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ゲーミフィケーションは,今の日本で「社会人の学び」を習慣化するために必要。その事例などをテーマにしたオンラインラーニングフォーラム2023のセッションをレポート
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印刷2023/11/18 12:00

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ゲーミフィケーションは,今の日本で「社会人の学び」を習慣化するために必要。その事例などをテーマにしたオンラインラーニングフォーラム2023のセッションをレポート

 日本オンライン教育産業協会および産経新聞社は2023年11月,オンライン教育の各分野の研究者,有識者,eラーニングサービス企業が集結して,ノウハウやソリューションを発信する「オンラインラーニングフォーラム2023」をにオンラインにて開催した。

※11月1日,2日と7日〜10日の6日間

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 本稿では,11月8日に行われたセッション「『社会人の学び』を習慣化するゲーミフィケーションの魅力と事例」をレポートする。登壇したのは以下の4名だ。

日本ゲーミフィケーション協会 代表賢者Lv98 岸本好弘氏
エーテンラボ 代表 長坂 剛氏
コクヨ イノベーションセンター 学びソリューション事業部 中井信彦氏
中小企業リスキリング協会 松山将三郎氏



社会人の学び×ゲーミフィケーション


 まず岸本氏は,企業のDX戦略などの台頭により,現在の社会人にはリスキリング(Reskilling。技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために,新しい知識やスキルを学ぶこと)が求められていることを指摘。そうやって「社会人の学び」がすごく重要になっている一方で,現状の日本は諸外国と比較して社会人が学んでいないと話す。

 それでは,学んでいない社会人をどうやって行動変容させ,学ぶよう誘導するのか。岸本氏は,「人間の脳とは楽しいものが好き」であるとし,「楽しいを導入することによって,学びの習慣付けをやらせようというのが,日本ゲーミフィケーション協会の提案」と語った。より具体的には,社会人の学びを習慣化するという課題に対して,「ゲーミフィケーションで学習者が楽しくなる学習体験をデザインする」というわけだ。あらためて説明しておくと,ゲーミフィケーションとは「身の回りのことにゲーム要素を入れて,人を楽しくやる気にさせること」である。

このセッションで言う「楽しむ」とは,「夢中になる,フロー状態になる」ことを指す
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 ミハイ・チクセントミハイ氏によるフロー理論も示された。この理論は,難度と自身のスキルとのバランスが取れた状態において,人はフロー状態となり,最大限のパフォーマンスを発揮するという内容のもの。岸本氏は,「日本ゲーミフィケーション協会は,ゲーミフィケーションを使って学習者をフロー状態に導こうとしている」と話していた。

日本ゲーミフィケーション協会が定義する,ゲーミフィケーションデザイン6要素も,あらためて示された
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「みんチャレ」×社会人の学び


 長坂氏は,エーテンラボが展開しているスマートフォンアプリ「みんチャレ」を紹介した。このアプリは,同じ目的を持つユーザーが最大5人1組のチームとなり,励まし合いながら楽しく習慣化を目指すものだ。チーム内ではグループチャットが行われ,そこに各自が目的達成のためにその日行動したことの証拠写真と,一言メッセージを投稿する。そして,それを見たほかのチームメンバーがOKボタンを押すと,初めて行動をしたことになる。

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 長坂氏によると,こうやって他人に認められることにより,その日の自分の行動を認知させる手法は,認知行動療法の行動活性化療法に近いとのこと。写真でその日の自分の行動を振り返り,それに意味付けをする一言メッセージを添えることで,その人の行動が強化され習慣化するという特性があるそうだ。

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 加えて,ほかのメンバーからOKをもらったり,「すごい」と褒められたり,ほかのメンバーから「今日はこれをやった」といった報告があると,それが自身の行動に対するフィードバックになるという。長坂氏らは,これを同じような立場や課題に直面する人がお互いに支え合うことを指す「ピアサポート」になぞらえ,「デジタルピアサポート」と呼んでいるとのこと。

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 「みんチャレ」には,チーム内のコミュニケーションをサポートするAIチャットボットが導入されていることも紹介された。これは,日本人が他人を褒めることに慣れていないことを踏まえた施策で,AIチャットボットが率先してユーザーを褒めることによって,ユーザー達が褒め方を学んでいき,どんどん褒め合うチームになっていくという。

 また一般的なヘルスケアアプリは,記録したデータにフィードバックやアドバイスがなされるが,「みんチャレ」は「チーム内で楽しくチャットしていて,気付いたらデータが溜まっていた」というユーザーが多いそうだ。もちろん記録したデータを踏まえて目標設定したり,チームメンバーからアドバイスをもらったりすることもできる。

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 以上の特徴は,ゲーミフィケーションの「即時フィードバック&ソーシャル要素」に合致するわけだが,ほかにも「習慣化するとコインが貯まっていく」という仕組みもある。
 このコインは,ユーザー自身のためには使えないが,他社の団体やプロジェクトに寄付できるようになっており,長坂氏は「自分が健康になったら社会に対して貢献できるといったように,自分と他社の利益を結びつけることにより,長期的なモチベーションを上げる」と説明していた。

