでなく,社会人として生活していくための知識やスキルなどを学べるという。
これらの内容には,スピーチやSNSのマネジメントといった事柄も含まれる。というのも,eスポーツプレイヤーの多くは非常に若い時期から活動を始めるので,社会生活をする上での基本的な知識を学ぶ機会を失いがちだからだ。
サントス氏は,新たにeスポーツに取り組む企業は目の前で起きていることにフォーカスしがちで,将来のことを考えなくなりやすいと指摘。「ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)が今の地位を築くまでに100年かかった」とし,チームや企業は若いプレイヤーの教育に目を向けるべきだと語った。
話題は,eスポーツの競技タイトルとなるゲームにもおよんだ。サントス氏は,ひと口に「グローバルな競技タイトル」と言っても,アメリカではPCでプレイするゲームが主流である一方,南アフリカではPCよりもモバイルデバイスが普及している。そのように各国の文化や経済状況によってプレイされるゲームも異なるため,必然的にeスポーツ観戦者の育成手法も変わってくる。サントス氏は,多くのパブリッシャがその点を見逃して自社の得意なスタイルでのみ勝負しようとしているとし,「現地でしっかりパートナーシップを築き,分析をしないと,その地にeスポーツを展開することはできない」と話す。
セッションの後半には,サントス氏が聴講者からの質問に回答するコーナーが設けられた。以下に,その一部を抜粋して掲載する。
「海外から見た日本のeスポーツ」について問われたサントス氏は「非常に有望。成長の可能性がある」とし,その理由をテクノロジーに長けた国であり,またeスポーツの世界決勝大会には1〜2チームの強力なチームがエントリーすると説明を加えた。
「日本でeスポーツを発展させるために必要な基盤とは何か」という質問には,「一貫性が必要」と回答。サントス氏は,大会を開催できる機会が多くなれば,より多くの人が参加したり観戦したりできるようになり,さらに大きな大会の基盤となるとし,「少なくとも年間15回の大会が行われて初めて,多くの人が納得し,大きな大会を開催できるようになる」との見解を示した。
「今,eスポーツのどこに注目して投資をしているか」と問われると,上記のとおり基盤作りに投資をしていると回答した。その理由として,すでにトップのチームやプレイヤーへの投資は十分なので,今は12〜15歳の若いプレイヤーのキャリア形成や,より小さい規模のチームに投資をし,数年後にトップ争いに備えたほうがいいという説明がなされた。
これに関連してサントス氏は,今後1年間でeスポーツが成長すると期待できる国や地域として日本,中東,アフリカを挙げ,共通する特徴としてモバイルゲームが普及していることを指摘。「次にUMVがターゲットとするのは,これらの国や地域の市場だろう」と話していた。
そのほかサントス氏は,主にeスポーツの基盤作りに関する質問に対して,「高校教育にeスポーツを採用し,リアルスポーツのように戦略・戦術の組み立てや分析などを教えるべき」という持論や,国際サッカー連盟(FIFA)のような国際的なeスポーツ機関などが登場するという予測などを示した。
また時間の経過に伴って,障害や怪我など身体に問題を抱えた人達がアスリートとしてeスポーツに参加する機会が増えていくだろうとも話していた。
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