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[CEDEC 2023]リアル世界を用いるゲームにはさまざまなメリットとデメリットが存在する。「リアル世界のゲームデザイン」レポート
本講演は,ARG(代替現実ゲーム)や周遊型の謎解きゲームなど,現実空間や実在するメディアを使ったゲームやエンターテインメントにおける“空間やメディアの活用方法とその注意点”を,過去の事例を交えながら伝えるというものだった。
なお,講演で取り上げられた事例は「今後のコンテンツ制作に生かせるよう,例題はできるだけ具体的に取り上げているが,他者の作品やチャレンジを批判する目的はいっさいない」としている。
石川氏によると,リアル世界を使ったゲームは,それなりに歴史のあるジャンルかつさまざまな失敗例があるなかで,カバーする範囲が広すぎたためにノウハウが蓄積されなかったり,同じような失敗が繰り返されたりしてきたという。それらの共通ポイントを整理し,界隈向けの参考情報を提供するために,この講演を行ったとのこと。
石川氏の言う“リアル世界のゲーム”の定義は「現実の場所やメディアを,ゲームのギミックとして意図的に使おうとするもの」だ。その特徴は,日常の延長線上にある「非日常」体験,五感や身体機能とのつながり,リアルメディアによるストーリーテリングの3点だという。
そのうえで,リアル世界のゲームは多くの問題点を抱えているとし,続く解説にて,それらの課題と対策が語られていった。
1つ目の問題点は,「マジックサークル(ゲームの境界)が不明瞭」だということ。これは,空間的な意味とルール的な意味の2点が挙げられた。例えばビデオゲームでは,ゲームが成立しない範囲への移動は制限され,ゲーム中も決められたルールに則った動きしかできない。
しかし,リアル世界を使ったゲームでは,目に見える区切りがなく,どこまでが空間的な成立範囲か分かりにくい。ルールも明確に取り決められない場合が多いため.どこからがゲームなのかも判断しづらい。
その事例として,2020年に行われたARG「Project:;COLD」が挙げられた。同コンテンツでは,ヒロインが次々と死んでいってしまうシナリオ“cas.613”があり,そこでヒロインが「助けて」と発言するも,この発言の時点でヒロインを救うことはできない設計になっていた。
しかし,「なにができないことなのか」が分からない参加者たちに,無駄なチャレンジを続けさせてしまったのだという。
この問題を解決するためには「今,プレイヤーが取り組むべき課題を明示する」ことが必要だと石川氏は語った。
それは,長期の達成課題と現在できることを明確に分けたり,フェイズを意図的に分けて明示したりするほか,ゲームの流れを外部からコントロールできる「NPC」を用意するなどの方法があるという。
実際,2022年提供の「Project:;COLD 1.8」のシナリオ“cas.633”では,ナビゲート役の「C」を登場させたことで,前述したゲーム進行における問題がかなり改善されたのだという。
2つ目の問題点は,「(書籍やWebサイトなどの)リアルメディアを使うこと」。リアルメディアを使うメリットは,体験者に「普段使っているメディアにゲーム情報が混ざってくる驚き」を与えられること,押しつけられた感が出にくいこと,メディアごとに表現方法を変えられることにあるとされる。一方で,“現実情報と混じる危険性”も生まれる。
一例とされたのは,2016年にTV番組「水曜日のダウンタウン」がTwitter(現X)を使用して行った,お笑い芸人のクロちゃんさんを見つける企画だ。同企画ではSNS上で間違った情報が共有されてしまい,警察沙汰にまで発展。企画を中止せざるを得ない状況になったという。
この問題の解決策は「SNSに依存しすぎない」ということらしい。SNSはフロー情報(日々の一次情報。その日のトレンドなど)を得るのには向いているが,ストック情報(記録情報。本稿のような記事記録)を参照するにはあまり向いておらず,とくにビジネス契約ができないSNSだと,突然アカウントが使用できなくなるなどの可能性もある。
この点で重要なのは,リアリティではなく,グレディビリティ(観客が架空の世界観を信用して没入する力)と不信の停止だという。要するに,ときには体験者の没入感を犠牲にしてでも「これはゲームギミックです」と明示する勇気が必要だと,石川氏は述べた。
なお,代替案としては,物理的なメディアや内製のWebサイト,ビジネス契約できるメディアを使用するほか,疑似スマホのアプリ(複数のメディア体験を集約し,コントロールできるアナウンスの手段)を用意するのも1つの手だとしていた。
3つ目の問題点は,「現実の場所を使うこと」。
現実の場所を使うと,能動感の強さや景色,場所が生み出す妄想などの楽しみが生まれるが,個々人の体験者の行動は予測しにくい。
事例としては,「HALO2」のプロモーションARG「I love bees」が挙げられた。同作では,指定された座標の公衆電話にHALOの世界から電話がかかってくるというアクティビティがあったが,(天候的な)ハリケーンのなか,目的地へ向かう人が出てきてしまったのだという。また,TV番組「アイドリング!!!」のARGでも,代々木公園で人を探すミッションを行ったところ,人が集まりすぎて解散になってしまったそうだ。
これらの問題は,プレイヤーの動きを慎重にシミュレーションしたり,制御方法を何重にも用意したりすることが大切だという。
また,「移動そのものも体験の一部である」という視点が欠けているコンテンツも多いとのことで,現実の場所を扱う場合は,移動した場所とコンテンツを結びつける,移動そのものに意味をつけるといった対策で,プレイヤーの動向をコントロールするといいようだ。
4つ目の問題点は,「コンテンツの枯渇が起きやすい」。
参加人数が多いリアル世界のゲームでは,どんなに難しい問題を出しても,誰かが一瞬で解いてしまう事態が起きやすいという。つまり“コンテンツが一瞬で消化された状態”だ。かと言って,理不尽に難しくすると,イベントとして成立しないから悩ましいわけである。
さらにこの問題は,コンテンツの単純な枯渇にとどまらず,内容の発展に応じて「コンテンツに参加できない人(=コンテンツがないに等しい状態)」を生んでしまいかねないとされる。これについてはARGの世界では昔から叫ばれている,かなり根の深い課題だという。
そのうえでの対策としては,謎解きの過程をエンタメにする(例:TVの謎解き番組のように),特定分野で活躍できる人の知識課題にする,簡単なことを全員にやらせる,役割を分担するなどがあるとしていた。
本講演ではこうして,リアル世界のゲームにおける4つの大きな問題とその対策が解説された。最後に石川氏は「リアル世界を使ったエンタメはまだまだ増えると思われるが,この分野における事例や研究はとても不足している」とし,ほかの人もこの分野にぜひチャレンジして,研究結果を発表してほしい願望を述べ,講演を締めくくった。
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