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 本セッションのテーマである「社会人の学び」においても「みんチャレ」は活用されており,その1例としてAI英会話アプリ「SpeakBuddy」(スピークバディ)とのコラボが紹介された。このコラボにより,「みんチャレ」内には「毎日1レッスンやる」「とにかく毎日『SpeakBuddy』を使う」「1日5分でも『SpeakBuddy』を使う」といったチームが1000以上増え,以前から存在していた「SpeakBuddy」のチームを加えた総数は数千におよぶとのこと。ほかにもTOEICや国際看護師など,さまざまな資格取得を目指すチームがあるそうだ。

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「しゅくだいやる気ペン」×社会人の学び


 中井氏は,コクヨの「しゅくだいやる気ペン」を紹介した。この製品は,子ども達の日々の勉強時間を視覚化するツールで,それによって親子間のコミュニケーションの増加や,子どもの学びの習慣化を図るというものだ。

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 その軸となっているのはゲーミフィケーションの「能動的な参加」などだが,中井氏によると最初から狙っていたわけではなく,子ども達のリアルと向き合って開発していった中で,結果的にそうなったという。

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「勉強することで褒めてもらえる,ご褒美をもらえる」という「外発的」な動機付けから,子ども達の知的好奇心が「やる気」のエンジンとなる「内発的」な動機付けへの移行も狙っているとのこと
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 基本的には小学生向けの「しゅくだいやる気ペン」だが,ユーザー全体の5%程度が18歳以上であることも語られた。中井氏によると,40歳前後の社会人が資格取得や自己学習のために長期間使っているという結果が出ているとのこと。こうした事例を踏まえ,新しいチャレンジをしたいと意気込みを見せていた。

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働くをゲーム化するリスキリング講座


 松山氏は,最初に現在の日本が危機的状況に陥っていることを指摘。それによると,世界における日本は,「熱意ある社員」「働く幸福度」が世界最下位であり,また自己成長や自己啓発を「とくに何も行っていない人」の割合が世界一であるという。さらに国民1人あたりのGDPは世界30位,経済成長率に至っては世界168位とのこと。

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 その根本的な原因を,松山氏は「失敗をしないから,失敗を責めるから」と分析する。そのため松山氏の会社では,むしろ失敗することを推奨しているそうで,社内では「失敗しないと成長しないから」と説明しているという。

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 そのヒントは,将棋の藤井聡太さんにあると松山氏は説明。藤井さんは普段のトレーニングや研究にAIを活用しているが,そのAIとの対局にて無数の敗北──つまり失敗を体験しているはずであるとの見解を示し,「AIは人の仕事を奪うものではなく,人を育てるもの。トレーニング相手として活用するといい」と語った。

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 また松山氏は,経済産業省の「令和4年度地域デジタル人材育成・確保推進事業(ゲーミフィケーションをコアナレッジにしたDXに資する人材育成)」にも言及。この事業は,要約すると今後DXを推進するにあたってゲーミフィケーションが重要であると謳っており,実際GDX(Gamification for Digital Transformation)という文言も使われている。

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 それらを踏まえて,日本の危機的状況を打開する策として松山氏が掲げたのは,「働くをゲーム化する地域AI人材育成」である。具体的には,「ゲーミフィケーションで課題解決する人材育成のためのリスキング講座」を全国の中小企業向けに展開するとのこと。

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 すでにリスキング講座は始まっているそうで,基礎のDXを学びつつ,総務や営業,経営など各部署のDXを学び,無駄を省き効率化できるという。まだそれだけでは終わらず,最終的にオリジナルゲームや映像作品,経営計画書といった形に残るものにするそうだ。松山氏は,「無駄を省くから新たな価値を作る,ワクワクさせる。それを自分達でやろうという人材を育てるのが,AI人材育成講座」と説明した。

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 セッションではそうした講座の例として,マンダラチャートを使った「マンダラ手帳」をデジタル化し,社内のスタッフ同士で褒め合ったりする講座「マンダラ手帳DX」や,日報をChatGPTに分析させてオリジナルゲームを生成し,実際に人間がプレイする講座「サンクスUP!人事DX」などが紹介された。

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 そうした取り組みの中で,重要になるのはマンダラチャートとのこと。松山氏は,マンダラチャートによって目標を設定し,進捗を確認して,たとえ失敗しても応援やフォローをし,そして挑戦を推奨することを繰り返し,習慣化していくことがリスキングのポイントだと話していた。

松山氏の取り組みも紹介された
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「社会人の学び」を習慣化できない課題を解決するディスカッション


 セッションの最後には,登壇者4名により,「『社会人の学び』を習慣化できないという職場の課題解決に関するディスカッションが行われた。テーマとなる解決したい課題は事前にセッションの聴講者から募集したもので,1つめは「オンライン英会話を自己啓発で導入したときに,熱心な従業員は習慣化できているが,そうでない従業員は脱落してしまう」という内容だ。

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 松山氏が提案する解決策は,「マンダラチャートを導入する」というもの。「みんチャレ」と同じように,皆で同じ目的に向かって何かやっているとき,進んでいない人を責めるのではなく,「一緒に頑張ろう」と声をかけたり,どうやったら進められるのか聞いてあげたりすることは,非常に効果的だというのが,松山氏の見解である。

 長坂氏は「みんチャレ」の採用を提案しつつ,その一方でゲーミフィケーションの仕組みを「何かやったことに対するフィードバックの連続が楽しくてハマっていく」と表現。裏を返せば,オンラインで英会話を学習しても,実際に英会話をする機会がなければモチベーションが下がってしまうというわけである。そこで長坂氏が提案した解決策は,「次の社員旅行は海外に行こう」といったように,何かしら学んだ成果を活かせるような目標や,そこまでいかなくても簡単なフィードバックを与えるといいのではないかと話していた。

 中井氏は,最初はちょっとした励みを与えるなど外発的な動機付けでスタートし,それで習慣化がある程度できるようになったら,どこかで内発的な動機付けに移行できるようなポイントを設けるといった段階を踏むといいのではないかと語った。

 2つめのテーマは,「習慣化以前に自ら学ぼうとせず,解答,正答,話法,例などマニュアルを求めてくる」というもの。岸本氏は,まず自身が講師を務める授業では学生が遅刻しても褒めていることを紹介した。その理由は,「遅刻したら『もう授業に出なくてもいいかな』という選択肢もあったはずなのに,授業に出ることを選んだから」である。したがってマニュアルを求められた場合であっても,「実際に行動したことを褒め,まずマニュアルどおりにやらせて,その次は自分で工夫させる。最終的に自分でマニュアルを作るところまでステップアップしていくのがいいのではないか」と話していた。

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 松山氏は,再びマンダラチャートの採用を挙げた。マンダラチャートは,最初に3×3の9マスの中心に目標を書き,それをどうやって実現するかを周囲の8マスに書き込んでいくわけだが,松山氏自身はその過程がゲームの攻略法を見つけていくときのように面白いと感じるそうだ。たとえば英会話の学習にしても,どうやれば皆が取り組むようになるかそれぞれがマンダラチャートを作り,お互いに見せ合って,いい部分を採用していくことを繰り返してマニュアルを作っていくといいと提案した。

 中井氏は,岸本氏同様に「マニュアルを求めるというファーストステップは,すごく褒めるべき」と回答。人はファーストステップを褒められると,そのあともポジティブになるとし,「マニュアルを熟知した人を,今度はその内容を知らない人の先生に仕立ててしまう。その先生が,また次の人を褒めていく「褒めサイクル」を作ると,結果的に場がすごく大きくなっていく」と語った。

 長坂氏は,マニュアルを求める行為を「守破離でいう守」であると指摘。「まずは型を守り,それができたら破って,最後は離れていくわけだが,マニュアルを求めるのは最初のレベルとして十分。会社が求めるレベルがもっと上になったときに,マニュアから離れてほしい」とした。また破を求める──つまり「新しい手法を試してほしい。そこからイノベーションを生んでほしい」というのであれば,会社として「失敗を許す」という姿勢を伝えることが重要だとも話していた。

 最後のテーマは,「新たな学びは必要だと思っているが,業務で手一杯でなかなか手を付けられない」というもの。岸本氏は,「新しいことを始めるとき,やっていないところから1歩めを踏み出すのは大変だが,踏み出してみたら意外とスンナリいくことも多い。したがって最初のステージを簡単にして,クリアできたら自分を褒めるというポジティブのループを作ればいい」と提案した。

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 中井氏は「ファーストステップをいかに入りやすくするか」と,岸本氏に同意。初めに何から手を付けていいか分からないときは,フィーリングで何か思い浮かんだら手を動かして書いてみることが誰でもどこでもできる一番簡単なパターンであり,それを繰り返すことで脳が動く習慣ができてきて,1歩踏み出す勇気が湧いてくると話していた。

 長坂氏は「最初のステップをできるだけ小さく刻む」とし,「たとえば移動時間の5分でできるところまで最小化して,このジャンルについて何か調べる。これだったらどんな言い訳があってもできるところまで小さくして,それを自分の学びの最小単位にして毎日1つずつやってみる」という提案をした。

 また長坂氏によると,人によって向き不向きはあるが「ピアプレッシャー」を使うのもオススメとのこと。すなわち,周囲に「私,これに詳しいから聞いてください」と宣言することで,「これについて答えられないことがあってはいけない」と必然的に勉強するようになるというわけである。

 ディスカッションの最後には,岸本氏が「『社会人の学び』を習慣化できないという職場の課題解決のヒントは,最初のレベルをできるだけ下げること。これ1つだけでいいので,職場に持ち帰ってください。そして,ぜひそれを実践してみてください」と聴講者に呼びかけていた。

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